遂に次回で彼女が口を開きます。
遺跡へと辿り着いたリンディはブラックズドモンへの進化を解き、ルインと共に遺跡内部に侵入した。
遺跡の内部は場所が海底なだけに暗く、光など一切存在していなかった。だが、奥へと進んで行くと僅かに空気がある場所に辿り着き、ルインは障壁を、リンディは空間歪曲を解除した。
「……空気があるわね」
「えぇ、恐らくですけど、フリートが言っていたデジモンの攻撃でこの遺跡内部の機構を起動させていた動力炉が壊れたんでしょう。今のところは予備動力炉でギリギリ動いているような感じですね。さっきまで私達がやって来た通路も、本来の動力炉が無事だったら水没していなかったも知れません」
「ベルカ時代から今まで、いえ、デジモン同士の争いが無ければこの遺跡は今も無事なままだったかも知れない訳ね」
「はい……しかし、この遺跡……見覚えがあるような、無いような」
遺跡の通路を進みながら、ルインは周囲を見回す。
造り出されてからブラックと言う主を得るまで、【闇の書】内部にずっと封じ込められていたルインだが、守護騎士達や、暴走時に僅かの間だけ表に出られたリインフォースを通して外の様子を覗いていた。
ソレぐらいしか出来る事が無かったのもあるが、そのおかげで【闇の書】の機能不全のせいで記憶保全が出来なくなった守護騎士達よりもベルカ時代に関しては良く覚えている。
その記憶の中に、今いる遺跡に近い場所の記憶が存在していた。
「……まさか……いえ、でも……あの
「何か心当たりがあるの?」
「……ベルカ時代には何人もの王の称号を持つ者達がいました」
真剣な顔をしてルインはリンディに語り出す。
古代ベルカ時代に存在していた何人もの王達。現代で最も有名な【聖王】を初め、【覇王】、【雷帝】など王の称号を持つ者達は存在していた。
その王達の中で残虐な暴君として語られている王が存在していた。
「【冥府の炎王】。実際に私は会った事は無いんですけど、守護騎士達の失われた記憶の中で何度か会っていますね」
「ちょっと待って。何度か会っているって、ソレは同時期での事なの?」
「いえ、違います。【冥府の炎王】は他の人造生命技術で強化された王族達と違って、その力が必要な時だけ目覚めさせられる王とは呼ばれていましたが、実際は【ガレア】と言う国の象徴だっただけで、本人は戦争道具同然だった筈です。今の歴史で語られている残虐な暴君と言う異名は周囲の連中のせいで付いた不名誉な称号だった筈です」
「……嫌な歴史の真実ね。ソレでその【冥府の炎王】にはどんな能力が在るの?」
「ブラック様の知識には無いんですか?」
【異界】と呼ばれる世界の知識を有しているブラックの記憶を持っているリンディが知らない事を、意外にルインは思った。
「彼の知識も万能では無いのよ。あくまで物語として語っているだけだから、断片的な部分が多いわ。私が知っている知識は【聖王】の能力ぐらいね」
「なるほど……あんまり気分が良い能力……いえ、冥王に関しては機能ですね。とにかく気分が悪くなる機能ですよ。【冥府の炎王】の力は……【死人兵士生成】です」
「ッ!?」
リンディはルインが口にした【冥府の炎王】の力を悟り、険しく目を細めた。
【死人兵士生成】と言う言葉だけでも、どんな能力なのかを悟る事が出来る。ましてや【冥府の炎王】が存在していた時代は、古代ベルカ戦争が起きていたとされる時代なのだ。
戦争と言う出来事の意味を知っているならば、【冥府の炎王】がやっていた、或いはやらされていた事を察する事は簡単だった。
「……戦争に兵器化した死体を使っていたのね。自分達の陣営だけじゃなくて、敵側の陣営の死体も使って」
「えぇ、そうです。【冥府の炎王】の力で死体を屍兵器化して戦争に使っていたんですよ。何度か守護騎士達も戦いました。ソレで味方陣営で起動した時に【冥府の炎王】を守護した時に訪れた場所と、この遺跡が良く似てるんですよ」
「……【アルハザード】が次元世界から消えた時代も千年以上前だから、年代的には一致するわね。この遺跡に在る筈の【アルハザード】の遺産と」
「と言うよりもですね。今思えば、もしかして古代ベルカ戦争が起きた原因って、【アルハザード】が消えたからじゃないでしょうか?」
「……在り得るわね」
思わずリンディとルインは顔を見合わせた。
【アルハザード】の魔法技術は、古代ベルカを遥かに超えていた。知らず知らずの内に魔法と言う技術を持っている世界に対する抑止力的な世界になっていたのに、【アルハザード】は虚数空間の奥深くに消えた。
そうなれば待っているのは、遺された【アルハザード】技術を巡る戦争。【アルハザード】はその事を危険視して、消える前に徹底的に自分達の世界の技術を回収したようだが、幾つかの技術を回収し切れていなかった。
例を上げるならば、現在は管理局地上本部が厳重に監視化に置いている【聖王のゆりかご】。アレ一隻だけで【統一戦争】が起きたぐらいなのだ。
遺された【アルハザード】の遺産を巡って古代ベルカ戦争が起きた可能性は充分に考えられる。ソレだけの力をリンディ達は目にしたのだから。
「……あんまり深く考えるのは止めましょう」
「同感です」
「……ソレで貴女が知っている【冥府の炎王】はどんな人物なの?」
危険人物では無いらしいが、ソレで安心出来る筈が無い。
歴史的に王族関係者には人柄の良い人物も酷く悪い人物も居るのだ。もしも傲慢な性格だったりしたら、大変な事態になってしまう。
残念な事だが、嘗てのベルカの栄光だけを考えて、テロリストや狂信者になってしまう人物がいるのだから。そんな者達が現代に蘇ったベルカの王などを知ったらどうなるか、嫌でも分かる。確実にろくでもない出来事が起きるだろう。
リンディは危惧を覚えるが、ルインは否定するように首を横に振るう。
「リンディさんが考えている事は分かりますが、もしも本当にあの王だったとしたらその可能性は低い……いえ、無いでしょう。直接話した事は守護騎士達もありませんでしたが……何時も悲し気に暗い雲に覆われていた空を見ていましたから」
「……そう」
ルインの言いたい事を悟ったリンディはそれ以上口には出さず、持って来た機器が反応を示す方向へと歩いて行くのだった。
岩壁に囲まれた海底付近。
その場所に黒い塔が建っていた。簡単には見つからないように巧妙に黒い塔は隠されていた
しかし、その黒い塔に接近する二つの巨大なデジモンが二体いた。
一体は頭部に巨大なツノを生やし、海蛇のように長い身体をくねらせながら前へと進んでいるデジモン-【メガシードラモン】。
メガシードラモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/水棲型、必殺技/サンダージャベリン、メイルシュトローム
シードラモン種が規則的進化して、体も一回り大きくなった形態の水棲型デジモン。頭部を覆う外殻が硬度を増し、頭頂部にイナズマ型のブレードが生えたことで兜の役割を果たし、防御力が増した他、ブレードには発電装置が仕込まれており、電撃を放つことも可能になった。知性や泳ぐスピードも発達し相手を執念深く追い回し仕留めるぞ。必殺技は頭部のツノから放つ強力なイナズマ【サンダージャベンリン】と、物凄い冷たい津波を起こし、敵を凍りつかせる【メイルシュトローム】だ。
もう一体は地球の古代に生息していたとされる生物、アノマロカリスを思わせる姿をしたデジモン-【アノマロカリモン】だった。
アノマロカリモン、世代/完全体、属性/データ種、種族/古代甲殻類型、必殺技/スティンガーサプライズ
古代生物の調査や発掘を行っている研究所のデータバンクにコンピュータウィルスが感染し、古代生物のデータを取り込み進化した古代甲殻類型デジモン。コンピュータウィルスが感染し、古代生物のデータを取り込み進化した。古代に食物連鎖の頂点にいた生物同様、旺盛な食欲と、高い補食能力を身につけている。頭部から生えた触手を器用に使って敵を捕まえ、尻尾から生えた鋭いブレードで仕留める。戦況が不利になると海底の土を鋭い触手で巻上げて身を隠す。だが、逃げるのではなく頭部から突き出ているレーダーアイは暗視装置のように敵を捕捉し、逆転の機会を狙う。必殺技は、左右の前肢をクロスさせて、衝撃波を放つ【スティンガーサプライズ】だ。
二体のデジモンは本来ならばこの付近を自らの縄張りにする為に争っていたデジモン達。
互いの姿を見れば、相手を倒そうと戦いあう筈なのだ。だが、今は二体とも目を赤く光らせながら共に並んで黒い塔を目指していた。
メガシードラモンとアノマロカリモンは、自分達の実力でミッドチルダの海を乗り越え、完全体に進化を果たしたデジモン達。故に協力すると言う考えは無く、何としてもこの付近を縄張りとする為に争っている筈だった。
だが、二体のデジモンは争う事無く海中を進み、黒い塔を挟むようにして向き合った。
そしてメガシードラモンは黒いスパイラル状のリングが巻き付いている自らの尻尾の先を。
アノマロカリモンは同じようにスパイラル状のリングを装着している頭部の触手を、狙いやすいように前に出した。
「……サンダー……ジャベンリン」
「スティンガー……サプライズ」
メガシードラモンはイナズマの形をした頭部の角から電撃を放ち、アノマロカリモンはクロスさせた前肢から衝撃波を放った。
二体の必殺技は互いの間に建っていた黒い塔を一瞬の内に破壊し、消滅させたばかりか、そのまま二つの必殺技は互いに向かって進んで行く。
そしてメガシードラモンのサンダージャベリンはアノマロカリモンの頭部の触手に直撃し、アノマロカリモンのスティンガーサプライズはメガシードラモンの尻尾の先に直撃した。
『ッ!? ガアァァァァァァーーーーーーー!!!』
互いに必殺技を食らった二体は、突然我に返ったかのように悲鳴を上げて岩壁に激突した。
自らに受けた攻撃に寄るダメージに苦しみながら、メガシードラモンとアノマロカリモンは相手の姿を赤い光が消えた瞳で捉える。
『……グルルルッ!!』
何が起きたのか二体とも分かってはいない。
いきなり衝撃が走ったと思えば、激痛が全身を襲ったとしかメガシードラモンとアノマロカリモンは認識出来ていなかった。だが、そうなる前の直前まで二体は争っていた。
この現象は相手の必殺技に寄るものだと二体とも考え、怒りに満ちた咆哮を上げると共に相手に向かって襲い掛かった。
「グオォォッ!!」
「シャアァッ!!」
メガシードラモンは大きく口を開けると共に、アノマロカリモンの右前肢に噛みついた。
前肢から走る痛みを堪えながら、アノマロカリモンは頭部の触手を伸ばしてメガシードラモンの長い身体に巻き付けて締め上げる。
「グウゥゥッ!!」
必死に噛みつきながらメガシードラモンは呻き声を上げた。
コレまでの縄張り争いの中で、メガシードラモンはアノマロカリモンに対して、接近戦を出来るだけ避けるようにしていた。
その理由はメガシードラモンとアノマロカリモンの体の違いからだった。海蛇のような体をしているメガシードラモンに対して、アノマロカリモンはブレード状の節足を何本も持った体中に武器を備えている体格をしたデジモンだった。
メガシードラモンが巻き付いて攻撃しようにも、アノマロカリモンの体の至る所に生えているブレードのせいで逆にメガシードラモンがダメージを受けてしまう。故にコレまでは遠距離からの攻撃で、メガシードラモンは戦って来た。
だが、今回は怒りからの行動からなのか、メガシードラモンは接近戦を挑んで来た。
その事実にアノマロカリモンは目を細めながら、甲殻に覆われた尻尾の先のブレードを構える。
「シャアッ!!」
触手に捕らわれて逃げられないメガシードラモンに向かって、アノマロカリモンは尻尾のブレードを一気に振り下ろす。
しかし、アノマロカリモンのブレードがメガシードラモンに届く直前にイナズマの形状の角が光る。
「サンダージャベリン!!」
「シャガァァァッ!!!」
至近距離でサンダージャベリンを食らったアノマロカリモンは悲鳴を上げ、巻き付けていた触手を離してしまう。
全身凶器と呼べるアノマロカリモンにメガシードラモンが今まで勝負を決められなかった原因は、サンダージャベリンが理由だった。
雷属性の攻撃は水系のデジモン達にとって最大の弱点。甲殻で覆われているおかげでコレまでの戦いでは致命傷になる事は無かったが、至近距離で食らった故にダメージは今までの比では無かった。
「グオォォォォッ!!」
海底に倒れ伏すアノマロカリモンを目にしたメガシードラモンは、勝利の咆哮を上げた。
長い間、縄張り争いを行なっていたアノマロカリモンを倒す事が出来た。後は止めを刺すだけだと角を光らせながら、メガシードラモンは気絶しているアノマロカリモンを見下ろす。
「サンダー……ッ!?」
ゾクッとメガシードラモンは背筋が震えた。
何か恐ろしい存在が近づいて来ていると感じたメガシードラモンは、アノマロカリモンに止めを刺すのを止めてこの場から離れようとする。
だが、離れる直前に、尻尾が何かに掴まれて動きを止められてしまう。
「おい」
「ッ!?」
聞こえて来た声と尻尾が掴まれるまで相手の存在を感知出来なかった事に震えながら、メガシードラモンは顔を向ける。
「貴様に聞きたい事がある」
「ガ、ガァ」
自らの尻尾を掴んでいるブラックを目にしたメガシードラモンは、恐怖に満ちた声で呻いた。
一目見ただけで目の前の相手には勝てないと悟ってしまったのだ。圧倒的に離れた実力差に、メガシードラモンは恐怖に体を震わせるしかなかった。
コレで話をする事が出来るとブラックは思いながら、聞きたい事を聞こうとする。
だが、口を開く直前に一瞬視界に何かを捉えたブラックは、掴んでいた尻尾を勢いよく振り回す。
「ヒガアァァァァァーーー!!」
振り回されたメガシードラモンは悲鳴を上げるが、ブラックは構わずに背後に振り回し、メガシードラモンは岩壁に叩きつけられて気絶した。
力が無くなった尻尾からブラックは手を離し、直前までメガシードラモンがいた場所の地面に突き刺さっているアノマロカリモンの尻尾を睨む。
「……気絶したふりか」
「シャアッ!!」
ブラックの声に応じるように、海底に伏していたアノマロカリモンは威嚇しながら顔を上げた。
その姿にブラックはアノマロカリモンの状態を察する。
(興奮状態か。メガシードラモンの奴は俺との実力差を悟ったが、コイツはソレが分からないぐらい興奮しているようだな)
理性よりも本能が強いタイプのデジモンが、陥り易い状態。
この状態の時は古代種デジモンの【オーバーライト】ほどでは無いが、実力以上の力を発揮できるのだが、その反面周りが見えなくなり、暴れ回ると言う危険状態になってしまう。
(コイツが暴れて遺跡に被害が出るのは不味い。倒すしか無いようだ)
説得は無理だと判断したブラックは、両手のドラモンキラーを構える。
「シャアアァァッ!!」
アノマロカリモンは咆哮と共に尻尾を海底に叩き付け、土を巻き上げた。
更に触手も使って更に土を巻き上げて、ブラックの視界を閉ざした。
「……其処か!」
ブラックが右手のドラモンキラーを振るうと共に、土煙を吹き飛ばしながらアノマロカリモンのブレードが生えた尻尾が伸びて来た。
ドラモンキラーとブレードは激突し、ブレードが刃を欠けさせながら弾かれた。
そのまま追撃は行なわず、ブラックは土煙の中に戻って行く尻尾を険しい瞳で見つめる。
(やはり海中での戦闘は厄介だな)
ブラックにとって海中での戦闘は苦手だった。
と言うのも、海中では自らの必殺技である【ガイアフォース】や、その発生技が使用出来ないのだ。
【ガイアフォース】は大気中の負の力を凝縮して放つ技。海中では使用する事が出来ない。
他の技である【ブラックストームトルネード】は、遺跡にまで被害が出てしまう恐れがあるので使えない。
(最も問題は無いがな)
両手のドラモンキラーをクロス状に交差させるようにブラックは構えた。
次の瞬間、土煙を切り裂くように海中を高速でアノマロカリモンが突き進んで来る。
「シャアアァァッ!!」
ブラックに向かって突撃して来たアノマロカリモンは、ブラックの下を通り過ぎるように体を潜らせ、背の甲殻に生えているブレードを叩きつけた。
海中にいて踏ん張りも効かない状況。更に興奮状態のせいで何時もよりも勢いが増しての突撃に、アノマロカリモンは決まったと確信した。
このまま気絶しているメガシードラモンに止めをさせそうと体を動かそうとするが、体が前に動かない事に気がつく。
「貴様にも聞きたい事があるからな」
「ッ!?」
頭の上から聞こえて来た声にアノマロカリモンは恐怖を感じた。
その声の主であるブラックは、手に持っていた半ばから折れたアノマロカリモンの背に生えていたブレードを放り投げる。
必勝を確信したアノマロカリモンの突撃だったが、交差させていたドラモンキラーとの激突に寄って背のブレードは圧し折れていた。
その事実に興奮していたアノマロカリモンの熱は一気に冷める。この相手には挑むべきでは無かったと今更気がつくが、ブラックが止まる訳が無かった。
「ドラモンキラーーー!!!」
動きが止まってしまったアノマロカリモンの背に容赦なくドラモンキラーを叩きつけた。
その衝撃にアノマロカリモンの体は一瞬反り返り、そのまま海底へと沈んで気絶した。
本来ならば止めを刺す事も出来たが、ブラックはあえて止めを刺すつもりは無い。アノマロカリモンとメガシードラモンには聞かなければならない事が在るのだから。
(……やはり可笑しい。俺がこの場に来た時、こいつらは戦っていた。なのに、その直前までの動きが不可解だ)
直接見た訳では無いが、メガシードラモンとアノマロカリモンは一緒に並んで動き、突然殺意に満ち溢れた戦闘を開始した。
不可解としか思えない戦いの始まり。その違和感がブラックの心を何故か酷く騒めかせていた。
(何かが起きている。嫌な予感が拭えんな)
そう考えながらブラックは、何か少しでも手掛かりは無いかと周囲を探索するが、結局手掛かりを見つける事は出来なかった。
ミッドチルダの海上。
海面を猛スピードで爆走する一台の船が在った。
その船の船室に備わっている窓から恐る恐る後方を覗いていたアルケニモンは、何も後方の海面で起きない事を確認し、安堵の息を吐いた。
「……ハァ~、ど、どうやら旨く行ったみたいだね」
「あ、あぁ、海中に隠していたダークタワーの反応も消えたし、あのメガシードラモンとアノマロカリモンに付けていた【イービルスパイラル】の反応も消えたのを確認出来たぜ」
船を操縦しながら、近くのテーブルに置いてあった機器から反応が消えている事をマミーモンは確認した。
「一応データも取れたから、俺達の仕事は完了だぜ」
「そうだね。しかし、今度の【イービルスパイラル】は凄いね。前のあの小僧が造った奴よりも、正確な命令が遠距離から出来るようになってるんだからね」
以前までの【イービルスパイラル】。
【デジモンカイザー】だった頃の一条寺賢が造り上げた完全体のデジモンを洗脳する為に造り上げた装置。
ソレを知っていたアルケニモンとマミーモンは二つのデータをルーチェモンの指示で倉田に提供。結果、元々デジモンの洗脳技術を持っていた倉田の手に寄って、【イービルスパイラル】は賢が造り上げた物よりも遥かに性能が上がっている物が造られた。
現在の【イービルスパイラル】及び【イービルリング】は、遠距離からでも細かな命令が出来るほどに性能が上がっているのだ。
「後ろ側で何も起きていない事をみると、ブラックウォーグレイモンの奴はダークタワーを見つけられなかったみたいだね」
「あぁ、万が一を考えて見つけ難いようにしといたからな。ソレが良かったんだろうぜ」
もしもブラックがダークタワーを見つけていたら、確実に後方で何かが起きる筈。
だが、ダークタワーの反応が消えても海は穏やかなまま。ブラックがダークタワー及び【イービルスパイラル】を見つけられなかったと言う何よりの証拠だった。
「コレで怒られる心配は無くなったね」
「まだ、ダークタワーに気がつかれるのは不味いからな。計画の為にもまだ知られる訳にはいかねぇからな」
「だね。さっさと戻るよ、マミーモン」
「あいよ、アルケニモン」
マミーモンは指示に従い、船の速度を更に上げて去って行った。
「……嘘でしょう?」
遺跡の最深部に辿り着いたリンディとルインは、目的の【アルハザードの遺産】である生命維持装置が使われているカプセルを発見した。
だが、リンディはカプセルの中に眠っている人物の姿に絶句した。
その理由が分かる、ルインは頷きながら説明する。
「リンディさんが信じられないと言う気持ちを抱くのは無理ないですけど、本当なんですよ」
「それじゃ、本当にこの子がそうなの?」
「えぇ、間違いありません。まさか、現代で再び姿を見られるとは思っても見ませんでしたよ。【冥府の炎王】イクスヴェリアです」
カプセルの中に眠っている人物。
十歳前後の少女が両手を合わせて祈るような姿で眠っていた。
てっきり成人した人物がいると思っていたリンディは、イクスヴェリアを凝視するが、ルインは構わずにフリートから渡された機器を所持していたデバイスから取り出して設置して行く。
「イクスヴェリアはかなり早い段階で人造生命手術を受けたんです。見た目と違ってリンディさんよりも長い間生きてますよ」
「……肉体の成長も止まっているのね」
「えぇ……肉体の半分以上は機械の筈です……うん?」
「どうしたの?」
維持装置に付いている制御盤を覗いたルインの様子に疑問を持ったリンディも、続いて制御盤を覗く。
制御盤に付いているモニター画面には古代ベルカ文字で何かが表示されていた。
古代ベルカ語が分からないリンディは首を傾げるが、読めるルインは表示されている内容に顔を険しくして行く。
「……なるほど。どうしてイクスヴェリアの姿が、戦場から消えたのか分かりましたよ」
「どういう事かしら?」
「一般的に【聖王統一戦争】と呼ばれる時代の頃には、【冥府の炎王】の姿が消えたんです。てっきり死んだのかと思っていたんですけど、どうにも違ったようですね。体の殆どが機能不全状態になっていますよ」
「機能不全? それじゃ、彼女が持っている機能。【死人兵士生成】も?」
「えぇ、コンソールが示す内容だと其方も機能停止しています。コレだとカプセルから出た後は、保護されない限り長くは無いですね。しかも、保護したとしても現代の技術では目覚めさせるのも難しいかも知れません」
「……とにかく、【アルハザード】に運びましょう。その後は」
「えぇ、この遺跡は跡形も無く消滅させましょう」
迷う事なく行動を決めると、リンディとルインは作業を開始するのだった。