ありふれた世界に異幻者を   作:ユキシア

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学校の昼休みの最中、突然教室に現れた魔法陣によって俺と桜。それにクラスメイト達は別の場所に転移して最初に目に飛び込んだのは巨大な壁画。周囲を見渡せば聖堂のような広間に俺達はいる。

「か、戒……………」

俺の腕の中で桜が顔を赤くして俺を見ている。

「ああ、悪い」

桜を解放させてひとまずは身体に異常がないことに安堵する。

おい、お前等は無事か?

《問題ありません、マスター》

《こちらも異常はありません》

クロノス、へレスも共に無事だったことにひとまずは落ち着きが持てる。いざという時は桜を抱えてでも逃げるが、二人がいなければ俺は何もできない。

「桜。お前は平気か?」

「う、うん。だけどここって……………」

「それはあいつらが説明すんだろ」

俺達以外にもこの場には三十人近い信者のような奴等がいる。その中でも特に豪奢で煌びやかな恰好をした爺が俺達に話かけてきた。

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりましイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

好々爺然とした微笑を見せるイシュタルと名乗る爺の目を見て俺は警戒する。

あの目は間違いなく狂信者の目だ。いや、この爺だけじゃない。他の奴等も同じ目をしている。

どうやらかなり厄介なところに呼ばれたみたいだな……………。

それから俺達は落ち着く場所に移動して爺からこの世界”トータス”の事について知った。

トータスは大きく分けて三つの種族、人間族、魔人族、亜人族がいて亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きている。そして人間族と魔人族は何百年も戦争を続けて、魔人族が魔物を使役したことによって人間族が滅びの危機を迎えようとしている。

そしてその危機を回避する為に俺達は呼ばれた。エヒトと名乗る神に。

「あなた方には是非その力を発揮し、”エヒト様”のご意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

恍惚とした表情で爺はそう言った。

異世界召喚ってやつか……………。まさかこんな形で組織の目的が達成するとはな。

異界の箱舟(ファンタスティック・ノア)の目的は異世界に行くこと。異世界に行く為に数え切れないほどのあらゆる事象、現象を調べて調査を繰り返してきた。

それがまさかこんな形で達成してしまうとは思いもしなかったが……………こいつは駄目だ。

イシュタルの爺の口からでてきたそのエヒトと呼ばれている神。こいつはどうも胡散臭い。調べておく必要はありそうだな。

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争をさせようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

思考に耽っていると社会科の教師、畑山が叫んだ。

真っ当な言い分だ。それに他の奴等も俺や桜のように現状を深く考えていない。いや、それが当たり前の反応か。

「お気持ちはお察しします。しかし…………あなた方の帰還は現状では不可能です」

その言葉に静寂が満ちる。

やっぱりな……………。

これもまた当然の反応だ。

「ふ、不可能って……………ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々があの場所にいたのは、単に勇者様方を出迎える為と、エヒト様に祈りを捧げるため。人間に異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様のご意思次第ということですな」

「そ、そんな……………」

畑山が脱力して腰を落とし、クラスの奴等もようやく今の状況を理解して騒ぎ出す。

誰もが狼狽えるなか、天之河が立ち上がった。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……………俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……………イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

何言ってんだ、こいつ? 馬鹿か?

《馬鹿ですね》

《馬鹿でしょうね》

宣言する天之河に俺達は馬鹿と評価した。

敵の規模や戦力はおろか、この世界について何も知らないのに世界も皆も救うとかよく言えるもんだ。それに賛同する奴等も何も考えずに勢いだけで戦いに身を投じるとか馬鹿にも限度があるぞ?

唯一畑山、それと南雲は賛同していないようだが、むしろ俺は二人を評価する。

《本当の意味で戦いがどのようなものか理解していないのでしょう》

《現実を知れば半数は心が折れる筈です》

二人はクラスメイトの奴等に冷たくも正しい評価をつけていると―――

「皆! 待って!」

桜が椅子から立ち上がってクラスメイトの奴等を呼び止める。

「本当にわかっているの!? 戦うということは死ぬかもしれないんだよ!? 本当にそれでいいの!? もっとよく考えて!」

桜の言葉に何人かはその意味に気づく。だが。

「安心してくれ、桜さん。不安なのも怖いにもわかるけど俺が君を絶対守ってみせる」

「あぁ?」

誰が、誰を守るだと……………?

《さようなら、愚かなお馬鹿さん》

《我が主の逆鱗に触れるとは……………なんとも愚かな》

俺は椅子から立ち上がって桜の肩に手を置く。

「おい、クソ之河。おまえ、今なんつった? 誰が誰を守るだと?」

「ク、クソ之河? いや、俺は彼女を安心させようと」

「よく考えもしねえクソが偉そうに守るなんてふざいてんじゃねえよ。そういうのはな、本当にそういう覚悟がある奴が言う台詞なんだよ」

「な!? お、俺は真剣に彼女の為を想って―――」

「じゃ、試しに訊くが、世界と一人の人間。お前はどっちを救う?」

「そ、それは……………」

「俺は桜を守る為なら世界だって捨てる」

それは他の誰にも譲れない俺の覚悟。するとクソ之河が声を荒げて叫んだ。

「世界がどうなってもいいって言うのか!?」

「ああ。桜と世界。どっちを選ぶまでもねえ。俺は桜を選ぶ」

「そんなの間違ってる!」

「少なくともお前よりは現実的だ。世界も皆も救うって言ったが、敵の規模も戦力も能力も何一つ知りもしないでどうやって救うんだよ」

「それはこれから考えて行けばいいだろう」

「馬鹿が。敵がこっちの都合通りに動くわけないだろうが。そんなこともわからねえのか? 第一、お前一人でどうやって救うんだよ?」

「皆を守れるぐらいに強くなる!」

「強くなれば守れるのか? とんだご都合主義のおめでたい頭だな」

「なんだと! 世界を見捨てるような君に言われたくはない!」

「それならお前は現実すら見ていないな? いいか? おめでたい頭をもつお前にもわかりやすく言ってやる。ここはゲームの世界ではない。そして俺達は物語に出てくる主人公でもない。死ぬときは死ぬ。俺もお前もここいる奴等全員も死ぬときは死ぬんだよ。ゴミのようにな」

これまで戦い抜いてきた俺の言葉に空気が重くなっているのを感じて俺は最後に言う。

「それに戦うって言うなら覚悟はできてんだろうな?」

「な、何の……………?」

「殺す覚悟に決まってんだろ」

決定的な一言を俺は告げる。

「戦うってことは殺すってことだ。当然だろう? 敵を殺さなければ自分がもしくは仲間が殺されるんだ。だからそれぐらいの覚悟をお前等は持ってんだろ? 戦うって決めたんだからな」

誰もが、天之河さえも口を閉ざす。そりゃそうだ。一部を除いてここにいる奴等は戦うと一度は口にしてるから。

「捕虜、そうだ、捕虜にすればいい! そうすれば殺す必要なんて――」

「魔人族を一人一人捕まえるのか? 数万単位もいるかもしれないのに?」

「だ、だが―――」

「おい、世界も皆も救うってほざいた奴が何狼狽えてんだ? ま、知っていたけどな。お前は自分にとって都合のいい正義と理想しか見ていない。人の悪意も醜い感情も見て見ぬ振りをして自分の都合を他人に押し付ける偽善者。……………いや、偽善者ですらねえ、自分の都合通りにいかないことと納得しないただのクソガキだ」

「お、俺は……………そんな、こと」

「違うっていうのなら言ってみろよ、クソガキ。どうやって世界も皆も救う方法ってやつを俺に教えてくれよ」

追い詰めるように声をかける俺の口を桜が塞いで天之河の前に八重樫が立つ。

「戒。私の為に言ってくれるのは嬉しいけど言いすぎ」

「時橙くん。光輝も悪気はないの。混乱している皆の為を思ってそう言っているだけだからお願い……………」

二人の目がこれ以上はやめろ、と言っている。

たくっ、お優しいことで……………。

無言で椅子に座る俺に二人は安堵すると爺が口を開く。

「ふむ。どうやらとても気が立っているようですし、今日はこのぐらいでお開きとしましてひとまずゆっくりと休まれてはいかがでしょう?」

爺の言葉に意見を述べる奴は誰一人いなかった。

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