県外に出るの自粛とか地獄なんですけど?
そんな嘆きをしまして29話を始まります。
『志吹、この旋律を完璧に演奏を出来るように頑張ってくれ。そうすれば私は安心してお前に託す事が出来る』
父さんの声?でも真っ暗で何も見えない動かせない。また夢か…しかし託すとは何だ?
『これはな…神子家代々伝わるものでな、音色も完璧にしなければ駄目なんだ。あとは』
『助けたいと思った人に迷わずやる勇気と優しさ。それも大事だが、己の心構えが足りないとまず成功しない。まずは献身を知る事だ』
献身?
『そうだ。……まずお前には大切な人を見つける事から先だな』
大切な人?俺にはそんな人はいない。
『忘れるんじゃないぞ?じゃないとお前には早く…呪いが…』
朝六時
「…………」
「父さん…忘れていたよ。でも大切な人か、俺にはそんな人はいないよ」
「さて、朝食の準備と弁当を作らないとな」
俺はいつものように二人分の朝飯を作り始めた。
舞衣が毎朝こっちにやってきて朝食を食べに来ている。家出る意味あったのか疑わしいが、どうせ叔父が何か言ったんだろう。全く、どこまで嫌がらせすれば気がすむんだよ。
「そうなると舞衣はいい迷惑なんだな。無理矢理監視役にされてどう思ってるのだろうか?聞いてみるか」
程なくして舞衣がやってきたので聞いてみた。
「勘違いしないで貰えるかな?わたしから志願したから、監視」
「何だって?」
「寧ろ詩音だけが反対してたわよ。あの子が監視役として行きたがってけどね」
「やめてくれよ…でも結局来るじゃん。あいつは確か京都の名門校に進学してなかったっけ?」
倍率凄く高くて狭き門と聞いていたが。
「だからまずそこで結果を出してから来るみたいよ、早くて一年って所じゃないかしら?」
いいよ来なくても、俺にとっては。でも昨日紗夜さんに言った事はちゃんとしないとな。
「そっか、一年か…」
夏に千聖さんと一緒に墓参りに行く約束したし、一度戻ってみるかな。
「まあ夏休みに一度両親の墓に行くからその時に詩音に会いに行こうかな」
「……やめたほうがいいかもしれないよ?詩音のお父さんは志吹の事は大嫌いだから」
「知ってる、でもついでだよ。墓参りに行くのは俺一人じゃないしな」
「一人じゃない?…まさか志吹、Afterglowだっけ?その子達と一緒に行くつもりなの?」
舞衣が真剣な表情で返してきた。
「違う違う、千聖さんとだよ。どうせ舞衣は知ってるんだろ?俺と千聖さんとの接点を」
監視だから知ってるよな?
「千聖?…ってあの白鷺千聖なの!?」
「ああ」
何慌ててるんだ舞衣のやつ?
「まあ問題ないかな、だってこんな写真が出回ってるのに何も問題になってないからね」
舞衣はスマホを操作して俺と千聖さんが一緒に歩いている画像を見せてきた。
「いつ撮られたんだよこれ…」
無音シャッターカメラか…これからは気配も気に配らないといけないな。
「下の方にスクロールしてみたらどう?」
舞衣のスマホを操作して下にスクロールすると
「…………」
またかよ、また女扱いされてるとか何だよ!
「一度女装してみたら?絶対バレないと思うから」
「……絶対にするか!!」
不愉快の朝食を終わらせ、舞衣も俺も学校へ向かった。手帳はちゃんと鞄の中に入れたしな!
ーーーーー
「おはよ志吹」
「おはよう蘭……眠そうだな」
教室で蘭が眠そうに挨拶してきた。
「いよいよ来週だから…ガルジャムで結果を出す為に猛練習してたから」
「だからか…でもな蘭、あまり練習のやり過ぎは体壊すからそこを忘れるなよ?」
「わかってる。父さんに認めさせる演奏をしなきゃいけないから。納得するまて十分に練習しないと」
「そうか…でも絶対に無理だけはするなよ?」
「うん…」
蘭のやつ欠伸をしながら言ってもなぁ。
「授業中は寝てたほうがいいな、ノートとっておいてやるから」
「助かる」
そう言って蘭はそのまま睡眠に入った。
「ああ言ったし俺は要点だけをノートに書いておくか」
ノートにまとめてる間、蘭は昼までずっと寝ていた。教師は何も言ってこないのが不思議だ。
「午前中の授業全部寝たのかよ蘭は!?」
屋上で昼飯の時に巴が呆れたように言ってきた。
「なんかモカみたい」
「それは俺も思った。てかモカも寝てたんじゃないのか?」
「……すぴー」
寝たフリって事は図星か。
「自主練してたから…夜遅くまで」
「もうするなよ、体調崩されて出れなかったら本末転倒だからな?」
「わかってるよ」
「あはは…」
つぐみも何か元気ないな。まさかな…?
放課後、俺はまたいつものように屋上に向かう…わけじゃなく生徒会室へ向かった。
理由は簡単だ、落とし物箱へあの手帳を届ける為だ!
「失礼しまーす」
俺は生徒会室に入っていった。
「志吹くん?どうして生徒会室に?」
つぐみが奥の机で書類作業をしていた。
「つぐみ一人なのか?ええっと…落とし物を届けに来たんだけど」
「落とし物?それならこの書……」
そこでつぐみの言葉が途切れた。何故なら…
「つぐみっ!?」
地面に倒れそうになったつぐみだったけど
ギリギリのところで受け止める事に成功した。
「つぐみ……つぐみ!!」
「………」
つぐみから返事がこない。それに顔が凄く熱い…
「つぐみ、ちょっと失礼するよ」
俺はゆっくりとつぐみを床に下ろすと、首筋に手を当てた。
トン……トトン……トントン……
「…………この鼓動はやっぱりそうだ、間違いない」
過労だ。
蘭だけじゃなくつぐみまで無理しやがって…!
全く、少し昔の俺と同じことをこいつらは……
俺はつぐみを抱えて保健室まで運んだ。先生はいなかったのでベッドにつぐみを寝かせていた。
「……倒れるまでどんだけ疲れてるとか、笑えないよな」
俺は笛を取りだして演奏を始めた。
疲れをとるヒーリング音楽をな、でもこれは代償があるんだ。
「呪われし音楽集、其の参"
あの呪いを受けた時に習得した旋律だ、体に染み込ませるように覚えてしまったんだよなこれ。
ちなみに猫笛は其の十だ。
♪~♪~~
演奏すること数分後、つぐみの顔色はすっかり良くなっていた。
「ふぅ、こんなもんかな」
俺は演奏を終えると笛を元の位置に戻して、部活て学校に残ってるひまりと巴にメッセージを送っていた。
「ん……あれ?私、どうしてここに?」
つぐみが目を覚ましたようだ。
「起きたかつぐみ。突然倒れたから心配したぞ」
「志吹くん!?あっ…そっか…私、生徒会室で」
「思い出したか?俺に落とし物用紙を渡そうとしてつぐみは倒れたんだよ」
そしてその後保健室まで運んだのもな。つぐみは恥ずかしそうに顔を布団に被せていた。
「ぅぅ…ごめんね志吹くん、迷惑かけちゃって。やっぱり駄目だなぁ私って…」
顔を赤くしたと思ったら今度は急に
「私ね、蘭ちゃんやモカちゃんみたいに上手くなくて、一杯練習しなきゃって思って…ここずっとね夜遅くまで練習してたの」
「…………」
やっぱりな、蘭といいつぐみといい……
「でも、全然駄目で努力しても上手くならなくて」
つぐみの目から涙が出てきていた。
「努力って何だろうって思うんだ、私は……努力しても何も」
「つぐみ、そこまでだ」
「えっ」
俺はつぐみの言葉を遮った。
「努力が実を結ばないって思っているのかつぐみは?」
「だって…!」
やっぱりな、つぐみは…少し前の俺なんだよな。
「ある人の話をしよう。これは実在した話なんだが」
俺は話し始めた。正直言って自虐に近いなこれは…
「関西のとあるところに、男の子と女の子がいました。その二人は従兄弟同士で大変仲が良かったです」
「二人は小さい時からよく遊んだりして、親同士も仲は良好でした。しかし二人の関係は中学に上がる前の年に変化が訪れます」
あの忌まわしき事件がな。それにしてもつぐみは俺の話を聞いてくれてるけど、何か変だ。
「どうしたつぐみ?」
「ううん……続けてくれる、かな」
「あ、ああ…」
よくわからんが話を続けた。
「男の子は両親が代々行っている式典や奉納の勉強をさせられました。元々勉強が好きな彼は嫌ではありませんし、両親の事を誇りに思っていました」
「しかし、彼は実技のほうは不得手でした。そこで女の子のほうは彼の実技を真似てみました。するとどうでしょうか!瞬く間に彼を追い抜き、大人顔負けになるほどになっていきました」
「……っ!」
つぐみはやはりそこに反応するか、そうだよなぁ。
「そこからでした、男の子は女の子に向ける感情が変わってきましたのは。好きな勉強の方も実技同様に抜かれてしまい、大人達は彼女の方を囃し立てるようにしていきました」
「それでも男の子は挫けずに頑張り、頑張り…寝る間も惜しんで勉強と実技を練習していきました。その頑張りが大人達に認められましたのか分かりませんが、表舞台にようやく立たせてくれました」
「女の子の方は既に表舞台に立ち、大人と混じっていました。男の子は更に頑張りを続けています、寝食すら忘れて……」
「そして事件は起こります、男の子は中学二年生の時、祭典本番前に倒れてしまいました。過労と心労でした」
「…………」
ここから少し変えないといけないなこれは、まだ両親の事を話すわけにはいかないからな。千聖さんだけだな知ってるのは。
「当然親族からは軽蔑と失望されてしまい、両親もその後亡くなってしまいます。しばらく疎遠だった女の子は慰めに来てくれましたのかは今は分かりません、ですが男の子はもう女の子の事を仲良くする気はなく、突き放してしまいます。そして男の子はついに言ってはいけない言葉を言ってしまいます」
『努力するだけ無駄だった!お前には何一つ敵わないし大人もみんな…俺の両親は…きっと!……もう俺には一切構うな!絶交だ!』
「と、言い男の子は女の子とは別の事に取り組みました。料理、遊戯、作曲など幅広く」
今に繋がるとは思わないが、これもまた一つなんだよなあ…それと結局呪いのせいで笛だけはやらないといけないし。
「男の子にとってそこから中学卒業までとても辛く、キツい日々でした。しかしある人物は彼にこう語りました」
『逃げずに立ち向かえ、努力が実を結ぶのもそれは本人の心次第だ。だから挫けそうになったら思い出せ』
あの熊野にいた爺さん、名前も知らないけどあの人のお陰で俺は今がある気がするんだよ。
「つぐみ、自分に才能がないとか努力しても無駄とは今は結果が出ていないだけなんだよ」
「………そ」
「ん?」
「その男の子って、志吹くんの事だよね?」
「……そうだよ」
やっぱりわかるよな。
「志吹くんの過去にそんな事があったんだ。うん…それに比べたら私の努力なんて‥ちっぽけ、なんだよね」
「つぐみがそう思ってるならそうなんだろう」
「…………」
俺はハッキリと言った、だがな…
「だけど俺はそうは思ってはいない」
「志吹くん…?」
俺は知っている、つぐみの頑張りを。
「一度みんなにも聞いてみたほうがいいな。あと一ついいか?俺の笛を聴いてどう思っていた?」
正直怖い、向こうでは詩音と散々比べられてたからな。
「凄く上手かったよ!私は志吹くんの音、とても透き通ってて優しくて、その…あの…一杯練習して、努力したからだよね?」
笑顔一杯でつぐみが答えてくれた。
「練習もしたし沢山努力もしたよ。でもな、それはつぐみも同じ事が言えるんだよ?案外自分の事となると分かんないんだよな」
本当にな、こっちに来て俺はよかったと今は思うよ。
「だからさ、自分の努力を否定するなよ?……俺もだけどな。今のつぐみは昔の俺とそっくりだから」
もう二度と俺と同じ過ちは繰り返させない
「志吹くん、私…頑張ったのは無駄じゃなかったんだね‥…」
「ああ…つぐみの頑張りは無駄じゃないよ。みんなもそう思ってるよ」
「そっかぁ……うん、ありがとう志吹くん!私、もう自分の努力を否定しないよ!」
つぐみの表情がとても明るくなった。夕日が差し込む保健室につぐみの姿がとても綺麗に見えた。
「あはは…色々と話をしたら体調もよくなっちゃったよ。私、どうして倒れたのか分かんなくなっちゃった」
「そうだな、今は何ともないんだよな?」
「うん!大丈夫だよ!」
「そっか」
ちゃんと効果はあったんだな、そうかそうか。
「そういえば志吹くん、話の中に出てきた女の子って舞衣ちゃんの事なの?」
「違う、あいつは全然そんなんじゃない。ふつーだよ」
どうしてつぐみがそんな事を聞くのか俺は理解出来てなかった。
そしてすぐさま巴とひまりがやってきた。先生は帰ったそうだったし、これから今後の事で蘭達と話し合おうという事になった。
巴からは少しからかわれたが感謝されたし、ひまりは…ニヤニヤしていた。別に変な事はしてないだろうに。
つぐみに気をつけろよと言い、俺は帰っていった。
……落とし物、返すの忘れていたよ。
今回も個人回 つぐみ編でした。
いよいよ次回はガルジャムになります!
感想でも指摘でもメッセージにて送ってもらっても構いませんので、なんでもごされですので、どうぞ