壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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 Q,いくら何でも話が進まなすぎでは?

 A,赦せ。



第31話

 「フフフ。ちょっと新しいハブの試運転をかねてちょっかいをかけるだけのつもりだったのですが、とんでもないしっぺ返しを喰らってしまいましたよ。流石は音に聞こえた《雷切》ですねぇ、木偶では話にもなりませんか」

 

 日本の某所。

 まだ昼だというのに闇が吹き溜まったように暗い室内で、左腕を焼き焦がされた長身の男が歌うように刀華を賞賛する。

 

 「《前夜祭》前にいらん事をするからだ、愚か者が」

 

 「返す言葉も無いですねぇ、フフフ………あぁ、そういえば。現場には君がご執心な《紅蓮の皇女》もいましたが、何やらもう1人、それと同等かそれ以上の人物がいたようですねぇ」

 

 「………、ほう」

 

 焼け落ちた左腕を己の糸で切り落とす長身の男の声色に苦鳴は無く、むしろ喜びすら感じさせる。その背後に立つ影は軽薄にお道化(どけ)る彼を蔑むような眼差しで見下ろしていたが、その報告には明確な興味を示したようだ。

 

 「おや。君は彼女に会うために()()に来たと聞いていますが、目移りでもしましたか? いけませんね浮気性は。人を振り向かせるにはまず誠実でないと」

 

 「戯れ言をほざくな」

 

 「《道化師(ピエロ)》ですから」

 

 相性の悪さを感じたか、闇によく通る声で吐き捨てて影の男はその場を去る。しかし長身の男も感じるものは同じだったようで、そのからかいがいの無さに溜め息を漏らし、言った。

 

 「ほんと可愛くないですねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

     ◆

 

 

 正体不明の伐刀者(ブレイザー)の襲撃により、安全確認のため海水浴場は一旦閉鎖。楽しかるべき浜辺は一時騒然となった。

 襲撃の規模からすれば怪我人がいないのは奇跡に近い。事件解決の大きな鍵はステラやカナタ、一真など広範囲を殲滅できるメンバーと、何より珠雫の驚異的な探索範囲だろう。

 問題となったのは敵が再び襲ってくるか否かだったが、遠く離れた『鋼線使い』に糸伝いに電撃を叩き込んだ刀華は「それなりの手傷は与えたはずなのでここにはもう近付かないでしょう」と推測しており、事実この時間に至っても敵の再来はない。

 とはいえ油断はしていられない。

 安全が確認されたとして海水浴場は閉鎖を解いた。生徒会プラスその他の一行は新宮寺黒乃より、一応現地で一泊して警戒に当たれと指示を受けた。

 しかし仮に敵が再度の襲撃を画策していたとしても、刀華から受けたダメージの治癒にはiPS再生槽(カプセル)を使っても最低1日を要する。

 

 つまり黒乃の言葉は実質、『帰る前に遊んでいいよ』のお達しに近い。

 故に夜の浜辺では、いつの間にか集まっていた大量のギャラリーに囲まれてビーチバレーの勝負が開かれていた。

 

 「うりゃあっっっ!!!」

 

 一輝からのトスを受け、ステラの剛力無双のスパイクが相手コートに襲いかかる。

 《閃理眼(リバースサイト)》で動きを読んでいた刀華がレシーブに入るが、持てる技術の全てを以てしても力を殺しきる事は出来なかった。何とかボールは上に上げたが、放物線を描いたボールはそのまま相手コートに返ってしまう。

 

 「ステラ、もう1回いこう!」

 

 「任せなさいっ!」

 

 一輝の呼び掛けに答え、ステラは帰って来たボールをネット際の空中に上げる。

 それを一輝が繋いで、再びステラの大砲に繋ぐ流れだろう。あの破壊力に対抗・殺しきるべく刀華と一真は集中を高め、全身を臨戦態勢に持っていく。

 そしてネット際に落下してきたボールに向けて一輝が跳び、助走をつけて跳び上がったステラへとトスを運ぶ───

 

 ───運ぶフリしてそのまま、チョン、と触るようにボールを相手コートに押し込む。

 散々ステラを警戒させておいての、この上ない奇襲(ツーアタック)だった。

 

 「っこのヤロ……!!」

 

 強打を警戒し自然とコートの後ろに寄っていた所に前側へと落とされたボール。決まるかと思われたがしかし、一真が身体の長さを活かして強引に拾った。

 再び高度を得たボールの下に、素早く刀華が回り込む。

 

 「カズくん、お願い!」

 

 そしてトスは上げられた。

 与えられた攻撃の権利を、迎えに行くように一真は全力で跳ぶ。

 ────身長およそ2メートル30センチ強。

 ブロックという概念を鼻で笑うような、超高々度から放たれる隕石のようなスパイクが一輝たちのコートに狙いを定めた。

 

 (ここ─────)

 

 だが、その目標地点には既に一輝が先回っていた。

 《完全掌握(パーフェクトビジョン)》。1年間延々と一真と戦い続けていた一輝にとって、一真の狙いを先読みするなど朝飯前だ。

 それに彼の卓越した技量なら、ステラに劣らず強烈なエネルギーも余さず殺して柔らかなレシーブを実現してみせるだろう。

 ───しかし、何事にも計算外の要素はある。

 一真は身体が桁外れに大きい。

 手も大きければ指も長い。

 指が長いという事は、より長くボールに触っていられるという事。

 一輝に狙いを読まれたのを知った一真は、ボールが手から離れる寸前───指を、僅かに曲げた。

 

 着弾。

 指を引っ掛けられ寸前で軌道を変えたボールが、一輝とステラの注意の隙を縫ってコート内の砂浜へと突き刺さった。

 

 「っしゃァァあああ!!!」

 

 「やられた………っ!」

 

 ガッツポーズで吼える一真と、してやられてなお笑う一輝。刀華とステラもお互いに眼光の火花を散らしていた。ギャラリーの熱気も最高潮、勝負はいよいよクライマックスへと向かおうとしている────

 

 

 「……普通さ。友達とやるビーチバレーってもっとこう、ぽーんぽーん、って感じの和やかなやつじゃない? 何であいつら夜の浜辺でハ◯キューやってんの」

 

 「勝負事で手を抜ける人たちではありませんから」

 

 「そうだけども」

 

 得点を管理している泡沫の呆れたようなぼやきにカナタがくすりと笑う。

 

 「ほらー、案の定カメラ向けられてんじゃん。カズも目立ってっけどステラちゃん有名人だし、よくわかんないけど皇女様の水着姿一般人に激写されるのってあんま良くないんじゃない?」

 

 「まあそれでマイナスなイメージは付かないでしょう。むしろ現地の友人と日本を楽しんでいると思ってもらえると思いますわ」

 

 「それならいいけど………、あ」

 

 「だーーー!! 負けたァァああああ!!!」

 

 歓声と共に一真の咆哮が上がる。

 決着の一撃はやはり一輝とステラの連携だった。

 一輝がスパイクによるツーアタックを狙っているのを受けてブロックに入った刀華だが、一輝は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。コートの後ろにいたステラが大きくジャンプし、そのボールを全力でスパイクしたのだ。

 一輝のフェイントからのステラのバックアタックはタイミングをずらされた刀華のブロックをすり抜け、レシーブに入った一真に激突。圧倒的なパワーで『壁』にぶつかったボールは遥か彼方へと弾かれ、コート外に落下。

 そしてそれがマッチポイントの先取となり、勝利は一輝とステラのチームに(もたら)されたのだった。

 

 「ふう……負けちゃいましたね。いい勝負でした、楽しかったです」

 

 「こっちこそ燃えたわ! またやりましょう、本当に楽しかった!!」

 

 「あーーーマジで悔しい。相方との連携じゃ負けたくなかったなァーーー!!」

 

 「はは、本気で熱くなっちゃったな。例えゲームでも君に勝つのは嬉しいものだね」

 

 互いに握手を交わす一真たちを止まない歓声が取り囲む。自分も身体が強ければ、あるいはあのゲームに参加出来たのだろうか───ふと浮かんだそんな思いを他所に捨て、泡沫はにやりと笑って彼らの輪へと歩みを進める。

 

 「おいカズ、約束覚えてるよね!? お前負けたんだからあの店の高そうなドリンクとフード奢ってよね!!」

 

 「うるせえ覚えてるわ! テメェ何の躊躇いもなく俺の負けに賭けやがってよくそんな笑顔でいられるなアァン!?」

 

 「あ、王峰くんそれアタシも食べたーい」

 

 「ふむ。(それがし)も王峰殿の敗北に賭けていたような気がするな」

 

 「…………っっっ!?!?」

 

 よもや砕城まで乗ってくるとは思っていなかったらしい。

 予想外のユーモアを発揮した生徒会書記に絶句する一真に、カナタやステラまでそれなら自分もと砂糖を見つけた蟻のように一真に(たか)り始める。

 約1名ピンチに陥ってはいるが海辺の時間は賑やかに、かつ平和に流れていく。

 結論から先に言ってしまうがこの夜、やはり敵の再来は無かった。

 

 

 

 「ふう……」

 

 少しだけクールダウンしたくなった。

 やはり周囲から本格的に注視され始めたステラは人混みを抜け、一真に奢ってもらったドリンクを飲みながら砂浜の夜風の中を歩いていた。

 すると、少し向こうにくすんだ銀色の癖毛の、ともすれば幼稚園児にすら見える知り合いの姿を見付けた。

 同じく一真に奢らせた品を頬張っている、御祓泡沫だった。

 

 「お、ステラちゃん。どしたの、休憩?」

 

 「ええ。アンタも?」

 

 「まあね。昼も昼でメチャクチャ動いたし。ボクの《絶対的不確定(ブラックボックス)》もそんな便利な代物じゃないからさ。一般人の避難は何とか出来たけど、ボクみたいなか弱くて可愛らしい男の子はもうヘトヘト」

 

 泡沫の能力は、簡単に言えば『己の力による可能性が及ぶ範囲なら1%の確率を100%まで引き上げる』というもの。

 混乱に呑まれ無秩序に逃げ惑っていた群衆が怪我1つ無く無事に逃げおおせたのは、彼があちこちを奔走していたお蔭だ。

 だが、元より虚弱な彼の身体にはそれがどれだけ困難なものだったことか。そろそろ身体がガス欠しそうなのかもしれない。

 改めて見ると本当に小さいな、と横目で泡沫を見るステラだが、その視界の端に妙な影を見た。

 夜の闇に紛れ、2人分の人影が至近距離で向き合っていた。

 するとその影はさらにお互いの距離を縮め、そして重なり合い────

 

 「きゃっ………」

 

 「あーあー、熱い熱い☆」

 

 知らずに紛れ込んでしまったが、どうも明かりの無さにつられてカップルたちがあちこちでイチャついているようだ。思わず頬を覆うステラの隣で泡沫がその光景を茶化している。

 ここはまずい。

 こんな所に他の男といるのをもし一輝に見られでもしたら非常にまずい。

 足早にその場を去ろうとしたステラを、しかし泡沫が止めた。

 

 「あ、ホラ見て見て。あそこに知った顔がいるぜ」

 

 そう言われてそちらを見てみれば、なるほど凄まじく背の高い人間がいる。王峰一真だ。

 あの後全員に奢る流れになってしまった彼は、驚異的なダイエットに成功した自分の財布の中身を見て肩を揺らして笑っていた。

 するとそんな彼の背後から刀華が現れた。その手には先程一真が奢って回ったものと同じ品が握られている。

 彼女の存在に気付いた一真は後ろを振り返り、刀華は彼に手に持っていたドリンク類を渡す。

 一瞬きょとんとした一真はそれを受け取って笑い、刀華もそんな彼を見て笑っていて────

 

 はっ、とステラは我に帰った。

 意識と目を奪われていたのだ。

 見つめる先にあった光景の、穏やかな美しさに。

 

 「お似合いだろ」

 

 もぐもぐといい値段のするフードを頬張りながら泡沫は言う。

 

 「ステラちゃんはさ。ボクらが同郷だっていうのは知ってたっけ?」

 

 「……ええ。同じ孤児院の出身だって聞いたわ」

 

 「なら話は早いか。……まぁ孤児院ってのは身寄りのない子供たちが暮らす場所なんだけど、身寄りの無くし方にも色々あってさ。

 親に捨てられた奴、親を病気で亡くした子、それに実の親に殺されかけた奴……いろんな奴がいたんだよ。

 中でも親に捨てられた奴と親に殺されかけた奴は一等荒れてて、しょっちゅう洒落にならない喧嘩してたんだよ。それをいつも止めようとしてくれてたのが母さん……院長先生と、ボクらと歳の変わらない刀華だったんだ」

 

 普段の軽い調子ではない静かな声に、ステラは思わず聞き入った。

 いま彼が語っているものはいかなる心境か、彼の奥底にあるものに他ならなかったから。

 

 「昔から世話焼きな(たち)でさ。自分も同じ境遇なのに皆を笑顔にしようとしてて、小さい子に本を読んであげたり、料理を作ってあげたり……。

 捨てられた奴と殺されかけた奴も本当にどうしようもない位に()()()()、何度も刀華を傷付けたけど、刀華は最後までそいつらを見捨てなかった。

 『とても短い間だったけど、私は両親にたくさんの笑顔と愛をもらった。私は今もそれに支えられている。だから自分も両親がしてくれたように皆を笑顔にして、支えになるような思い出を作ってあげたい』ってね。

 だからその2人は今でも刀華に感謝してて、そしてずっと刀華が大好きなんだよ。

 ……片方だけ、どんどん強くなっちゃったけどさ」

 

 最後の一言でその2人が誰を指しているのかを理解したステラは思わず息が詰まった。

 ならば自分が美しいと感じたあの光景を、泡沫はどんな思いで見ているのだろうか。

 

 「身体もやたらデカくなって、兄ちゃん兄ちゃんって皆に頼られ始めて。

 それで尊敬してんのが刀華なもんだから、メチャクチャ面倒見よくなってくだろ。

 イッキくんの件も……そりゃ褒められたことじゃなかったけど、正直、カッコいいって思っちゃったからね。

 ずるいんだよなあ。あんな良い奴、嫌いになるなんて無理じゃん」

 

 泡沫とステラは別に親しい仲でもないが、つまり繊細な話をしても差し障りの出来る程の関係はない。

 どこかで吐き出したかったのだろうと察したステラは黙って聞いている。『王様の耳はロバの耳』ではないが、少なくともステラの口は(あし)よりも遥かに固い。

 しかし、続く言葉には無反応とはいかなかった。

 

 「七星剣武祭。決勝で戦うのはあの2人だよ」

 

 ぽつり、と泡沫が静かに、しかし確信を持った強さでこぼす。

 

 「ステラちゃんもイッキくんも本当に強い。ボクはおろか兎丸や砕城じゃきっと相手にもならないし、カナタでもかなり危うい。

 でも、あの2人は別格だ。刀華は皆の希望を背負って、カズは苦難に負けない背中を示し続けてここにいる。

 自分の敗北が自分1人に収まらない。自分の後ろに悲しむ人がいる、だから折れない。

 奥底にある原動力の重さが違うんだよ」

 

 

 「────関係無いわ」

 

 

 ぐしゃ、とステラは飲み干したカップを握り潰す。

 

 「負けられないのはアタシも同じよ。アタシの国は小さいから、伐刀者(ブレイザー)の強さがそのまま国力になるの。

 ここまで折れずに来たし、これからも折れない。負けっぱなしなんてもっての他だし、本戦の時には今よりもっと強くなってみせる。

 もちろん個人的な目標はあるけど、背負うもの大きさを言うのなら……アタシは、国そのものを背負ってるんだから」

 

 「……うん。確かにその通りだ」

 

 それだけ言ってステラはその場を去る。

 背中から聞こえてきたごめんね、ありがとうという言葉は、聞こえなかったことにした。





 ビーチバレーのルール的にはおかしな所があったりしますが、あの場にいる全員詳しいルールなんて知らないのでOKです。

 遅くなりましたがお気に入り数が1500、しおり数が400に到達しました。
 いつも応援と感想をありがとうございます。
 これからも頑張っていきます。
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