壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

30 / 84
第30話

 「「「 きゃあああぁぁああ!!?? 」」」

 

 「「「 うわぁぁぁあああっっ!!?? 」」」

 

 一瞬にしてビーチが狂乱と悲鳴に包まれる。

 群れを成して迫り来る巨影に恐慌状態に陥った海水浴客たちが海に背を向け、秩序も何も無く一斉に逃げ出した。

 我先にと人々は内陸へと殺到し、女や体格の小さな者が人や砂に足を取られて転ぶ。

 状況は理解できないが、最早猶予はなかった。

 

 「やっべえ、アイツら陸に上げんな!!」

 

 「水上で戦えない人は逃げ遅れた人の手助けをお願いします!」

 

 「「「 了解!! 」」」

 

 刀華が素早く指示を飛ばし、一真は真っ先に走り出した。《プリンケプス》を呼び出して砂浜を蹴り、砂塵を爆発させ空を跳んで一気に首長竜(くびながりゅう)へと飛びかかる。

 世界的発見とか学術的価値とかそんな言葉が脳裏を掠めたが人命には代えられない、手近な1体の長い首を蹴り砕く───その直前で気が付いた。

 

 『こいつらは生物なんかじゃありません!! 海底から持ち上がってきたんです!!』

 

 (こいつ───()()()()()()()()()()()()()

 

 驚愕すれど行動に迷いはない。空中を蹴ってさらに加速、軌道上にいた首長竜をまとめて貫くように粉砕し、水飛沫を上げて海面に()()。ある予感と共に成果の確認のため振り返ると、そこには予想通りの光景があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 海中から崩れ落ちたはずの岩が浮き上がり、磁力のように引き合って再び恐竜の形を取り戻す。

 そして一真は感じ取った。

 重なりあった岩石から漏れ出す、()()()()()()()()()()()()()

 

 「『鋼線使い』だ! 操ってる本体が別にいる! デク人形倒してもキリねえぞこれ!!」

 

 「どうやら、そのようですっっ!!」

 

 一真の伝達に海辺にいる刀華が鋭く息を吐きながら応える。

 言葉と共に釣瓶打(つるべう)ちに放たれた《雷鷗》が岩の竜たちに命中。その駆体を破壊するが、やはり砕かれた身体は糸に繋ぎ合わされて復活していく。

 物理的な破壊はほぼ不可能と思われたその時、強い気迫を孕んだ声が海上に張り上げられた。

 

 「《妃竜の大顎(ドラゴンファング)》────!!!」

 

 「《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》!!」

 

 ゴオッッッ!!! と熱風が海面を舐め上げる。

 煌めく光の群れが殺到する。

 岩石で出来た竜どもをステラの《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》から放たれた荒れ狂う炎の竜が紛い物と断ずるかのように食い荒らして蒸発させ、そして数億もの欠片に分解されたカナタの《フランチェスカ》が砂粒になるまで切り刻んだ。

 そうか、と一真は彼女らの意図を知る。

 どんなに再生可能であっても破片そのものが消えてしまえば修復は不可能。確実に相手の手駒を消すことが出来る!

 

 「こうすれば問題ありませんわね」

 

 「よしっ! まだまだ行くわよ────!!」

 

 己の能力が極めて有効と判明し、意気込んだステラとカナタは海上へと進撃を始めた。

 炎の熱で海面と足の裏の間に小規模な水蒸気爆発を連続して発生させ、その上に乗ることで海面を走る。カナタは剣の欠片で足場を作りそれに乗って空を移動。

 己の有効射程圏内に岩の首長竜を一気に収め、それらを猛烈な勢いで消し飛ばしていった。

 

 (凄えな。あの勢いなら本体まで炙り出せるかもしれねえ)

 

 敵の目的は不明だが、あのペースで手駒を消されたら多少なり焦りが生まれるはずだ。それにここは浜辺、遮蔽物が少なく潜伏できる範囲は限られる。ここまで任せられるのであれば術者の捜索まで視野に入ってくる。

 やや過剰に魔力を込めた一撃で魔力の糸そのものを潰す試みを実行していた一真のそんな希望的観測は、残念ながら甘かったと言わざるを得なかった。

 陸地の方から新たな悲鳴が上がり、弾かれるようにそちらを振り向く。

 ───岩で出来た大きなワニが、ぞろぞろと浜辺から上陸していた。

 

 

 「第一秘剣────《犀撃(さいげき)》!!」

 

 「《クレッシェンドアックス》ッッ!!」

 

 剣先に全ての力を集約して放つ突進からの突き技がワニの身体を穿って分断し、重量を累積加算された重撃が別の個体を粉々に砕く。

 適当に振るって当てさえすれば壊せる砕城はまだしも、パワーで劣る故に『溜め』を要する技を使わねばならない一輝の効率は(すこぶ)る悪い。そもそも破壊しても再生される以上、この状況に対して2人は絶望的に相性が悪かった。

 

 (まずいな、こういう状況だと僕は本当に役に立てない)

 

 《一刀修羅》を使えば別だが余りにもピーキー過ぎる。突破口が見えるまで(いたち)ごっこの局面で切るにしては、1分という制限時間は余りにも短すぎた。

 しかしこの海岸線を埋めるように押し寄せる大顎の大群にどう対処すればいいのか……焦燥に炙られる一輝と砕城の横を、超音速が駆け抜けた。

 

 「《ブラックバード》─────!!!」

 

 その速度、実にマッハ2超。ものの数秒で砂浜を端から端までぶった切った兎丸恋々がワニ達を両腕の《マッハグリード》で破壊し、衝撃波で吹き飛ばす。海岸線を瞬く間に掃除してしまった彼女に、彼らは思わず場違いな爽快感を感じてしまった。

 

 「……そうだ、こちらには兎丸がいるのであったな」

 

 「元々強力な能力ですが、状況に嵌まると凄まじい破壊力ですね……」

 

 「よーっし、チャージターイム!」

 

 由比ヶ浜を横断した兎丸が再び速度の累積にかかる。敵にぶつかり続けた上に進路を反転させればそれ相応にスピードは落ちる。減衰した速度を再び超音速に持っていく為に、兎丸はその場でぐるぐると走り回る。

 ───そのすぐ側の海辺から、冗談みたいなサイズの大顎を持った古代魚がダイブしてきた。

 直撃は避けた。しかし衝撃で転ばされ、のたくるように襲いかかる大顎を前に兎丸の表情が凍りつく。

 地に足が付いていなければ彼女の力は無力。このまま噛み砕かれるのを待つ他ない。

 

 それを止めたのは空を裂く稲妻と紫白の流星だった。

 刀華の《雷鷗》と一真の蹴りが同時に突き刺さり大顎は爆散、一真は兎丸を腕に抱えて降り注ぐ残骸を弾き飛ばす。

 

 「危ねえ被った! 無事か!?」

 

 「う、うんありがと! びっくりした……!」

 

 よかった、と安堵を漏らして海を睨む。

 ───ステラとカナタの足元を抜けてきた。

 彼女らの攻撃は確かに有効だが、海上に身体を出さず潜水されては気付いたとしても手の出しようがない。

 相手は間違いなくどこかから自分達を捕捉している。明らかに攻め方を対応させてきた。

 となると────

 

 舌打ちをして一真は海中に突っ込んだ。

 魔力で水を押し退け海底を踏み、そこに見えたのは案の定の光景。

 ────無数の巨影が、海中を進軍していた。

 思考する猶予はなかった。

 練り上げた魔力を《プリンケプス》に注ぎ、荒れ狂う力に周囲の水が鳴動する。

 彼が取った行動は、全力の突進と突破だった。

 

 「《侵略の軍靴(ミレス・バルバリア)》!!!」

 

 海が爆発した。

 砕かれた岩の混じった巨大な水柱が立て続けにと海面から突き上がっていく。

 巻き上げられた水が壁のように立ち上り、その中から紫白の影が飛び出した。

 並み居る海中の軍勢を、海中から力で強引に蹴散らした一真だった。

 

 「カズくん、やっぱり海中にもいた!?」

 

 「ああいたよウンザリする位にな! あいつらは俺が相手するしかなさそうだ!!」

 

 見てみればステラとカナタも対処せねばならない敵が減っている様子がない。

 海底の岩を材料に新たな敵が生み出され続けているのだ。

 少なくないバリエーションの兵隊をこのハイペースで量産し続ける使い手……脳内で思い描いていた敵の影がみるみる内に大きくなっていく。

 ───実はもう、対処法そのものはわかっているのだ。

 『鋼線使い』が同時に複数の人形を操る場合、他の人形を操るための中継地点(ハブ)となる人形を設け、それを介して操るのが鉄則(セオリー)

 索敵を避けるためには、自分に繋がる糸は限りなく少ない方が良いからだ。

 つまりそれさえ壊してしまえば、『鋼線使い』はもう人形を操れなくなる。

 

 だが、そのハブが一向に見付からない。

 

 (《天網恢恢(ナートゥラ・アエル)》にも引っ掛かんねえぞ! クソが、どんだけ遠くに隠してやがる────!!)

 

 恐らく海中のどこかに配置されているのだろう。

 当てもなく探すには範囲が広すぎるし、そもそも探しに行く暇がない。今ですら大群の処理で手一杯なのに、ここで1人でも抜けてしまえば遠からず突破されるだろう。

 ────八方手詰まり。

 そんな言葉が脳裏を掠めたその時、彼女の声は唐突に響いた。

 

 

 「《凍土平原》───!!!」

 

 

 一瞬で。

 見渡す限りの岩の竜が、海原ごと凍結した。

 海面から首を出していた敵は身動き1つ取れず氷の彫像と化しており、海中にいたものは言わずもがな分厚い氷の棺桶の中だ。

 瞬きの間に静止した世界。呆気に取られた全員の注意を、続く珠雫の叫びが引き戻した。

 

 「敵の無力化は完了です! 申し訳ありません、ここまで凍らせる下準備に手間取りました……!」

 

 「ッ黒鉄さん! 海のどこかに兵隊ではない、別の役割を持った傀儡(かいらい)がいるはずです! それを探す事は可能ですか!?」

 

 「数キロ先の沖合に一回りサイズの大きい反応が1つあります! 凍らせた範囲には入っていませんが、今は動きを止めているようです!」

 

 「当たりだ、自分と繋がってる人形どもを凍り漬けにされて身動き取れなくなってやがる!!────行くぞ!!」

 

 声を掛け合うまでもなく一真と刀華は動き出した。

 海面に目印を付けておきます!という珠雫の声を背後に聞きながら2人は氷原を疾駆する。そして氷の大地が途切れた時、水上を移動する手段を持たない刀華は一真の背中に乗った。

 刀華を背中に乗せたまま海面を踏み飛ぶような速度で数キロという距離を一息に駆けた一真は、視線の先に珠雫の『目印』を見た。

 白い泡を渦巻かせる、サイズの小さい不自然な渦潮だ。

 

 「()()()()()。その後は頼んだ」

 

 「うん。任せて」

 

 言うが早いか刀華は一真の背を思い切り蹴って高く飛び上がり、逆に一真は海中に潜った。

 海中を垂直に走り急速潜航する彼の目に、そしてそれは写り込んだ。

 巨大な蟹だった。

 やはり自分と直接繋がっている傀儡を固められて動けなくなっているらしい、岩石で造られた身体が窮屈そうにもがいている。

 一真はその大きく平たい身体の下に潜り込み、脚に魔力を充填する。

 狙いは岩の蟹ではない。

 ()()()()()()()()()()()

 標的を確実に刀華の元に届けるために、一真は《踏破》を込めた蹴り足を振り上げた。

 

 「───────ッ!!!」

 

 ドッッボンッッッ!!!と、機雷がまとめて爆発したような轟音が海上に轟く。

 真下の水を蹴りによる莫大なエネルギーで爆発させられた岩蟹が、巨大な水柱と共に海上へと打ち上げられた。

 そしてその上には刀華がいる。

 打ち上げられる岩蟹へと落下していく彼女は、納刀した《鳴神》の鯉口を切った。

 そして放たれるは伝家の宝刀。

 陽の光に照らされた刃が刹那煌めき───電光と共に、全ては決した。

 

 

 「──────《雷切》!!!」

 

 

 両断、では終わらない。

 閃光の速度で放たれたプラズマの刃が大気を爆砕し、既に叩き斬られた岩蟹をさらに粉砕。入道雲まで吹き飛ばすかという爆風は打ち上がった水柱すら砕いて海面を大きく波立たせる。

 そのまま自由落下する刀華は海から飛び出した一真が受け止めた。

 再び岩の恐竜が作られる気配はない。

 姿見えぬ敵は、ハブを破壊されたことで手を引いたようだ。

 

 「……終わった、か………」

 

 「戻ろう。皆に伝えないとね」

 

 砕けて舞い上がった海水の雨を浴びる2人。

 一気に脱力しそうになる心を立て直し、刀華を抱えたまま一真は海上を跳ぶように移動する。

 

 「()()()()()()()?」

 

 「それなりに手傷は負わせたと思う。でも捕まえに行くには遠すぎるかな。少なく見積もっても、ここから術者まで100キロは離れてた」

 

 「マジかよ………」

 

 もはや県内にいるかも疑わしい数字に呻く一真。以前の特例召集の際に刀華がチームを組んだらしいBランクの『鋼線使い』でも、人形を自在に操れる距離は500メートルかそこらだと聞いた。

 だというのに、この襲撃の規模だ。

 嫌な予感はしていたが、やはり自分たちに絡んできた何者かは普通とは言い難い存在らしい。

 

 「……直接対決にならずに救われたのは、俺らの方かもしれねえな」

 

 「そうだね……私達で深追いはしない方が賢明かもしれない」

 

 それが1番の判断だとは分かっている。しかし一真の腹の底には沸々とマグマが煮えていた。

 不条理な加害。理不尽な襲撃。この手の輩を打ち倒すために自分は強さを求めてきた。

 しかし結果はこの体たらく……ベルモンドの件といい、自分の非力さにつくづく腹が立つ。

 そんな激情が刀華を抱える手に現れてしまったのだろう。軋む力で肩を握られた彼女は、しかし冷静に一真を嗜める。

 

 「何でも自分1人が強ければいいって話じゃないよ。力を合わせて敵を退け、一般人を守り抜いた。それで私達の勝ち。……倒す事に拘り過ぎるのは、カズくんの悪い癖だと思う」

 

 「………、そうだな。悪かった」

 

 刀華に叱られ、一真はようやく力みが解けた。

 

 「理事長に報告して、後の判断は任せよう。必要なら何か手を打ってくれるはずだから」

 

 「ああ。……けどその前に、解決すべき問題があるみてえだ」

 

 「?」

 

 最後に大きく海面を跳んで、一真は珠雫が生み出した氷原に着地する。

 抱えられる必要の無くなった刀華が一真の腕の中から降りようとした時、彼女は一真が言わんとしていた事に気付く。

 

 「ここまで意識してなかった俺も悪いが……、この視線にどう言い訳するかだ」

 

 ばつの悪そうな一真の腕の中で刀華の耳が赤く染まる。

 敵を退けた安堵や後処理の話をしていて、今の自分達の状態を全く考えていなかったのだ。

 帰還した2人に駆け寄ってきたステラ達。

 俗に言うお姫様抱っこをされている刀華を、全員があらあらまあと眺めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。