訓練開始から二週間が経ってクラスメイト達は訓練はしているもその表情はまだ覚悟を固めたとは言えない。少なくとも自分の身ぐらいは程度だろうがそれが妥当だ。
いきなり戦う覚悟を持てという方が無理な話だ。
俺も俺で訓練はしているも、大体は訓練の合間に王立図書館でこの世界に関する知識を集めているなかで興味を示すものがあった。
「七大迷宮か…………」
この世界における有数の危険地帯。場所が分かるのは三つだけ。後は不明。けど、ここに何かあるのではないかと俺は思う。
明日からは実戦訓練の一環で【オルクス大迷宮】に行くし、調べてみる価値はありそうだな。
とりあえずは桜と少し話して、と考えを纏めていると窓の外から八重樫が木剣を振っている姿が見えた。
「頑張ってんな……………」
そう思いながら部屋に戻ろうと足を進めると。
《お声をかけないのですか?》
クロノスが声をかけてきた。
必要ないだろ? それに邪魔をしたくないし。
《しかし、女性を一人で放置しておくのはどうかと》
へレスも俺に八重樫のところに行けと遠回しに行ってくる為に仕方がなしに俺は八重樫がいる場所に足を運ぶ。
「よぉ」
「時橙君……………?」
素振りを止めて意外そうにこちらを見てくる。
「何か私の用事でもあるのかしら?」
「あー、いや………その、なんだ。たまたま窓から見えてな」
特に話すことも考えていなかった。こういう時さらりと話題を振れる桜が羨ましい。いや、俺がたんにコミュニケーション能力が低いだけか……………。
俺の言葉に八重樫は意外そうに目を見開いた。
「……………………驚いたわ。正直、桜以外の人なんてどうでもいいのかと思っていたわ」
「……………否定はしねえさ。まぁ、今は改善しようと努力はしてんだけどな」
昔の俺なら肯定していただろうけど、今は俺なりに人を知ろうと努力しているつもりだ。
「あぁ、そういうこと。あの時光輝やクラスの皆が足手纏いだから冷たく言ったわけではなく、むしろ忠告、警告のつもりだったのね」
「一応、そのつもりだ……………」
「不器用なのね」
「………………………………」
微笑ましく笑う八重樫に俺は恥ずかしさのあまり視線を逸らす。
「私、時橙君のこと誤解していたわ。他人なんかどうでもいい人だとばかり思っていたけど本当は優しい人だったのね。不器用だけど」
「うっせ」
桜と同じこと言いやがって……………。どうせ俺は不器用だよ。
「俺の事よりあのガキはどうなんだよ? 少しはマシにはなったのか?」
結構言ったから多少は現実に目を向けるとは思うが、これで駄目ならもうあいつの自己解釈は病気の類に入るぞ?
「………………………………今はなんとも言えないわね。これに懲りたら少しは良くなってくれるといいのだけど」
「マジかよ……………」
どんだけご都合解釈野郎なんだよ。自分でも口が悪い方なのは自覚しているから結構ボロクソ言ったつもりなんだが……………。ここまでくると逆に感心するぞ。
「………………………………ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「あなたはどうして桜を守ろうとするの?」
「………………………………」
「光輝はまぁ、いつものことだからわかるけど。あなたは違う。桜を守る。その為ならなんだってする気持ち、いえ、覚悟が言葉として伝わってきたわ。だから教えて。どうしてそこまで桜を守ろうとするあなたの覚悟の意味を」
真っ直ぐに揺らぐことなくこちらを見据えながら訊いてくる八重樫に俺は一呼吸して話す。
「俺はな、何においても中途半端だったんだよ」
「?」
「成績も運動もどんなに頑張っても伸びず、良くも悪くも平均。だからか、親からはもっと頑張れなど、あそこの子はこうなのに、と他人と比較してくる。結構、頑張ったつもりだったんだけどな」
「………………………………」
「何の特徴も長所もないせいか、中学の時は虐めを受けた。それでも耐えながらも自分の努力が足りないせいだと自分を責めて頑張った。けど、それは間違いだった。親にとっても他の奴等にとっても俺の努力なんて何の価値もないって思い知らされた。『結果を出さない奴に価値はない』。実の息子に言う台詞かよ」
「………………………………それは、酷いわね」
「でも、一番辛かったのは誰も俺の努力を認めてくれなかった。俺を信じてくれなかったことだ。そう思えば俺と天之河は同じコインの裏と表だな。人の綺麗な所しか見ていない天之河と人の汚い所しか見てこなかった俺はある意味似た者同士なのかもな」
「そんなことは、ないわ……………」
「同情はいい。もう過ぎたことだ。それから俺は人を信じられなくなり、嫌悪し憎悪するようになった。その時だった。桜と出会ったのは」
今でも忘れないあいつとの出会い。
「桜に俺に光を与えてくれた。暗闇を照らす心の光を。その光に俺は救われた。そして思った。その光を守りたい。一人の男として命を賭してでも守りたい。そう願うようになった。だから俺は桜を守る。それが俺の覚悟であり、願いだ」
この想いだけは生涯変わることはない。
例え、桜が俺の事を嫌うことがあっても俺は桜を守り続ける。
一度は捨てたこの命を賭して。
「………………………………」
「おい、八重樫。どうした?」
言い終えると八重樫は若干顔を赤くして啞然としている。
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっと桜が羨ま、いえ! なんでもないわ! 忘れてちょうだい!」
「あ、ああ……………」
いきなりどうしたんだこいつ? 情緒不安定か?
気持ちを切り換えるかのように八重樫はコホンと咳払いする。
「と、とにかく時橙君は桜にゾッコンだということはわかったわ。でも、だからといって自分の命を蔑ろにしたら駄目よ? そんなことをしたら誰が一番悲しむかわかるでしょ?」
「当り前だ。俺は死ぬつもりなんて微塵もねえよ。ずっと桜の傍にいたいしな」
「はいはいご馳走様。お熱いことで。とにかく時橙君の覚悟はよくわかったわ。桜の為に戦うという気持ちも」
「ああ。例え相手が神だろうが殺す」
「愛が重いわね……………」
はぁ~と深いため息を吐いた八重垣は言う。
「時橙……………戒って呼んでもいいかしら? あなたの友達一号に立候補してあげるわ」
「いきなりだな……………まぁいいが。俺と友達になって得することなんてねえぞ?」
「友達になることに損得なんてないわよ。私の事も雫でいいわ」
「そうか。わかった。まぁ、宜しく頼む、雫」
「ええ、こちらこそ」
友好の証として手を交わす俺達。
《うぅ……………ようやくマスターに友達が》
《雫。桜共々我が主をよろしくしてあげてください。ぐす》
二人は涙ながら俺に友達ができたことに喜んでいた。
お前等、覚えとけよ……………?
俺は何時か二人をこき使ってやろうと密かに誓った。