クソウサギ一家を叩き起こしてアルフレリック達と共にフェアベルゲンにやってきた俺達。そこの会場の場で互いの事を話し合い、ハジメの活躍、というより脅しに近い言葉もあってハウリア族は既に死亡したものと扱うことが決定された。
既に死亡したものは処刑できない。アルフレリックの合理的かつ冷静な判断と決断は正しい。もし、アルフレリックが他の長老達のように示しやら威信やらほざいていたらその時点でフェアベルゲンは滅亡していたのだから。
まぁ、なにはともあれ、大樹周辺の霧が弱まるまでの十日間―――
「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」
クソウサギ一家を鍛えることになった。
「え、えっと、ハジメさん。戦闘訓練というのは……………」
「そのままの意味だ。どうせ、これから十日間は大樹へ辿り着けないんだろ? ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等を、一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」
「な、なぜ、そのようなことを……………」
「そんなもんお前等が弱いからに決まってんだろ?」
なぜ? と尋ねてくるクソウサギに俺は呆れながら口を開いた。
「今、現在進行形でお前等が無事なのはハジメの庇護を受けているからだ。だが、それも十日間だけ。その後はお前等はハジメの庇護を受ける前に戻るだけだ」
「「「「「「……………」」」」」」」
「世の中弱肉強食とはよく言ったもんだ。人も魔物も弱いお前等を狙って襲いかかってくる。そうなればお前等は間違いなく全滅。よくて奴隷落ちだ。それが嫌なら強くなるしかないだろうが」
その言葉にハウリア族は暗い表情で俯く。続けてハジメが告げる。
「戒の言う通り。お前等に逃げ場はない。隠れ家も庇護もない。幸運にも拾った命を無駄に散らすか? どうなんだ?」
誰も言葉を発さず重苦しい空気が辺りを満たす。そして、ポツリと誰かが溢した。
「そんなのいいわけがない」
その言葉に触発されたようにハウリア族は顔を上げる。
「そうだ。いいわけがない。ならば、どうするか。答えは簡単だ。強くなればいい。襲い来るあらゆる障碍を打ち破り、自らの手で生存を獲得すればいい」
「……………………ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のような特殊な技能ももっていません。とても、そのような……………」
「だったら今死ぬか?」
俺は銃口をクソウサギの父親に向ける。
「強くなる気がないのならどうせ人か魔物に殺されるんだ。なら俺がここで楽に殺してやるよ。一切の苦痛なくあの世に逝かせやる」
「ひぃ!?」
俺の言葉に怯え、悲鳴を上げる兎人族から銃口を外して俺は言う。
「強靭な肉体がなければ強くなれないのか? 特殊な技能がなければ弱いのか? お前等はそれ以前の問題だ。というよりも俺はお前等が不思議に思うことがある」
「な、何がでしょう……………?」
「同族、お前等の言葉を借りるなら家族が奴隷にされたり、殺されてるのにヘラヘラと笑っているお前等の神経が俺は不思議で仕方がねぇ。復讐しようと思わなかったのか? 助けてやろうと考えなかったのか?」
「そ、それは……………」
「大方、兎人族だから、自分達は温厚の種族だから、弱いから。そこんとこを言い訳の材料にして自分を正当化させてんだろ? 家族を殺した俺が言うのもなんだが、家族を見殺しにしているお前等も相当だな」
「え……………?」
つい口を滑らせて全員の視線が俺に集まる。すると桜が俺の腕を掴んで全員に必死に作り笑みを見せる。
「ちょっとごめんなさい。少し席を外すね? 南雲くん、ユエ、後はお願いするね?」
そう告げて俺を引っ張りながらその場を離れて行く。
「戒」
「悪い、口を滑らせた」
哀しい顔で怒る桜に俺は謝る。
「シア達を見て思うところがあるのはわかうけど今はそれどころじゃないのはわかっているでしょ? 今は私達の事は二の次。その前にやることは沢山あるんだから」
「ああ、そうだな……………」
そうだ。個人の感情など二の次だ。
やっと訪れた組織の悲願。俺達、
「次は気をつける」
「…………………………うん、気をつけて」
そっと抱きしめてくれる桜は本当にいい女だ。少しでも俺に何かがあると心配してこうして慰めてくれる。気恥ずかしい気持ちもなくはないが、それ以上に居心地がいい。
ずっとこうしていたいと思える。
「…………………………イチャイチャしてる」
「や、やっぱりお二人はそのような関係で……………ッ」
ジト目で俺達を見ているユエとクソウサギに気付いた俺達は急いで離れる。
「ふ、二人共どうしてここに……………?」
「……………………ウサギは私が鍛える。残りはハジメ」
どうやらクソウサギはユエが鍛えるみたいだ。魔力操作が使えるから自分よりユエの方が適任だとそう思ってクソウサギをユエに任せたのだろう。
「……………………それと、ウサギが戒と話がしたいみたい」
「なんだ?」
「……………………家族を殺したとはどういうことなのですか?」
怯えを交った真剣な顔で予想通りの質問を投げてくるクソウサギに俺は一度桜に視線を向けてそのことを話す。
「言葉通りの意味だ。俺は自分の手で実の両親を殺した」
「!? どうして、家族なのに……………?」
「例え家族だろうとも怒り、恨み、憎しみを持つ。お前等ハウリア族みたいに家族の情が深いわけでもない。俺達がいた世界では子供を金儲けの道具にしたり、必要がなくなったからと捨てたり、自分達にとって価値がないからと家から追い出す奴もいる。俺達の親もその一人だ。結果を出さなかった俺に価値がないからと家から追い出しやがった。お前等亜人族に合わせて言うのなら〝追放〟だな」
「……………………だから、殺したのですか?」
「ああ」
肯定を取る俺にクソウサギは何とも言えない表情になる。
「先に言っておくが、クソウサギ。俺は親を殺したことに何の後悔も罪悪感もない。どう思おうがお前の勝手だが、お前の価値観を俺達に押し付けるな」
「……………………」
無言となるクソウサギ。その隣でユエはただじっと俺達を見ている。
「お前達がハウリア族を鍛えている間に俺達は樹海の外で何か情報がないか調べてくる。それと帝国兵がいたら始末しておくってハジメにも伝えておいてくれ」
「……………………んっ。戒それに先生」
「なんだ?」
「なに?」
「……………………私達は仲間。だから今度二人のことについて詳しく教えて欲しい」
そう告げてくるユエに俺達は目を見開きながら小さく唇を曲げて樹海の外に足を向ける。
「また今度な」
そう答えて俺達は樹海の外を目指す。