笛吹き少年は少女と共に運命に抗う   作:ジャムカ

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長らくお休みしておりました
決して、沙綾や千聖さん、薫先輩やモカなどが出てるアプリゲームをやってた訳では……
そ、それでは38話が始まりますよ


笛吹き少年は臨海学校へ行った(一日目)

六月末 いよいよ臨海学校の日がやってきた。

 

もう暦の上では夏だから朝からとても暑い。その辺は関東も関西も変わらないか。

 

 

「舞衣は大丈夫なのか?」

 

 

いつもの朝食、舞衣と二人で食べてるのだが俺は気になった事がいくつもあったので聞いてみた。

 

 

「何がよ?」

 

 

花咲川の制服姿ではなく体のラインがくっきりとわかるワイルドファッションの舞衣なんだが、随分とぶっきらぼうな返事をしてきた。

 

 

「班や部屋割とかさ」

 

「…………こころの班に入れて貰ったから」

 

「そっか」

 

 

そういや舞衣はこころ達と一緒にいる事が多いんだっけな?一体何やってんのやら……

 

 

「朝飯食べ終わったら出発する準備しないとな。なんせ二泊三日もだから」

 

 

普通に日帰りか一泊なのかと思ったけど何故か二泊だ。

俺の体について色々問題あるけど、それについては教師もわかってくれていたらしい。

多分理事長の雅さんが説明してくれたのだろうから助かるよ。

 

 

「そんじゃ舞衣、また後でな」

 

「……うん」

 

 

素っ気ない返事で舞衣は家から出ていった。何なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

羽丘学園からバスで向かうからとはいえ、いつも通りの制服……ではなく私服でいいとの事だ。

 

 

「まあ普段と変わらんでもいいよな。舞衣は変わりすぎだがな…あの格好で行くつもりなのか?」

 

 

などと考えていたらインターホンが鳴った。

 

 

「お…おはよう志吹」

 

 

赤メッシュの蘭が来ていた。黒と赤のシャツにチョッキみたいのを羽織っていたが何て言うんだろう?

 

 

「あ、ああ…おはよう。って蘭一人か?」

 

 

別に集合場所を俺の家とか決めてる訳じゃないけどな

 

 

「あたしだけだよ。志吹と…た、たまに一緒に登校するって前に言ってたよね?」

 

「そうだっけな?」

 

 

悪い全く覚えがないんだが……

 

 

「とっ、とにかく早く準備しないと遅刻するよ!」

 

「わーったよ」

 

 

とはいえもう終わってるんだが、色々戸締まりとかしないとな。

 

 

 

「お待たせ。じゃあ行こうか」

 

 

数分経って戸締まりも終わらせて、玄関で待っててくれた蘭。

 

 

「みんなもう待ってるって」

 

「マジか。少し走っていくかな」

 

 

玄関の鍵も閉めて蘭と一緒に羽丘まで走っていった。ちなみに鍵は財布の中にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!蘭と志吹が来たぞ」

 

 

校門前で巴の姿が見えるとその後ろにモカとひまりも出て来た。

 

 

「ら~ん、しーくん~遅いよ~」

 

「といってもまだ時間余裕あるけどね」

 

 

ひまりの発言で俺は蘭に目をやると

 

 

「……時間に余裕持って行動しないと」

 

 

俺からそっぽ向いて学校のグラウンドへ向かっていった。ってまだそんなに集まってねーじゃんか。

 

 

「蘭のヤツめ…まあいいや。巴にモカ、ひまり、おはよう」

 

「「「おはよう(~)」」」

 

 

三人揃って元気よく朝の挨拶してくれた。

ひまりは舞衣のような派手さはないけど、相変わらず体のラインがわかりやすいのを着ていた。ワンピースタイプというのか?

モカは流石に暑いのかごく普通のTシャツだ。下は知らんし見えんから答える必要はないな。

巴はタンクトップにジーンズ……先生に止められそうだけど大丈夫なんかな?

 

 

 

「つぐみはどこにいるんだ?」

 

 

そういやつぐみだけいなかったな、どうしたんだろう?

 

 

「あーつぐは……」

 

「委員長だからあそこで先生と話してるよ」

 

 

ひまりがグラウンドへ指を差すと奥のほうにつぐみらしき後ろ姿が見えた。

 

 

「なるほどね」

 

 

俺は納得してしまった。

 

 

「蘭一人で先行っちゃったしアタシ達も行こうぜ」

 

 

巴を先頭にモカとひまりも続いてグラウンドへと向かっていった。

 

 

俺は一応特別な事情があるから先生達に確認したかった事がいくつかあるから、つぐみのほうへ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「おはようつぐみ、先生方もおはようございます」

 

 

つぐみの近くまでいくと俺は朝の挨拶をしていた。

 

 

「おはよう志吹くん」

 

 

私服なのかワイシャツ姿のつぐみはこちらに振り返っておはようと言ってきた。朝の挨拶とはいえつぐみの表情はさわやかで天使みたいに見えた……なんて本人には言えないな。

 

 

「神子君おはようございます」

 

 

つぐみと話していた先生にも挨拶を交わし、俺はつぐみと先生との話の邪魔になりそうなので俺のクラスの先生と話をしにいった。

 

 

 

「ああ神子君、理事長から話は聞いていますよ」

 

「色々とご迷惑をおかけします。本来は臨海学校は行ってはいけないとは思いましたが」

 

 

そうなんだよ俺はこの体のせいで正直行きたくはなかったんだけど、俺だけ行かないとなるのは不自然という理事長こと雅さんが無理矢理にな。

 

まあおかげで融通が効きそうで助かってるが、笛の事とか。

 

 

 

「…………君の体については私だけしか知らないの、だから何かあった時は遠慮せずに私に言ってね?他の先生方は何も知らないわ」

 

「わかりました……」

 

 

大っぴらにはいえないよな。担任の先生だけでも味方はかなり助かる。

 

 

「とりあえず部屋割りと入浴は神子君だけ別にしてあるから安心して」

 

「ありがとうございます」

 

 

よかった…ひとまず安心だ。

 

 

「もうすぐバスの出発時間だから集合ね。それとこちらの方で何かあったらすぐに伝えるから」

 

「はい!」

 

 

俺は気合いの入った返事をして蘭がいるグラウンドまで向かっていった。

 

 

「(……何もないと良いわね)」

 

 

担任の先生は少し不安そうな表情をしていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「……で、あるからして」

 

 

グラウンドに一年生全員集めてから先生方がこれから先の説明やらをしている。まずバスで移動だが花咲川に向かいそこで花咲川の生徒と合流、バスも一緒になるそうだ。

 

 

……いい加減だなぁ。

 

 

「なあ蘭」

 

「何?」

 

 

俺は先生の説明を聞きながら隣にいる蘭に話しかけた。ちなみにモカ達はクラスが違うので近くにいないしバスも別だ。

 

 

「バスの席って窓際がいい?」

 

 

バスの席は前日のHRで決められていた。といっても席順みたいになっていて俺と蘭は一緒の席だったので今どっちが窓際にするか決めようとしていた。バス酔いしやすい人は窓際って相場が決まってるからな。

 

 

「うん」

 

 

まあ蘭は酔いやすい体質なのか即答だった。

 

 

「わかった、俺は酔い止め飲んではいくけど蘭はどうする?」

 

 

結構強力なんだが凄く眠くなるという。

 

 

「いらない。志吹はバス酔いしやすいの?」

 

「そこまでじゃないが結構長距離だからな、念のためだよ」

 

 

何事も慎重にな、何が起こるかわかんないし。

 

 

「そっか…」

 

 

 

 

微妙にしおらしい蘭だったが気にせず先生の説明も終わり、これからバスに乗るが…

 

 

「しーくん」

 

「ん?」

 

 

モカがすぐ側まで来ていた。

 

 

「蘭の事頼むね~」

 

「あ、ああ…わかった?」

 

 

何が言いたかったのかわからん。

 

 

 

 

 

バスが出発するなり蘭は寝やがった!そういうことかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、花咲川の生徒もバスに乗って来ていた

見知った顔は……

 

 

「あーっ!しぶりんだーー!」

 

「お前かよはぐみ」

 

 

やたら元気な声で某アイドルなあだ名で呼ぶその声は商店街の精肉店の娘。

 

 

「シブキサンもこのバスでしたか!」

 

 

その後ろにはつぐみの店でバイトしていている若宮イヴ、こやつもはぐみ並みにテンション高すぎ。

 

 

「志吹くん?」

 

「ほんとだ志吹がいる」

 

 

更にその後ろには香澄とおたえ

 

 

「神子君もここだったんだね」

 

「あわわっ!志吹君と一緒……!」

 

 

まあ予想は出来た、沙綾とりみ

 

 

って有咲は?

 

 

「有咲は私達と違うクラスだから別のバスだって」

 

「俺の心を読むなおたえ」

 

「それほどでも」

 

「誉めてねえ」

 

 

なんやかんやで俺の回りの席が騒がしくなっていった。ちなみに席替えは自由だったので色々と席が変わっていた。

 

あと同じクラスの男子二人の戸崎と内田はいつの間にか前の座席にいた。どうしたんだろうな?

 

それと蘭も流石に寝られなかったのか観念して香澄と話していた。てか知り合いだったみたいだな。

 

 

「……」

 

「早い再会だな」

 

 

んでちゃっかりと舞衣もいる訳だ。そういや同じクラスだっけ。

 

 

「騒がしくなりそうね」

 

「そうだな。酔い止め飲んだけどこれ眠気吹っ飛ぶな」

 

「わたしも飲むから頂戴」

 

「ほいよ」

 

 

俺はリュックのサイドパックから酔い止めを取りだして舞衣に渡した。

 

 

「ありがと」

 

 

そのまま一錠をひと飲みした。

 

 

 

 

バスは出発してしばらく経つが蘭と香澄はまだ話している。意外と蘭も楽しそうな顔をしてるからバンド関連なんだろうな。

 

 

 

「……くぁ」

 

「凄いあくびだね。眠いの?」

 

 

もう席がごちゃごちゃに入れ替わって俺は何故か元いた場所から反対側の席に移動してた。そして隣にはおたえがいるという訳だ。

 

 

「酔い止め飲んだからな。あれって効き目はいいけど凄く眠くなるんだ」

 

「ふーん…じゃあ寝たほうがいいかも?」

 

「そうするわ。お休み」

 

「ん…」

 

 

俺は目をつぶり睡魔の世界へと旅立っていった。何か俺の肩に重みがあった気がするが確認する術もなかった。

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

「あれー志吹くん寝てる?」

 

「タエさんも寝てマスネ」

 

「…………なっ!?」

 

「志吹君…おたえちゃん…」

 

「お互い肩が当たって寄り添ってる。あはは…」

 

「あとでこころんに伝えよっと」

 

 

どうやら俺とおたえはお互いにくっついて寝ていたと後から香澄から聞いた。蘭とりみは不機嫌になっていたのを俺は知るよしもなかった……

 

 

 

舞衣も寝ているけど存在はスルーされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「とーーちゃーーーく!」

 

 

目的地の鴨川…もとい宿泊施設に着き、いの一番にはぐみが降りてきての一言。

 

 

「元気だなあいつは…こっちは寝起きでまだボーッとしてるっつーのによ」

 

「ホントにそう思うわね。わたしにもその元気を分けて貰いたいくらい……うぷ」

 

「どうやら酔い止めの効果なかったようだな」

 

「…………」

 

 

とてもツラそうだな。

 

 

「しかしあれだな…ここって」

 

 

よくある寮施設という感じだ。あとその裏に山がありそこでキャンプなど出来そうだな。

 

 

「今日の夕食はあの山で調理実習かな?」

 

 

沙綾の予想通り夕食はあの山にあるスペースによく見るキャンプ施設がある場所へ向かっていった。だとすると定番のアレかな?

 

 

ちなみに荷物等は既に部屋へ置いていったが一つ問題があった。

 

 

 

 

 

「えっ?部屋が空いてないのですか?」

 

「ええ…花咲川の生徒もいるからか今年はいつもより部屋が多く使っているせいで足りなくなったみたいなのよ」

 

 

担任の先生の計らいでみんなとは別の部屋にしてもらったのだが……ちなみに男子連中は二部屋使っている。

 

 

「申し訳ないけど神子君、テントで泊まって貰えるかな?設置とかやっておくから」

 

「…………わかりました。色々とワガママを言ってるのはこちらですから」

 

「でもある意味そこのほうがよかったかも知れないね。だって一人の方が都合いいでしょ?」

 

「まぁ確かに」

 

 

先生の言う通り、誰もいない山奥で笛吹くのは都合がいいけど。

 

 

「なんにせよトラブルのない臨海学校にしましょうね。君の身に何もないように」

 

「もう既にトラブル起こってますがね」

 

 

先生はてへっ☆な笑いをしていた。あのね……

 

 

 

 

 

 

 

男子班スペースにて

 

 

「で、この中に料理経験のある人は手を挙げてくださーい」

 

「「「「…………」」」」

 

 

しかし誰も手を挙げなかった

 

 

夕食は山のキャンプ場でやることになったのは予想出来た。作るやつもカレーと想像に容易かった。

 

しかし誤算はあったようだ。料理出来る生徒があまりにも少なかったようだったみたいで班ごとに調理するのは無謀ともいえた。

 

 

「安藤も岩田も無理となると俺一人で指示だしするしかなさそうだな……」

 

「悪いね神子君」

 

「こればっかりは、ね」

 

「今の男子は料理も出来るのは多いと思ってたがな」

 

 

最近男飯ってのもあるぐらいだし

 

 

「それは固定概念だよ班長」

 

「その班長ってのはやめい」

 

 

全くこいつらは場を和ませるのは上手いが案外他はポンコツなのもしれん。

 

 

「しょーがない、指示するからそれでいいかな?カレーだから簡単だしさ」

 

「「宜しくお願いします!!」」

 

 

元気のいい返事だなほんと……

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「内田と戸崎は飯盒(はんごう)で米を頼むよ。やり方はさっき教えた通り米をまず水で研いで白いのが出なくなったら……で」

 

「「……(コクリ)」」

 

「で岩田はニンジンを……安藤は玉ねぎを……」

 

 

こうして俺の指示を出してみんな従ってくれて動いてくれた。俺は肉とじゃがいもを切る作業とカレーのルー調整だ。さっきみんなに聞いたが辛さの好みが見事にバラバラでどうしようかと悩む。

 

どこかのスポ根料理漫画で誰もが美味しく食えるカレーを作るとか言ってたが、いったいどうやって出来たんだろうか?

 

 

「とりあえず中辛と辛口を取ったがアレしかないか…あまり好きじゃないんだがなぁ……」

 

 

俺はカレールー選び終わり、調理を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか?いっせーので開けるぞ?」

 

 

完成したカレー、ご飯は既に皿にのせていてあとはカレーを入れるだけなんだがどうやら皆緊張しているようだ。

 

俺の腕を信用してないのか自分達が自信ないのかは知らんがな。

 

 

「いっせーのーでっ!」

 

 

俺はカレーが入った蓋を開けた。

 

 

 

 

「「「「「「「…………!?」」」」」」」

 

 

うむ、ちゃんとカレーになっているな。こいつらは大してやってない気がするがまあいいや。

 

 

「よしっじゃあカレーよそるから各自の皿よろしく」

 

 

 

各自カレーが行き渡ったところで…

 

 

「「「「「「「「いただきます!!」」」」」」」」

 

 

元気のいい声が三人程聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ旨っ!?」「旨い!」

 

 

岩田と安藤はいいリアクションで答えてくれた。他は表情でわかった。

 

 

どうやら上手くいったようだ。辛いのが好みの戸崎と内田はカレーをそのままよそったが安藤は少し手を加えた。

 

 

ハチミツを少し入れる、それだけだ。

 

 

「どうやら皆満足してくれたようだな、よかったよ」

 

 

俺も胸を卸した。こういうのは流石に経験はないから緊張はするもんだよ。

 

 

「まさかハチミツで辛さの調整するなんて考えもしなかったよ。本当に料理経験あるんだね神子君は」

 

「お前らも少しは料理しとけ。岩田もこれから必要になるかもしれないぞ?」

 

「考えとく…かな?」

 

 

それ無理なやつだ。

 

 

「しーーーぶきーーー!!」

 

「どわっ!?」

 

 

突然俺の後ろから大きな声と背中に衝撃が走ってきた。

 

 

「こころ!危ないからやめなよ!」

 

 

どうやらこころが俺の背中に抱きついてきたようだ。しかしカレーの皿が危うく飛び散りそうだったよ。それと奥沢が止めていたが間に合わなかったようだな。

 

 

「久しぶりね志吹!」

 

 

その黄色い瞳と髪は俺のオアシ…ではなく花火のようだった。

 

 

「バスも違ったから会えなかったなこころ。で奥沢とこころはカレーはもう作ったのか?」

 

 

俺は奥沢に目線をやると……

 

 

「いや、その…大変言いづらいんだけど」

 

「?」

 

 

何だろう、嫌な予感しかしない。

 

 

「神子の作ったカレーを食べたいって聞かないんだよね。こころは」

 

「何だそんな事か。ちょっと待ってろ」

 

 

逆に俺がこころ達のカレーを食うのかと思ってたから、すっげえ不安しかなさそうな感じだしな。

 

 

「ほれ、二人の分のカレー」

 

 

そういや二人の辛さの好みは知らんから少しハチミツを入れた。

 

 

「……旨い!」「美味しいわ!」

 

 

よかった。二人共いい感じの辛さ調整だったようだ。

 

 

「「…………」」

 

 

安藤と岩田がジト目で俺を見ているが気にせずに。

 

 

「(神子君って花咲川にも知り合いがいたなんて)」

「(ほんと凄いね。どれだけ女子と知り合えたのか聞きたいよ)」

「(あとで聞いてみよっか)」

 

 

お前ら聞こえてるからな?ぜってぇ教えねえがな!

 

 

 

そして香澄達や蘭達まできてもう目茶苦茶になった。カレーは香澄達五人でもう無くなってしまいモカやひまりから大変なブーイングを食らった。

 

理不尽だ。あと奥沢から聞いたが舞衣は体調を崩して部屋で寝ているとの事だ。珍しいなあいつが体調崩すなんてな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「肝試し?」

 

 

夕食食べ終わってこころ達女子はそれぞれの班の場所へ戻っていった後、皿の洗い物をしてる時に安藤がそう言ってきた。

 

 

「しおりに書いてあったよ?一日目の夕食後にやるって。希望者はだけど」

 

「ふーん…俺はあんまり興味ないんだが」

 

「ちなみに神子君は強制参加だって」

 

「なんでだよ!」

 

 

 

俺だけ強制参加なのは気に食わんが、岩田や安藤も行くつもりだったみたいだ。あとの男子は参加しないで部屋に戻っていったが…

 

 

 

 

 

 

「志吹くんも参加するんだね」

 

「強制参加だ…」

 

 

午後七時半、夕食の片付けが終わりその場が集合場所になったのか肝試しの希望者のみがいたが、男子は俺入れて三人他女子二十人といったところか。

 

そんでひまりが俺の隣にいる。

 

 

「男子は強制参加?でも人数少なくない?」

 

「俺だけだよ」

 

「あれ?そなんだ…志吹くんも大変だね」

 

 

ひまりはそう言うが笑いを堪えているのが丸わかりだ。

 

 

「そういえば蘭と巴は?」

 

 

いつも五人一緒だから肝試しもやるのかと思ってたが

 

 

「あの二人は怖いの苦手だから先に部屋に戻ったよ」

 

「ふーん?蘭が苦手なのはなんとなく知ってたけど巴もダメなんだな」

 

 

意外な巴の一面だ。怖いものなしだとずっと思ってたから。

 

 

「モカとつぐみは平気なんだな」

 

「あの二人はね。特にモカは絶対楽しんでやると思うよ」

 

「……それな」

 

 

 

ひまりと話していたら時間がやってきて二人のペアで行くみたいだ。

 

ペアはくじ引きで決めるらしく、同じ番号同士で順番とペアが決まる方式だ。

 

 

 

 

そして俺はくじを引き出た番号は……

 

 

 

 

「三番……同じ番号は誰だろう?」

 

 

 

俺は辺りを見回すと友達同士で番号を見せ合ってるみたいる生徒達、モカとひまりとつぐみもやっていた。

 

んで三人とも違うらしく俺の方へ向かってきた。

 

 

「志吹くんは何番だったの?」

 

 

つぐみが聞いてきて俺は三人に番号を見せた。

 

 

「あっ!私とだ」

 

 

ひまりが三番と書かれたくじを見せてきた。ひまりと俺がペアになるのか。

 

 

「よろしくなひまり」

 

「うん!肝試し楽しもうね!」

 

 

俺の手を握りしめてきた。

 

 

「「………………」」

 

 

モカとつぐみが恨めしそうに見てきたが知らんぷりをして、いよいよ肝試しが始まろうとしていた。

 

 

 

「三番同士の生徒はそろそろ出発して下さい」

 

「おっ呼ばれたな、それじゃ行くかひまり」

 

「おー!」

 

 

 

出発地点らしき山道の入り口で教師が言ってきた。どうやらこの道からスタートみたいだ。

 

 

「はい懐中電灯と地図。迷わないようにね?」

 

 

教師からそれを貰うと俺は懐中電灯でひまりは地図を手にした。地図によると、どうやらこのまま一本道の山道を進んで目的地にある物を取って先の道を下っていくとゴールらしい。

 

 

「しかし結構暗いな…月明かりも殆ど遮断されてるし」

 

「だね…蘭と巴は絶対無理だよこれ」

 

 

懐中電灯を頼りに道を進むけどマジで暗い。だけどひまりと話をしながらでも進むのは容易いか。

 

 

「…志吹くんと二人きりって初めてだね」

 

 

暗い山道の中ひまりが言った。

 

 

「そうだっけな?」

 

「そうだよ!」

 

「うーんと?つぐみとは商店街案内で…蘭とは家で…モカとは地下で…巴はラーメンで…あっ!ひまりだけないな」

 

「でしょ!というか他のみんなとはもう!?わたしだけ仲間外れだったの!!?」

 

 

ひまりは頬を膨らませていた。

 

 

「悪い悪い…だってそんな機会もなかったしな」

 

「じゃあ臨海学校が終わって、その週末にケーキごちそうして!志吹くんの家で」

 

「……」

 

 

こいつめ、ただケーキが食いたいだけだろ!!

 

 

「わかったよ。全く…ひまりはafterglowの甘党って回りから認識されるぞ?Roseliaとかに」

 

「それは大丈夫かな?友希那さんと蘭はバチバチだし、リサ先輩もあこちゃんも大甘だもの」

 

 

自信満々に言うひまり。

 

 

「それにつぐだって甘党だもん!わたしだけじゃないよ!」

 

「わかったわかった…そう熱弁しなくてもな」

 

 

暗い夜道なのにひまりとの会話は止まる事のなく、山道を進んでいく。

 

 

「でも志吹くんのお陰でもあるんだよ。蘭の事とか、つぐの事とか…今更言うのもなんだけどね」

 

「志吹くんがいなかったらわたし達はどうなってたか分からないし、あの時も今もこうして臨海学校に行けるのも志吹くんが助けてくれたから…」

 

「ひまり…?」

 

 

ひまりの声のトーンが落ちていった。

 

 

「わたし達を助けてくれて本当にありがとう志吹くん!」

 

 

その瞬間は月が出てひまりの表情がくっきりと見えていた。その顔は俺に向かって満面の笑みで言ってくれた。

 

 

「……それは俺もだよ、ひまり」

 

「えっ?どういう…」

 

 

俺もひまりに近づいてそう答えた。

 

 

「ひまり達がいなかったら俺は…」

 

 

どうなっていたか分からないが、音楽をやろうとは絶対に思わなかっただろう。それほどまでに影響されたんだよ。

 

 

「ししし志吹くん!!!?」

 

「あっ」

 

 

月が隠れてしまい、俺とひまりの距離が掴めなくなってしまい明かりも忘れていたから…

 

 

「わっ…悪い!」

 

「うううん!大丈夫、大丈夫…」

 

 

ほぼゼロ距離まで顔が近づいていたので、ひまりはすぐに離れた。

 

 

「………」

 

 

ひまりはそのまま黙ってしまった。沈黙が気まずい…

そうしてる間に目的地と思われる場所に着き、いかにもそれを拾ってそのまま山道を進んでいった。

 

お互い何も喋らずに進む。

 

この先は下りのようですぐにゴール地点に到達した。ひまりはまだ黙っていた。

 

 

「はい確かに確認したわ。お疲れ様」

 

 

教師にそれを渡す。

 

 

「志吹くん」

 

「ん?」

 

 

ようやくひまりが口を開いた。

 

 

「わたし達がいなかったらって…ううん!何でもない!おやすみっ!!」

 

 

俊敏な動きでひまりは宿泊寮へ戻っていった。

 

 

「何だったんだひまりは?まあ俺もテントへ行くか。荷物もあるし」

 

 

途中香澄とりみにすれ違って俺が山で寝ると伝えたら凄く驚かれていたが、まあそうだろうな。

俺だけテントだなんて、キャンプみたいだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

「志吹くん…」

 

 

 

逃げるように志吹くんと別れちゃったけど、あのままだとわたしは冷静を保てる自信がなかった。

 

 

「うぅー!」

 

 

聞きたい事もあった。志吹くんもわたし達に影響があったのはどうしてかとか。でも無理だった。

 

 

「わたし…もしかして…」

 

 

この胸の痛みは間違いないかな……?前に読んだ恋愛漫画とおんなじ気持ちになってるんだもん。

 

 

「志吹くんの事、好きになっちゃったんだ…」

 

 

これじゃあつぐの事言えないよね、ううん違う。

 

 

つぐと同じ気持ちになっちゃったんだ。

 

 

 

だから話そう。つぐにわたしの今の気持ちを…ね。

 

 

「つぐみが何だって?」

 

 

「ぎゃぁぁぁあああ!!!」

 

 

いつの間にか宿泊施設に戻っていたらしく、蘭が入り口に居たのをわたしは気づかずに悲鳴を上げてしまった。

 

 

「っ…!何でそんなに驚くの?びっくりするんだけど」

 

「らららら蘭!?いいいい今のきき聞いてたのぉぉ!?」

 

「んと、つぐみとか…し、志吹の事とか///」

 

「ほぼ全部じゃん!!」

 

「うん……実はさっき部屋で巴と話してたんだけど」

 

 

蘭の顔が少し赤くなっていた。多分わたしはもっとだろう。

 

 

「モカとつぐみが戻ってきたら話すから待ってて」

 

「わかったよ…」

 

 

このあとわたし達五人はあらためて仲良しだってのが証明出来てよかったのか悪かったのか分からなくなった。

 

 

だってみんな志吹くんの事が好きって告白しちゃったから。ライクじゃないよラブだよ?

 

 

蘭とつぐはわかってたけど、まさか巴とモカまでもとは思わなかった。

 

わたし達は志吹くんに救われた。だからなのかな?

それが好きという感情に変わるまでは遅くはなかったのかもしれない。

 

巴は太鼓での勝負が切っ掛けで

 

モカは話してはくれなかったけど好きとは言ってくれた。珍しく狼狽していたし。

 

わたしは…やっぱり肝試しが決定的かな?内容は話してないけど。

 

 

 

 

 

 

 

志吹くんはどう思ってるのか…でも以前に舞衣ちゃんに聞いた時は何ともないって言ってたっけ?

 

 

あの時と今はまた違うしちょっと聞いてこようかな?

 

 

その話はまたのちほど…にね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…そろそろ11時になるから風呂に入れるかな?」

 

 

担任は俺の事情を知ってるから、風呂の時間を融通というか遅くしてくれていた。

まあこの痣ではみんなとは入るのは無理だろうな。

 

 

 

 

「よし誰もいないな?」

 

 

宿泊施設の男子風呂に着くなり回りを確認してから、俺は衣服を脱ぎ出して浴場へと入っていった。

 

 

「こういう風呂は久しぶりだ」

 

 

露天風呂ってこうなってるんだな、俺はその広い風呂に入ると中央まで進んでいった。

 

 

俺は感心というか初めて入る露天風呂に油断していた。物音を聞き逃していていた事に。

 

 

「俺は……ん?」

 

 

思わず後ろを向くと人影が見えてしまった

 

 

「えっ?」

 

 

そこには一糸纏わぬ姿の舞衣であった。

 

 

 

「「うわああああああああああ!!!」」

 

 

お互い叫びに近い声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

俺と舞衣、同時に反対を向いた。

 

 

……そして数秒の沈黙が流れると

 

 

「志吹が何でここにいるのよ」

 

「舞衣こそ何で」

 

 

完全な水掛け論になってしまっている。

 

 

「俺はこの時間じゃないとまずいんだよ。舞衣だって知ってるだろ?」

 

 

痣の事は舞衣だってわかってる筈だ。

 

 

「舞衣はどうしてこんな時間に?しかもここは男子風呂だぞ?」

 

「それは…体調悪くてさっきまで寝てて、起きてからしばらく先生と黒服さんと話してて」

 

 

黒服さん来てたんだな…こころか。

 

 

「風呂に入った方がいいと言われて、今の時間は男子風呂しか空いてないって先生が」

 

「それでか、というか俺の存在は忘れていたな?」

 

 

まあ舞衣になら俺の裸見られてもあまり困らないか。

 

 

「舞衣」

 

「な、何っ!?」

 

 

俺は舞衣のほうを向いて近づいていったが、まあ舞衣も女の子だ。俺と一緒なのは嫌だろうな。

 

 

「俺は先に出るよ。舞衣が凄く嫌そうだしな」

 

 

俺は風呂から出ていった。

 

 

「えっ!?ちょっ……」

 

 

舞衣が何か言いたそうな気がしたようだが、俺はそのまま風呂場を後にした。

 

 

「…………」

 

 

取り残された舞衣。

 

 

「志吹の馬鹿…私は別に嫌じゃないのに!」

 

 

こぶしをお湯に叩きつけていた。

 

 

「でも、これを見られないでよかった」

 

 

お腹にある痣は志吹との同じだ。私はこの為に体調を崩していたし、こころ様に近づいたのもこれが理由だ。

 

 

「志吹…私は負けないから!志吹は死なせない!!」

 

 

固く決意した舞衣であった…全裸姿で。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、日付変わるまで待つか」

 

 

俺はスマホを出すとL○NEの通知があった。友希那からである。

 

 

『志吹の作った曲に歌を入れ終わったわ。臨海学校が終わったら聴かせるからお願いね』

 

 

「ああ、出来たのか。一体どんなんだろうな」

 

 

実は少し楽しみである。友希那の歌声は多分詩音でも敵わないだろうから。

 

 

少し羨ましいな

 

 

 

そう考えながら日付が変わり、いつもの笛の演奏をしてテントの寝袋で就寝した。

 




やっとひまりが自覚しました
そして五人揃って告白タイムは別の話でしますので
しばらくお待ちください


感想でも指摘でもメッセージにて送ってもらっても構いませんので、なんでもごされですので、どうぞ

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