壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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第46話

 「これで暁学園の出場は決定ってわけね」

 

 「やはりというか曲者揃いですね。特にサラ・ブラッドリリーさんはまだまだ能力の幅を見せてはいないようです。紫乃宮さんはかなり不気味ですが……」

 

 「けどやっぱりカズマとオウマが頭抜けてるわ。他の生徒は能力込みの実力がある程度見れたけど、この2人は使うまでもないって感じだったし……ハグレさん達、大丈夫かしら」

 

 「予想は出来てたけどまるで本気を出さないままだったからね。けど兄さんの身体、何か違和感が………」

 

 ざわめきの収まらない観客席、戦いを目にした者たちが銘々に感想を漏らしている。

 『圧倒的』の一言に尽きるような結果を叩き出した暁学園は他校の代表生徒たちに少なくない影響を与えていた。

 強敵の出現に奮い起つ者や戦い方をシミュレートする者、あるいは厄介な敵が増えたと嘆く者。

 では一輝たちがその中のどれに属しているかは、まぁ考えるまでもないだろう。

 そして───これで王峰一真も七星剣武祭に出場する事になった。

 

 (約束は守った。そういう事だね、カズくん)

 

 リングを去る彼の迷いのない背中に刀華はそんなメッセージを受け取った。

 (きた)るその時を確信し、組んだ手の指がミシリと軋む。

 いつか思い描いた舞台とは随分と違うシチュエーションになってしまったがこれでいい。

 自分の願いも彼への詰問も、まず彼が同じところに立たないと始まらないのだから……────

 

 「……っ?」

 

 不意に一輝が顔を上げて空を見上げる。

 それにつられてステラや刀華も空を見るが、見上げる先には雲が浮かんでいるばかり。

 不審な物も見えず不審な音も聞こえない。

 それは弱者として生を受け、不条理な悪意に浸され続けて生きてきた彼だからこそそれを察知できたのかもしれない。

 

 「イッキ、どうしたの────」

 

 「避けろぉぉおおっ!!」

 

 一輝が叫び、そしてステラや刀華が異常事態の発生を理解。迫り来る何かに対応するべく警戒のレベルを跳ね上げて立ち上がる。

 直後に降り注いだ。

 子供が虫の羽を毟るような。

 糸の形をした。

 無邪気な悪意が。

 

 

 

 リングを取り囲む観客席の渾然一体となったざわめきが、電源が落ちたように一斉に止んだ。

 不自然な静寂、何らかの統一された意思による沈黙に不穏な気配を感じて一真は静かに臨戦態勢へギアを入れる。裏稼業としての敏感さなのか多々良などは既に《地摺(じず)蜈蚣(むかで)》を構えていた。

 ───それは唐突だった。

 口を閉ざした観客席の人々が生徒から教師まで余すところなく立ち上がり、その手に己の霊装(デバイス)を握る。

 意思の光を宿さない人形のような無数の視線が一斉に一真を射抜いた。

 

 まるで操られているような挙動。

 少し前の諍い。

 樹脂の塊でしかなかった男。

 この状況の回答を導き出すのは余りにも容易だった。

 

 「ゴミクズが」

 

 それはまるで由比ヶ浜のデジャヴ。

 違う点を挙げるとすれば相手は岩ではなく人間で、海は海でも人の海だという事か。

 かつて『平賀冷泉』を操っていた者の人形と化した七校の生徒たちが、一斉に暁学園の元へと殺到した。

 

 

     ◆

 

 

 『《幻想形態》で制圧してくれ!絶対に彼らに傷を付けるな!!』

 

 屋内で糸の支配は免れたらしい。月影はリングを見下ろす特別席の椅子を蹴り倒して立ち上がり、暁学園の生徒手帳から緊急連絡のスピーカーモードで命令を下す。

 王馬も一真と同じ推測に行き当たったようだが、彼からすれば操られる方が惰弱なのだ。

 そんな奴らの片付けをやらねばならないという状況に、彼は心底下らなさそうに鼻で息を吐く。

 

 「無駄な時間だ。さっさと寝ていろ」

 

 野太刀の霊装(デバイス)龍爪(りゅうづめ)》を一閃。

 莫大な剣圧と放たれた暴風が迫る人の波と激突し、そして容易く押し勝った。

 防御も反撃も許さない純粋な力が生徒たちをボウリングのように豪快に吹き飛ばして意識を奪う。

 それを先駆けに他のメンバーも一斉に突撃。王馬が蹴散らした部分から集団に侵入し、そのまま一気に食い破るべく己の霊装(デバイス)を振り回した。

 

 「チッ。殺し屋に対するオーダーじゃねェだろうが!」

 

 「わーっ、ちょっとちょっと危ない!」

 

 四方から襲いかかる攻撃を跳ね返しつつ多々良は一方的に周囲を切り刻んでいるが、天音はどういう力が働いているのか敵からの攻撃が全て空振り続けていた。十字架のような形の剣を両手に握り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「有象無象の木偶人形など物の数ではないわ!スフィンクス、《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》!!」

 

 黒いライオンが咆哮を轟かせるとそれを浴びた周囲の生徒が一瞬石のように硬直し、そこを突いてサラが緋色の絵の具を撒き散らして火を放つ。

 向こうは操り人形らしく無計画な密度で周囲を囲んでいるだけ。複数の生徒がいっぺんに炎上し、さらにそこから別の誰かに飛び火していった。

 やはり統率も何も取れていない、ただ自分たちを襲わせているだけだ。範囲攻撃持ちも複数いるし制圧はそう難しくはない。

 一真は少しだけ安堵しつつ《覇者の威風(ラービナ・ニウィス)》を放ち、まだ意識のある操り人形たちをごっそりと刈り取る。

 自分を伐刀絶技(ノウブルアーツ)で攻撃しようとしている生徒がいるようだが、あの程度なら魔力防御で問題は────

 

 「………っ!!!」

 

 一真は大慌てで突進、その生徒を蹴り飛ばす。一連の動作の力の余波で周囲の生徒がまとめて吹き飛んだが、

 攻撃の矛先を自分に向けるのは問題ない。

 だがあの生徒は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「おいヤベえぞ、こいつら周りを巻き込もうがお構い無しにブッ放してきやがる!どうせ《実像形態》だ、1人でも見逃したらヘタすりゃ死人が出るぞ!!」

 

 「テメェに言われなくてもわかってんだよボケ!!」

 

 苛立ちも露に怒鳴った多々良が一直線に走り伐刀絶技(ノウブルアーツ)を発動しようとしていた生徒を斬り伏せる。

 彼女としてもまずい状況だろう、裏稼業として依頼人の意向は遵守せねばならないのだから。

 この何百人といる生徒たちの同士討ちを防ぐには全員を一気にまとめて片付けなければならない。

 しかし一真も攻撃の余波だけでまとめて薙ぎ倒せるとはいえそもそもが局地的な破壊に特化した力、あまり広範囲を捉えられるものではない。この会場を丸ごと制圧できる範囲を持つ技など────

 

 「悪い。各自で防いでくれ」

 

 ────無くは、ない。

 一真は静かに息を吸い込み魔力を練り上げ、《プリンケプス》が紫の火花を散らす。両足から空震のように広がっていく魔力に、正気を保っていた全員が直後の脅威を察知した。

 味方も無差別に巻き込むが迷っている暇はない。この程度なら怪我する事もないだろう。

 思う所あってあまり好きな技ではないのだが。

 

 

 「─────《謁見の玉座(エクセドラ)》」

 

 

 ぐしゃッッッ!!!と全てが平伏した。

 会場全体を覆った『踏破』の力が範囲内にいるもの全てを踏みつけ地面に縫い止める。

 操られている生徒が誰も立ち上がれない重圧は凄まじく、最も力の作用が強い一真周辺の床には亀裂すら入っていくほどだった。

 ひとまず全員の制圧を確認した一真は、よし、と頷いて暁学園のメンバーを見回す。

 

 「押さえた。全員気絶させてく……、しっかりしろよお前」

 

 「近いうちに殺すからなテメェ……!!」

 

 何食わぬ顔で要求してきた一真に潰れないよう全力で抗っている多々良がガチめの殺意を向ける。

 弱体化されるとはいえ《完全反射(トータルリフレクト)》があるからこの程度は大丈夫だろうと考えていたが、考えてみれば『反射』とはインパクトの瞬間を返してこそだ。こういう延々と加圧される力には弱いのかもしれない。

 見てみれば凛奈とライオンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、近くにいたらしい天音も()()()そのシールドのお世話になっていた。

 サラは………たぶん自身の能力で生み出したらしいあのシェルターの中だ。

 

 「うん、ここまでの広範囲でやるのは初めてだったがやれるもんだな。とはいえ味方がいると使いにくいのはもうしょうがねえか……」

 

 「これが『踏破』の概念を操る力か。想像よりも(ぬる)いが、よもやこれが本気とは言うまいな」

 

 「そう言ってくれるな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。捕縛用に広げて薄めたらこんなモンだ。

 ほら、俺これ維持してっからさっさと全員気絶させてくれや。これなら『中継地点(ハブ)』も全員巻き込めてんだろ」

 

 「チッ」

 

 多々良は勿論、シャルロットやサラも防御で手一杯な中で唯一平然と立っている王馬が舌打ちしつつ操られた生徒たちの『掃除』を始めた。

 人形の主が自分のデータを持っていなかった事が幸いした。こういう範囲制圧ができると知られていたらもっと厄介な方法で攻めてきただろう。

 ともあれこれで一件落着。

 そうなってくれれば、どれだけよかったか。

 

 ぎぎぎ、と生徒の1人が起き上がってきた。

 

 それに続いて他の生徒たちも続々と起き上がってくる。

 再び人形と化した彼らの何人かの目元からは血の筋が流れ、制服から覗く筋肉は異様に緊張している。《謁見の玉座(エクセドラ)》に抗えるだけの力を強引に引き出されているのだ。

 制圧した人間が再び傀儡にされた。

 つまりハブが無力化されていないという事だが、ただし人数は最初の半分程度に留まっている。

 つまり。

 

 (ハブを複数忍ばせていやがったのか。どっかに制圧を免れた奴が隠れてんな)

 

 となると拘束し続けても無駄だ。ハブとなっている人間を全員特定し、それを潰さねば意味がない。

 一真は生徒たちを味方ごと制圧していた伐刀絶技(ノウブルアーツ)を解除し、爪先で地面を軽く叩く。

 《天網恢恢(ナートゥラ・アエル)》。

 己の感覚を通した『踏破』の魔力が一真を中心に広がり、踏んだものの情報を彼にフィードバックさせる。

 そして見つけた。

 魔力の糸のハブとなっている人間は3人。

 内2人はさっき纏めて制圧していた生徒だ。これは問題ない。

 問題はその残り1人だった。

 一真はとびきり嫌そうな溜め息を渋面から吐き出しつつその方向を仰ぎ見る。

 

 「……未来が見れるってんならさァ」

 

 最初以外に何の反応もないと思った。

 何のアクションも起こさないと思った。

 可能性としては考えうる限り最悪に近い。関わること関わること全てが恙無(つつがな)く終わってくれない憤りをぶつけるように、一真は全力で声を張り上げた。

 

 

 「自分の身に降りかかる災難くらい予知しといてくれや────月影さんよぉ!!」

 

 

 次の瞬間、拘束から解き放たれた生徒たちがまた一斉に襲いかかってきた。

 まったく事態は好転しないがとにかくやる事は変わらない。ハブを全て潰すのだ。一真は自分が得た情報を味方全員に共有する。

 

 「人形使いの中継地点(ハブ)を見つけた!『巨門』のハンマー使いの────」

 

 実際の所は叫ぶまでもなかった。

 動いたのは王馬とサラ。意思なき殺意に支配された人の海に迷い無く飛び込んだ王馬がハブとなっていた生徒を(あやま)たず斬り倒し、サラは描き出した湖に潜って地中を移動。王馬が倒した生徒の元へ浮上し、中空に描いた鎖で拘束した。

 ハブの動きが制限され身体を動かせなくなった生徒たちがバタバタとその場に倒れていく。

 

 「嘗めるな。貴様の手など借りずともこの程度見抜けない訳がなかろう」

 

 そう言って王馬もまた一真が見上げた方向と同じ方向を睨む。

 そして跳んだ。目指すは月影のいる特別席。

 他の操り人形たちが一斉に妨害にかかるがそれを許す一真たちではない。『反射』が、『障壁』が、筆から生まれた現象や紫白の波があらゆる攻撃を完全にシャットアウトする。

 しかしそんな中、操り人形の一体が空中にいる王馬の前に躍り出た。

 明らかに他の人形とスペックが違う。しかし王馬は木偶人形など躓く小石にもならぬとばかりに委細構わず斬り捨てようと《龍爪(りゅうづめ)》を振るう。

 

 ただし。

 斬り捨てようとした相手は、人形ではあっても木偶ではなかった。

 手に持つ霊装(デバイス)は刀に脇差、一対の二刀。

 その生徒は、『禄存学園』の制服を着ていた。

 

 ズゴンッッッ!!!と重い轟音が鳴り響く。

 脅威を感じ取った王馬に弾かれた二刀の斬撃が、離れた観客席の一部を()()()()()()音だった。

 

 「マジか……っ!?」

 

 それを目の当たりにした一真が思わず呻いた。

 禄存の代表生徒にあんな顔はいなかったはずだが、破壊力の規模が明らかに他の生徒と格が違う。

 何かの理由で出場が叶わなかったのだろうか?

 いやそんな事はどうでもいい。

 問題はあの黒鉄王馬を正面から止める力を持つ相手からの妨害をくぐり抜け───なおかつ無傷で制圧せねばならない事だ!




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