年末はいかがお過ごしでしょうか。今回は、今年最後のハーメルンでの投稿をさせていただきます。年明け早々に、もう一話、投稿させていただきますので、そちらもご覧ください。
では、本編どうぞ。
フェン王城の使節用スペースで軍祭の様子を見守っていた日本使節団代表の荒木は、嘆きの声を上げる。
「なんてことだ・・・・」
余りにも運が悪すぎる。交渉相手の要求に応じて、親善のために艦隊を送ったら、見知らぬ第三勢力から攻撃を受けたのだ。
見たところ、"あしがら"にもいくらかの攻撃が当たっていたし、もしかしたら死傷者がいるかもしれない。攻撃をしてきたワイバーンはすべて国防軍の艦隊が撃墜したものの、これもまずい。明らかにどこかの国家の武装組織に属しているワイバーンである。それを国防軍の艦艇が撃墜したとあれば、その国との関係悪化は免れない。
とはいっても、国防軍側は正当防衛で攻撃しただけだ、国防軍の交戦規定にも憲法にも違反していない、正当な武力行使である。むしろ、ワイバーンが降下して攻撃態勢に入っても、発砲しようとしなかった国防軍側の我慢強さは称賛されるべきものだ。ここまでくれば、10-0で相手国が悪い。
どうしようかと悩んでいる荒木のもとに、彼の部下の外交官がやってきた。
「荒木さん。フェン王国側から、至急会談を行いたいと」
「なに?」
その報告を聞いて、荒木の脳裏に一つある予想が浮かんだ。
国防軍を攻撃してきたワイバーンは、フェン王国王城にも攻撃を加えていた。つまり、もともとの主目的はフェン王国への攻撃であり、国防軍はそれに巻き込まれただけの可能性が高い。そして、この艦隊派遣はフェン王国側からの要請に基づいたものだ。もしフェン王国政府が、この日に何者かからの攻撃を受けることを予想していたのだとしたら、日本を巻き込むつもりだった可能性もある。
「一度、本国と派遣艦隊司令部と協議する。フェン王国側には暫く待っていただくように伝えておけ」
「わかりました」
部下の外交官は、フェン王国側の外交官にそのことを伝えるべく、足早に去っていく。荒木は、使節団に随伴していた護衛の日海兵隊員に頼んで、"きたかみ"との無線電話を繋げる。
「出ました」
そう言って受話器を差し出す海兵隊員から、受話器を受け取る。
「使節団代表の荒木です」
『"きたかみ"艦長の武藤です』
「至急、本国と艦隊司令部と合わせて協議を行いたいのですが、ヘリか船で一度迎えに来ていただけないでしょうか?」
ここには日本本国と通信がつながる設備はどこにもない。本国と連絡を取るには、強力な無線設備が整った"きたかみ"に戻る必要があった。
『ヘリはこれから周辺哨戒に向かいますから、船で回収します。港にすぐに送るので、そちらも移動を・・・・』
「わかりました。ありがとうございます」
そういうと荒木は無線を切った。
そして、荒木と2人の部下、そして護衛の4人の兵士を連れて彼らは港に向かった。荒木らが港に着いた頃、すでにそこらは野次馬でいっぱいで、沖合に浮かぶ国防軍の艦隊やその周りを飛ぶヘリに視線が言っている。
幸い、迎えの船の周りはフェン王国軍と"きたかみ"の立入検査隊員らの封鎖によって野次馬はおらず、荒木らはスムーズに11m作業艇に乗ることができた。国防海軍の作業艇や複合艇には防御機関銃用の銃架が1つついており、この時の11m作業艇と6.9m複合艇には12.7㎜重機関銃が搭載されており、そこに立入検査隊員が張り付いていた。攻撃を受けたばかりとあって、とてもピリピリしているのがわかる。
荒木らや立入検査隊員、護衛の海兵隊員らが船に乗り込むと、船は港を離れて"きたかみ"に向かった。
――――――――――――――――――――
さて、"きたかみ"からの報告を受け取った防衛省と統合参謀司令本部そしてそこを経由して事態を把握した外務省と首相官邸は、大騒ぎであった。
「本当なのか?派遣艦隊が攻撃を受けたというのは・・・・」
統合参謀司令長官(元帥)は、会議室までの階段の途中で隣にいる副官から詳しい方向を受けていた。彼は先ほどまで内閣府で安全保障局長との会議をしていたものの、派遣艦隊から報告を受けて会議を中断すると、すぐさま市ヶ谷に戻ってきた。
「はい。"きたかみ"からはすでに攻撃時の記録映像なども送られてきています。現在、
「そうか。外務省には連絡をしたのか?」
「はい。
「そうか・・・・」
ちょうどその時、司令長官一行は会議室についた。会議室の近くにいた兵士が扉を開ける。
すでに中には陸海空軍海兵隊、宇宙軍、サイバー軍の司令長官や統合参謀司令本部の主要幹部などが集まっていた。
司令長官は会議室に入っていくと一番上座に座る。
「それで?現在の状況は?」
司令長官の問いに派遣艦隊の上官である海軍司令長官が答えた。
「はい。今から1時間ほど前に派遣艦隊が所属不明のワイバーン部隊に攻撃を受け、攻撃を受けた"あしがら"に2発が着弾、一部の電子機器が故障し隊員数名が火傷や割れたガラスによって負傷しました。その後、回避行動をとっていた"あしがら"が岩礁と接触、右のスクリューと舵が破損。また船体に亀裂が入り浸水が発生しました。現在は浸水が止まっているものの、右スクリューと舵が破損したことで、自力航行は非常に難しいことになっています」
海軍司令長官は派遣艦隊が受けた被害などを手短に伝える。
「攻撃してきた目標は?」
「"きたかみ"艦長の判断により、反撃を行い全機撃墜しました」
その時、外務省からきている渡良瀬 第3文明圏局参事官がここで手を挙げて、発言の許可を求める。司令長官が「どうぞ」というと海軍司令長官の方を向いて、あることを聞いた。
「フェン王国側の反応、それと攻撃をしてきたワイバーン部隊の所属はわかっていますか?」
その問いに答えたのは、駐在武官などの管理も行い渡良瀬ともある程度面識のあった統合情報参謀部長であった。
「現地からの報告では、フェン王国側からは会談を求められているようです。攻撃をしてきたワイバーン部隊の所属については、現在、うちの分析課で調査中ですが、現在のところ第3文明圏のパーパルディア皇国の可能性があるとの報告を受けています」
「パーパルディア・・・・フェンにも拡張主義の牙を向き始めたか・・・・」
渡良瀬は、嫌な国名を聞いて苦虫をダース単位で嚙み潰したかのような顔をする。ちょうどそのときであった、現地との連絡を取っていた海軍軍令部の参謀が会議室に入ってきた。
「どうした?」
「現地の派遣艦隊より報告です。アマノキ西方67㎞地点にて"なつかぜ"所属の無人偵察機が所属不明艦艇22隻を確認しました。12ノットでアマノキに接近中です」
突然の報告であったが渡良瀬以外の、国防軍側の出席者はやっぱりかという表情であった。
「その不明艦艇について何かわかっていることは?」
「送られてきた映像を、現在
「やっぱり本隊がいたか」
報告を聞いて統合参謀司令長官の隣にいた最先任下士官は吐き捨てるようにそう言った。作戦の立案や指揮を担当する統合作戦参謀長は、報告に来た参謀に向いていた体を、統合参謀司令長官に向ける。
「どうしますか?現在、"あしがら"が自力航行がほぼ不可能ですし、曳航するにも時間がかかり、その間に奴らアマノキに来てしまいますよ」
そういわれた統合参謀司令長官は少しばかり考えるそぶりを見せた後、口を開いた。
「今の情報、全部官邸に送れ。国家安全保障会議があるから、そこで私は総理の判断を仰ぐ。ただ、たぶんそういうことになるだろうから、現地艦隊には
「わかりました」
会議室に居並ぶ全員がコクリと頷く。そのあと、統合参謀司令長官は海軍司令長官と統合作戦参謀長の方を見る。
「それと
「わかりました」
「
「わかりました。早速、取り掛かります」
「それと、相手が相手だ。場合によってはこのまま全面戦争、ということにもなりかねん。警報はまだだせんが、各司令官に連絡して、心構えだけはさせておけ」
それだけ言うと統合参謀司令長官は、幾人かの副官を連れて会議室から出て行った。
―――――――――――――――
30分後、首相官邸では派遣艦隊が攻撃を受けたことに対する国家安全保障会議が開かれていた。
この時、会談のためにロデニウス大陸に派遣されていた外務大臣*2に代わり、外務副大臣が出席していたもののそれ以外はいつもの通りのメンバーであった。
「では、報告を頼む」
「わかりました」
大泉からの報告を求められた防衛大臣は後ろにいる統合参謀司令長官に目配せする。
「私から報告させていただきます。現在より1時間30分前の10時34分に親善のためにフェン王国に派遣していた派遣艦隊が所属不明のワイバーン部隊に攻撃されました。この攻撃で"あしがら"の乗員3名が軽症、2名が重症のケガを負い、各所で断線や窓ガラスが割れるなどの被害が出たほか、付近にあった岩礁に接触し、右舷機関室に浸水。また右舷スクリューと舵も破損し、現在自力航行ができない状況にあります。攻撃してきたワイバーン部隊ですが、派遣艦隊司令が正当防衛と判断。20機すべてを撃墜しました。現在、その搭乗員と思われる2名がヘリで救助されたと報告が上がっています」
「その後の状況は?」
「10時50分より"きたかみ"、"なつかぜ"、"あしがら"より無人偵察機8機及びSV-280*3ヘリコプターを3機発艦させ、周辺哨戒を開始。11時46分に"すずつき"の無人偵察機がアマノキ西方約67㎞に所属不明艦隊22隻を確認。なおこの所属不明艦隊は、派遣艦隊に攻撃を仕掛けてきたワイバーンと同じ所属と判明しております。また11時59分にフェン王国水軍と所属不明艦隊が接敵、現在は戦闘中との報告が入っております」
一通りの報告をし終えた統合参謀司令長官は一礼すると席に座る。大泉は少しばかり何かを考えた後、統合参謀司令長官に尋ねる。
「"あしがら"の曳航は可能か?」
「可能ですが、所属不明艦隊到達までに退避することは困難です。"あしがら"を放棄して、乗員をほかの派遣艦艇に乗せて退避することは可能ですが。その場合、"あしがら"が接収され、フェンか、所属不明艦隊に技術が流出してしまう可能性があります」
「爆破処理などは?」
「現在、海軍が検討中ですが、"あしがら"を完全に爆破した場合、アマノキ近辺の住宅街に被害が出る可能性があるとのことです」
"あしがら"を接収されるのはまずい。それはシステムや電子部品などの流出の話ではない。機関銃などの武器やその弾薬などが流出してしまうことを危惧しているのだ。時間的に言って、"あしがら"に搭載されている、武器弾薬をすべてほかの艦艇に移送するか廃棄して、乗員を回収し、撤収するには時間が足りない。
ここまでくれば、大泉のみならず安全保障会議に出席している閣僚全員が、方法が一つしかないことに気が付いた。
「・・・・所属不明艦隊についての情報は?」
「現在、国家戦略情報省、外務省にも映像データを提供し、多角的に分析しています。今のところ、第3文明圏の列強国、パーパルディア皇国所属の可能性が高いと考えられています」
防衛大臣の言葉に続けて外務大臣がいう。
「パーパルディア皇国とは国交がなく、現在は米英が使節団を派遣を検討中です」
「見事に最悪が決定されたわけか・・・・」
大泉は引きつったような顔でそうつぶやいた。
しかし、つぶやいたところで事態がどうなるわけではなかった。今この場に必要なのは決断であった。技術流出の危険を冒して艦隊を撤収させるか、もしくは所属不明艦隊を止めるかだ。
大泉は会議に臨時的に参加している国家安全保障局長に質問をする。
「平沢君。戦闘に参加することについてどう思う?」
「すでに、我々は攻撃を受けています。憲法でも攻撃を受けた場合は、反撃が認められています。この所属不明艦隊は、派遣艦隊に危害を加える可能性がありますから、戦闘は合法かつ正当なものと思います」
しかし、それに異論を唱えたのは外務副大臣であった。
「いや、まってくれ。ここで戦闘を行い、死者が出た場合、パーパルディア皇国との関係は悪化する。アルタラスへの支援にも悪影響がでる可能性もある。ここは何とか中立でいるべきではないか?」
「すでに無警告で、関係ない派遣艦隊が攻撃を受け、負傷者も出ているんだぞ?中立などできるわけなかろう」
防衛大臣は外務副大臣にそういう。しかし、外務副大臣も頭にあるのは日本の国益についてであった。パーパルディア皇国とは対立を深めつつありはするものの、いまだ決定的な亀裂は走っておらず、それどころか米英は外交チャンネルを設けるべく使節団を派遣を準備している真っ最中であった。この時期に、日本単独の行動でパーパルディア皇国との外交交渉に影響を与えることになれば、各国からどのようなことを言われるか分かったものではない。
可能であれば金のかかる戦争になりかねない、関係悪化は避けたいというのは当然であった。
「そんなことはわかっている。しかし、いまだアルタラスの支援は十分なものではない!これではパーパルディア皇国へ対する安全保障政策に大きな影響が出る可能性だってあるのだ!戦闘を少しでも避けれるのなら、避けるべきだ!」
「今ある、技術流出、武器流出そして派遣艦隊の被害が拡大するリスクを避けることが先決だ!そもそも皇国と国交がない状態では、武器や艦艇が接収された場合に返還を求めるのは困難になる!」
「2人ともそこまでだ」
外務副大臣と防衛大臣の2人を大泉は諫める。ここで大泉が決断しなければ、議論はいつまでも平行線だ。大泉は覚悟を決めた顔で、統合参謀司令長官の方を見る。
「統合参謀司令長官」
「はい」
「派遣艦隊に、迎撃の許可を出してくれ。"あしがら"はあとで部隊を派遣して回収する。ただし、迎撃する際は、一度所属不明艦隊に警告を出すこと。それで撤退したら、それでいい」
「わかりました」
そう言って、近くにいた副官にその指示を統合参謀司令本部に伝えさせようとすると、大泉はまだ続けた。
「それと、"あしがら"の回収中に、再び攻撃を受けてはかなわない。空母艦隊を派遣してくれ。できれば軽空母部隊が望ましい」
「すでに行動可能な部隊はリストアップしています。横須賀の第3空母護衛艦隊、呉の第7空母護衛艦隊、佐世保の第4空母護衛艦隊、訓練を切り上げれば大湊の第6空母護衛艦隊が出撃可能です」
「なら、回収艦隊の護衛部隊として佐世保の空母艦隊を派遣してくれ」
「わかりました」
ロデニウス大陸での戦争が終わってから、まだ数か月しか立っていないにもかかわらず、新たな戦雲が立ち込めようとしていた。
転移現象後に設立された部署。転移後の世界において、第3文明圏と呼ばれる地域周辺国家との交渉を担当する部署。
【SV-280 シーバロー】
種別:対潜哨戒ティルトローター機
乗員:4名(操縦士、副操縦士、対潜オペレーター、機内兵装整備員)+6名
全長/胴体幅/全高:18.2m/24.93m/7m
主回転翼直径:10.7m
エンジン:T64-GE-510 ターボシャフトエンジン(4,900hp) 2基
虚空重量/ペイロード/最大重量:8.72t/不明/14.9t
超過禁止速度/巡航速度:575km/525km
上昇率:14m/s
航続距離:3,900km
実用限界高度:8,000m
武装:<ドアガン>2
<ハードポイント数>4
概要:SH-60の後継としてベル・ヘリコプター社が、UH-60の後継として開発したUV-280バローをもとに、米海軍からの要請を受けて設計した対潜哨戒ティルトローター機。
UV-280からの改良は艦上運用を想定したものである。機体の素材は、軽量かつ塩害に強いものを採用している。狭い駆逐艦などでの格納庫でも運用可能なように、主翼及びプロペラは電動折り畳み機構が採用されており、主翼が機体から50㎝離れた位置でメインローターを上に向けたまま90度縦に回転、そのままメインローターも折りたたみつつ、翼をさらに90度横に回転させることでコンパクトにできるようになっている。着艦拘束装置の追加や、複列式尾輪の採用、野戦運用を配したことによる主脚の簡略化なども施されている。
エンジンもより強力なものに換装されており、UV-280のB型と同様の4,900馬力のものに換装されているため、より高速性能を発揮可能となっている。
機体各部に複合レーダーを搭載、対艦・対空目標を探知可能であり、機体下部には対潜望鏡レーダーを搭載しており、敵潜水艦の潜望鏡を探知可能となっている。機体後方の尾翼からはMADが突き出ており、潜水艦の時期探知が可能となっているほか、対潜哨戒機ほどでないが連装ソノブイ投射器を有しており、ソノブイも投下可能となっている。
武装はドアガンのほかに、スタブウィングに4つのハードポイントを備えており、空対空ミサイルや地対空ミサイル、短魚雷、ガンポットなどを搭載可能である
皆様、いかがでしたでしょうか。
思えば、今年はいろいろなことがありましたねぇ。まぁ、何とか周りの支えもあってなんとか、やってこれました。私の周りにいるすべての人に感謝です。
皆様、よいお年をお迎えください。
ではまた次回、さようならぁ。
次回 EP47 EP47 フェン王国領海内衝突事件Ⅰ
お楽しみに