最近、降ったりやんだりな天気に辟易としております。こういう天気の時は体調が崩れやすいですから、皆様もお気を付けください。
それでは本編どうぞ。
NATO諸国がある場所からはるか西、そこにはこの世界では珍しい科学立国であるムー国が存在していた。
ムーは、この魔法が幅を利かせる世界において、科学技術を中心にした国家であり、それでありながら世界第2位の国力を誇る列強国であった。
NATOは、アルタラス王国への支援を行うにつれ、この国との国交を求めることとなった。
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東欧諸国が追加転移してくる数日前。アメリカのホワイトハウスにある大統領執務室では2人の人物が会っていた。
「やはり、ムー国との国交開設を行うべきであるかと・・・・」
この日、国務長官と会談をしていたアリスは、そのような提案を受けていた。
「私もそう思うわ。なにより、財界からもムーとの国交開設を求める声が大きいしね」
この時点で、NATOがムーとの国交開設を求める理由は、大きく2つであった。1つ目は、アルタラスやシオスにある空港設備や港湾設備の改良工事にムーの許可が必要なことである。2つ目は、この世界で数少ない科学立国として貿易先として有望であるためであった。
この世界においても、財界の声というのは政治家にとって無視できないものであり、彼らの要望に応えなければ、選挙において不利になるという構図は変わっていなかった。
その事実を思い出した国務長官は、はぁと息を漏らす。
「しかし、時間がかかりそうですな」
「どういうことかしら?」
国務長官の言葉の意味が分からず、アリスは思わず聞き返した。
「いえ、我が国を含め友好国は、ムーと我々との間に我が国の船が補給可能な港を持っていません。ですから、ムーと我が国との間にある国と国交を締結し、港を整備しなければなりませんからね」
至極まっとうな意見ではあったが、すでにその対策を考えているアリスは、愉快そうに笑った。その不自然な笑いに、国務長官は眉をひそめた。
「どうかしましたか?」
「いえ、それについてはすでに対策を考えてあるのよ」
その対策がいったい何なのか見当もつかない国務長官をみて、アリスは答え合わせをする。
「すでにわが国には、食糧さえあれば20年も入港せずに航行できる船があるでしょう?」
ここまで来て、国務長官もようやく答えに行き着いたらしい。アメリカにある船で、20年も補給なしで航行できる船は一つしかない。
「まさか、原子力空母ですか?」
「ええ、その通りよ。実はニミッツ級の"ジョン・C・ステニス"の修復が完了したの。モスボールしてあったF/A-18も確保して、これに外交官を乗船させてムーに向かわせるわ」
「原子力空母を?本気ですか?もし沈めば・・・・」
「沈んでも損失は元々解体予定だった船と旧式戦闘機よ。大した痛手ではないわ。それにこれ以外にムーまで外交官を向かわせることができる方法はあるかしら?」
そういう言われると国務長官は黙るしかなかった。確かに、今NATOにとって必要なのは、ムーとの国交そして空港・港湾設備の改修許可である。これらは、早ければ早いほどよいものである。
たとえ失敗したとしても、失うのは元々解体予定の原子力空母と旧式の戦闘機のみである。乗組員などの人員は、ムー政府の手で送ってもらえればよい。国家全体で見れば、損害は軽微といって過言ではない。
「早速、日本政府と協議して、ムーとの国交開設交渉に関する通達を行ってちょうだい」
実をいうと、NATOはムーと全く繋がりがないわけではないのだ。アルタラス王国には、すでに在アルタラスムー領事館が設置されている。日本とアルタラスを経由することで、ムーとの交渉は可能なのである。
しかし、これらの交渉をなるべく外部に漏れないようかつ迅速に行うためには、直接の国交を求めるのは当然であった。
「わかりました。至急、日本政府と協議します」
そういうと国務長官は立ち上がって、大統領執務室を出て行った。アリスは、国務長官が出ていくのを見送った後、頬杖をついてムーへの外交団派遣計画に関する計画書を眺めていた。
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それから2週間後。ムーへの外交団派遣が決定してから、東欧諸国が追加転移するなどの事態に見舞われ、外交リソースがそちらに割かれたNATO諸国は、ムーとの交渉などについて後回しにせざるを得なかったが、アルタラス王国の仲介により、この日、アテノール城では在アルタラス日本大使である片桐外交官と在アルタラスムー領事との顔合わせが行われた。
要件はもちろん、外交団派遣に関する通達である。
「初めまして。在アルタラス日本大使の片桐と申します」
ルミエスに連れられて会議室の中に入ってきたムー領事に、片桐はにこやかに挨拶をする。世界2位の列強国の外交官に、ここまで媚びる様子を一切見せずに、対等に接しようとする外交官は初めてなため、ムー領事は面食らうが、挨拶を返す。
「在アルタラスムー領事のダルエルと申します」
そう言って2人は、がっちりと握手をする。別段、媚びへつらうでもなく、当たり前のように手を差し出してきたのにも、ダルエルは驚いた。
先ほどから驚いてばかりのダルエルであるが、握手を終えて座ると、気持ちを切り替えて日本側との協議に入った。
「それで?今日は私にどういった用件でしょう?」
「はい。本日は貴国側にお伝えしなければならないことがあり、こうしてアルタラス王国政府に要請し、会談の場を設けていただきました」
ダルアルは、片桐の表情を読み取ろうとするが、片桐は長年ロシアや中国でも勤務したことのあるベテラン外交官である。見事なポーカーフェイスで、何も感じさせない。その何も感じさせない顔が、ダルアルに言いようのない不気味な感覚を与えることになった。
しかし、それを表に出しては外交官という仕事は成り立たないのである。いつでもポーカーフェイスで厚顔無恥でなければならないのだ。
「ほほう?我が国にですか。それはいったい?」
「我が国の同盟国であるアメリカ合衆国の外交使節団派遣に関することです」
「アメリカ・・・・?アメリカ・・・・」
ダルエルは、何度もその国名をつぶやきながら、記憶の引き出しからその情報を引き出す。
「ああ、貴国の所属する国家連合の盟主的な立場であると記憶しておりますが、それが?」
「ええ、我々NATOは貴国との国交締結を望んでいます。そこでアメリカ政府は、貴国に外交使節団を乗せた空母を派遣しようと考えています。その通達と貴国領海を米空母が航行することを許可していただきたいのです」
片桐は端的にNATO側の要求をダルエルに伝えた。
一方のダルエルは、そもそも文明圏外国家であるアメリカが空母を持っていることに驚愕していた。そもそも、魔法が主軸であり、技術力も地球での18~19世紀ほどの国家が多いこの世界で空母を持っているのは、ムーと神聖ミリシアルの2か国ぐらいであった*1。
それなのにぽっと出の新興文明圏外国であるアメリカが、列強の証たる空母を持っているのが考えられなかったのだ。
ダルエルの顔に、その困惑具合が出てしまう。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。どうして空母なのでしょう?軍艦で来る理由をお教えしていただきたい」
片桐に言われて我に返ったダルエルは、少し慌てたように聞いてきた。
「航続距離の問題と聞いております。貴国と我々NATOとの間には、我が国の艦艇が補給可能な港湾設備がなく、民間船舶のみでの航行は地域情勢等を鑑みて危険と判断したと」
「なるほど。領事館に戻ったら、本国に連絡します。返答は今ここでは出来かねますがよろしいですな?」
「構いません。むろん、早い方が望ましいですが」
ダルエルは、片桐の言葉にコクリと頷いた。そして尋ねた。
「わかりましたが、なぜ我が国との国交を求めるようになったのでしょうか?」
その質問に、片桐はどうしたものかと一瞬考えた後、同席しているルミエスの方を見てアイコンタクトをとる。「例の件の話をしてもよいか?」と。
ルミエスも片桐の意図を察したらしく、コクリと頷いた。
「我々NATOは、ここアルタラス王国などと産業発展を目的とした協力協定を結ぶ予定なのです。その際には、このアルタラスにある貴国の有する港湾・空港設備の改良を行い、使用しようと考えているのです。その際に、貴国とは何かと連絡事項が多くなるでしょうから、アルタラスを介するよりも、直接のラインを持っていた方がよいと判断したまでです」
「なるほど・・・・」
ダルエルは、この回答を聞いてNATOの真意を推察しようとしていた。
――ここアルタラスを組み込んだ新たな勢力圏でも作ろうとしているのか?だから、我が国には手を出してほしくないとか?いや、逆に我が国を後ろ盾とすることで勢力圏の脅威となるパーパルディアをけん制しようとしている?
ダルエルの推察は、当たらずとも遠からずといったところであった。確かに、アルタラスを緩衝国として、ある程度NATOの影響下に置きたいのは正しいのだが、別にムーを後ろ盾としなくてもNATOはパーパルディアを消滅させることができるだけの国力がある国ばかりである。別にムーが勢力圏に手を出してきたところで、その圧倒的経済力と軍事力は、ムーに付け入るスキを与えるものではない。
単純に、空港・港湾設備に関する工事・使用許可が欲しいのと、ムーを新たな貿易相手と見込んでのことであった。
――ともかく、これも本国に伝えておくか・・・・
ダルエルは、すでに誤った推察を正解だと決めつけ、本国へ通達することに決めてしまっていた。善は急げといわんばかりに、ダルエルはスッと立ち上がる。
「では、我々は本国に伝えるために戻ります。また後日・・・・」
「色よいお返事を期待しております。ダルエル領事」
片桐も立ち上がり、ダルエルとがっちり握手すると、ダルエルは足早に部屋を出て行った。
この日のうちに、双方ともに通信機を使って本国の外務省に協議の結果を連絡した。ダルエルに至っては、自身の推察も交えて。これが、再び第3文明圏の運命の歯車を大きく動かすことになる。
数日後、在アルタラスムー領事館を通じて、派遣の了承と領海内での空母の航行許可が通達され、それを受けて前々から準備してあった外交使節団が、「ジョン・C・ステニス」に乗船し、ムーに向けて発った。
またムー政府は、ダルエルの推論をすっかり真実と信じ切っており、列強であるパーパルディア皇国との関係悪化や第3文明圏近郊の情勢悪化を恐れて、NATOがアルタラス王国を自国影響下に入れようとする計画が進行中であるとする情報をパーパルディア皇国に通達することを決定した。
いかがでしたでしょうか?
アルタラスは、地域強国とはいえより影響力のあるパーパルディア皇国が近くにある関係上、そこまで影響力はありませんから、ムーもそこまで優秀な人間は派遣していなかったのが運の尽きなんですよね。
とりあえず連絡さえしとけばいいのに、ダルエル君出世欲がありすぎるせいで、自分の推論まで混ぜちゃう。真の敵は無能な働き者なんだよな。
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ではまた次回、さようなら。
次回 EP36 ムー(到着編前編)
お楽しみに