「それで私に何か言うことは?」
王宮の一室で私、怒ってますの雰囲気を出して仁王立ちしている桜に俺は言う。
「イラっとしたから言った。反省も後悔もない」
「反省はしなさい! あの後クラスの女子達から色々言われたんだからね!!」
若干涙目で怒る桜。
「だけど俺が言ったのは事実だ」
「それは……………そうだけど、皆は私達とは違うんだよ? あれじゃ戒が悪者みたいで私は嫌だよ……………」
「別に俺はお前以外の奴に嫌われようが―――」
「私が嫌なの。戒は優しい人だって皆にもわかって欲しいのに」
表情を暗くする桜に俺は黙って彼女を抱き寄せる。
「桜は何時も俺の事を考えてくれるな……………」
「当り前。皆に戦う覚悟を伝える為とはいえ、戒が嫌われ者になって欲しくないもの。戒は戒でそれでよしよするからもっといや……………。だから私は戒が自分を大切にしない分、私が戒を大切にするって決めたの」
「ああ、大切にされている気持ちが伝わってくる」
「ならもっとぎゅってして」
「ああ」
桜を抱きしめるこの一時は俺によっての至福とも言える。桜の温もりが凍りついた俺の心を優しく溶かしてくれる。
優しくも暖かい俺の
頬に手を当て、目を合わせると桜は目を閉じる。
そして俺は自然な動きで桜の―――
コンコン
唇に触れようとした瞬間、扉がノックされた音が響いた。
チッ、いったい誰だよ……………?
内心やさぐれながら扉を開けるとそこには八重樫が申し訳なさそうに立っていた。
「八重樫か。どうした?」
意外な人物に少し驚きながらも要件を尋ねると八重樫は頭を下げてきた。
「ごめんなさい。光輝の馬鹿は私からもよく言っておくから許してあげて欲しいの」
「………………………許すも何もお前が謝ることじゃねえだろ? お前が尻拭いする必要があるのか?」
「ない、けど。一応は幼馴染だからね……………」
そんな理由で律儀にもあの馬鹿の代わりに謝りに来た八重樫が苦労人だということにすぐに理解できた。
すると桜がやってきた八重樫の肩にそっと手を置いた。
「雫も苦労しているのね……………」
同情と慈愛に満ちた目で優しく声音でそう言った。
おい、”も”ってなんだ、”も”って。
《桜に同意します》
《クロノス同様に桜に同意させてもらいます》
俺の中にいる二人は俺を見限って桜に同意しやがった。
この裏切り者共。
《マスターはもっと周囲に気を配うべきです》
《これまで主の身勝手な行動で桜は苦労しているのですよ?》
そう言われるとぐうの音もでない。
俺自身も身に覚えがあるので強く否定することができなかった。
そんな俺を置いて桜は雫を部屋に招き入れて二人だけの女子会を始めやがった。
「へぇ~香織って南雲君のことが好きなんだ。道理でよく話しかける訳ね」
「ええそうなのよ。中学の時に南雲君が土下座しているのを見てね」
俺を完全空気にして二人で盛り上がる。俺も俺で桃色の空気に入れる度胸はなかった為に部屋の隅で大人しくしている。
《大丈夫です。マスターには私達がいます》
《だから元気を出してください》
ああ、ありがとな……………。
二人に励まされながらよくよく思い返せば桜は
なら邪魔をしないように部屋から出ていこうとした瞬間。
「何かあったら頼ってね? 今なら皆に迷惑をかけた戒を無料レンタルさせるから」
桜は笑顔でそんなことを言いやがった。
「ふふ、気持ちだけ受け取っておくわね?」
苦笑しながら遠慮する八重樫に桜は続けて言う。
「雫は誰かに頼ろうとしないからちょっと心配」
「そんなことないわよ? 私だって……………」
そこで八重樫の言葉が止まる。どうやら思い当たるふしがあるみたいだな。
「やっぱり。雫って頼られることはあっても頼ることはしていないのね。天之河君が原因かな? よくも悪くも彼、周囲に影響を与えるから」
「…………………………どうしてそう思うのかしら?」
「だって雫、肩に力が入り過ぎているもの。それも自然に。多分だけど小さい頃に天之河君のせいで何かあったんじゃないかな? それで頼りたくけど頼れない、だから自分で何とかするしかないって無意識にそう思い込んでいると思うよ?」
桜の言葉一つ一つに八重樫の表情が変わっていく。
恐らく図星なんだろう。桜って無駄に観察力と洞察力が高いからな。俺も心でも読めるのかと思っていた時期があった。
「………………………………そう、かもしれないわね。私自身よくはわからないけど。いざという時は頼らせてもらうわ」
「うん、そうしてくれると私も嬉しいかな」
そこでその話を終わらせると八重樫は今度は真剣な顔で言ってきた。
「最後に一ついいかしら? 二人はこれからどうするつもりなの?」
「……………………私は戦う。でもそれはこの世界の為にじゃなく、私達の目的の為に戦うの」
「俺も目的は桜と同じだ。だが、俺は桜を守る為に戦う。それだけだ」
俺達は元の世界でも覚悟を決めて戦ってきた。それはこの世界でも同じ、いや、目的地であるこの世界に来た以上はやるべきことはある。
この世界と元の世界を行き来できる方法を探し出して組織の目的を果たす。
「……………………………二人の目的は今は聞かないでおくわ。けど、これだけは教えて。どうしたら二人のように覚悟を決められるの? もしかしたら死ぬかもしれないのに」
八重樫の瞳からは迷いが見える。だけど、なんてこともないただの平穏な日々を過ごしていた八重樫にとってはごく自然なことだ。それでも普通なら混乱して理不尽を呪って部屋に閉じこもってもおかしくないこの状況で戦うことに迷っている八重樫は強いと思う。
だから俺はそんな八重樫に言う。
「俺には死ぬことよりも恐ろしいことがある。それは桜が死ぬことだ。だから俺は桜を死なせたくない為に戦う」
「私も同じかな。けどね、雫。戦う理由なんてひとそれぞれ。だから雫は雫にとって大切な何かをどうしたいのか考えてから決めた方が良いと思うの」
「私がどうしたいのか……………」
「焦る必要はないから、ゆっくり考えてみて?」
「………………………………そうね。相談に乗ってくれてありがとう。後は自分でなんとかしてみるわ」
「うん」
そこで雫は部屋を出て行った。
「戒は雫のことどう思う?」
「さあな。八重樫がどうしたいのかは八重樫次第だ」
話はそこで終わらせて俺達は明日に備えて休むことにした。
異世界トータスに召喚された翌日に早速訓練が始まった。
まず、集まった俺達全員に十二センチ×七センチくらいの銀色のプレートが配られて騎士団長であるメルド・ロギンス直々の説明が始まった。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
気楽に話してくる騎士団長はステータスプレートの説明をしてプレートの一面にある魔法陣に血をつけるとプレートは灰色になって俺はステータスを確認する。
==============================
時橙戒 17歳 男 レベル:1
天職:
筋力:576
体力:687
耐性:521
敏捷:676
魔力:708
魔耐:634
技能:
==============================
ステータスを確認した俺は初見でもおかしいことはすぐにわかる。
「全員見られたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルとは、その人間が到達できる領域の現在値を示しているというわけだ。レベル100ということは、自分の潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
そしてステータスは日々の鍛錬で上昇。魔法や魔法具で上昇もできる。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ」
なるほど、つまり
これを天職と呼んでいいのかはわからんけど……………。
そもそも
「後は……………各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
天職について考えていると騎士団長の言葉に俺は眉根を寄せる。
《数十倍どころではありませんね》
《技能も既に……………前の世界の経験も含まれているのでしょう》
へレスの言葉に同意する。
すると桜が俺の袖を引っ張る。
「どう?」
「桜は?」
俺達は互いのステータスプレートを交換して確認する。
==============================
柳生桜 17歳 女 レベル:1
天職:
筋力:354
体力:442
耐性:301
敏捷:388
魔力:832
魔耐:823
技能:精霊使役[+
==============================
桜も桜でチート。一応他の奴等を確認してみると。
==============================
天之河光輝 17歳 男 レベル1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適正・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・気配遮断・限界突破・言語理解
==============================
天之河のステータスはこんな感じらしい。これでも規格外のようだ。俺達を除いて。
いや、俺達は普通の人間じゃないし、実戦経験も数えないぐらいに乗り越えてきた。それに
「ど、どうしよう……………」
クラスメイトは一人一人と騎士団長に自分のステータスプレートを見せている。このままでは俺達二人は怪しまれてしまうのは明白だ。
最悪の展開としては行動を制限させる為に首輪をつけられる可能性もある。
「どうした? 後はお前達だけだぞ?」
騎士団長がステータスプレートを見せろと言わんばかりに手を伸ばしてくる。
「……………………悪いがこいつを見せるつもりはない。対策を講じられても面倒だからな」
「………………………警戒する気持ちはわからんでもないが、しかし」
「訓練には参加する。信用できるとこちらが判断できたら見せる。それでいいだろ?」
その言葉に騎士団長は渋々といった感じに了承した。
「桜。精霊や装備はあるか?」
「うん。皆もいるし、装備もいつも持っているから」
「今はまだ使うな。まずはこいつらに合わせてこの世界の情報を集めるぞ」
「………………………その後は?」
「組織の一員としての目的を果たす」
「…………そう、ね。皆には悪いけど」
機会を見てここを出て行く。そしてこの世界と元の世界を行き来できる方法を見つけ出して組織の目的を果たす。
それから宝物庫で桜は弓を俺は大剣を手にする。すると。
「メルド団長。すみませんが彼と模擬戦をお願いできませんか?」
天之河が俺と模擬戦するように騎士団長に告げた。
《死にましたね、勇者(愚)》
《ある意味では勇者(笑)でしょうが》
二人は憐れみをたっぷり含めた声で言う。
俺の模擬戦を申し込んできた天之河の手には聖剣が握られている。
……………ハッ、昨日言い負かされた報復か?
「時橙! 俺と勝負しろ!」
「いいぞ。お前に戦いがどんなもんか教えてやる」
死んだ方が楽だと思わせるほど痛めつけてやるよ。