樹海周辺と【ライセン大峡谷】を調べてそろそろ十日。できることなら【ライセン大峡谷】にある大迷宮を発見したかったが、そう簡単に見つかるものではなかった。
樹海周辺も目ぼしいものはなかったし、強いてあげるとすれば帝国兵がいたことぐらいだ。
兎人族を捕まえにきたかと思ったが、どうやら帝国は定期的に樹海周辺に亜人族がいないか探っては捕えて奴隷にしているようだ。
「ほ、他に話すことはない……………………ッ! だ、だから助けくれッ!」
怯えて命乞いをする帝国兵。確か兵長だったか? まぁなんでもいいか……………。
俺は銃口を男の額に当てる。
「俺の女に手を出そうとした時点で死罪なんだよ」
引鉄を引いて男の頭を吹き飛ばす。
「それにしても〝実力至上主義〟か…………」
ヘルシャー帝国は先の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国。実力至上主義を掲げている軍事国家。そして使えるものは何でも使う主義の帝国では奴隷売買が非常に盛んだ。
だから亜人族も奴隷にされるのだろう。特に亜人族でも弱く、容姿も優れている兎人族は都合のいい愛玩動物だ。
まぁ、帝国の情報を入手できただけでも良しとするか……………。
俺は死体を燃やして処理している桜に声をかける。
「桜。そろそろ戻るぞ」
「うん」
あれから十日。いったいどこまでマシになっているのやら。
大した期待も抱くことなく、俺達はこの十日間で手に入れた情報を持って【ハルツィナ樹海】に戻る。
すると、樹海に入る手前に一人の兎人族が木の上から現れた。
「兄貴! 姉御! お迎えに上がりました!!」
「は?」
「え?」
そこに現れたのは俺達が知っている兎人族ではない。まるで軍人のような顔つきをした兎人族が俺達を迎えに来た。
「ボスがお待ちです! ささっ、こちらへ」
案内を始める兎人族に俺も桜もついて行けなかった。というよりも兄貴や姉御ってなんだ? どうしてああなった?
突然の兎人族の変化について行けない俺達はひとまず落ち着くことにした。
こういう時こそ冷静に。慌てずただ冷静に目の前に映る現実を受け入れ………………。
「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値の存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捻じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴等はもはやただの踏み台に過ぎん! ただの〝ピッー〟野郎共だ! 奴等の屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わったことをこの樹海の全てに証明してやれ!」
受け入れ……………………。
「「「「「「「「「Sir,yes,sir!!」」」」」」」」」」
入れ……………………。
「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」
「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」
「お前達の特技はなんだ!」
「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」
「敵はどうする!」
「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」
「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」
「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!」」」」」」」」」
「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」
「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」」」」」」」
「受け入れられるか!!」
「たった十日で何があったの!?」
「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったんですぅ~」
そこには俺達が知っている温厚のハウリア族はいない。
ギラギラとした瞳を輝かせ、手に持つ刃物を恍惚な笑みと共に頬ずり、舐めて、敵を殺すことに悦に入っている変わり果てたハウリア族はハジメの号令と共に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へと消えていった。
あまりの変貌したハウリア族に唖然とする俺と桜に気付いたハジメは声をかけてくる。
「おう、やっと帰ってきたか。何か有力な情報は得られたのか?」
「その前に何があった?」
「いったいなにをしたの?」
問いかける俺達にハジメは視線を明後日の方向に向けてポツリと。
「……………………訓練の成果だ」
「どう見ても洗脳でしょ!? 今すぐ戻しなさい! すぐに! 早く!!」
桜がハジメの襟首を掴んで激しく揺さぶる。
「……………………流石ハジメ、人にはできないことを平然とやってのける」
「これでいいのかどうかはわからねえがな………………」
ハー○マン式だったか? まぁ、十日前に比べたらマシになったと思っておこう。というよりもそう思っていないとやっていけない。
今日を以て温厚で平和的、争いが何より苦手なハウリア族は消えた。
それから変わり果てたハウリア族は自らの力で熊人族を圧勝した。ハジメの魔改造? によって強くなったハウリア族はこれからは自分達の力でこの樹海で生きていけることは確信できた。
それに関しては俺も桜も何も言わない。というよりも口を挟みたくないが本音だ。
ちなみに何故俺と桜を〝兄貴〟や〝姉御〟と呼ぶかというと年上のように落ち着いた印象があるかららしい。こいつら俺達より年上だよな…………………?
もはや何も言わず、黙ってそれを受け入れる俺と桜はもうそれでいいやと投げやりの気持ちでいっぱいだ。
それともう一つ、クソウサギが俺達の旅に同行することになった。
なにやらユエとそういう賭けをして勝ったらしい。それとハジメに惚れたから。
クソウサギがハジメに惚れるシーンなんてあったか? 雑に扱われていただけだと思うが、まぁいい。足を引っ張るならその時はその時だ。
互いのこの十日間の情報を共有して大樹に向かおうとする時。
「戒さん。私と勝負をしてくれませんか?」
「はぁ?」
クソウサギがそんなことを言ってきやがった。
何言ってんだ、このクソウサギは? と思った俺だけどクソウサギの目は真剣だ。
「俺がお前と勝負して俺に何のメリットがあるんだ? 第一、ハジメやユエならまだしもクソウサギが俺と勝負になるわけないだろうが」
この十日間で例え偶然でもユエに傷を与えたことには評価はする。けれどそれだけだ。
クソウサギと俺とでは実力差があり過ぎる。
「はい。戦ったら私は絶対に負けます」
「だったら」
「それを承知した上で私との勝負を受けてください。そして認めてください。私を仲間として」
「……………………」
「私は全身全霊全力を持って戒さんと戦います。だから、私の全てを受け止めてください」
―――同じ旅をする仲間として。
そう告げるクソウサギに俺の口からは深い溜息が出る。
「……………………クソウサギが俺に傷を一つでも与えれたらお前の勝ちだ。俺はハンデとしてクロノスとへレスの力、精霊銃も使わねぇ。使うのはただの魔弾だけだ」
「はい!!」
勝負を受けてやっただけなのに嬉しそうにウサ耳を動かすクソウサギ。ハジメはどこか呆れるように息を吐いて、ユエと桜は生暖かい目で俺とクソウサギを見つめる。
こうして俺とクソウサギの勝負が始まった。