壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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思えばステラのまともな戦闘シーン書くの初めてです。


第4話

 幼い頃のステラは、まともな騎士になることすら不可能と言われていた。

 強すぎる彼女の能力は、あろうことか彼女自身の身体すらその灼熱の炎で焼いたのだ。

 父も母も、周りの誰もがステラは騎士にはなれないと思っていた。

 だが───それでも、ステラは諦めなかった。

 自分の身すら焼くこの力は、優れた魔導騎士としての才であることを理解していたからだ。

 ヴァーミリオン皇国のような小国にとって、強い伐刀者(ブレイザー)の存在はとても大切なものだ。

 かつてのWW2(第2次世界大戦)で、極東の小国だった日本を戦勝国に導いた大英雄『サムライ・リョーマ』のように、小さな国は強力な魔導騎士の存在によって、初めて大国と対等に渡り合えるのだから。

 

 だからステラは諦めずに、周りからどれだけ反対されても修行を続けた。

 少しでも操作を誤ればたちまち暴走するフォーミュラカーのような力の制御に習熟し、伐刀絶技(ノウブルアーツ)妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》をものにするまでに3年もの月日を費やした。

 何度も大火傷を負った。

 何度も挫けそうになった。

 ───それでも努力を重ねて、ここまで来た。

 全ては愛する祖国を守るため。大好きな皆が安心して笑える今と未来を作るため。

 

 そんな何よりも大切な自分の宝物を。

 この男は。

 この男は。

 

 「…………消し炭にしてやる」

 

 低く呟き、ステラは戦闘フィールドに足をかけた。

 定められた開始位置まで歩みを進めるその先には、彼女にこれまでの人生の中で最大級の怒りと殺意を抱かせた大男がいた。

 

 

     ◆

 

 

 魔導騎士が国家の戦力としての側面を持つ以上、当然戦闘技能が求められる。国家間の戦争はもちろん、伐刀者(ブレイザー)としての力を悪用する《解放軍(リベリオン)》を始めとする犯罪組織などに対抗するためにこれらは必須だ。

 故に破軍学園の敷地にはいくつものドーム型闘技場が点在しており、その内の1つである第3訓練場の中心に王峰一真とステラ・ヴァーミリオンの姿があった。

 レフェリー(黒乃)を挟んで20mほどの間を開けて対峙する両者を、いくつもの視線が見つめている。

 春休み中に突然決まった模擬戦にしては数が多い。

 鳴り物入りで入学した超新星(スーパールーキー)ステラと、()()王峰一真が戦うという知らせは、生徒たちの興味を強烈に惹き付けたのだ。

 

 『あの子がヴァーミリオンの《紅蓮の皇女》かー。すっげえ美人じゃん』

 

 『綺麗な髪……。まるで燃えているみたい……』

 

 『……てか、あれ?なんか皇女様怒ってねえか?王峰の奴、()()何かやったのか……?』

 

 『おいバカっ、聞こえるだろ!』

 

 ものの見事に真っ二つの評価だった。

 あちこちから漏れ聞こえてくる一真の評判に、ステラは呆れたように息を吐く。

 

 「アンタ、随分とやらかしてるみたいね。力の振るい方とか責任とか学ばなかったわけ?」

 

 「学んだよ。学んだ上で、自分の信条に基づいて、やらかした。恥じる事なぞ何もない」

 

 「あっ、そ。ああまで啖呵切っておいてその良識なら、生まれも育ちもお察しかしら」

 

 「生まれの方は否定しねえよ。育ちの方は好きだけどな」

 

 あからさまに悪意を吹っ掛ける物言いに、一真は軽い調子で答えていく。さっきまでの完全な喧嘩腰から一転した涼しげな対応に、あしらわれているような感覚を覚えたステラはさらに眉間の皺を深くした。

 彼の変化の理由はわからないし、わかる必要もない。

 目の前の男を焼き尽くす燃料が追加された。

 それだけだ。

 

 「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装(デバイス)を《幻想形態》で展開しろ」

 

 黒乃が号令を出した直後、フィールドの片方を熱を帯びた極光が照らし、もう片方を鮮やかな紫が覆う。

 それは、伐刀者(ブレイザー)の魂を具現化させた固有霊装(デバイス)

 様々な形態をとって伝説や伝承で語られる『魔法の杖』。

 その名前を呼ぶのを合図に、2人の元に魂の武具が顕現された。

 

 

 「(かしづ)きなさい。《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!!」

 

 「()(なら)せ。《プリンケプス》」

 

 

 幻想形態───人間に対してのみ、物理的ダメージではなく体力を直接削り取る形態。

 だが、そこに込められた熱量は本物だ。

 誇りを汚した愚者に報いを。

 己の発言を泣いて悔いるように、伏して詫びるまでに圧倒的な蹂躙を。

 

 「よし。………では、試合開始(LET's GO AHEAD)!」

 

 こうして、天才騎士と問題児の戦いは始まった。

 試合開始の合図と同時、炎を纏う大剣を構え───まずは、ステラが突っ掛けた。

 

 

     ◆

 

 

 開幕と同時にステラは一真に走り寄り、裂帛の気合いと共に炎を纏う一刀を振り下ろす。

 大振りな一撃だ。だが恐ろしく鋭い。

 それを見た一真はこれを最初から受け止めようとはせず、バックステップで余裕をもって回避する。

 瞬間、空振ったステラの大剣が床に叩き付けられ、ずおんっ!!と───訓練場そのものが激震した。

 

 (っ……馬鹿げてやがんな。伐刀絶技(ノウブルアーツ)じゃねえ、純粋なパワーでこれかよ)

 

 背筋に寒気を伝わせる一真。

 ステラは空振った大剣を構え直し、距離をおいた一真に対してさらに追撃をかける。

 

 「変わった形の霊装(デバイス)ね。甲冑型にしては中途半端だけど」

 

 「中途半端だからもう(ブーツ)で通してるよ。能力的にもその呼び方のが合ってるしな」

 

 暴風のように振るわれる大剣から滑るように逃れていく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 両脚を爪先から腿の半ばまで覆う細身なデザイン。

 彼の『靴』という表現に合わせるならば、鋭角な装甲を重ねて作られたサイハイブーツとでも言えばいいだろうか。

 形状から予測される攻撃手段は、『蹴り』。

 

 (あまり間合いの有利は当てにしないほうが良さそうね)

 

 何せあの身長だ、脚も長い。

 大剣の方がリーチは長いが、少し踏み込まれれば蹴りの射程圏内に収まってしまう。何より彼については何の情報も持っていないのだ、普通ならまだお互いに探り合う段階だろう。

 ───だが問題ない。どうすれば相手を完膚なきまでに叩き潰せるか、彼女の才能は知っている。

 

 (最大出力の《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》で圧殺してやる………ッ!!)

 

 危険を感じて一真が遠ざかった瞬間、ゴオッッッ!!!と、彼女を中心に炎の海が広がった。

 燃え盛る火炎をドレスのように纏い、放たれる熱は10メートル以上離れているはずの一真の()の中を焼く。

 その光景を見て一真は、ニュースで聞いた彼女の二つ名を、ある種の感動すら覚えながら思い出していた。

 

 

 「………《紅蓮の皇女》、だったか」

 

 

 まさに天才。もはや天災。

 刃と共に襲い来る火炎の嵐に、一真は今度は退かなかった。

 己の勝利は、あの炎獄の中にある。

 眩いほどの熱光に、彼の姿が呑まれて消えた。

 

 『うおおっ、王峰が呑まれたぞ!?』

 

 『終わったか!? そうじゃなくても無事じゃねーだろこれ!!』

 

 感情としては目の前で人が火口に落っこちたのを目撃したのと同じだろう。

 悲鳴のような歓声を掻き消すように、火の海は妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を中心にうねり荒れ狂う。

 だが、その発生源であるステラは強く歯噛みしていた。

 

 (こいつっ、私の炎をただの魔力防御で……っ!!)

 

 《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》の温度は摂氏3000度。爪を防がれても、妃竜はその威光だけで敵を焼き払う。

 ───なのに、目の前の男はびくともしない。

 一真の全身は紫の魔力に包まれていた。魔力を放出し単純な障壁として用いる、技とも呼べない単純な技術だ。だが、ただそれだけで《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》を防ぐなど!

 つまりこの男は自分と同等。しかし己の誇りを汚した男に己の鍛えた技が通じないという事実は、ステラのプライドを大きく沸騰させた。

 炎の渦に身を任せ舞うように剣撃を躱し続ける一真に、ステラは一際大きな炎を纏わせた一撃を振るう。

 この上さらに火力が上昇したことに驚愕しつつ、一真はしかし落ち着いてそれを回避する。

 

 その直後に、ステラの姿は消えていた。

 

 「!?」

 

 炎に紛れたか、と素早く周囲に目を走らせるも、彼女の姿はどこにもない。ならば上か?いや、地面に影は落ちていない。

 となると、────後ろ!

 この刹那に背後に回り込むとは、埒外の魔力量による補強は流石に並ではない。速やかに迎撃するべく、一真は素早く後ろを向く。

 

 そして、確かに彼女は一真の背後にいた。

 ゆらりと空間を揺らめかせ、後ろにいるはずの相手に対処しようと身体を翻した一真のその後ろに、透明化を解除したステラが現れる。

 

 《陽炎の暗幕(フレイムベール)》。

 熱で光を屈折させ、己の姿を見えなくさせる技。

 彼女はその場から1歩も動いていない。ただ炎に紛れて透明になり、自分が高速移動したかのように見せかけていただけだ。

 一真が己が謀られた事を理解すると同時、ステラは持てる全力の全てを爆発させる。

 空振った一撃で地を揺るがすほどの力が、人間1人の脳天を目掛けて振り下ろされた。

 

 「ハァァアアアアアアァアアアッッ!!」

 

 轟音。

 1回で耳をオシャカにしそうな音の爆発がリングの中央で発生した。

 広がった衝撃は周囲の炎を自ら消し飛ばし、何とか防御を間に合わせた一真も大きく弾き飛ばされ、十数メートルも靴底で床を削りようやく停止する。

 

 圧倒的な膂力。これが《紅蓮の皇女》。

 あの王峰一真でも抑えることは不可能。

 もはや言葉を失った観衆の共通した感情はそんなところだが、しかしステラは耐え難い違和感に襲われていた。

 

 (……アイツ、アタシの剣を防御した?)

 

 ステラの一刀に対して、一真は上半身を前に倒しつつ脚を後ろに跳ね上げ、妃竜の罪剣(レーヴァテイン)の刃を下から蹴り飛ばし防御。返ってきた衝撃を下半身の関節全てで柔らかく殺した。それでも殺し切れなかった力には逆らわず、わざと飛ばされることで距離を取りつつ安全に受け止めたのだ。

 言葉にすれば理論が通るが、しかし前提が違う。

 ステラの扱う剣技───《皇室剣技(インペリアルアーツ)》による一撃は、問答無用で相手を叩き潰す剣。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「危ねえな……そんな真似も出来んのかよ。魔力の量といいチカラの応用の幅といい、マジで()()()()()()()な」

 

 イッキと()った経験が無きゃ食らってたかもな、と。

 圧倒的な技巧で剛力を封殺してみせた一真は受け止めた脚をぷらぷらと振りつつ、目を見開いているステラを見遣る。

 

 

 「でも、まァ、問題ねえ。リズムは掴んだ。

 ─────ぼちぼち、俺も踊ろうか」

 

 

 「言うじゃないの。叩き潰してやるわ!」

 

 第六感の鳴らす警鐘を振り払うように叫び、ステラは再び豪火を纏う。

 迫り来る炎の奔流を前に、一真はここで初めて構えを取った。

 背筋は芯を通したように直立。両脚を外旋させ、それぞれの爪先は完全に左右の外側を向く。

 右足の土踏まずに左足の踵がぴたりとくっつき、肘を曲げた両腕は腹に物を抱えるようにゆるくカーブを描く。

 武術としては奇怪で、窮屈そうな構えだ。

 しかしその構えは、その直後に大きく羽ばたくためのものである事をステラは知っている。

 それは本で、テレビで、誰もがどこかで見覚えがある形。

 この構えは────

 

 (バレエ──────?)

 

 そして、一真の攻撃が始まる。

 

 

 「(アン)

 

 

 右脚による回し蹴り。

 妃竜の罪剣(レーヴァテイン)の横腹を蹴り飛ばし、斬撃の軌道を大きく逸らしてステラに隙を生み出させる。

 

 「(ドゥ)

 

 その勢いのまま身体を回転、今度は左脚による後ろ回し蹴り。

 それは顔や胴体を狙ったものではなく、ステラの顎の先端を掠めるように鋭く捕らえた。その衝撃でボクサーのように脳を揺さぶられたステラの意識が瞬間的に落とされ、その身体がガクンと沈む。

 

 そして。

 

 

 「─────(トロワ)

 

 

 ゴヂャッッッッッ!!!と。

 先の攻撃による身体の回転を増幅して脚に乗せた破城槌のような前蹴りが、ステラの顔面ど真ん中を撃ち抜いた。

 

 「ブッッ───────がぁあっっ!?!?」

 

 吹き飛ぶのではない。倒れた。

 顔面に壊滅的な破壊力を受けたステラの身体が棒のように、恐ろしい勢いで後ろにブッ倒れ、後頭部からリングの床に叩き付けられる。

 ───何!? 何が!? 攻撃された!?

 外傷の心配がない《幻想形態》といえど痛覚はそのまま。強制的に意識を取り戻したステラが見たものは、倒れた自分に向けて振り下ろされる、魔力を纏った一真の踵だった。

 

 咄嗟に横に転がった直後、落ちてきた一真の足がステラの腹があった場所を踏み抜く。

 それはまるで先の意趣返し。

 一真の蹴りと能力をまともに食らった第3訓練場が、大きく縦に揺れた。

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