【涼宮ハルヒ】をやらないといけない涼宮ハルヒさんは憂鬱   作:茶蕎麦

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 夜な夜なちょっと早めに続き書けました……笹の葉ラプソディ導入編ですー。
 やはり悩みましたが、取り敢えず今はこんな悩める感じで小出しに失礼します!

 今回出る鈴木さん=鈴木みはるさんは、大分キャラ捏造してますが一応原作にも存在してるみたいですー。


第二十三話 トレーシングペーパー×14光年

 私は、ここにいる。

 

 そんなそれこそSOSにも使えそうな言葉を、果たして私は口にしてもいいのかちょっと悩むわ。

 なにせアイアムアイだって不確かな【涼宮ハルヒ】の代替物でしかない私だもの。

 あの野球大会の日に交替があったことにて流石に理解したわ。私は【あたし】の憂鬱によって生まれた退屈しのぎのためにあるだけの人格だって。

 

「……まあ、でも役割があるだけマシなのかしら」

 

 噛み締めるように発してそう確認したわ。私は大切なあの人達の子どもとは言えないのかもしれないけれど、最低でも【あたし】の代わりに北高にてSOS団を運営する団長ではあるの。

 そして、涼宮ハルヒをやりはじめた唯一の私でもあるから、それくらいはしっかり務めないとね。

 

 とはいえ呟きは、ここのところの空梅雨の代わりに挿入された夏の景色に紛れて消えていくもの。

 空の大体は群青を主とした階調で成っているけれど、風に塗り込められた雲の白が力強くて、綺麗で特に目を引くわ。

 そしてこの北高名物の坂も、黒く日差しの熱をたっぷり吸い込みながら、跳ぶように駆け回る生徒たちの元気をを載せて時に蜃気楼揺らがせてる。

 

 こんな生き生きとした全てが全て他人事のように感じるのは、出所不明な私の心があまりに不確かなせいかしら。

 花に根っこがあるのが当たり前だとしたら、造花の気持ちってあんまりよくないのかもしれないわ。ルーツをすら持たない存在って、こんなにも心細いものだって知らなかった。

 自意識こそ唯一の存在証明だとしたら、私は本当にここにいるのかしらね。

 

「何時、役立たずと私の首は切られることかしら……」

 

 そんな私の悩みの答えは、きっと【あたし】だけが知ってる。

 神様仏様涼宮ハルヒ様。私はちゃんと貴女のためになれているのかしらね。

 

「ふぅ」

 

 朝の登校時にメランコリー。憂鬱なんてごちゃごちゃした文字だって横文字にしたらどこか空々しいくらいに実感足らず。

 どうせなら自分のことじゃなくて誰かのために悩んでいたいのだけれど、と私は今更ながらに周囲を見回すわ。

 すると、ぱちりと目が合って、ちょっとびっくり。私は中学の頃から見慣れたボブヘア愛らしい彼女と挨拶するわ。

 

「涼宮さん、おはよう」

「ええ。おはよ、鈴木さん! バレー部は今日朝練ないの?」

「ふふ。日曜に先輩達の練習試合があったからって、一年も朝練は棚ぼたで休みなの。今日はおかげでよく寝れたんだ」

「それは良いわね! よく寝るって健康的だわ」

「それに美容にもいいよねー。ま、こんな髪ボサな無自覚美人さんにはそんな殊勝な意識なんてないか」

「にゃっ。鈴木さんったら、頭撫でないでよっ!」

「ふふふー。嫌だったらもっとちゃんと髪に櫛入れておかなきゃ!」

「にゃー!」

 

 偶然に登校かちあい、こうして私は彼女、同じ1年5組のクラスメートの鈴木さんの元気の餌食になったわ。

 東中時代からアウトサイドヒッターとして活躍していた彼女の長身には、さしもの涼宮ハルヒボディでも高度では及ばないものね。

 上からゴシゴシというよりも梳いてくれるような感じで撫でてくれているのが、気持ちよくてだからちょっと申し訳ないというか何と言うか。

 鈴木さんとは前からそんなに仲良ししていた訳でもないのに、本当に今日は機嫌が良いみたいで素敵だとは思うけれどこんな積極的なボディタッチは嫌だわ。

 

「ふふ。堪能したー」

「にゃ……私の髪どうなっちゃったのかしら」

 

 そして、しばらく本気で嫌がることすら出来ない私は鈴木さんの玩具になってた。

 なんか嫌に真っ直ぐになっちゃった髪を弄る私の隣で彼女がちょっとツヤツヤしているようなのがシャクね。

 挙句の果てに、鈴木さんは私をまたひと撫でしてこんなことを口走ったわ。

 

「前から思ってたけれど、涼宮さんって可愛いね」

「うう……それってサイズ感的な問題じゃなくて? 私はそんなんじゃなくて……」

「ううん。そんなことないよ。マズったなあ……もっと中学から仲良くしときゃよかったよ」

「そう……」

 

 最近は変な取り巻きが出来てるから弄りにくいからなあ、と曖昧な笑顔でこぼす鈴木さんを私はちょっと見上げ気味。

 そういえば、私はトレースするように行っていた私の【涼宮ハルヒ】的な行動の評をそれほど聞いたことがなかったわ。

 記憶というか記録のようなものが時と共にどんどん薄くなっていく中、まるで凸凹トレーシングペーパーの上を駆け足しているようなあの日々。

 多くが私の奇行をうざったがっていたと思っていたのだけれど、鈴木さんはどうだったのかしら。

 伺うようになっていたかもしれない私の視線を前に、ちょっと大きめな鈴木さんはこう話し始めたの。

 

「うん。今は全然そう感じてないんだけれど私、正直なところ中学頃の涼宮さんがちょっと怖かったんだ」

「怖かったって……本当に?」

 

 そして自分の足音と共に耳にしたのは、私に対する意外な感想だった。

 よく谷口ら辺からアホなことすんなよや、変だろそれとかの言葉は聞いてたわ。

 でも、そんなまさか私の涼宮ハルヒ的行動、即ち【私は、ここにいる】と世に伝えるための行為で他人を怖がらせてたなんて。

 そんなの良くないわと足先から心地まで冷えていくような感覚になる私に、鈴木さんは重ねて伝えてくれたわ。

 

「そうだね……なんか、よく分からないものにばかり真剣になっている、そんな涼宮さんが……うん。多分、私は怖くなっちゃうくらいに羨ましくて」

「え?」

 

 そして、私は鈴木さんが吐き出したその言葉のあまりの意外さに目が点になったの。

 こちらこそよく分からない、というのが目を細めてこちらを見つめる彼女に対する本音。

 

 だって、普通に過ごしている子達がずっと羨ましかったのはそれこそ私で、どんどんと櫛から抜けていくように一人ぼっちになっていくことなんてそれこそ涼宮ハルヒの殻に隠れていたところで恐ろしくて堪らなかったのに。

 

 でも、鈴木さんは。私を一人ぼっちにしていたようで、確りと見つめてくれていた元クラスメートだった少女は首を振ってこう伝えてくれたの。

 

「だって、私はあんなに何かのために頑張れないもの」

「そう、なのかしら……」

 

 折角の優しい言葉に、でも私の返事が曖昧になってしまうのも、これは仕方ないわ。

 何せ誰もかもが、当然のように鈴木さんだって毎日生きることを精一杯していて、それだけで実は凄いことで明日を見つめて手を伸ばし合うところなんて素敵でたまらないと思うのに。

 私の何とか一人前になれないかとベントラーとかしてたジタバタしていた姿なんかがそれに敵うものとはとても思えなくて、首を傾げざるを得ないの。

 

 整えて貰った私の髪は先までが嘘のようにぱらぱらと空に光を真っ直ぐに梳いて、そして顕になった耳元は優しく笑む鈴木さんのこんな言葉を聞いたわ。

 

「だからあの日の頑張りで、今の涼宮さんが報われてたとしたら、いいな」

 

 それにはでも、私は何も答えられなかった。

 

 

 

 全知と全能は本来セットがカミサマってものでしょう。そしてこれまでの経緯とかを思うと、恐らく本当の【あたし】はひょんなことで何もかもまるっと識ってしまっているのね。

 私なんて吹けば飛ぶような葦の考えなんてどうでもいいのかもしれないけれど、どうにもそれって人の心には重いと気になってしまうの。

 そもそも、涼宮ハルヒって子はトクベツって言葉と自分の不一致に揺れちゃうような子どもだった。そんな思春期真っ盛りな彼女が、もし力とそれと同等の見識だけを得ちゃったら嫌になるに違いないわ。

 

 なるほど、そうだと仮定すると私という存在がなんとなく見えてくる。

 未来に憂鬱になった【あたし】。でも、そこから逸れることだって怖いから、自ずとそのレールを進むだろう人格として彼女は【私】という存在を創った。

 だとするなら、私はあたしの憂鬱を晴らさなければいけないわ。例えそれが代替物としての自らの価値をなくすための行為だとしても、でも。

 

「ええ。世の中憂いている人間なんて少ないほうが良いわよね。はいっ!」

「っと」

 

 そう結論付けた私は、元文芸部室であるSOS団の拠点に入るなり手の中の色とりどり重ねられたそれを間近に居たキョンくんへパス。

 彼は私の急な行動に少し慌てながらも、一枚たりとてその紙片を落とすことなく受け取ってくれたわ。

 そんな光る対応力に満ちた彼に満足しながら、私はあえてずかずかと自らの席へと進んで、振り返るの。

 

「みんな、明日は七夕よ! 折角だから願い事を書く短冊、先に沢山用意しておいたわ! キョンくんに渡したから、後でも今でも明日までに書いてみてちょうだい!」

 

 そして、私はSOS団プラス涼子に7月6日の本日の再周知を促したわ。

 そう、今日は七夕を明日に控えた牽牛と織姫達もちょっとそわそわしているかもしれない日。

 こんな何でもない日を、どうにか盛り上げようと私は岡部先生に用意してもらった色紙を放課後に切って切って百枚近くの短冊を作成していたの。

 ちょっと作り過ぎてこれ全部願い書いてぶら下げたら欲の重さに笹も萎れちゃうかなとも思いはしたけれど、まあそれだったら明日用意するのは竹にすればいいわね。

 取り敢えず、それらしく胸を張りながら私は口上を続けるわ。

 

「それとみんなは、七夕って織姫と彦星が一年に一度再会する日って知ってるわよね……それで、織姫と彦星ってどんな星か分かる人居るかしら?」

「ベガとアルタイルですね」

「そうね、古泉くん! 後ハクチョウ座のデネブで夏の大三角を形成しているそうだけど……まあ、それはいいわ! 取り敢えず全部1等星で綺麗な星だけれど……残念ながら地球からは両方とも25光年と16光年も離れているのよね」

「へー……じゃ、願いがもし光の速さで奴らに届いたところで、16年は経っちまってるってことか」

「ええ、谷口にしては鋭いじゃない……まあちょっと光速は超えられないって特殊相対性理論に引っ張られ過ぎかもしれないけれど、なら成就は復路も思うと30年後にはなっちゃうかもしれないわね」

「やれやれ。夢も希望もない推測だが、なんだ。ハルヒはつまり今から30年後のためになりそうな願いでもしてみろってのか?」

「んー……ちょっと違うわ! あ、みくるちゃんお茶ありがとうね。美味しかったわ」

「わあ。よかったですー」

 

 SOS団男子陣のレスポンスの良さに調子に乗り、私は差し出された玄米茶のちょうどよい温さに更に心地を良くしつつ、でも頭は横に振らざるを得なかったの。

 なるほど、確かに光を超えるなんて私にはちょっと考えられないものがあるわ。なんか質量とか減退とか色々と理論だってあるみたいだし、確かに25光年って距離は願いを届けるには遠すぎる。

 でもと、隣でのほほんニコニコとしているみくるちゃんに癒やされながら、私は更に論じるの。

 

「ただ、よく考えてみなさいよみんな……25光年と16光年離れた2つの星、織姫と彦星は伝承通りだと計算してみるとざっと14光年はあるだろう相互の距離を明日一日でなかったことに出来るってことに!」

「絶対昔の奴ら何も考えてなかったんだろうが、そうすると天文単位の中でカップルが一日だけ会える七夕ってのも不思議だよなあ……」

「ええ! きっと七夕っていうのは愛情とかふわふわしたものでメートル法も裸足で逃げちゃうくらいに尺度を忘れちゃう特別な日なんだわ!」

「なるほど涼宮さんのお考えですと、牛郎織女の移動方法は不明ですがそもそも七夕、乞巧節には距離という概念は不確かになっている可能性が高いということでしょうか。そしてならば我々の願望もそれに倣うのでは、と」

「ええっ。二人の光でも年数かかっちゃうくらいの間を繋げるのが愛だか何だか知らないけれど、我々の願いだってそれに負けないはずよ! だから遠慮なくみんなは今の願いとか書いちゃっていいわっ」

 

 丁々発止とはこのことかしらと思うくらいに理解は直ぐで、まとめて貰った結論は明明白白だったわ。

 つまりは、変な想定なんて特にせずに、素直に七夕を楽しもうってこと。紆余曲折はあろうが、結局そんなところに落ち着くのって自然よね。

 

「ふふ。ハルヒったら色々おかしなこと話してたけれど結局一回りして、普通ね」

「そうね。ひょっとしたらつまらないくらいに、夢はない結論かもしれないわ」

 

 先からずっと面白そうにしている涼子に私は頷く。

 けれど、私は決してあたしには成り切れないと分かっているからこそ、こんな涼宮ハルヒだけどごめんねって思いながら口を開いて。

 

「でも、私はあなた達のきっと正しい願いが直ぐにでも叶って欲しいって思っちゃう欲張りだから、それも仕方ないわね」

 

 そういえば持ってきたサインペンを配るのを忘れていたわね、と足元のバッグを見ながらそう小さく話したの。

 明日よりも、やっぱり今の全部。こればっかりはどうしても変えられないわね、と思うわ。

 短絡的で単純で刹那的。私なんてそう言われても仕方ないの。

 

「え?」

「ほらよ」

「……はぁ、ハルヒ。俺に短冊全部渡してどうすんだ?」

 

 でも自重しながら目を再び前に向けたら、そこには彼と彼が私に黄色と紫の紙で出来た短冊を差し出していて。

 特に馴染みの彼の方が憎たらしいほどにバカにした顔して私に、こう言ってくれたのよ。

 

「どうせなら、お前の願いだって叶っといた方が良いだろ」

 

 いっそ押し付けられるように渡された黄色に、私は困ったわ。そしてキョンくんがそれに載せた紫色に、困惑は更に深まったの。

 団員の皆から向けられる、視線。それらは肯定的なものばかり。有希ですら確かな明るい意思持って見つめてくれる中、でも私はよく分からないの。

 

「そう、ね……」

 

 受け取った二色の短冊。

 それに載せたい【私】の願いなんて一つもないっていうことに今更気づいた私は。

 

「ありがとう」

 

 本当に、ここにいるのかしら。

 

 





 ■は願わない。
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