【オルクス迷宮】を攻略した俺達は南雲それとユエと名乗る少女を発見した。
トントントン、とテンポよく食材を切る包丁の音。その包丁を持って台所で料理をしている桜の後姿を見ている。
南雲達と出会った階層の奥にあった扉の先は一言で表すなら住処だ。
それも物凄く住み心地のいい。
最初に目に入ったのは人工の太陽(夜になれば月になる)に球場くらいの空間。その空間の奥の壁は一面が滝になり、そこから川ができて魚もいる。更には畑もある。食料さえあればここで自炊できる緑豊かで、あちこちと様々な種類の樹が生えている。
石造りの住処も全体的に清潔感があり、どこの一流建築家が建てた住処だと正直思った。
おまけに台所、トイレ、風呂付。
まさか迷宮の下にこんな住処があるとは思いもしなかった。
「ご飯できたよ」
「ああ」
飯を作ってくれた桜の手料理を堪能しながら桜に尋ねる。
「……………………オスカー・オルクスの話、どう思った?」
「複雑、だね」
この迷宮の創造者、オスカー・オルクス。神への反逆者と呼ばれるようになってしまった解放者の一人。
神代の少し後の時代、世界は争いで満ちていた。
争う理由は様々。だけど一番は〝神敵〟。国がそれぞれに神を祀り、その神の神託で人々は数百年も争い続けた。
それに終止符を打つ為に現れたのが〝解放者〟と呼ばれる集団。
神は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促している。そして俺達もその駒としてこの世界に召喚されてしまった。
色々あり〝解放者〟は〝反逆者〟のレッテルを貼られ、残った七人が迷宮を作り、試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲る。
いつか神の遊戯を終わらせてくれる者が現れることを願って。
「……………………酷い話だよね」
「ああ、ムカつく話だ」
この世界の真実を知ってしまった俺達はオスカー・オルクスから神代魔法である生成魔法を手に入れた。鉱物に魔法を付与させて特殊な性質を持った鉱物に生成できる魔法。
アーティファクトが作れる魔法だけど俺と桜にはあまり意味のない魔法だけど、手に入れといて損はない。
「ねぇ、私達、この世界で生活できるのかな?」
不安そうに言ってくる桜の気持ちはよくわかる。
俺達、
だけど……………。
「できるさ。いや、してみせる。七大迷宮を攻略して俺が神を倒す。そうすればこの世界で俺達は新しい人生を始められる」
「………………………うん」
俺達は元の世界で生きる意味などない。だから組織に入った。
新しい世界、新しい希望があるこの世界で俺は必ず桜と一緒に幸せを掴んでみせる。
「全てが終わったら俺と一緒にこの世界で幸せになろう、桜」
「………………………はい。その時は幸せにしてね?」
「当然だ」
自然に俺と桜は唇を重ねる。理由なんてない。ただしたかったからした。
俺はこの
桜は俺にとって全てだから。
「………………………………ラブラブ」
「「!?」」
咄嗟に俺と桜は離れる。そして声がする方を見るとそこには笑みを見せるユエとなんとも言えない顔をしている南雲が立っていた。
「ようやくお目覚めか? 南雲」
「時橙、柳生……………本当にお前等なんだな」
「お前等は何者なんだ?」
キャラが180度変わった南雲と話をする為にお互いに腰を据えて話し合いの場を設けると南雲が真っ先にそう言ってきた。
「随分と直球だな」
「話を逸らすな。あの日、奈落に落ちてから俺はここまで来るのに命懸けだった。だけど、ユエの話を聞いた限り、お前等は大した傷もなくここまで辿り着いた。天之河のようなチート持ちでもベヒモスを倒すことができなかった。だが、お前等はここにいる。それも短時間で迷宮を攻略できるほどの強さを持って」
隻眼を細め、警戒を強いながら再度告げる。
「お前等は何者なんだ? ……………俺の敵か? それとも味方か?」
「南雲くん。私達は――――」
桜が何かを言おうとする前に手で制する。
「俺と桜は
俺は南雲とユエに俺達がどのような存在なのかを全て話した。初めは信じられない顔をしている南雲だったけど次第に信じてくれるようになった。
「
「全て事実だ。現に俺達がそういう存在だからな」
「疑っちゃいねえさ。ただ驚いただけだ」
前の世界でこんな話をしても作り話だと言われるだろうが、流石にこの世界にきて魔法などにも触れただけあって簡単に信じてくれた。
「お前等の組織が助けに来るってことはないのか?」
「それが出来たら俺達はとっくにこの世界に来ている」
「だよな……………」
ガクリと肩を落とす南雲に今度は俺が尋ねる。
「お前はこれからどうするつもりだ?」
「元の世界に帰る。それだけだ」
断言するその言葉には一切の迷いがなかった。
「他の事なんかどうでもいい。俺はユエと一緒の故郷に帰る。邪魔する敵は殺す」
「なら俺達と一緒に行動する気はないか?」
「はぁ?」
「俺と桜も一度は元の世界に戻ってこの世界の事を組織に報告しなきゃいけない。そして再びこの世界に来て組織の目的を果たす義務がある。つまり元の世界に戻るという目的は一致しているんだ。損はないはずだろ?」
「そりゃそうだが……………」
「それにユエも行くのなら組織の力で戸籍などの用意や生活面の補助も必要だろ? 俺達が組織に言えばそれぐらい用意してくれる。他に必要な物があれば準備してくれるし、何かあった時も対応して貰えるように手筈も打っておく」
「いや待て、確かにそれはありがたいがお前等の組織はこっちの世界に来ることだろ?」
「ああ、だけど全員じゃない。俺達の世界に新たな
半数以上は異世界に行くつもりではあるも残りは自分達が生まれた世界に留まる。自分達と同じ境遇の
南雲は暫し考え込み、息を吐いた。
「わかった。お前等と行動する。だが」
「なんだ?」
「新しい装備やその実験に付き合え。それぐらい協力しろ」
「まぁ、それぐらいならいいぞ」
こうして俺達は南雲とユエと行動を共にすることを約束する。ついでにステータスプレートを見せたら。
「マジでバケモンだな…………」
「………………………んっ、規格外」
「うっせ」
「酷いよ、南雲くん、ユエ」
というよりもお前がそれを言えるのかよ? 南雲。
それから俺達はここを拠点として可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることにした。
南雲の錬成と生成魔法は相性が良く、現代知識も合わせたアーティファクトを作り出しては俺で性能テストを繰り返し、俺や桜もついでに新しい装備を作って貰うことにした。
桜はユエと親交を深めている。というよりもユエは桜のことを「…………………先生」と呼んでいるのが気になるがきっと料理の先生だろう。桜の料理は美味いし。
けど、日が経つにつれて桜が妙に積極的になってきたような気が、というか夜戦の技量が上がっている気がしてならない。
夜戦の後にユエが時折、艶っぽい笑みでこちらを見ている。
桜に何か吹き込みやがったな、あの吸血鬼。
その吸血鬼の隣では俺以上にぐったりとしている南雲に俺は同士を見る目をしていたと思う。
「……………先生。次はこのように」
「えっ、ソレをしちゃうの? 痛くないかな?」
「……………大丈夫。痛いのは戒だけ」
聞こえてくる女子二人の何かしらの物騒な話。夜、俺は何をさせられるのだろうか?
「それならユエは南雲くんをこうして」
「………………………………まさかその手が。流石は先生」
「ふふっ、今から楽しみだね」
「………………………………んっ」
南雲よ、いや、ハジメよ。震えるな、お互い明日に向けて強く生きよう。
大丈夫、俺達はそう簡単には死なない。……………肉体面は。
あんなこんながありながらも二ヶ月が経過し……………。
「見事なまでの厨二キャラだな」
「言うな」
白髪、義手、眼帯。完全に厨二キャラと化した南雲。
「そう言うお前も似たようなもんだろうが」
「………………………………まぁな」
組織の装備を南雲の手によって改良された黒を基調とした軍服。腰には四丁の拳銃。これを持った時のクロノスは。
《マスターの浮気者!》
と言って数日、深層意識に引き籠もってしまった。
戻ってきた今でも不貞腐れている。
《不貞腐れていません~。嫉妬しているだけです~》
はいはい、悪かった。
「こっちも準備完了」
「…………………問題なし」
桜は装備は変わらず。ユエも似たようなものだ。
「最後に言っておくぞ? 俺の武器やお前等の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「ああ」
「うん」
「ん……………」
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、二人は戦争参加を強制される可能性も極めて高い」
「だな」
「そうね」
「ん……………」
「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」
「倒す。それだけだ」
「同じく」
「ん……………」
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「今更だな」
「今更だね」
「今更……………」
ハジメは苦笑しながらユエの頭を撫で、俺と桜は互いを見て笑みを見せ合う。
「俺がユエを、ユエが俺を守る」
「俺が桜を、桜が俺を守る」
「それで俺達は最強だ」
「全部を乗り越えて俺達は目的を達成する」
「行こう」
「んっ!」
新たな俺達の旅が始まった。