「全て世は事もなし、平和でシュねぇご主人サマ」
「いきなり何言ってんだオメェ」
通学カバンを肩に担いだ学ランの青年が、ブツブツと独り言で会話をしている。
……いや、良く見ると独り言ではない。
青年が来ている学ランの肩口付近から、スライムのようなうねる黒い不定形が生えており、そのスライムにはギョロとした目玉がくっついている。
そのスライム状の謎の生き物が青年と話していたのだ。
「でも、平和じゃないでシュか」
「そりゃそうだけどよぉ」
「みんな平和が一番! ラブアンドピーシュ!」
体を震わせながらベラベラと喋るスライムに、ちょっとウンザリしたような顔をする青年。
「……なあ、一応家の外なんだからあんまり喋るなって」
「イヤでしゅ、暇なんでシュ、お喋りシュるでシュ。
それにクロのセンサーは近くにも誰もいないって……おや?」
何かを発見したようで、スライムは途中で言葉を止めた。
「ご主人サマ、イッセーともう一人誰かが近くにいまシュ。
だから、クロはしばらく黙ってまシュ」
「おう、そうしとけ」
『クロ』と名付けられたスライムは、学ランに沈み込んで黙り込む。
ちなみにこの名前は青年が名付けたもので、『黒いからクロ』とのことである。
右手と一体化したからミギー、的な感覚で名付けられた名前だった。
「よう、イッセー」
「あ、ナツヒコじゃないか」
「こんにちは」
『佐島夏彦』はイッセーの少ない友人の一人である。
というのも、イッセーはスケベを拗らせすぎて同年齢の友人が少ない。
女性の友人は言うに及ばず、男友達も『いや、アレは引くわ』と言った感じで、同じような変態の友人しかいない有様だ。
ちなみにナツヒコはどうなのかというと、彼も彼で口の悪さが災いし友人が少ない。
つまり、友人が少ない者同士でつるんでいるわけである。
「なんだぁ? とうとう援助交際に手を出したか?
さすがの俺もそれは引くわ」
イッセーの隣にいる清楚な少女を一瞥して、呆れたように言い放つナツヒコ。
「なっ!? い、いくらナツヒコでもそのセリフは許さねえぞ!?」
「あ、あはは……」
とうとう犯罪に手を染めたかという友人のセリフに、激怒するイッセーと苦笑いを浮かべる少女。
「へッ、冗談だよ……で、そこの女は?」
「天野夕麻、イッセー君の彼女です」
「そ、そう! 俺にも彼女が出来たんだよ!! 羨ましいだろナツヒコ!」
「ハイハイ羨ましい羨ましい」
あまりの嬉しさのせいかどもるイッセーに対して、ナツヒコは手をヒラヒラとさせながら余裕綽々といった態度を見せる。
「ユウマちゃんだっけ? イッセーはスケベさえなけりゃ、割かしいいヤツだしヨロシク頼まぁ。
んじゃ、お邪魔しちゃ悪いだろーし俺はもう帰るぜ」
言うだけ言って、家に帰ろうとするナツヒコ。
だが、何かに気づいたかのように途中で足を止め、振り返ってから大声でイッセーにこう叫んだ。
「……オイ! ゴムはちゃんとしろよ!!」
「う、うるせー! さっさと帰れ!!」
ナツヒコの下品な発言に、顔を紅くしながらイッセーは怒鳴った。
ケケケと笑いながら足早にナツヒコは場を去る。
そして、イッセーと夕麻が見えなくなると、クロが肩から生え再び喋りだした。
「まさか、イッセーに彼女が出来るとは思わなかったでシュね」
「あぁ、あのスケベ野郎を彼氏にする女がいるとは思わなかったな」
「そうそう、その彼女なんでシュけど……気を付けた方がいいと思いまシュ」
「あぁ?」
ジト目になりながらクロがナツヒコに警告をする。
「あの女、イヤな感じがしまシュ。
人を騙そうとしている悪意、ドブ川のように性根が腐っている臭いもしまシュ」
「何を根拠に?」
「ただの女の勘でシュ」
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お昼休み、学生や教師が昼食を取ったり談話に花を咲かしたり、次の授業の準備をしたりする時間である。
当然ナツヒコも昼食の時間である、彼は教室の片隅で山のような量のおにぎりを食していた。
「なあ、ナツヒコ」
「もが?」
おにぎりを物凄いスピードで消費するナツヒコに、イッセーがどこか諦めがちに声をかけてきた。
ナツヒコは手は止めず、視線だけをイッセーに向け、目だけで『何の用だ』と問いかける。
「ナツヒコは夕麻ちゃんって憶えてるか?」
「……ゴクン、あの女がどうかしたのか?
ハハァ、さては変態プレイでも強制して……」
「覚えてるのかっ!?」
「あ、あぁ」
ナツヒコがいつもの冗談交じりに返答したが、イッセーが顔色を変えながら肩をガシッと鷲掴みにしてきたため、最後には気が抜けたような返事になってしまった。
「ナツヒコは覚えている……良かった、確かに夕麻ちゃんはいたんだ」
「だから、あの女がどうしたんだよ」
「あ、あぁ……いきなり変な事聞いて悪い。
だけど、おかしいんだ。俺とナツヒコしか夕麻ちゃんの事を覚えていないみたいで……」
(クロも覚えてまシュよ)
「おめえはちょっと黙ってろ。
で、それが一体何なんだ? 紹介とかしてないなら、覚えてなくても無理ないんじゃねえの?」
「それが……記憶だけじゃなくて、カメラの記録とかもアドレスとかも消えててさ。
だから、せめて俺以外に誰か覚えていないかと思って声をかけたんだ」
「それで、俺しか覚えていなかったと」
イッセーはコクリと頷いた。
「そうか……そういう事なら、俺も気にはかけとくわ」
「ああ、ありがとう……それにしても」
礼を言いながら、ちらりとおにぎりの山を一瞥するイッセー。
「相変わらずすごい量だなぁ」
「こんぐらい食わないと腹が減るんだよ」
「流石に燃費悪すぎないか……?」
「気にすんじゃねえ、俺は気にしてない」
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「シュッ、シュッ、シュッシュシュのシュ~」
「うるせえから耳元で歌うんじゃねえよ、お前はよお」
「そうは言っても、ご主人サマと一緒のデートだと嬉しくもなりまシュ。
それが命を懸けた狩りや戦いであっても、でシュ」
全身を黒く覆うマッシブなスタイルのコスチューム……のような物に身を包んだナツヒコが廃屋の前で佇んでいる。
察しのいい読者なら気づいているだろうが、このスーツの正体はクロだ。
いや、今着ているコスチュームだけではない。彼の身に纏う衣服の全てはクロで構成されている、彼が通学時に身に纏う学ランもクロが擬態している。
とどのつまり、ナツヒコとクロは一心同体なのだ。
「……フゥー」
やれやれ、と言いたげに額を抑えながら軽くため息をつくナツヒコ。
「それじゃあ、行くぞ」
「タタカイ、ダイスキでシュ」
廃屋のドアを派手に蹴破り、ナツヒコは中に突入。
中は暗闇と静寂が支配していたが、クロと一体化し人間の限界を容易く超越したナツヒコにとって、この二 つはないようなものだった。
「デケえのがいるな」
「食べ応えがありそうでシュね」
暗闇の中から重い足音を響かせ、巨大な悪魔が一対の槍を携えて現れる。
はぐれ悪魔のバイサーだ。 大きさは5メートル以上はあり、その上半身には裸の女性が生えている。
ナツヒコはバイサーの女性部分を冷めた目で見つめていた。
「おやおや、随分と不味そうな臭いがする人間がいるぞ」
「人の事言えんのかよ、ちゃんと掃除しろよテメエはよお」
嗅覚も犬並となったナツヒコ、場に染みついた血の臭いに咽てしまいそうだ。
実際、クロのブラックコスチュームによって臭いが緩和されていなければゲホゲホと咽ていたかもしれない。
「生意気な人間だ、貴様は苦しませながら食ってやろう!」
その巨体に見合った巨大な槍を振り下ろされる、並の人間ならそれだけでミンチになってしまいそうだ。
だが、そうはならなかった。
「なにっ!?」
振り下ろされた槍を顔色一つ変えずに片手で受け止めるナツヒコ。
まあ、顔色といってもナツヒコの頭はクロのコスチュームで顔も覆われているため、他人がその顔色を知る由もないのだが。
「デカけりゃいいってもんじゃ……」
槍を受け止めた手に力を入れると、受け止められている槍にヒビが入り、バキリと折れた。
「ねえよっ!」
そして、そのまま折った槍をバイサーの下半身に向け、蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた槍は、大砲となってバイサーの下半身ごと飛翔し、彼女を壁に磔にした。
「がはぁっ!!」
「オラァッ!」
跳躍し、飛び蹴りで腕をへし折るナツヒコ。
そのまま地面に降り立つと、バイサーが落とした巨槍を手に取り、それを凄まじい勢いで振るって獣の四肢を斬り落とした。
「ハッ、無様だな」
肩で槍を担ぎながら、四肢をもがれてダルマ状態となったバイサーを見下ろすナツヒコ。
女性である上半身こそ無事なモノの、獣の下半身は既に倒れ伏すことしか出来ない有様である。
「どんな気分だぁ? エサだと思ってた人間にここまで嬲られるなんてよぉ」
「バカめ、油断したな!」
いわゆるヤンキー座りで見下ろしていたナツヒコを油断していると思ったバイサーは、その乳房から溶解光線が放つ。
だが、その放たれた溶解光線を、ナツヒコは軽く首をかしげるだけで回避した。
「おうおう、水芸か何かか? おもしれえじゃねえか。
次は何を見してくれるんだよ?」
「ご主人サマ、そろそろ食べたいんでシュけど」
「……あー、じゃあそうするか」
挑発を繰り返すナツヒコに、クロが痺れを切らしたかのように口を挟む。
ナツヒコはすくっと立ち上がると、バイサーにこう問いかけた。
「どうして欲しい?」
「……殺せ」
万策尽きたバイサーは、覚悟を決めたかのように顔を引き締めてそう言った。
「ハッ、なら生殺与奪の権利は俺がもらった……クロ」
「でシュ」
ナツヒコを覆っていたスーツの一部が剥がれ落ち、地面に落ちる。
地面に落ちたスーツは、うねうねと動き回るとそのまま巨大化し、人一人は優に包み込めそうなほど巨大な黒い『玉』となった。
「それじゃあ、頂きまシュ」
「なっ、何をする!? やめろ、普通に殺……」
黒い球に備わった巨大な一つの目玉、名付けて『球体クロ』が獲物をとらえる。
そのまま球体クロはシートのように広がり、彼女をすっぽりと覆いつくした。
「~~~っ!?」
球体クロに包まれたバイサーは重い音を響かせながら、叫びながら暴れまわる。
バイサーがクロの中で『何を』言っているかまでは分からなかったが。
しばらく暴れまわっていたバイサーだったが、数分もすると暴れまわる音が止まる。
「……っ!」
少しずつクロが小さくなり、それに合わせてバイサーの声も小さくなっていく。
ナツヒコは壁に寄りかかりながらじっと光景を見守っていた。
それからまたしばらくすると、完全に球体はさらに圧縮され、人ひとりがゴムスーツに覆われているかのような姿に変貌する。
「~~~っ♥」
すでに抵抗できなくなったのか、時折ビクンビクンと震えるだけになったバイサー。
中から聞こえてくる声も、雰囲気が変わり甘い声へと変わってきている。
「……」
およそ、十分後。
クロは完全に動かなくなるのを確認してから、ナツヒコが黒の元に歩み寄る。
自らの元に主が近づいたことに気づくと、クロはモゴモゴと咀嚼するような動きを見せてから、バイサーをペッと吐き出した。
「工事完了でシュ」
吐き出されたバイサーは力なく横たわっており、その身体は人型の下半身へと変わっており完全な女体……醜悪な悪魔から見目麗しい美女へと変わっていた。
ピッチリとしたライダースーツ風の黒いコスチュームを身に纏っていることを考えるに、バイサーもナツヒコと同じようにクロと一体化していると言えるかもしれない。
なお、クロの言っている「頂きまシュ」に二つの意味があったのは、賢明な読者なら既にご理解していただけたと思われる。
「おい、起きろ」
横たわるバイサーの頬をバチバチと叩き、覚醒を促すナツヒコ。
「う、うぅ……」
「お前の身体はクロが作り替えた、クロの細胞がお前の身体と一体化し、新しい生命体になったのさ。
生まれ変わった気分はどうだ?」
「……妙な気分ですが、悪い気分ではありません」
「ハッ、そりゃあ何より。
んで……クロに食われている間に聞かされたと思うが、お前の主人は誰だ?」
「クロ様です」
ナツヒコの質問を聞くや否や、恭しく跪きながら返答するバイサー。
「そのクロの主人は?」
「貴方様です、ナツヒコ様」
「だから、俺は?」
「私のご主人様です」
「よし、よーく分かってるじゃねえか」
ナツヒコはバイサーの言葉を聞いて満足下に頷くと、スーツを学ランへと変貌させて踵を返して入口へと戻った。
「おう、家に帰るぞ。 ついて来い」
「はっ」
「帰ってお風呂に入りまシュよ」
バイサーを伴って帰宅しようと、入り口を跨いだしたその瞬間だった。
「……んっ? ナツヒコ!?」
「ああ? イッセーじゃねえか、ンなとこで何してんだ」
「それはこっちのセリフだ!」
クロの簡単な紹介
見た目 mugenのkuromaru or 魔物娘図鑑のショゴス
能力 mugenのkuromaru + アメコミのヴェノム
喋り方 マーベルVSカプコンのシュマゴラス
性格 魔物娘図鑑のショゴス
いや、本当にこんな感じのが夢に出てきたんですって!