ダイナゲートは何を見た。   作:サマシュ

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何か書けました。ダイナゲートくんは狩人と出会います。彼女はどうやら何かをやろうとしていますね……それではどーぞ。


狩人編

我輩はダイナゲートである。名前はまだない。ここ最近我輩の身の回りでは相も変わらず我輩を様々な名で呼び続けられているものの、やはり我輩はダイナゲートなのである。名前は無いのだ。識別番号はあるが、それもあくまで他のダイナゲートと交信するときに利用するだけ。名前とは言い難いものだ。故に我輩は“ダイナゲート”なのである。

 

今日は何時ものごとく工場内を仲間のダイナゲート達と巡回中である。ダイナゲートは基本的に集団で動くものだ。我々は弱く小さなモノである、その弱さを補うために固まるのだ。それこそ捕食者から身を守る魚群が如くだ。それに集団で歩けば自然と監視の目が増える。多くの脅威を捉えることが出来るのだ。

監視がてら我輩はとある機械の目の前で止まった。

そこに鎮座しているのは定期的に音を発しては我々の同胞を作り出してゆく工業機械達。時折思うのだが、彼らはああやって昼夜問わずに我々の素を作り出して居る……平気なのであろうか? 彼らは言うなれば我々の親、もといあまねく全ての鉄血工造製品の祖であり、母である。我々は彼らに作られ、型どられ、生まれるのだ。

そんな彼らはずっと同じ場所に固定され延々と単調な作業をしていく。そこに意思の介在なぞ無く、ただ作り続けるのみ。果たして幸せなのか、その答えを見つけるのはとても難しいものだ。自我を持ってしまった我輩でも分からぬことは多い。ただ出来るのであれば、あの機械達に問いたい。“幸福とはなんぞや”と。他のダイナゲート達が答えることの出来なかったものに彼らは答えてくれるやもしれぬ。

 

「そこのダイナゲート達、こっちに来てくれ」

 

がちり、と我輩のAIが声のした方向へ向かえと指令を出してくる。我輩はそれに抗うこともなく、他のダイナゲートとともに鉄製の足を鳴らしながら動き出した。嗚呼悲しきかな、我輩はダイナゲート、下級の機械。それに逆らう事など出来ないのだ。足並み揃えてがちゃりがちゃりと進むその先には、白髪に下の方で纏めたポニーテールで胸元を大きく開いた女性が立っている。

彼女はこの鉄血工造が誇るハイエンドモデル、『狩人(ハンター)』である。その名前に相応しい鋭い目付きの彼女は、何時も携帯している二挺の拳銃を持っていなかった。その代わり、片手に人間が使うような小口径のライフル銃を持っていた。何をするつもりなのだろうか、てんで分からぬ。

 

「いやぁ本当にちょうど良かった。」

 

何時もの冷静沈着な表情を浮かべた彼女は何処へ行ったのだろうか、今の狩人の顔は随分と朗らかである。そんなに嬉しいことでも起きたのか、仲間のダイナゲートと相談するも答えは得られぬ。仕方がないので大人しく狩人のほうを見ていると、彼女は我々に言い聞かせるように口を開いた。

 

「お前達ダイナゲートをこうやって集めたのは他でもない。お前達………

 

 

 

 

………狩猟に興味は無いか?」

 

 

 

 

 

 

 

『よし、A部隊は目標の前方まで回り込め。B部隊はそのまま追いかけてC部隊は左右を固めろ。上手い具合に誘導しろよ?』

 

最近我輩が学習したことなのだが、鉄血工造の裏手には緑豊かな自然がある。今や珍しい野性動物が跳梁跋扈し、我が生命全うせりとでも言うように、草木がこれでもかと繁っている。この壮大な自然はどうやら鉄血工造の地域貢献プロジェクトの一環で作られたものであり、時折この自然を見に人間達が彷徨いている様子を時々見掛ける。

 

そんな自然の中を我輩は仲間と共に駆け抜けていた。目の前には大きな四足歩行の草食動物。人間はこれを鹿と呼ぶ。

木々を縫い石を飛び越え走り行くその姿は見ていて参考になるものだと、我輩は動きを制限するような射撃をやりつつ鹿の動きを観察していた。

 

『もう少し右へ誘導してくれ。その先は開けている所に繋がってるはずだ。頼んだぞ』

 

時折狩人が我々に指示を出してくる。彼女がやらんとしていることは、人間の真似事だ。犬に獲物を追い掛けさせ、衰弱、もしくは誘導させて仕留めるという。そういうことをやらせようとしていた。

我輩はどうにも不可解であった。どうせ鹿を狩るのであれば、彼女一人で出来た筈である。鹿の動きを読み、予想経路で待ち伏せて仕留める。それを単独で出来るのが鉄血ハイエンドモデルというモノである。態々我々ダイナゲートを使って狩猟へと洒落込むほど酔狂なことをするというのは、どういう了見なのだろう。

 

あぁ、でも待とう。鉄血ハイエンドモデルというのは、その行動パターンや心理というのが人間のそれに近い。高性能の電脳を持っているのだ。

もしや人間でいう“無駄を楽しむ”という概念を自分で解析し、そして行動パターンへと落としこんだのではなかろうか?

そうでもなければこんなことをする筈がない。随分と人間に近くなってきているようだ。

 

『そろそろだぞ、開けた所に出たらA部隊は散開、BとC部隊はそのままで頼むぞ』

 

狩人からの通信がまた聞こえてきた。

なるほど、確かにあと十メートルほど先が開けているように見える。狩人は果たしてどうするのであろうか。

あぁ、今まで木陰に隠れていた日光がさんさんと我々に注がれてくる。それと同時に乾いた音が鳴り響き、我々が追いかけていた鹿が地に伏した。

 

「……よし」

 

我輩が前を見ると、そこには未だ銃口から煙が立つライフル銃を携えた狩人が居た。オレンジ色のジャケットを着ている。

狩人はライフル銃を肩に提げたと思えば、今度はナイフを取り出して此方へ歩いてきた。そして鹿を担ぎ上げてダイナゲート達に集まってくるように指示を出してきた。

勿論我々ダイナゲートは整列して集まる。

 

「よし、全員居るな。お前達、ご苦労だった。もう警備に帰っていいぞ」

 

狩人がそう言う。我々ダイナゲートはその言葉に従って、ぞろぞろと工場方面へと動きだした…………我輩を除いて。

 

我輩は少し気になった。彼女は鹿を担いで何をするのか。

そぞろそぞろと蠢くダイナゲートの群れをすり抜けながら彼女の背中を追いかける。予想外に足の早い彼女をたまに見失いつつも、なんとか追い付いた。その時、狩人は底が見えるほどに澄んでいる川で鹿の血抜きや皮を剥ぐ作業をしていた。

 

「ん、お前は……」

 

我輩がその光景を眺めていたら、彼女に気付かれた。

さて、どうしようか。我輩は言うなれば命令違反という物を犯している。これが軍隊であれば、人間であれば只では済まないだろう。良くて解雇、最悪銃殺刑。そんなレベルの事を我輩はしでかしている。はてさて我輩はどうなるのか。解体か、それとも放逐か。

 

「あの時処刑人に捕まってたダイナゲートか。まぁいい、隣にでも座るといいさ」

 

…………どうやら許されているようだ。

我輩は彼女の隣へと座った。狩人は、ずっと手際よく皮を剥いでいる。たった少しの時間で、茶色い毛玉の塊が、薄いピンク色の塊へと変貌した。

 

「お前もあの時は災難だったな。ただ処刑人には悪気は無かったんだ、許してやってくれ」

 

狩人は鹿を部位ごとに切り分けながらそんな事を言う。

処刑人のあの件に関しては、我輩はそこまで気にしている事項では無かった。何せ元々カレーを食べられないからな。拘束されたのは不服ではあるが。

 

「アイツは脳味噌より先に体が動く奴だからなぁ…」

 

切り分けた肉を何かに包みながら狩人は話を続ける。その鹿はどうするつもりなのであろうか。売るとは考えにくい。普通に食べるのか、もしくは……餌?

時々、鉄血工造の敷地で猫を見掛けることがあるが、其奴らにでも振る舞うのであろうか。

我輩が不思議そうに眺めていると、肉を全て包み終えたのか、狩人が立ち上がる。

 

「これで終わりと……ほら、帰るぞ」

 

我輩に声を掛ける狩人。彼女のその言葉には、命令を含んでいるようには検知出来ず、我輩の自由意思の下で行動することが出来ているようになっていた。

ただ、あまり此処に居ても意味を見出だすことも無いので、大人しく狩人の所へと歩いてゆく。

狩人はその様子を見届けた後にゆっくりと歩き出した。

 

「さーて、この鹿肉は代理人に渡してステーキでも作って貰うかな」

 

なるほど、食べるのか。当たり前過ぎて気付くことが出来なかった。それにしてもステーキ……はて、鹿肉はステーキに適していたのか? いまいち確信が得られぬ。だが、恐らく大丈夫である。昔、一人の鉄血工造の職員が言っていた。

 

“肉は焼けば食える”

 

と。狩人はその言葉を信じて、ステーキにしてもらうなどと口走ったのだろうな。

 

「久しぶりの肉だ。毎回あのよく分からない固形物を作ってる代理人には良い刺激にでもなるだろ」

 

落ち葉を踏み締めるように歩く我輩と狩人。一歩進む度に落ち葉は心地好い音を鳴らしていった。

果たして、この鹿肉はどのように調理されるのやら。

狩人の少し不穏なセリフに多少の不安を覚えながらも、鉄血工造へと我々は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイナゲートは何を見た。ダイナゲートは人らしいことをする狩人を見た。

 

 

 

 

 

 

 






人間でいう無駄を機械が学習してそれを落とし込む。泣かなかった面白いとは思いませんか?
効率を求めた機械が無駄を育むなんて……ねぇ。

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