壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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第12話

 状況は思った以上に悪い。

 だが最悪という訳ではない。

 一真の元に戻る途中、刀華は願ってもない幸運に出会っていた。

 

 「けど、こっちもいいニュースがあるよ。()()()()()たちもここにいる。避難誘導してる時にバッタリ会ったんだ。みんなここに遊びに来てたみたい」

 

 「へぇっ!?」

 

 思わず間抜けな声が出た。

 確かに近場で遊びに行くとなればここはまず候補に挙がる場所だろうが、よもや被っていたとは……出会したかったわけではないが、大型のショッピングモールとはいえ逆によく今まで出会さなかったものだ。

 しかし願ってもない幸運である事に違いはない。こちら側の伐刀者(ブレイザー)の総数は6人、そして少なくとも一輝とステラは大きな戦力だ。

 

 (ここまで数が揃ってりゃ分散して別行動もいけるか?)

 

 この面子なら滅多な事は起きないだろうがやはり『あの人』が気がかりだ。

 《使徒》の居場所も不明な今、情報の共有は不可欠。もしあちらが潜伏していたらその邪魔をしてしまう事になりかねないし、そもそも応じられる状況かどうかもわからないが、連絡は取り合いたいところだ。

 一真はポケットの中のスマホに手を伸ばしながら刀華に聞く。

 

 「刀華。あいつらはいま連絡を取れそ─────」

 

 

 気配があった。

 

 一真はスマホに伸ばす手を引っ込め、刀華はそれを感じた方向を睨む。

 感じた時間と大きさは耳元で鳴る蚊の羽音程度。しかしその『羽音』は羽虫のそれではなく、鎖鋸(チェーンソー)の唸りのような莫大な危機感を孕んでいた。

 《鳴神》と《プリンケプス》を構え無言で臨戦態勢に入った2人の前にそれは現れた。

 金髪に碧眼の美男子。

 高い身長に端整な顔立ち、すらりとしたシルエットの体格。どこぞの舞台にでも立っていればいいものを、彼の才能はその恵まれた容姿を戦場へと向かわせたらしい。

 それも世間から見れば悪の側という、最悪な立場で。

 

 「……チッ。ビショウの野郎、面倒な奴らを見逃しやがって。こいつらこそ人質で縛っとけってんだよ」

 

 まあいいか、功績功績、と面倒臭そうな舌打ちから気分転換したらしい男はスッと目を細めた。

 隠していた気配が解き放たれる。飛来する刃のような圧力が、まだ離れた場所にいる2人を細切れにする勢いで突き刺さる。

 

 「……どのみち合流は無理そうだね」

 

 「ああ。あの野郎は俺らで倒すしかない」

 

 こんなものを間違っても一般人のいるところに行かせてはならない。流れそうになる嫌な汗を気力で抑え込んでじりじりと間合いを測り、刀華は動きを阻害するロングスカートを引き裂いて大きなスリットを作った。

 相手の能力は未知数。数と連携の利があるとはいえ、1番の鬼門である戦闘の序盤を乗り切れるか……いや、乗り切らねばならない。

 

 例えそれが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「お前がAランクの『あの人』でいいのか?」

 

 「あ? 別に名乗る必要もねーんだけど、そうだな。教えとくか……名前が広まった方がもっと箔も付くだろうし」

 

 

 金髪の男は足を前後に開いて両腕を胸の前に構える。オーソドックスなファイティングポーズだが、直後に飛び出してくる技や能力は間違いなく規格外のそれだろう。

 深緑の魔力が()()()()揺らめき、炎のように全身を覆う。

 腰を落として身を沈め、上体を前傾させた姿は、その名の通りに『獅子』のようだった。

 

 

「レオ・ベルモンド。生きて帰れたら広めとけ」

 

 

 それを合図に戦いの火蓋は切られた。

 恐るべき速度で突っ込んできたベルモンドだが、相手の姿勢から次の行動を読んでいた一真の方が一瞬早かった。

 中空を蹴り払い、《踏破》の魔力を空を薙ぐように放出する。

 

 「《覇者の威風(ラービナ・ニウィス)》ッッッ!!」

 

 逃げ場はない。建物の被害を考える余裕のある相手でもない。

 通路どころか両脇に並ぶ店まで全てを呑み込む紫白の津波が、進む先にある全てを喰い潰しつつベルモンドに迫る。

 直後に切り込んだのは刀華だ。

 一真が生み出した破壊の波を盾に、逃げ場のない範囲攻撃に対処した瞬間の隙を突くべく全速力で前へと切り込んでいく。

 対するベルモンドはそのまま足を前に蹴り込んだ。それをいち早く察知した刀華が進行方向を曲げると同時に、深緑の魔力を宿した靴は突き刺すような軌道で《覇者の威風(ラービナ・ニウィス)》と激突した。

 轟音。爆発。

 《踏破》の津波の一点に大きな風穴をブチ開けた猛烈な余波がショッピングモールを吹き荒れるが、その2つの力がぶつかり生まれた暴風の僅かな空白地帯に刀華は潜り込んでいた。まだ蹴り足を戻せていない刹那の隙に刃を入れんと《鳴神》を振るう。

 

 それを冷ややかに見据える碧眼。

 まだ伸びたままのベルモンドの蹴り足が、そのまま刀華に襲いかかった。

 蹴り終わったはずの足を速度を落とさずそのまま変化させるという銃弾を曲げるが如き芸当、それも刀華が《鳴神》を振り抜くよりも(はや)くだ。

 

 「まず1人な」

 

 淡々とした一言と同時、ベルモンドの爪先が刀華の顔面を抉り飛ばす。そう思われた。

 ひょい、と刀華が頭の位置を下げた。

 ベルモンドの蹴りに反応して躱そうとしたのではなく、予めそう動くと決めていたような動きだ。

 その意味は直後に明らかになる。

 後ろから追い付いてきた一真が一瞬前まで刀華の頭があった場所……彼女が下げた頭の上を、規格外の長身で(また)ぐようにベルモンドに蹴りを入れた。

 

 「!」

 

 足と脚が激突し互いに弾かれた隙に《鳴神》の刀身が迫る。

 金髪の男はこれを魔力を纏わせた拳で打ち払いながら逆の拳で前衛にいる刀華を狙うが、刀華の後ろに控えた一真がそれを許さない。邪魔にならぬよう姿勢を低くする刀華の上を、艦砲射撃じみた蹴撃の群れが圧倒的リーチを以てベルモンドの拳を迎え撃つ。

 いくら魔力を纏わせても流石にこれは霊装(デバイス)のない拳で防ぐのは危険だ。舌打ちしつつベルモンドは大きく後ろに退がり、2人を己の伐刀絶技(ノウブルアーツ)の有効範囲内に納めようとする。

 それを追い討つのはまたしても一真だ。

 空を踏んでの空中機動、だけではない。

 足場にして踏み切った空気を意図的に踏み破り、足の下で大気を爆発させる。

 

 「《駿馬の歩(インキタトゥス)》」

 

 強力な追い風と化した爆風をさらに踏み、一真はベルモンドの想定を越える軌道と超加速で正面から側面に……否、一気に背後まで回り込もうとする。しかしそれを許す程度の相手ではない。ベルモンドはやや驚きながらも、高速移動する一真を正確に捕らえる槍のような蹴りを放つ。

 奇襲に対するカウンターとしてはこれ以上ないタイミングだったが、2人を同時に相手取っているとなればその限りではない。

 一真が思わぬ機動で相手の目を惹くと同時に刀華が大きく前に踏み込んだ。一真が蹴るスペースを空けるために低くしていた姿勢をそのまま利用し、空にいる一真を蹴り上げるベルモンドの軸足を横薙ぎに斬りつけた。

 ここでベルモンドは初めて大きな回避を見せる。

 軸足の力を魔力で強化し、蹴り上げる力もプラスして跳んだ。直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と一真の蹴りを器用に両足の靴底で受け止め、

 

 「《徹鋼の槍(ランチャフェッロ)》!!」

 

 伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 ベルモンドの足から噴き出した深緑の槍を刀華は射線から飛び退き、一真は逆の脚で砲身である足を蹴り方向を狂わせることで防ぐ。誰にも的中(あた)らなかった《突破の槍(ランチャフェッロ)》は床と天井に激突し、フロアを何階層もブチ抜く大穴をそれぞれに開けた。

 だが、それは悪手。空を駆ける者を相手に跳ぶなど、どうぞ好きにせよと言っているようなものだ。

 無防備な空中で襲い来る一真の蹴り。

 しかしベルモンドはまたも攻撃を以て防御する。攻撃がぶつかる衝撃を利用し、ベルモンドは再び距離を取ろうとする。

 その方向には既に刀華が回り込んでいたが、彼はそれを特に脅威とはしなかった。

 待ち伏せならそれも結構。カウンターなどしてくる前に潰す。

 空中で身を翻し姿勢を制御。相手よりも早く、速く───刀華をその攻撃ごと消し飛ばす一撃を放つべくベルモンドは足に魔力を込める。

 

 この状況で彼に誤算があったとするならば、東堂刀華は、今この場にいる()()()()(はや)い攻撃手段を有していた事だろう。

 自らの能力と武術を掛け合わせた彼女の切り札は、その名前がそのまま彼女の通り名になる程に畏れられてきた。

 

 

 「《雷切(らいきり)》」

 

 

 伐刀者(ブレイザー)ランクB。

 操る能力は『電気』

 鞘をレールにして刀身を撃ち出す()()()()()()()が、大気を爆散させながらベルモンドを迎え撃つ。

 

 直前に彼女の脅威を察知し、回避を間に合わせたベルモンドは流石だっただろう。

 魔力を無色のエネルギーとして一方向に向けて放出、強引に自分の進行方向を変えて刃を躱す。衝撃波はもう防御しなかった。追撃を掛けに来た一真に《徹鋼の槍(ランチャフェッロ)》。牽制と《雷切》による衝撃波の突破を同時に行い、その余波で刀華の身体が後ろに浮かんだ。

 

 「おっと!」

 

 すかさず一真がその先に回り込み飛ばされた刀華を受け止め、直後に刀華に向けて飛んできた深緑の槍を蹴りで相殺する。

 迎撃に次ぐ迎撃で不安定な姿勢となったベルモンドもそれ以上の追撃を止め、距離を取って相手を今一度分析し直す。

 ───個々の実力なら自分が1番上のはずだ。

 だが今の交錯、自分は攻撃の全てを完封されてしまった。

 ただ2人同時にかかってくるのとは訳が違う。

 お互いが出来ることを完璧に把握し、相手がどう動きたがっているかを完全に理解した、非の打ち所のない連携だ。

 

 「霊装(デバイス)は革靴みたいだね。断定はできないけど、見た感じ能力は《貫通》ってところかな。ゼロ距離であの威力は凄まじく厄介だね」

 

 「あの突きと蹴り、キックボクシングじゃねえな。サバットだ。俺とは違うから蹴りだけに気ぃ取られんなよ? インファイトになるとゴリゴリ殴ってくんぞ」

 

 「ボックス・フランセーズ? 確か投げや関節技も含まれてるんだっけ」

 

 「そりゃ違う流派(リュット・パリジェンヌ)だな。危険過ぎて競技化されてねえから教わんのは難しいと思うけど、警戒に越したこたァ無え」

 

 ……知識も分析力もある。

 想定以上の面倒臭さに、ベルモンドはまた舌を鳴らした。

 実力なら自分が1番上のはずだ。

 だがそれは相手が弱いこととイコールではないし、そしてあの2人は多少の実力差なら連携プレーで埋めてくる。

 

 (ここまで呼吸を合わせてくる奴等は正直見た事ねーな)

 

 日常的に深く関わっていないとああはならない。ベルモンドは思わずそう感心してしまった。

 が、それだけだ。

 どれだけ完成度が高かろうが、集団の弱点は変わらない。多対一などというありふれた状況など、今まで嫌という程に潰してきた。

 

 「……2人がかりなら勝てると思ってんのか?」

 

 そう吐き捨てて、ベルモンドは再び2人に襲いかかる。

 否、2人に、ではない。

 この時ベルモンドは、目に映る敵に明確な優先順位を付けていた。

 

 

 

 ────強い。厄介。

 2人の感想はまさにそれだった。

 初手の連携はほとんど奇襲のようなものだ。相手の得意を封じ、予想外を畳み掛け、本調子を出される前に終わらせる。

 流石にそう都合よくはいかないと知ってはいたが、せめて警戒させて相手に二の足を踏ませる程度の脅威は与えたかったのが本音だ。

 連携はうまくいった。

 こちらを警戒させることも出来た。

 

 だが攻撃を躊躇ってはくれなかった。

 この動きは、対処法を理解している者の動きだ。

 

 「ッッッ!!」

 

 突撃をかけてきたベルモンドは完全に刀華だけに狙いを定めていた。

 これを見た刀華は即座に刃から三日月型の雷撃を飛ばす魔法斬撃《雷鷗(らいおう)》を2撃、3撃と撃ち放つ。威力と範囲こそ一真の《覇者の威風(ラービナ・ニウィス)》がずっと上だが、攻撃が到達する速度はそれを遥かに上回るのだ。一真を起点とした連携からパターンを変え、相手の混乱を狙う。

 遠距離での制圧は()()の基本だ。これの回避に足を使わせながら、空を変則的な軌道で駆け抜けた一真が襲う。

 

 その途端、ベルモンドの姿が消えた。

 

 驚愕が喉から声になろうとするが、一真はそれを抑え込む。驚愕で止まりそうになる脳を強引に回す。

 ベルモンドが一瞬前までいた床には、穴が開いていた。

 

 「避けろ刀華ァァァぁああっっ!!」

 

 

 ゴンッッッッ!!!!と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

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