初めて感想が来たということに感動してしまい、十一話を書き終えたので、四話目、少し早いですが、投稿させていただきます。
尾張の本城 清洲城
戦から始まり、正徳寺での会見を終え、ようやく信奈達一行は清洲城へと戻った。
信奈は本丸へ戻る前に、
「皆光、あなたには、褒美をあげなきゃね。そうね、私の命を救ったこと、それと正徳寺での会見のこと、このふたつを合わせて、貴方を正式に侍大将に任命するわ!それに伴って、貴方に私兵を百、与えるわ。好きに編成しなさい。それと、有事の際には軍師として、その知恵、貸しなさい」
信奈は、皆光にそう言い、本丸へと戻って行った。
「おっと・・・まさかそれだけですか?」
一体宿無しでどうしろと言うのだろう。衣食住が無ければ、兵と役職貰っても意味無いのですが・・・と皆光は一人うちひしがれる。
しかし、信奈の小姓、犬千代が皆光の裾を引っ張り、三の丸へと引っ張っていく。
「こっち、きて。姫さまがあなたに、住み家を与えろ、とおっしゃった。」
「そうですか・・・良かった・・・。あと私の名前は小早川皆光です。歳は17歳です。えっと前田殿「犬千代」・・・では犬千代殿と「犬千代で・・・いい」・・・そうですか」
「前田利家。あだ名は犬千代。十二歳。生まれは尾張。代々織田家に仕えている侍の家、前田家の当主」
自己紹介を終え、ぺこりと犬千代がお辞儀をする。
皆光も、微笑みながらお辞儀を返した。
そして、犬千代の強い推しにより、皆光は犬千代と呼ぶ事にした。
犬千代は後ろを着いて歩く皆光を見る。
「皆光は、どこかの家の跡取り?」
「いいえ、・・・まぁ、ただの放浪人ですよ。」
「でも皆光は、綺麗な服を着ている」
今現在、皆光が着ているのは、現代の丈夫な布で作られた物である。
それに、艶やかで、金があしらわれた服装、見ようによっては、貴族にでも見えるだろう。
「まぁ、確かに、祖母の手作りではありますが、派手ですかね?」
犬千代は、タハハと笑った皆光を怪訝そうに一瞥すると、
「両親は?」
とたずねた。
「・・・会えない場所に・・・」
「そう・・・」
(まぁ・・・実際会えないでしょうが・・・)
皆光の頭で、父の言葉が思い浮かぶ。
(皆光、神隠しにあった時は、死ね。そうすれば戻ってこれるぞ)
(あの、父上?それだと土に還りませんか?)
(む?)
(え?)
(大丈夫だ。死んでも生き返る)
(生き返ると言うより生まれ変わったりしません?それって)
(ん?)
(え?)
(話が噛み合わない・・・)
皆光が一人思い出に浸っていると、犬千代が立ち止まる。
「・・・到着した」
犬千代が指さす先には、雑然とした長屋が、広がっていた。
「ほぅ・・・これは中々・・・」
元々代々受け継がれてきたおんぼろ屋敷に住んでいた皆光だが、長屋を見た途端、顔を引き攣らせる。
「ここは、うこぎ長屋。下級武士が暮らしている」
「犬千代もですか?」
「そう」
「勝家殿も?」
「勝家は家老だから、立派な屋敷を構えている」
まぁ、最初から屋敷なんて・・・無理でしたよね。と皆光はこぼす。
黙ってついてきてくれた八を、玄関先にとりあえず繋ぎ、皆光は長屋に入る。
「この建物が皆光の住まい。隣同士」
「えぇ、よろしくお願いしますね。犬千代」
「うん」
(なんと言うか・・・薄汚いですね・・・)
入って一番最初の皆光の感想がそれだった。
布団一式、玄関と調理場は一体、机がひとつ。
しかし、身一つで投げ出された皆光には、それが幾千の財宝に等しい。
ある一つの問題を除けば・・・。
「犬千代・・・食べ物がありませんが、私は未だ一文無しですよ?」
後ろにいた玄関にいた犬千代が、そのまま室内を通って襖を開いた。
「・・・庭にある」
犬千代について、庭に出てみると、犬千代は、傍にあったザルで、生け垣の葉っぱを集めて始めた。
皆光もなんとなく集めるのを手伝う。
無言・・・。
ペリ・・・ペリ・・・ペリ・・・。
無言に耐えきれなくなった皆光は、先程の褒美について、犬千代に聞いてみた。
「犬千代は、先程の姫様からの褒美、どう思います?」
ペリ・・・ペリ・・・
「姫さまから貰った褒美なら、喜ぶべき・・・」
犬千代は、生け垣を毟りながらも、返答する。
「それはそうですが・・・そもそも、いきなりそれだけの役職と、さらに私兵まで与えるなんて、他の臣下たちも黙ってはいないでしょう?」
「それだけ、姫さまは皆光に期待してる・・・」
「期待だけで、こんな破格な条件、ありますかね?」
「姫さまの考えてる事は、姫さまにしか分からない」
「そうですか。では、後日、真意を問うてみましょう。私も、いきなりの褒美の説明くらいは欲しいものです」
こうして、あらかた毟り終えた生け垣(うこぎの葉と言うらしい)を毟り終えた二人は、室内に戻り、犬千代の作った吸い物を食べる。
(ふむ、意外と美味しい・・・)
しかし、相変わらず二人とも無言であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食べ終えると直ぐに、犬千代に連れ出され、二人は、浅野の爺さまと呼ばれるうこぎ長屋の主の元へと赴いていた。
「おうおう、信奈さま。すっかり大きくなられたのぉー」
「違う。犬千代」
そこには、いかにも好々爺といった老人がいた。
「それだと姫様縮んでません?のぅっ!・・・」
いらない茶々を入れた制裁か、犬千代の肘打ちが皆光のみぞおちに突き刺さる。
「おうおう、そちらの男の子はどなたかな?犬千代の旦那さまかのぉ?」
「いえ・・・ゴホッ。私は小早川皆光。本日より姫様の下で侍大将となりました。以後お見知り置きを・・・」
全く引かない痛みから、むせ返りながら答える皆光。
「おうおう。犬千代の旦那さまなのじゃな〜」
「・・・・・・そう」
「いえ、何頷いているのですか?それに、まだ小さいのですからぅっ!?」
本日二度目の肘打ち。今度はもっと深く刺さったようで、思わず地面に手を付き転がり回りたいのを必死で耐える。
「・・・・・・犬千代はもうおっきい・・・」
ちらっと犬千代を見るが、何を勘違いしたのか、今度は背中にかかと落としがきまる。
「胸なんて・・・ただの飾り・・・」
「ちょっ・・・ま・・・違います・・・違いますってば!」
今度は拳を振り上げた犬千代を見て、顔を青ざめさせた皆光は思わず、犬千代の腕を掴む。
「はぁ・・・はぁ・・・犬千代・・・貴方は十二分に美しいです。私は犬千代はもう大きいと思いますよ?」
「・・・・・・ポッ・・・」
褒められ慣れてないのか、犬千代は急停止し、顔を少し赤く染める。
そして、ようやく暴走が収まったのか、皆光も犬千代の腕を離した。
「ふぉっふぉっ。威勢の良い若者じゃの。ねねがもう少し年をとっておれば、嫁にやりたい所じゃがのぉー」
浅野の爺は、笑いながら爆弾を落として行った。
「いえ・・・私はまだ結婚する気は・・・」
皆光がそう答えた所で、犬千代が悲しそうな顔をしながら、
「そう・・・皆光・・・犬千代とは、遊びだった?」
「えぇい!犬千代、これ以上場を混乱させないでくださいよ!」
「冗談・・・」
皆光は、胃のあたりを抑えながら、士官する場所を間違えたのか自問自答する羽目になった。
「ふぉっふぉっ、仲の良いことは良い事じゃ。ねねや、立ち聞きしとらんで入っておいで」
「おおっ、バレてた?さすがは爺さまですな!」
襖が勢いよく開き、ねねと呼ばれた幼女が駆け込んできた。
今日は本当・・・小さい女の子に縁がありますね・・・と皆光はまた、胃を抑える。
「犬千代・・・小さい?」
「大きいです!」
(顔に出てましたか?もう肘打ちは懲り懲りです・・・)
皆光は少し、気を付けることにした。
「ねねにござる!皆光どの!どうぞよろしゅう!」
「どうも、ねね殿、小早川皆光です。よろしくお願いしますね」
そこから、四人で和気あいあいと、元気なねねに、付き合う形で、おしゃべりを楽しんだ。
しかし、屋敷の門の外側から、怒鳴り声がする。
皆光と犬千代は目を細め、ねねは首を傾げる。
浅野の爺は待機してもらい、皆光、犬千代、ねねの三人で表に出る。
門の外では、十数人の馬に乗った若侍が浅野家を取り囲んでいた。
「何者ですか?」
「我らは、織田勘十郎信勝さまの親衛隊よ!」
「ふむ、所で、姫様の弟君である信勝様の親衛隊が何用でここへ?用がなければ帰っていただきたい」
いかにも、御しきれていない手下。そして、それを尻目にふんぞり返るバカ殿と言った感じだ。
「無礼者め・・・。若殿!礼儀知らずの若造、どうしましょう」
白い馬から降り、信奈とよく似た少年が皆光を鼻で笑いながら、皆光に近付いてくる。
「あのうつけの姉様が戦場(いくさば)で、浪人を拾ってきたと聞いてね。しかも、早速褒美まで貰ったらしいじゃないか。姉様が珍しく褒美をくれてやった浪人、直接この目で、拝んでみたくなったのさ」
「どうも。では用は終わりましたね?」
皆光のぞんざいな態度を、今一度、鼻で笑いながら、
「お前、無礼じゃないか?僕は尾張の大名・織田家の長男だぞ。」
「私は小早川皆光。つい先程、侍大将となったばかりの若輩ですよ」
しかし、名乗っても皆光に帰ってくるのは周囲の嘲笑と、信奈への悪口であった。
ここでも、うつけ、うつけ、うつけ。
嘲り、口では何とでも言える。
「そこまでです。聞くに耐えない戯言などを垂れ流す暇があるのであれば、武士として修行をやり直してきては如何ですか?」
周りの若侍は皆光の物言いに、腹を立てたのか、刀を抜こうとするが、信勝は、声を上げて笑い、自らの父の葬儀で、信奈が父親の仏前に抹香をいきなり投げつけた話をする。
それを聞いて、大笑いする取り巻き。
「全く・・・」
史実で知っているとはいえ、正徳寺で見た信奈は輝いていた。
それを間近でみた、皆光は、信奈がうつけ呼ばわりされるのを快く思わなかった。
犬千代に裾を引かれ、ねねが腰に抱きついている。
「姉上のあのうつけ姿を見てぼくはさすがに後悔したのさ。いくら父上の遺言だったとはいえ、あんな姉上に国を任せておけば、尾張は滅びる。このぼくが家督を継ぐべきだったとね」
「ふむ、では信勝様には、この尾張をどう導くおつもりで?どのような野望をお持ちですか?」
すると、信勝の顔色が変わる。
「う・・・うむ、ういろうを宣伝して「ダメですね」っ!尾張中から可愛い子を「却下」・・・くっ!この尾張をまとめた暁には、東の今川義元を討ち、北は斎藤道三を討ち「無理ですね」」
「で、できるとも・・・ぼ、ぼくにはできる!尾張一の猛将・柴田勝家がついているんだからな!」
「さて・・・今川、斉藤、両家とも大大名、相手するには、分が悪いですよ?」
「できる!できるんだ!」
「今川と戦うのであれば、駿河、三河の両国を相手取らなければなりません。兵力は数万に上るでしょう。斎藤を相手にするのも同じ事。言ってはなんですが・・・あなた如きに稲葉山城を攻め落とせるとは思いませんが?」
「とにかく、僕の姉上はうつけなんだ!尾張中の民が笑いものにしてる!織田家の恥さ!だから母上も幼い頃から姉上を嫌って、相手にもしなかった!」
(母から・・・民から?)
皆光の顔が張りつめる。
それをようやく、僕の言いたいことが分かったかとでも言いたげに得意げに信奈の悪口を言い並べる信勝。
思わず体が動く。
皆光は流れるように抜刀、そのままの勢いで信勝へ振り下ろす。
「皆光!ダメ!」
模造刀故に・・・・・・斬れはしない。が、皆光は犬千代の声で止まった。
自分の置かれている状況がようやく分かったのか、信勝は、その場で腰を抜かし、勝家を呼んだ。
「ひ・・・ひぃ!勝家!勝家えええ!」
「お前はそのような真似、しないと思っていたんだがな」
人混みを割って、勝家がやってくるが、その手には既に刀が握られている。
震えているねねと、止めたとはいえ、犬千代の顔色も悪い。
二人に、皆光は「下がっておいてください」と声を掛ける。
「どきなさいな、勝家殿。そこのうつけには少々躾が必要でしょうに。」
皆光は、自分でも不思議なほどに怒っていた。
それこそ、飄々とした笑顔が消え、敬称ではなく、蔑称を使う程度には。
「退けるわけがないだろう?わが主君を斬ろうとしたんだ。見逃せない」
「おや、ならば、主君を間違えてますよ?それに、押し掛けて来たのは、この者たちです。それをまとめるのも、家老の役目でしょう?」
「う・・・うるさい!あたしは政治とかそういう難しい事は分からないんだっ!ただ、あたしの主君は信勝様だからな!どこまでも忠義を尽くすしかないだろう?」
「忠義の意味を履き違えるな。柴田勝家。このような者たちへ尽くすのが忠義だと?」
思わず怒気を強くする皆光と、核心を突かれたのか、たじろぐ勝家。
「ああ!そうさ!これがあたしの忠義さ!」
そう言いながら、勝家は刀を振り下ろす。
思わず皆光は、手にある模造刀で、受け止めようとするが、なにせ模造刀である。
そのまま模造刀は、叩き割られ、皆光は左肩から、右の脇腹まで、浅くであるが、斬られてしまった。
初めて感じる痛みに思わず膝を折り、皆光は斬り口を必死に抑える。
周囲からは、取り巻きの笑い声が聞こえる。
(痛すぎて・・・掻き毟りたい程熱い・・・)
勝家の目に光が無くなる。そして、高々と刀を掲げる。
(死ぬ・・・)
しかし、いざ死ぬと分かっているのならば、死なぬ様に足掻く。
何せ誰だって死にたくないのだ。
皆光も例外ではない。
「さらばだ。皆光。」
しかし、皆光は、折れた模造刀を勝家に向け、立ち上がり、一歩踏み出す。
そして、勝家は、一瞬動揺したが、皆光へと刀を振り下ろした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結果としては、斬られなかった。
飛び出した皆光は、何かにあたり、立ち止まる。
それは、犬千代の背中だった。
何故か、皆光はそれに、すごく安心した。
そして、皆光は、痛みで気を失った。
本日も、誠にありがとうございました。