クソウサギの話を要約するとこうだ。
ハウリアと名乗る兎人族は一部族達は【ハルツィナ樹海】にて百数十人規模の集落でひっそりと暮らしている。
兎人族は聴覚や隠密行動に優れてはいるも、他の亜人族に比べれば身体的スペックは低い為に格下と見られる傾向が強い。
さらに兎人族の性格は温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が強い種族だ。
また容姿も優れており、帝国では愛玩用の奴隷として人気がある。
そんな兎人族に異常な女の子――クソウサギが生まれた。
亜人族にはない魔力を有し、魔力操作が使え、固有魔法〝未来視〟まで使えた。
亜人族としてあり得ない子供。魔物と同等の力を持っているなど、普通は迫害の対象となる。しかし、兎人族は家族の情が深いハウリア族。クソウサギを見捨てるという選択肢はなく、隠しながらひっそりと育ててきたのだが……………クソウサギの存在がバレて兎人族はフェアベルゲンに捕まえる前に一族ごと樹海を出て、北の山脈地帯を目指している道中に帝国兵に見つかった。
ハウリア族は争いを苦手とする種族。全滅を避ける為に魔法が使えないこの谷に逃げ込んだのだが、魔物が襲いかかってきた。
「…………………気がつけば、六十人以上いた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか、どうかお願いします! 助けて下さい!」
悲痛な表情で懇願するクソウサギ。
話を一通り聞いた俺達は納得して頷くと。
「「断る」」
その懇願に俺とハジメは端的に返した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 何故です!? 今の流れはどう考えても『なんて可哀想なんだ。安心してくれ。俺がなんとかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! なにをいきなり、美少女との出会いをポイ捨てしているのですか!」
「別にお前に惚れられても鬱陶しいだけだ。それに俺もハジメも既に惚れている女がいる。お前の入ると余地はないんだよ、クソウサギ」
「戒の言う通りだ。それにお前等を助けて俺達になんのメリットがあるんだ?」
「メ、メリット?」
「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後はどうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺達を頼るんだろ? 今度は帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
「うっ、そ、それは……………で、でも!」
「俺達にだって旅の目的があるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」
ハジメの言う通り、わざわざこんな問題を抱える必要はない。そろそろ実力行使で大人しくさせるか……………。
再び銃口をクソウサギに向けようとした矢先、桜がクソウサギの前に立って言う。
「…………………私からもお願い。助けてあげよ?」
「はぁ? おい柳生。お前なに言って―――」
「お願い」
何言ってんだ、こいつ、みたいな眼で桜を見ると桜は俺達に頭を下げてまで懇願してきた。それに目を見開くハジメとユエ。あわあわとするクソウサギ。
俺は深いため息を吐いてハジメを説得する。
「ハジメ。どうにかしてやろう」
「おい、お前まで何言ってやがる? いくら彼女の頼みだからって―――」
「…………………ハジメ。私からもお願い」
「ユエ……………」
「…………………ウサギはともかく、先生のお願いは断りたくない」
ユエまで桜の味方に付いて孤立するハジメにユエは言う。
「…………………それに樹海の案内に丁度いい」
「あぁ、なるほど」
確かに【ハルツィナ樹海】は充満する濃霧により、亜人族以外では感覚を狂わせて必ず迷うと言われている。その案内役をこのクソウサギにさせよう、とユエは言う。
「………………………そうだな。その通りだ、ユエ。使えるものは使う。邪魔するなら殺す。それだけだな」
「んっ」
「ということだ、クソウサギ。桜に心から全身全霊で感謝しろよ?」
「はい! 桜さん、本当に、本当にありがとうございます!!」
「……………………うん、家族は大切にしないとね」
家族を助けられることに安堵するクソウサギの頭を優しく撫でた桜はバイクに乗って俺の背に顔を埋めて強く抱きしめてくる。
それに対して俺は何も言わず、バイクを動かす。
しばらく走り続けて、クソウサギの同族であるハウリア族を発見。〝ハイベリア〟と呼ばれるワイバーンモドキを俺とハジメで瞬殺すると、兎人族達がわらわらと集まってきた。
「シア! 無事だったのか!」
「父様!」
クソウサギの父親との対面。それからクソウサギは俺達の事を父親と同族に話すと、父親は俺達の方へ向き直って挨拶と感謝の言葉を述べられたのはいいが……………亜人は人間族にいい感情を持っていないのに頭を下げて礼まで言ってきたことにハジメだけでなく、俺も不思議な気持ちだ。
「シアが信頼する相手です。ならば我等も信頼しなくてどうします。我等は家族なのですから……………」
クソウサギは父親はそう言った。後ろにいる兔人族も似たような反応に俺は理解できない。
家族ねぇ……………。
俺にとって家族と呼べる存在がいるとしたら桜だけだ。いや、そもそも俺に家族のことでどうこう言うことはできないか……………。
道中、魔物が当然のように襲撃してくるも俺達の相手にはならない。魔物を倒しながら俺達は【ライセン大峡谷】から脱出出来る場所に辿り着いた。
岸壁に沿って壁を削って作られた階段を上がって、上りきった崖の上には……………
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方がなく残ってただけなんだがなぁ。こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろいていた。それぞれ武器を携え、品定めをするようにハウリア族へ視線を巡らせている。
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがっていましたよね?」
「おお、ますますついてるな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちらとら、なにもないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つあってもいいでしょう?」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」
これ以上にないわかりやすい欲に塗れた言葉に俺の中にいる闇が蠢く。
帝国兵達が好き勝手に騒いで、ようやく俺達の存在に気付いた。
「あぁ? お前等誰だ? 兎人族……………じゃねぇよな?」
「ああ、人間だ」
「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商魂たくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、帝国デ引き取るから置いていけ」
「断る」
「……………………今、なんて言った?」
「断るって言ったんだよ。聞こえなかったのか?」
「……………………小僧共、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「むしろ、頭が悪いのはお前の方だろ? 相手の実力を見分けるのも上に立つ者の必須スキルだろ」
俺の言葉に小隊長と呼ばれている男の表情が消えた。そして俺達の後ろにいるユエと桜を見て卑下の笑みを見せる。
「あぁ~、なるほど。よぉ~くわかった。てめえ等がただの世間知らずの糞ガキ共だってことがな。ちょいと世の中の厳しさってやつを教えてやる。ククッ、そっちの嬢ちゃん達えらい別嬪じゃねえか。てめえ等の四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
「小隊長ぉ、俺、そっちの黒髪のボインちゃんが好みです!」
桜を指すあの兵士は最後に残酷に殺してやろう。
「ハジメ」
「なんだ?」
「半分残せ」
「ああ」
後ろで桜も弓を構えようとしているが止めさせる。こんな屑に桜の手を汚させるわけにはいかない。
「つまり敵ってことでいいよな?」
「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめえ等は、震えながら許しをこッ――」
そこで小隊長と呼ばれていた男の頭部が爆散した。何が起きたのかわからない帝国兵に俺は容赦なく魔弾を炸裂させる。
「奴等を殺せ!」
「詠唱をはじめろっ!」
半ばパニックになりながらも迅速な行動を取る帝国兵。前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。ハジメは後衛に特製の〝破片手榴弾〟で爆殺。前衛は得物を持ち替え、へレスの大剣で纏めて一刀両断する。
大した時間もかかることなく残りは二人。一人の対処をハジメに任せて俺は桜にゲスの笑みを向けた兵士に歩み寄るとそいつは恐怖のあまり腰を抜かして、股間から液体を漏らす。
「ひぃ! く、来るなぁ! し、死にたくない! だれか、誰か!」
「お前を助ける奴なんて誰もいねえよ」
取り敢えず蹴りを腹に入れてやった。
「げふっ!」
「そら踊れ」
そいつをボールのように蹴り飛ばしながら痛めつける。蹴り飛ばされながら何度も「助けて」など「許して」など喚いているがどうでもいい。
殺すのは簡単だ。だけど、それじゃ俺の気が済まない。……………が、桜の目を汚す訳にはいかねぇ。ここで手討ちにしてやるか。
「俺の女に変な目を向けるんじゃねえよ」
へレスの大剣で首を斬り落とす。死体を燃やして消去。ハジメの方もとっくに終わっているみたいだ。
「戒」
死体を消去すると桜が俺に抱き着く。慰めるように、癒してくれるように優しく俺を包み込んでくれる。
「ああ、俺は平気だ。ありがとう」
「………………………………うん」
人を殺すのはこれが初めてではない。俺も桜も既に人殺しだ。今更思うことなど何一つない。けど、桜の優しさが俺の中にある闇を打ち消してくれる。