ありふれた世界に異幻者を   作:ユキシア

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天之河の模擬戦を了承した俺は訓練場で天之河と対峙している。

《マスター。何故わざわざ勇者(愚)の勝負を受けたのですか? どう考えても先日の腹いせですよ?》

《受けるメリットがないはずでは?》

聖剣を構えながらただ勝負が始まるのを待つ天之河に二人はこの模擬戦をどうして受けたのかを訊いてきたので教える。

別に理由なんてないが、あえて言えば八重樫の為か? 

白崎の隣で心配そうに天之河を見ている八重樫は多分気付いているんだろうな。

天之河では俺には勝てないってことぐらい。

だからここで俺がこいつに少しでも現実を教えてやれば八重樫の苦労性も少しは減ると思ってな。

《お優しいですね》

《流石は我が主》

別に褒められることはしねえよ。それにせっかく桜に新しい友達ができそうなんだ。彼氏として少しは彼女の為にしてやりたいっていうただの恰好つけだ。

ところでへレス。あの聖剣って本物か?

《本物でしょう。主が持つこの剣も優秀ではありますが私ほどではありません》

だろうな。

この剣も見た目とは裏腹に軽い。持ち主が握れば重量はそのままでも軽く扱えるアーティファクトなんだろう。

まぁ、へレスほどではないから代剣にはなるが。

「あーではこれより模擬戦を開始する。勝敗はどちらかが戦闘不能になるか降参するかで決める。どちらも異論はないな?」

「はい」

「了解」

「一応言っておくがこれはあくまで模擬戦だ。そのことを忘れるなよ? では双方武器を構えろ!」

騎士団長の声に天之河は聖剣を構えて俺は少しだけ感心する。

《あの勇者(笑)、どうやら少しは剣に覚えがあるようですね》

へレスの言う通り構えが様になっている。

ああ、そういえば八重樫の実家で剣術道場って言っていたか? 幼馴染ならそこで剣術を覚えていてもおかしくはないか。

「時橙? どうかしたのか?」

「あ、すんません」

騎士団長に呼ばれてようやく俺は大剣を構える。俺たち二人を見て騎士団長は腕を振り下ろす。

「始め!」

「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

開幕速攻。天之河はかけ声と共に突貫してくる。

それを見て俺は叫ぶ必要なくね? と思いながら天之河の剣を防ぐ。

軽いな……………。

「なるほど。少しは剣に覚えがあるみたいだね。だけど!」

不敵に笑う天之河はそこからごり押しの剣術を発揮して力づくで俺の体勢を崩そうとしてくるが……………。

こいつ、やる気があるのか?

攻撃は軽いし、動きも遅い。かといって巧みなフェントもなければ技術もない。子供でもできる力押しだ。

「どうだ!? 反撃できないだろう!?」

攻撃しながらしたり顔で言ってくる天之河に俺は溜息がでた。

《稚拙な攻撃ですね。せっかくよき師から教わったであろう技術をまるで活かしていない。剣が泣いているのがわかります》

聖剣に同情の念を送るへレスに俺は代わりに弁明する。

きっと自分が〝勇者〟だから負けるわけがないと思い込んでんだろう。ステータも自分より上がいないから勝てるに決まっている。意識してか無意識かは知らんが。

まぁ、大方は自分の方が俺より強いと思って模擬戦を申し込んだんだろうが、八重樫には本当に同情する。こんなガキを幼馴染に持っているなんてな。

俺は天之河の攻撃を弾くと天之河はそれだけで態勢を乱れるも数歩後退して剣を構える。

「ぐっ、まだまだっ!!」

力任せの剣を振ってくる天之河の攻撃を防ぎながら俺は言う。

「天之河。お前はいい加減に周囲に甘えるのはやめろ」

「何を言って? 俺は別に甘えてなんか……………」

「甘えてんだよ。少なくとも約一名。お前のせいで苦労している奴がいる」

「そうやってこちらを揺さぶるつもりだな! いくら剣で勝てないからといって卑怯だぞ!」

「そうやってお前は事実を知ろうとせず、現実に目を向けない。今までも何度か注意ぐらいはされたんじゃないのか?」

「黙れ! 言葉ではなく剣で勝負しろ!!」

叫ぶ天之河に呆れながら望み通り剣で勝負をしてやる。

「っ!?」

俺の振るう剣に天之河はその威力に完全に防ぐことができずに吹き飛ばされて何度も地面を跳ねてようやく止まる。

「う……………まだだ!」

それでも立ち上がって剣を振るうもこちらの攻撃であっさりと吹き飛ぶ。少しは避けろよ、と思えるぐらいに飛んで行く天之河はそれでも折れずに立ち上がる。

「どうして……………俺は、勇者なのに……………ステータスだって……………」

「いつから物語の主人公になったつもりなんだよ? 勇者は必ず勝つなんて物語の展開上そうした方が話が進むってだけの作者の都合だろう?」

予想通り自分が勇者だから勝てると思い込んでいたみたいだ。ここまでくるともはや愚かを通り過ぎて哀れみさえ抱く。

「この世界を見捨てるような奴に……………俺が負けるはずがないんだ!」

声を荒げると同時に天之河の全身から魔力の奔流を迸らせる。

「うぉわぁあああああああ!!」

「癇癪を起こした子供かよ……………」

先程よりも高い威力、スピードで聖剣を振り下ろすが俺はそれをあっさりと躱す。

「ガキは寝る時間だ」

そこで俺は天之河の腹に容赦なく拳を叩き込む。

「がっは……………」

聖剣を手放して地面に横たわる天之河を見て騎士団長が勝敗を宣言する。

「勝者! 時橙戒!」

勝敗と共に巻き起こるのは喝采の拍手……………なんてものはなくクラスメイトも騎士達も信じられないものを見る目で見ている。

「全員聞け。勇者だから勝てるだの、天之河がいるからどうにでもなるなんて都合のいい考えは今すぐ捨てろ。戦場に理想も幻想もない。あるのは生死を賭けた戦いだけだ。戦う覚悟のない奴は戦場に出てくるな。足手纏いだ」

静まりかえるクラスメイト達に俺はその場を離れて行く。

「戒」

「桜か…………」

あの場から離れる俺に桜は追いかけてきて俺の頭にチョップを入れた。

「この馬鹿! どうしてあんな言い回ししかできないの!? だから友達がいないのよ!」

「それは関係ないだろうが……………」

そもそも俺なんかと友達になりたがるもの好きなんていないだろうが。

「ちゃんと手加減したし、どのみち現実がどれだけ残酷なものか知ることになる。今からそれを受け入れる覚悟ぐらいした方が良いだろう?」

「そういう問題じゃなくて……………もう、雫の為とはいえあれじゃ戒が天之河君を一方的にボコボコにした悪者だよ」

深い、それはふか~~~~~い溜息を吐く桜は頭を押さえる。

「とにかく皆の所に戻るよ。いくら私達が強くても訓練はしないといけないんだし」

「へいへい」

桜に腕を引っ張られながら俺は来た道を戻る。

《流石のマスターも桜には勝てませんね》

《それでこそ桜です》

何故この二人は俺よりも桜の味方になることが多いのだろうか?

今日何度目になるかわからないため息を吐いて俺はクラスメイト達と共に訓練をした。

 

 

 

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