だいぶ前に書いてあったのですが、結構先の話を書き終えるまで投稿を休んでおりました。
では、本編どうぞ。
NATO軍による対空戦闘を見たロウリア軍の士気は目に見えて下がっていた。
ワイバーンというのはロウリア王国において最強の兵科であり、ワイバーンを倒せるのはワイバーンのみと信じられるほどであった。
そんなワイバーン部隊が、なすすべもなく全滅するというのは兵士たちに絶望を与えるには十分すぎる光景であった。
それでもなお、彼らに下された命令は変わらないし、彼らの決意も変わらない。彼らの心にあるのは、「ここで退けば守るべき家族が奴隷になる」という考えであった。
NATO諸国は奴隷制を非人道的行為として禁止しているものの、ロウリアにとって侵略とは国家に保証された盗賊行為なのだ。民間人相手にも剣をふるい、姦淫し、略奪し、生き残りを奴隷にする。それが侵略であり、戦争なのだ。自分のことは棚に上げ、自分の家族にそのような目には合ってほしくない。そう思うのは当然のことであった。
「いくぞ・・・・」
王都の北と西に配備されていた第2、第4の2個騎士団からなる1,000騎の重装騎兵は、城門のそばに集まり出撃の時を待っていた。馬には鋼鉄甲冑を着せ、自身も鋼鉄でできた甲冑を全身に着込み、片手にはランスを持つ重装騎兵は重装歩兵の隊列をも崩すことができる打撃力を持つ兵科である。加えて軽装騎兵ほどでないにしても歩兵を上回る機動力を誇り、ワイバーンを除けばまさしく最強の兵科だ。
そんな彼らは、その打撃力を生かす密集突撃陣形ではなく、散開戦術で敵に挑む予定であった。散開戦術は打撃力が減り、各個撃破の可能性が高いとして本来ならば採用されないものの、今回は特別であった。弓を上回る射程と連射性を誇る魔導兵器相手では密集陣形はむしろいい的だと判断した結果であった。
「いけぇ!奴らに一矢報いてやるのだ!!」
第2騎士団長の号令の下、1,000騎の重装騎兵が突撃を始める。いくら散開しているとはいえ、鋼鉄甲冑を着た馬の一斉突撃は地面を揺らすだけの迫力があった。
一隊、10騎くらいに分散して日米海兵隊に突撃していく。むろん、NATO軍側も機関銃・砲やアサルトライフルで弾幕を張り、戦車砲や榴弾砲、迫撃砲が火を噴く。
しかし、分散していることから砲撃で幾人かが吹き飛んでも大多数は生き残っており、弾幕も分散してしまう。
それでも百を超える戦車と数百という数がいる装甲車、数千人もの歩兵から放たれた弾幕は生半可なものではない。攻撃開始時には1,000を数えた重装騎兵は、その数を200ほどまでに減らしていた。すでに部隊の8割が消滅しており、現代軍隊では全滅を通り越して壊滅と判断されるほどの損耗具合だった。
しかし、そのかいあってかNATO軍の目は、彼らから500mほどまで接近してきた重装騎兵隊に集まっていた。
その機を逃すほど、ロウリア軍も無能ではなかった。すぐさま、重装騎兵隊の後を追うように王都防衛軍の配下にある8個重装歩兵団のうち西と北に配備されていた第3、第4王都西方、第7王都北方重装歩兵団、3,000名あまりが北門より出撃する。
また、それを援護するべく西門より第7、第8王都西方軽騎兵団1,000騎が出撃した。さらに重装騎兵隊よりも早く出撃していた第18、第19、第22、第23軽装歩兵団からなる4,000名の部隊がNATO軍西方約4㎞地点へ展開したのである。
薄く広く展開した軽装歩兵団は、ハーク港と日米海兵隊間の連絡路を遮断しつつあった。
指揮下の偵察大隊が保有するUAVなどの偵察機による偵察で、状況を正確に把握できたNATO軍は陣地構築を終えたばかりの砲兵部隊にロウリア軍重装歩兵隊を砲撃するように下命する。
同時にハーク港沖に展開しているNATO艦隊に対して支援を要請。NATO艦隊は爆装したF-35B 4機、F-35C 6機、F/A-3B 2機を緊急発進させた。
また、上陸地点に作られていた簡易飛行場より日第1海兵師団第1海兵航空連隊所属のAH-64JG*1 4機とAV-24*2 2機、UH-2 5機、UH-71 5機*3が発進した。
特に10機の汎用ヘリには、同連隊所属第2空中騎兵中隊の2個小銃小隊が完全武装で登場しており、戦闘後に散り散りとなるであろう敗残兵の掃討も任務に入れられていた。
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ロウリア重装歩兵隊はかつてない緊張感に包まれていた。
先行した重装騎兵隊はすでに壊滅しており、その数は2桁まで減らしていた。彼らの放つ光弾の威力はすさまじいもので、重装騎兵の持つ金属鎧をいともたやすく貫徹しているように見えた。
それでも、自身の持つ大盾と、仲間たちを信じて一歩一歩前へ進んでいく。そんな彼らの頭上から、死が襲い掛かってきた。
ヒュウウという風を切るような音がしたと思ったその時、重装歩兵隊の戦列のいたるところで爆発が起きた。密集していた彼らは、いともたやすく爆炎に飲み込まれ倒れていく。
重装歩兵隊を襲ったのは、後方に展開した日米海兵隊の砲兵部隊が持つ138門の155㎜榴弾砲であった。コンピューターによって綿密に計算された
「弾ちゃーく!・・・・今!」
歩兵部隊と行動を共にしている観測班が砲撃の効力を砲兵隊に伝える。といっても現代の砲兵隊は気象観測装置などと連動した高性能コンピューターによって制御されており、イージス艦より若干劣る程度の精度での射撃が可能であるから、初弾から命中弾を出すことなどたやすいことであった。
榴弾砲による制圧射撃は、重装歩兵の持ち味である陣形を粉々に粉砕し、ロウリア重装歩兵隊は強力な集団から弱い個の存在になり下がった。
上空に展開しているUAV部隊と地上の偵察部隊によって戦況を把握した司令部はさらなる指示を出す。
「所定の部隊は正面敵主力への掃討戦を実施。またその他の部隊は予備戦力部隊を残して西方より接近中の敵別動隊に攻撃を開始せよ」
出された指示はそれだけであった。
指示はすぐさま全部隊に通達され、日第1海兵師団の1個戦闘団*4と米第7海兵連隊が陣地より出撃した。
また西より迫るロウリア軽装騎兵隊1,000騎と軽装歩兵隊4,000の部隊にも日1個戦闘団と米4個戦闘団*5が出撃した。
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その軽快さを生かして側面に回り込みNATO軍部隊の側背面に圧力をかけることで、重装騎兵隊や重装歩兵隊を援護するはずだったロウリア軽装歩兵、軽装騎兵隊5,000はNATO軍日米海兵隊の機甲部隊の全力攻撃を真正面から受けることとなった。
重装歩兵に比べて、比較的軽装な彼らであったがNATO軍側に油断はなかった。彼らがカタパルトやバリスタなどの重装備を援護として持っていること、また古臭い前装式砲を少数持っていることをUAVによる強襲偵察によって把握したのである。
そこで上空に展開している戦闘機による空爆でそれらを排除することにした。
地上部隊からの支援攻撃要請を受けた戦闘機部隊の行動は早かった。ヘリの脅威となりうるバリスタと魔導砲がある6つの陣地にそれぞれ担当機が割り振られると、すぐさま爆撃体制に入った。
4機のF-35Bと2機のF/A-3Bからそれぞれ4発づつ投下されたEGBU-12ペイブウェイⅡ 500lb誘導爆弾はUAVから放たれたレーザーによって正確に陣地に誘導され、正常に信管が作動、87㎏のトリトナール炸薬が爆発を起こした。
この爆発はバリスタ用の矢の矢じりに封入されていた魔石もしくは魔導砲の装薬用の魔石に引火し、大爆発を引き起こした。これにより陣地内にいたロウリア兵はほとんどすべてが戦死よくて重症であった。さらに魔導砲やバリスタは完全に破壊されていた。
さらにF-35Bは再び反転すると、残る4つの投石機陣地に対して残る誘導爆弾をすべて投下。これらすべてを完全に破壊し、地上部隊の脅威を完全に拭い去った。
地上の日米海兵隊司令部は、UAVによる戦果確認で脅威となる重装備陣地の排除を確認すると敵部隊より東方3kmで停止していた各部隊に攻撃命令を下した。
陣地転換を完全に完了させた榴弾砲部隊と歩兵部隊に所属しロウリア軍東方4㎞地点に展開した軽迫撃砲部隊によって放たれた支援砲撃のもと、戦車と装甲車、それらに随伴する歩兵部隊はロウリア軍に突っ込んでいった。
戦場の各地に小部隊ずつ分散していた彼らは、有効な情報伝達手段を持っておらず、指揮命令系統はズタズタであり、重装備すらも失った彼らに組織的な抵抗など不可能であった。当然、彼らの持つ弓矢や投げ槍*6では、NATO軍の持つ装甲戦闘車両や航空兵器を撃破することは不可能であった。
戦車や歩兵戦闘車に搭載された熱線映像装置によって、隠れていたロウリア兵は瞬く間にあぶりだされ戦車砲や機関砲による攻撃もしくは機関銃による銃撃や展開した歩兵による蹂躙を食らう。
「や、やめt・・・・ぐぎゃっ」
「くそっ!この化け物どもめ!」
悲鳴や怒声がいたるところで上がり、砲声と銃声によってかき消されていく。
「敵の矢だ!装甲車の陰に隠れろ!」
「くそっ!敵が死体に紛れてやがった!撃て撃て!」
むろん、装甲車両はともかく防弾チョッキを着ているとはいえ防御力は車両に比べてはるかに劣る歩兵部隊は被害を受けていた。
敵の矢によって防弾チョッキによって防護されていない太ももや腕を射抜かれたり、運の悪い兵士では顔面に矢を受ける兵士もいた*7。
またNATO軍は奇襲を避けるために、敵の死体にも必ず攻撃を加え死亡確認をしてから近づくように徹底していたものの、完璧なものではなく幾人かの死傷者が出ることとなった。
とはいえ、その損害は大局で見れば微々たるものでNATO軍の勝利はゆるぎないものであった。大半の兵士は、自身だけでも生き残ろうとバラバラになって逃げだしていたのだ。
しかし、そんな彼らも大半が逃げおおせることはできなかった。ロウリア軍の陣地を突破したヘリ部隊とそれに乗ってきたヘリボーン部隊が、ロウリア軍後方に展開し退路を遮断したのだ。
ヘリから放たれるロケット弾と機関砲、歩兵が突きつける銃口はロウリア軍に死か降伏かを迫ったのである。
結果、強引に突破して撤退しようとしたほとんどの兵士がヘリや装甲車からの逆襲を食らい無事に撤退することはできなかった*8。
仲間の悲惨な末路を見た兵士の大半は降伏を決断。NATO軍側の呼びかけ通り、武器を捨てて手を挙げて降伏したのだった。
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【ロウリア王都攻略戦 北方平野戦】
《ロウリア軍》
>投入兵力および損害
・竜騎兵:投入数 26騎/死者・行方不明者数 24名/捕虜 2名
・重装騎兵:投入数 1,012騎/死者・行方不明者数 893名/捕虜 94名
・重装歩兵:投入数 3,041名/死者・行方不明者数 2,792名/捕虜 233名
・軽装騎兵:投入数 1,037騎/死者・行方不明者数 932名/捕虜 98名
・軽装歩兵(槍兵・弓兵・投石兵):投入数 3,591名/死者・行方不明者数 2,830名/捕虜 591名
・軽装歩兵(特技兵):投入数 402名/死者・行方不明者 386名/捕虜 16名
・カタパルト:投入数 42基/損失 42基/鹵獲 0基
・バリスタ:投入数 40基/損失 40基/鹵獲 0基
・魔導砲:投入数 5基/損失 5基/鹵獲 0基
《NATO軍》
>投入兵力および損害
・戦闘機:投入数 12機/損失 0機/鹵獲 0台/帰還 12機
・ヘリコプター:投入数 16機/損失 0機/鹵獲 0台/帰還 12機
・戦車・装甲車:投入数 1,698台/損失 0台/鹵獲 0台/帰還 1,698台
・自走砲:投入数 231台/損失 0台/鹵獲 0台/帰還 231台
・その他支援車両:投入数 1,794台/損失 0台/鹵獲 0台/帰還 1,794台
・兵員数:投入数 39,207名/死者・行方不明者 18名/捕虜 0名
結果として、ロウリア軍は2個騎士団、2個軽騎兵団、3個重装歩兵団、4個軽装歩兵団の戦闘能力が消滅したのに対して、NATO軍側はほぼ損害なしという結果だった。
加えて、東方と南方よりNATO軍地上部隊が到着したことで、ロウリア軍は全兵力の保全に努め籠城を開始した。
・AH-64JG アパッチ・フォートレス
種別:攻撃ヘリコプター
運用部隊:国防陸軍/海兵隊
乗員:2名
全長/胴体幅/全高:18.01m/3.32m/5m
主回転翼直径:14.91m
エンジン:GE製 T700-GE-705D ターボシャフトエンジン2基 (2,731shp)
虚空重量/ペイロード/最大重量:6,319kg/不明/11,334kg
超過禁止速度/巡航速度:396.1km/241.9km
上昇率:10m/s
航続距離:1693km
実用限界高度:7300m
武装:<固定>M230A2 28口径30mmチェーンガン
<ハードポイント>スタブウィング(6:翼端に2つ)
概要:2026年に初飛行したAH-64Eの改良型、AH-64Gを三菱重工業が改良したもの。2029年に正式採用された。もともと、原型のG型は装甲、電子装備が改良されており、レーダーの索敵範囲が強化され、装甲も25mm砲弾が当たっても最低1時間飛行可能と「要塞」の名にふさわしい防弾性がある。。JG型では追加装甲のゲージ装甲や爆発反応装甲などが装備可能など、主力戦車なみの装備が出来る。また機体強度があがったため超過禁止速度と実用上昇高度は上がったものの、重量が増したため、巡航速度と航続距離が減少した。また、洋上での運用も想定しており、湿度の高い気候や海上の大気中に塩分の多い状況を想定した防蝕仕様でローターブレードの折り畳みも可能である。
ちなみに日中紛争後の中東派遣ではゲージ装甲を装備したJG型が武装ゲリラから20mm機関砲の攻撃を受け、その後RPGの直撃を受けたが基地に無事帰還し軽い修復と整備点検の後、翌日には出撃、任務を遂行した。また国防陸軍の装備する無人ヘリコプターの運用能力も追加されている。
種別:攻撃ヘリコプター
運用部隊:国防陸軍/海兵隊
乗員:2名(パイロット、ウェポンオペレーター)
全長/胴体幅/全高:16.23m/24m/4.1m
主回転翼直径:11.4m
エンジン:IHI TS-3 ターボシャフトエンジン2基 (7,512shp)
虚空重量/ペイロード/最大重量:13t/不明/27t
超過禁止速度/巡航速度:612km/486km
上昇率:11m/s
航続距離:2,324km
実用限界高度:7,800m
武装:<固定>25式85口径40㎜CTA機関砲
<ハードポイント数>内部ウェポンベイ(6)、武装用スタブウィング(6)
概要:V-22オスプレイのような垂直離着陸機タイプの攻撃ヘリコプター。ヘリコプターのような機動性と、固定翼機のような速度などを両立させる目的で開発された。AH-64やAH-71をはるかに上回る速度と大戦期の戦闘機並みの機動性を有しており、AH-71に匹敵する装甲を有している。しかし、訓練時間が長くなるという欠点やがあり、AH-71との併用が決定している。
種別:汎用ヘリコプター
運用部隊:国防陸軍/空軍/海兵隊/特殊作戦軍
乗員:2名∼4名(操縦士、副操縦士、ホイストロープ等操作要員2名)+兵員14名
全長/胴体幅/全高:21m/5.6m/6.1m
主回転翼直径:17m
エンジン:GE/IHI T901-100G 2基 (3,300shp)
虚空重量/ペイロード/最大重量:6,718㎏/不明/12,178㎏
超過禁止速度/巡航速度:387km/318km
上昇率:12m/s
航続距離:1121km
実用限界高度:4571m
武装:<ドアガン>2
<ハードポイント>2
概要:2031年に初飛行したシコルスキー・エアクラフト社製汎用ヘリコプター。UH-69の後継として開発され、派生型としてSH-71をはじめとしたさまざまな型がある。日本でも2028年より導入が開始された。UH-60よりも多い輸送量と早い速度でヘリボーンを迅速かつ柔軟に展開可能にした
愛称はブラックホーク戦争時のインディアン側の指揮官であるワボキエシークからとられた。
いかがでしたでしょうか?
ほんとに遅れてしまって申し訳ありませんでした。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回、さようなら
次回 EP26 ロウリア王国の終焉
お楽しみに