ありふれた世界に異幻者を   作:ユキシア

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俺達勇者組は実戦訓練を行う為に【オルクス迷宮】へと足を踏み入れていた。

王国が管理しているアーティファクトを手にして魔物と戦っていく。

それぞれのアーティファクト。天之河は聖剣。その能力は光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を強化させる。

まさに勇者専用武器だ。もっとも天之河は聖剣の能力に過信しているようにも見えるが別にそれを言う必要もないか……………。

坂上のアーティファクトは籠手と脛当て。衝撃波を出して壊れない。脳筋にはお似合いの武器かもしれないが、こいつは対人には弱いな。駆け引きができなさそうだし。

雫は刀とシャムシールの中間のような剣で持ち前の剣術で魔物を斬り裂いていく。動きも洗練されているし、後は実戦を積むぐらいか。

《彼女の腕前はとても素晴らしいです。まだまだ伸びしろもありますね》

そうへレスが称賛するほど雫の剣術は素晴らしいのだろう。

「次! 永山重吾! 時橙戒!」

俺と〝重闘士〟である永山の順番が回ってきて俺は大剣を構える。永山も魔物との戦いに警戒しつつも構える。

まぁ、ここにいる大体の奴等は戦闘経験皆無だから緊張も警戒も人一倍強く持ってしまうのも仕方がねえな。

そう思いながら向かってくる魔物を両断して永山の分は残して即終わらせる。

隣で魔物と戦っている永山は「え、もう?」みたいな顔で見てくる。まぁ、頑張れ。

「戒。お前の立ち振る舞いと剣術から見て実戦経験があるのか? お前達がいた世界は争いがない世界だと聞いたが?」

「別に。ただ剣を教えてくれた師匠の訓練が実戦方式だったからな」

まぁ、師匠ってへレスのことなんだけど。

何度も死にかけたのが嫌な思い出だ……………。

《そう仰るのでしたら私はいつでも構いませんが?》

……………また今度な。

「ほう? まぁ詳しくは聞かんがそれなら今回は問題はないだろう。今回は後ろで待機しておいてくれ」

「了解」

騎士団長の指示通りに後退する。それから順調に階層を下げて行って二十階層に辿り着いた。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連係を組んで襲ってくる。今まで楽勝だったからといってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合を入れろ!」

騎士団長のかけ声を響かせて二十階層で訓練を続行する俺達の前に壁に擬態している魔物が姿を現した。カメレオンのような擬態能力を持つゴリラ。

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

騎士団長の忠告と共に天之河達が対峙する。すると。

「グゥガガガァァァアアアアアアア――――――――――――!!」

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮を発して天之河達の動きを硬直させる。

咆哮により相手の動きを一時的に麻痺させる。それがこの魔物の固有魔法なのだろう。

観察する俺。ロックマウントは硬直している隙を突撃、ではなく桜達がいる後方に岩を投げた。と思ったらその岩は実はロックマウント。両腕を広げて妙に目を血走らせて鼻息を荒くしながら桜達にダイブしようとする。

憐れな……………。

「〝封禁〟」

「!?」

ダイブ中にロックマウントは光の檻に閉じ込められる。

桜が発動させたのは光属性中級捕縛魔法〝封禁〟。対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法。そして矢を番えた桜は狙いを定めて……………。

「〝風矢〟」

風を纏った矢がロックマウントの額を貫く。

地面に落ちるロックマウントの死体。鮮やかな手口に驚くも白崎達は安堵の方が大きい。よほど気持ち悪かったんだろう。

「貴様……………よくも香織達を……………許さない!」

何を勘違いしているのか天之河は怒り、純白の魔力が噴き上がり、それに呼応するように聖剣が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へ至れ、〝天翔閃〟」

「あっ、こら、馬鹿者!」

騎士団長の声を無視して残りのロックマウントを倒した天之河は騎士団長に拳骨を貰った。そりゃそうだ。

こんな狭い場所で使う技じゃねえだろうに。あいつ本当に高校生か? 見た目は高校生だけど中身は小学生かよ。

本当にこいつの言動に関してはガキとして思えない。なんでこんな奴が勇者になったのやら……………。

「………………………あれ、何かな? キラキラしてる……………」

白崎の指差す方へ目を向けると青白く発光する鉱物があった。

「ほぉ~あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

グランツ鉱石は、言わば宝石の原石。特に何か効能があるわけではないが、イヤリングやペンダントに加工して送ると喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップスリーに入るとかなんとか。

「綺麗……………」

いつの間にか隣にいる桜が俺に寄り添うように立ってそう呟いてチラリと俺を見る。

「いつかプレゼントしてやるよ」

「うん、期待して待ってる」

今は無理だけどいつかはプレゼントしてやろう。

約束する俺達に檜山がそのグランツ鉱石を手に入れようと壁を上ってそれに触れた瞬間。

鉱石を中心に魔法陣が広がる。召喚されたあの日の再現のように俺達は別の場所に転移された。

転移した場所は巨大な石造りの橋の上だ。橋の下は川ではなく、奈落の底と言っても過言ではない闇が広がっている。

少なくとも俺と桜以外の奴が落ちたらまず助からねえな。

そう考えていると更に別の魔法陣。それも通路側とその反対側の二つ。

通路側は骨格だけの身体に剣を持った百体近くのトラウムソルジャー。その反対側は体長十メートルはある恐竜のような魔物。

誰もが足を止め呆然としている中、騎士団長の呻くような呟きがやけに明瞭に響いた。

「まさか……………ベヒモス……………なのか………」

騎士団長の反応からやばい奴なのは明白。そのベヒモスという魔物は開戦の合図をするかのように咆哮を上げる。

「グルァァァアアアアアアアアアアアッ!!」

「ッ!?」

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……………」

「馬鹿野郎! あれ本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、〝最強〟と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

騎士団長の鬼気迫る表情。それでも天之河は踏み止まる。それに再度撤退をさせようとする騎士団長だが、ベヒモスは咆哮を上げながら突進してくる。

その突進を騎士達が多重障壁を張って防ぐ。

さて、思っていた以上に混乱しているな……………。今ならこの場を離脱することもできるか?

トラウムソルジャーを倒しながらこの場の離脱を考える俺は桜に視線を向けるも桜は首を横に振った。

クラスメイトを見捨てて行けない。そう言いたいのだろう。

しょうがねえ……………。ま、この程度の魔物ならどうとでもなるか。

俺と桜にとって眼前にいるトラウムソルジャーもベヒモスも脅威ではない。前の世界でもこの程度の化け物は何度も相手にしてきた。

異幻者(ストラス・アーゼ)としての能力を使えば数秒で片が付くが、それだと目立ってしまう。俺と桜がこの世界ではない力を持っていることを知られるのは今はまだまずい。

とはいえ、このままじゃ確実に死人が出るな……………。

「時橙くん!」

どうするか、と悩んでいると南雲が俺のところにやってきた。

「なんだ? 状況が状況だから手短に頼む」

「あの化け物の動きを少しのだけ封じることができない!?」

「………………………………何か考えがあるのか?」

そう尋ねると南雲は頷いた。

「わかった。ついでのあのガキもこっちに来させてやる。そのつもりなんだろ?」

「うん!」

俺と南雲はベヒモスと戦っている天之河達のところへ行く。

「天之河くん!」

「なっ、南雲!? それに時橙も!?」

「選手交代だ、天之河。お前は後ろの方をどうにかしてこい」

後方にいるクラスメイト達を指して続けて。

「あいつらは今は混乱している。このままじゃ死人が出てもおかしくはない。現状を考えてお前の力が一番適している」

「だが、こいつをどうにかしないと!」

「仲間に犠牲を出してでもそいつを倒すことが優先か? 違うだろ? 仮にも勇者なら仲間の命を優先しろ。お前の代わりにここは俺がやる。お前は後ろの奴等を救ってこい」

一瞬苦悩に満ちた顔になるもクラスメイト達の怒号や悲鳴が後押しになって天之河は雫と坂上を連れてクラスメイト達の方に向かう。

「ヘマするなよ? 南雲」

「うん!」

さて、異幻者(ストラス・アーゼ)の能力は使わずにどこまでできるか試してみるか。

まずは〝縮地〟の技能を発動させて一気にベヒモスとの距離を縮めて〝剛力〟を含めた一撃をベヒモスに叩きつける。

「ガァアアアア!!」

「チッ、浅いか……………」

傷は与えたもののやっぱり異幻者(ストラス・アーゼ)の能力、へレスの力を頼らずに斬ればこの程度か……………。へレスの力なら今ので腕の一本は斬り落とせたのだが……………知らず知らずのうちに二人の力に頼り過ぎていたな。ここで自分を鍛え直すとしよう。

鋭い爪を振るってくるベヒモス。その攻撃を〝未来視〟で先読みして躱し、今度は剣に〝付与強化〟も加えて灰色の魔力を纏わせる。

「〝斬撃〟!」

「ガァアアアアアアアアアア!!」

その一撃でベヒモスの角を切断。大暴れするベヒモスに〝縮地〟で距離を取る。

「時橙くん!」

「了解!」

南雲からの合図に最後に〝剣閃放射〟で剣閃をベヒモスに当てて更に距離を取ると

「〝錬成〟!」

南雲の錬成でベヒモスの動きを封じている間に後衛組の魔法詠唱が始まる。詠唱が終えるまで時間を稼ぐ南雲のおかげで後衛組の詠唱は完了。こちらに駆け出す南雲と怒り狂うベヒモスは突進してくる。

その瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法がベヒモスに殺到した。

ダメージはないだろうが足止めにはなっている。これで後は南雲がここまで戻ってくれば……………。

そう思ったその時、一つの火球が軌道を僅かに曲げて南雲に直撃した。

「なっ!?」

誰が撃った!? と俺は後方に振り返ると狂ったように笑う檜山が手を突き出していた。

あいつか、そう思った俺はぶった切ってやろうと剣に力を入れたが、それが間違いだった。

南雲がベヒモスと共に橋の下に落ちた。

「クロノス!」

咄嗟に俺は双銃をその手に魔弾を発射。魔弾を南雲に着弾させる。

すぐさま双銃を消して剣を手にする。

停止の魔弾(タミッド・バル)は撃ち抜いた対象の動きを時の力で固定させる。これで一定時間は外的要因によるダメージはないはずだから万が一に死ぬことはないだろうが……………。

俺は檜山に近づいて右腕を斬り飛ばす。

「ぎゃぁぁあああああああああああああああうで、俺の腕がぁああああああああああっ!!」

斬られた腕を押えて喚き散らす檜山を冷徹に見下す俺に天之河が叫んだ。

「時橙! 檜山になんてことをするんだ!?」

「こいつが南雲を落とした犯人だからだ」

「あれは事故だろ!? それに檜山がした証拠だってないじゃないか!?」

「事故だぁ? 本気で言ってんのかよ、お前」

「ああ、南雲を狙う理由がない。だからあれは事故だ」

……………ああ、こいつには何を言っても無駄だったな。このガキには人の悪意なんてものを見ていない。だから今のが事故ではなく故意だとしても見てみない振りをしている。

他の奴等も似たようなものだ。自分のせいで人を殺したと思いたくないから故意ではなく事故で済ませようとしている。

「死んだのが無能だからいいってか……………? その無能のおかげでお前達は助かっているんだぞ? 南雲が前に出て化け物の足止めをしたおかげで――――」

「戒!」

憤る俺に桜が手を取る。

「お願いだから落ち着いて。今は生き延びることだけを考えて。南雲くんの為にも」

桜が宥めるように言ってきたおかげで多少なり落ち着いて息を吐く。

「……………俺は南雲を評価している。少なくともお前達よりはな」

最後にそれだけ言って俺達は撤退した。

 

 

 

 

あれから五日。

俺達は王国に戻って騎士達が南雲の死亡を国王と教会に報告した。けど、死んだのが南雲でよかったと安堵する奴はまだいい方だが、なかには南雲を罵る奴等までいた。

そしてクラスメイトの大半は心が折れて自室に引き籠もった。

天之河や坂上、一部の奴等は迷宮での経験を無駄にしないように懸命に訓練しているが、誰もが南雲のことを口にすることはなかった。

「ここまでだな……………」

「そうね」

俺と桜は召喚された勇者組としてではなく、異界の箱舟(ファンタスティック・ノア)の一員として動くことを決意する。

「桜、いいか?」

「うん、もう大丈夫。雫や皆のことも心配だけど私だって組織の一員だから」

桜にとって苦渋の選択だったんだろう。

残りたい気持ちと組織の一員としての目的。どちらを選ぶかに酷く悩んだはずだ。

「………………………最後に雫に一言かけておくか」

「うん、私も一緒にいいかな?」

「ああ」

俺達はここを出て行く前に雫に一言ぐらい声をかけることにした。

「雫。開けてもいい?」

『桜? ええ、いいわよ』

扉を開けるとベッドの上には白崎がいる。まだ目を覚ましてはいないようだ。

その白崎を看病している雫は少し憔悴しきった顔でこちらを見てくる。

「桜、それに戒もどうしたの? 香織なら見ての通り」

「俺達はここを出て目的の為に動くことにした。最後にお前に一言ぐらい声をかけておこうと思ってな」

率直に告げる俺の言葉に雫は目を見開く。

「………………………………そう。残ってはくれないのね?」

「ああ、悪いとは思ってるがな」

見るからに落ち込む雫は何かを言おうとするも口を閉ざす。

「それから白崎が起きたら伝えておいてくれ。南雲は生きている可能性はあるってな」

「!? それってどういう意味……………?」

「詳しくは言えないが、少なくとも落ちて死ぬことはない。それだけは確かだ」

「それじゃまだ南雲くんは生きているの……………?」

「可能性はある。それだけは保証する」

「そう、よかった……………」

心からの安堵の笑みを浮かばせながら白崎を見つめる雫に最後に言う。

「それから雫。最後に伝えておく」

「なにかしら?」

「万が一にお前の目の前に白い結晶が出てくることがあればよく考えろ。人ととして死ぬか、化け物となって生きるかを」

「それってどういう―――」

「話はそれだけだ。またな」

「またね、雫。香織にもよろしく伝えておいて」

「ちょ! 待ちなさい!」

後ろから聞こえてくる雫の言葉を無視して扉を閉める。

「……………………戒。もしかして雫は」

「………………………あるかもな」

「………………そう、なのね。できればなって欲しくはないわね」

「ああ」

あくまで可能性ではあるもゼロではない。

そしてそれを選ぶのも雫自身だ。

「それよりも行くぞ」

「うん、行こう」

俺達は指輪を取り出してそこから出てくる魔法陣が俺達を包み込む。

「やっぱりこっちの方が着慣れているな」

「私もこっちの方が動きやすい」

組織によって作り出された戦闘服。機動性、柔軟性、耐久性に優れ、耐熱耐寒機能もある。もちろんあらゆる魔法耐性も付与されている。

軍服に似た恰好となる俺と巫女服を動きやすいようにカスタマイズした恰好となる桜。

「まずは南雲くんの捜索。それから」

「【オルクス迷宮】の攻略だな」

互いに頷き合って俺達は城を飛び出して【オルクス迷宮】へ向かう。

今度は異幻者(ストラス・アーゼ)として。

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