本日で夏休み?お盆企画は終了ですが、今週の水曜から8月末まで毎週投稿します。
そして、今日がムー編の最後です。一度閑話っぽいのをはさんだ後に、パーパルディアとの話に入っていくかな?
では、本編どうぞ。
翌日。マイラスらは、アメリカ使節団のトマスとフレデリックとともにMH-60Rに乗って「ジョン・C・ステニス」に向かうこととなった。
初めて乗る異世界の飛行機に、マイラスは興味津々であり、カーナとトビルクは戦々恐々としていた。
バタバタとメインローターの音がうるさく響く中、コックピットからカーキ色の飛行服にどこかバッタを彷彿とさせるヘルメットをかぶったパイロットが、後ろの貨物室の方を覗きこんできてこう告げた。
「まもなく離陸します!シートベルトをしっかりとしめて、快適な空の旅をお楽しみください!」
マイラスらはもちろんヘリのシートベルトのことはあまりわからないので、戦術飛行士の一人がやってきて、彼らにヘッドセットをつけさせると、彼らのシートベルトがしっかりしめられているかを確認する。
大丈夫と判断したのか、ヘルメットについているマイクで「大丈夫です」と報告すると機体側面のドアを閉めて、自分の席へと戻る。
それから少し間をおいて、マイラスらはふわっとした浮遊感に襲われた。
「おお、離陸したのか・・・・」
浮遊感と窓から見える景色を見て、マイラスはついに離陸したのだと判断した。
「ジョン・C・ステニス」への道すがら、マイラスは機内を見渡す。内部は案外すっきりしていて、マイラスらが座っている座席は横に4つ並んでいて、その対面にも2つの座席があって、そこにはトマスとヘリの戦術飛行士がいた。もう一人の戦術飛行士は、扉のそばにあるドアの近くに座っていた。
しばらくして、トマスは窓の外を指さした。
「見えてきました。あれが"ジョン・C・ステニス"です」
「おお、あれが・・・・」
「大きい・・・・」
窓から見えるアメリカ空母の大きさに、マイラスらは絶句した。むろん、話には聞いていた。しかし、ムーの最新鋭戦艦をも上回る大きさの空母を、実際にみると余りの迫力に言葉を失ったのである。
「いまから着艦しますが、かなりの衝撃がありますからそのまま席に座ったままでいてください」
戦術飛行士はマイラスらにそう注意を促すと、自身は立ち上がってドアの前に行って、姿勢を崩さないように手すりか何かをつかんで体を支える。
眼下の甲板に見える母艦の誘導員が、ヘリのパイロットに手旗で合図を送る。
しばらくすると、ドンという衝撃がおこる。それを待っていたかのように戦術飛行士が扉を開けた。どうやら着艦したようだ。
ブワッという風が機内に入ってきて、固定していない軽いものが飛ばされそうになる。
「到着しました」
先にヘリから降りたトマスに促され、風で飛ばされないように軍帽を抑えながらマイラスらはヘリを降りて、「ジョン・C・ステニス」の甲板に降り立つ。
そこには、ヘリのパイロットと同じようにバッタを思わせるヘルメットに、黄色やオレンジのカラフルな服を着た乗組員がたくさんいた。その中に、トマスと同じような軍服を着た、壮年の男がいた。
マイラスらが、トマスの後についていき、壮年の男の前に向かうと、彼はどこか威圧感を感じさせる顔でピッと軍人らしい敬礼をすると自己紹介をする。
「ようこそ、"ジョン・C・ステニス"へ。私は本艦の艦長であります、ローラント・ライゼンハイマー海軍大佐です」
「ムー国統合軍本部のマイラス・ルクレール技術中佐であります!本日はよろしくお願いします」
相手が自分よりも階級が上の人間だからか、それともこの巨大船の艦長だからだろうか、マイラスはがちがちに緊張していた。
ローラントは、必要最低限の自己紹介だけ済ませると、横にいたトマスの方を向く。
「少佐。あとの案内は貴官に任せる」
「Yes sir!」
その返事を聞くと、ローラントはもう一度マイラスらに敬礼をして艦内に戻っていった。
トマスは、彼の上官の姿が見えなくなったことを確認してから、マイラスらの方を向いた。
「では、早速参りましょう」
そういうと、トマスはおもむろに歩き出した。マイラスらはカバンを手に取ると、慌ててトマスの後を追う。
そして、目的地に向かうまでの間に、トマスは説明を始めた。
「まず、本艦は"ジョン・C・ステニス"といって、ニミッツ級航空母艦の7番艦として建造されました。就役からすでに50年近くたつ老朽艦になります。この艦合わせて11隻の航空母艦は我が合衆国海軍の中心でありました」
「ずっと思っていましたが、なぜ戦艦ではなく空母が中心なのでしょうか?航空機では、戦艦ほどの攻撃力を確保できないと思いますが」
カーナはずっと疑問に思っていたことを口にした。魚雷など、航空機で戦艦を撃沈可能な兵器が存在しない異世界において、空母は戦艦の任務を補助する存在でしかない。
真珠湾攻撃やマレー沖海戦前の地球世界における常識もそれであった。そのことを思い出したトマスは、苦笑しながら答えた。
「我が国では、100年以上前に起きた戦争を経て、航空機が戦艦を撃沈する能力を手に入れました。それ以来、空母が海軍の主力となっているのです」
「そ、そうなのですか!どのように撃沈したのか気になりますね・・・・」
そう話しているうちに、マイラスらは1機の飛行機の前についた。
とんがった機首と後退翼は矢じりを思わせ、その機体の大きさはムー空軍で運用されている双発爆撃機に匹敵する大きさだ。飛行機に必須なプロペラは存在せず、代わりに大きな空気取り入れ口が機体の両側面についている。マリンとは違い、完全に閉じられたバブルキャノピーを持ち、望遠式照準器などが見えない、高翼の機体はマイラスらの目には近未来的に見えた。
「これはF/A-18Eという戦闘機です。現在主力であるF-37とF-35が採用される前に海軍で主力艦上戦闘機として運用していた4.5世代ジェット戦闘機に分類される戦闘機です。最高時速はM1.6でジェットエンジンを2基搭載しています」
「これが、異世界の戦闘機・・・・」
始めてみる近未来的な異世界のジェット戦闘機に、マイラスらは言葉を失ってしまう。そんな彼らに、トマスはさらに爆弾を投げ込んだ。
「よろしければコックピットに乗ってみますか?」
「よ、よろしいのですか?」
トビルクは信じられないものを見るような目でトマスを見る。現代戦闘機にとって重要なのは、レーダーや無線に使う電波の周波数帯などであり、電源が付いていないコックピットに乗ったくらいで分かるようにはできていない。
「ええ、電源をつけることはできませんが、可能ですよ」
「では、お願いします」
マイラスは、トマスの提案を受けることにした。「わかりました」とトマスは頷くと、近くにいた整備兵を呼ぶ。トマスになにやら指示を出された整備兵は、F/A-18Eに近づくと手慣れた手つきで機体側面の搭乗用の梯子を出す。
その間に、だれから乗るか決めていたようで、マイラスが機体に近づいた。
トマスと整備兵の支えのもと、おっかなびっくりといった様子でマイラスはスーパーホーネットのコックピットに乗り込んだ。
「これが、異世界の・・・・」
スーパーホーネットのコックピットは、マイラスがよく知った円形の計器とボタンやスイッチがびっしりと並ぶものではなく、5つの黒い板の間にツマミやスイッチ、計器が配置してあり、ごちゃっとはしている感じのマリンなどと比べれば、すっきりした見た目であった。
操縦桿らしきものも、コックピット中央ではなくその脇に設置してあった。
「電源をつけると、その5つのモニターに地図や機体の状況、速度などが表示されます。操縦桿もフライバイワイヤという電気式のものを使用しており、高いGがかかる戦闘機動時にも操縦しやすくなっています」
「なるほど・・・・」
コックピットの説明を聞き、あたりを見回すだけでも超技術の香りがした。マイラスは、ボタンやツマミ、スイッチの類も、使いやすいように設計されているのが分かった。
一通り未来の戦闘機のコックピットを堪能すると、マイラスはコックピットから降りてカーナに席を譲る。カーナも未来の戦闘機のコックピットに興奮しているようだった。
その間に、マイラスはあたりを見回す。この空母の甲板には、大型の双発機に皿のようなものを乗せた飛行機などもあり、それらがいったい何に使われるのか、マイラスには見当もつかなかった。
「あれが気になりますか?」
いつの間にか横に来ていたトマスの問いかけに、マイラスは驚いて、肩をビクッと震わせた。
「ええ、あれはいったいどういった航空機なのでしょうか?」
「あれはE-2ホークアイという飛行機です。早期警戒機という機種になりますね」
「早期警戒機?」
文言だけ聞いて、偵察機や哨戒機の類だとマイラスは判断した。その推測はあながち間違いといえるものではない。確かに艦隊上空を飛行し、接近する航空機と艦艇を監視するE-2の任務は哨戒機といって差し支えないものであるからだ。最も、E-2はマイラスの思うような偵察機や哨戒機のパイロットの目よりも探知距離の長い索敵レーダーを搭載した飛行機であるが。
「ええ、レーダーという長距離索敵ができる装置を搭載した飛行機で、その探知距離は数百キロになります。あの飛行機と艦隊、戦闘機が無線を使って密に連携することで、効率的な作戦行動が可能となります」
今日何度目とも知れない衝撃であった。探知距離数百キロの装置など、ムーにはないからだ。むろん、ミリシアルなどの魔法文明国家には、魔力を探知する装置があるが数百キロの探知距離はないし、最も探知距離の長いものでも百キロがせいぜいである。それも大型の莫大な魔力を放出するものに限るのだ。
しかし、アメリカは完全なる科学文明国家。つまりそういった魔力を放出しないものであっても探知できる可能性が高いのだ。
「何もかもが違いすぎる・・・・」
飛行機の性能一つとっても、技術力と基礎国力の差が見て取れる。
何一つとしてムーが勝てる要素が見当たらないのだ。列強第2位の国力を有するムーが、その土俵である科学分野で圧倒的なまでの差をつけられているのだ。
カーナやトビルクたちもそれを実感したようで、コックピットから降りてきた彼らは、どこか疲れているようにも見える。
あの先進的な戦闘機だって、アメリカにとっては立派な旧式機なのだという。
「では、最後にF/A-18の飛行をご覧いただきましょう」
そう言って、マイラスらは艦橋の中に案内される。中はとても清潔で、快適な温度に保たれているようだった。通り過ぎる軍人たちも、きちんと立ち止まって敬礼してくるあたりに高い規律と練度が見て取れた。
しばらくして、彼らは飛行甲板を一望できる航空管制室に通された。中には、特徴的な青のデジタル迷彩服に身を包んだ航空管制官が、無線やタッチパネルを使って指示を出していた。
トマスに招かれて、窓の方によると独特な形の飛行甲板の先端の方に、2機の戦闘機がいた。その周りには整備員が集まっており、戦闘機の後ろは板のようなものがセットされている。
「本艦は、艦載機をカタパルトを使って加速させて、発艦させます。発艦位置は、艦首のあそこともう2つありますが、今回は艦首の2つから発艦させます」
「少佐、発艦準備完了しました」
航空管制官が、トマスのもとに来てそう報告した。トマスはコクリとうなづくと「お願いします」とだけ言った。
マイラスらは、異世界の戦闘機が空に舞う姿を目に焼き付けようと、窓に張り付く勢いで発艦をしようとしているF/A-18を見ていた。
そして、機体の周りにいた整備員が十分な距離をとったタイミングで、スーパーホーネットが一瞬揺れ、そしてあっという間に加速すると空に飛び立った。
「すごい加速力だ・・・・」
すぐさま最初の1機の後を追うように2機目も発艦する。2機ともあっという間にムーの最新鋭戦闘機であるマリンの初期型の巡航速度に近い速度まで加速すると、後部から赤い火を噴いてさらに加速していく。
機体トラブルによる火災かとも思ったが、トマスの説明によるとアフターバーナーといって、エンジンから出てきた高温の排気に燃料を噴射して、さらに推力を得る機構らしい。
説明を聞いているうちに、2機の異世界の戦闘機は加速して見えなくなってしまう。どこに行ったのかと目を凝らして探していると、トマスのアナウンスが聞こえる。
「では、まもなく2機が本艦上空をフライパスします」
すると白い雲をまとった2機が、「ジョン・C・ステニス」から1㎞ほど離れた地点の上空を、猛スピードで飛んで行った。よっぽど早いのか、バンという鞭を撃つ音をさらに大きくしたような音とともにガタガタと窓が揺れる。
つい先週まで、世界トップクラスの性能を持つと自信満々だった自国の最新鋭戦闘機が、おもちゃに思えるくらいの速度性能だった。トマスが、白い雲の正体は音速を超えるときに出るベイパーコーンという現象なのだと説明した。
話には聞いていたものの、実際に見てみると衝撃はすさまじいものであった。マイラスらの脳裏には、あの異世界の戦闘機に翻弄される、自国の最新鋭戦闘機の姿が浮かんだ。しかも、アメリカやその同盟国にはあの戦闘機よりも性能が上のものがあるという。
何一つとして勝てる要素が見つからない。科学分野に関して、ムーはこの世界のどの国家よりも先進的であるはずだった。しかし、その科学分野で圧倒的差をつけられて敗北した衝撃は、彼らのプライドを粉々にした。
この日、マイラスらは許可を得て撮った写真をもって地上に戻ると、すぐさま報告書を書き上げた。
それには、アメリカやその同盟国は、科学技術・国力の面においてムーに圧倒的な差をつけてリードしていること、ムーには勝てる要素が一つも存在していないこと、アメリカやその同盟国と対立してはいけないことが30枚以上にわたる文章と添付されたヘリや戦闘機、果てにはアメリカ側が好意で渡してくれた飛行中のコックピット内の写真や各種陸上兵器の写真と説明を添えて述べられていた*1。
これらの報告書は、それを証明するような多数の写真とともに提出されたことで、ムー国上層部に大きな衝撃をもたらした。この報告書は、士気の低下を避けるために公開が見送られ、ムー政府の最重要機密として保管されることとなった。
さすがにアメリカとの交渉にあたる外交関係者には公開されたものの、この報告書はムー外交官らにも衝撃を与え、アメリカ側は外交交渉において主導権を握ることとなった。
そして翌月3日、アメリカとムーは友好条約と通商条約を締結。正式に国交を開設し、その後アメリカ政府の仲介でほかの転移国家群とも国交開設が進むこととなる。
公開された情報は通常兵器のみであり、NBC兵器に関する情報は一切公開されなかった。技術流出の心配についても、スペックと使用方法、写真のみでは、再現できないことやムーの国力では量産できないことから問題とされなかった。
たとえアサルトライフルをムーが作れたとしても、それを一般兵が十分に運用するには、馬や人力に頼らないような完全機械化された兵站網が必要となる。
戦車を作ろうとしても、西側の第4世代MBTに対抗するには、ムーでは再現不可能な電子機器や高度な冶金技術で製作されたエンジンと装甲材が必要となる。
提供された情報をもとに、それ再現するのに必要な国力が、ムーでは絶対的に足りていないからという判断であった。
いかがでしたでしょうか?
そういえば今日は終戦記念日でしたね。77年前に家族を守るために戦い、散っていったすべて国の兵士、そして理不尽に命を奪われた全てに国の民間人に哀悼の意を捧げます。
何度も言いますが、兵器は見て愛でるくらいでいいんです。戦いは物語の中だけでいいんです。
次回 EP41 ロデニウスの進歩
お楽しみに!