壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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第47話

 王馬は空中で激突した二刀使いに立て続けに《龍爪(りゅうづめ)》を振るう。

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 防御など許されないはずのその剣戟を、しかし二刀使いは木の葉のように翻りながら空中で受け流していた。

 ガキンガキンガキン!!と戟音を奏でながら二刀使いの身体が宙を舞う。

 腕のみのスイングでも(あやま)たず相手を両断できる力と刃筋だが、二刀使いは防御の角度と力の方向を絶妙に変えて王馬から受けた破壊力を余所に逃がし、その余波を身体を翻していなす事で吹き飛ばされないまま防御を完遂させていた。

 しかしここは空中。『風』を操る王馬のフィールド。

 宙に留まる術を持たない二刀使いを地面に落とし排除するべく王馬は上空から地面へと叩き付ける暴風を発生させた。

 が、不発。

 直上から落ちてきた暴風が、二刀使いの振るった脇差によって()()()()()()()()()()()。 

 しかし防御に一手使わせた隙に王馬は攻撃を差し込んだ。風を操り大気の抵抗を消したその剣撃は空気を掻き分けて進む敵の攻撃よりも当然速い。たとえ相手が二刀だろうと彼の攻撃の方が先に届く。

 ただ前提条件を1つ付け加えると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 《龍爪(りゅうづめ)》が二刀使いの首に(はし)る瞬間、二刀使いは刀の切っ先を王馬に向ける。

 

 ギュガッッッ!!!と。

 二刀使いの刀から吹き荒れた破壊的な何かの奔流が、黒鉄王馬を観客席まで吹き飛ばした。

 

 あれを放置はできない。

 その光景を見て即座に空中に出ようとした一真だがその寸前に背筋に悪寒が走った。

 ───何かが来る!

 二刀使いの両腕が閃くのと、本能の警鐘に動かされた一真が頭上に防壁を張るのは同時だった。

 

 「《不抜の城塞(ニゲル・カステルム)》!!」

 

 直後、衝突。

 砂鉄が擦れるような耳障りな音を撒き散らして、一真が張った防壁に鋭利な何かが無数に食い込んだ。

 そう、食い込んだのだ。

 優劣の劣を強制的に押し付ける一真の魔力に対して。

 

 「(さては能力の系統が似てやがるな……!?)」

 

 対象を踏み越える一真の『踏破』のように、何かしらの結果を出力する概念干渉系の能力を持っているのかもしれない。

 そして上空からの牽制によって一真を地面に縛って空中戦を避けた二刀使いはその隙に地面に降り立とうとする。

 着地のため爪先を地面に着けた時、彼の目の前にあったのは一真の足刀だった。

 

 地面。大気。操られた生徒たち。

 一息に飛び込んだ一真の跳び蹴りが、前方にあるもの総てを余波のみで吹き飛ばした。

 

 (畳み掛けろ!何もさせるな!!)

 

 着地した爪先を軸に身体を一気に回転して回し蹴り一閃。吹き荒れた紫白の嵐が、衝撃を利用して跳んで回避していた二刀使いのいる場所をその周囲一帯ごと抉る。

 ワンアクションで地形ごと壊す。

 触れるどころか向き合うことすら許さない、この近・中距離での圧倒的な制圧力こそが一真の暴力の真髄だ。

 離れられた分だけ距離を詰めて蹴る。その単純極まりない行動だけでいかに相手が詰まされるかはいつかの《七星剣武祭》選抜戦が示す通りだろう。

 ここで二刀使いが後退をやめた。

 地を蹴り砕いて迫る一真を前に欠片の物怖じも見せないのは操られているが故か、それとも生来の剛胆さか。

 僅かに驚きを見せた一真は二刀使いの刀の間合いに入るより早く、しかし目瞬きの後には接触するような近距離で脚を中段に蹴り払う。発生した破壊の波が回避不能な距離で二刀使いに襲いかかった。

 

 ───そして斬られた。

 魔力を宿した二刀使いの刀が、一真の放った衝撃波を鋏を入れるかのように容易く切断する。

 正面から斬り開かれた突破口。

 圧で屈折した大気が分かたれクリアになった視界の先にあったのは、まさに己の顔面に撃ち込まれんとする脚鎧(ブーツ)の槍だった。

 

 二刀使いの攻撃力の高さはさっき見たばかり。

 ただの衝撃波など時間稼ぎにもならないだろう事は容易に察しがつく。

 故に衝撃波はただの目眩まし。本命はそれを突破した先に間髪入れずに待ち構える、最速の前蹴りだ。

 魔力強度を高め堅さと力を純粋に底上げされたその蹴りの強化倍率は、過去にステラの顔面に叩き込まれたそれを上回る。それはそのまま一真の二刀使いに対する警戒心の現れだろう。

 しかしそれを前にして二刀使いは退かない。対して、さらに身体を前に傾けた。

 カウンターの算段があるのだろうか、しかし一真はその判断を『愚か』と断じる。

 どんな行動を起こそうが関係ない。単純な魔力量による強化も加味すれば自分の蹴りが届く方が早い。

 噴き上がってくる殺気を迎え撃つように、一真はその鋼の爪先を二刀使いの頭の後ろの空間まで貫く速度と鋭さで蹴り込んで────

 

 唐突に消えた。

 パンッ、という空気を叩くような音と同時に斜め前に踏み込んできた二刀使いが、一真の横を通り抜けざまその勢いのままに刃を振るう。 

 

 「な」

 

 埒外のバネだった。

 身体強化を行う猶予時間、その体格と筋肉のサイズからはどう考えてもありえない瞬発力。

 完全に虚を疲れた一真だが、それでも反射で魔力障壁を張ったのは流石の戦闘勘といえる。

 しかしこれは賭けだ。

 Aランクの魔力強度と強引に相手の上をいく能力とはいえ、攻撃的な概念を操るらしい相手の剣を咄嗟の防御で止める事ができるか。

 勝負が続くか負けるのか、この事件の流れそのものが決まる土壇場の攻防は。

 

 「《龍焔(りゅうえん)》!!!」

 

 ゴォッッッ!!と大気を轟かせ駆け抜けた風の横槍を受けた。

 大気中の塵から破壊した瓦礫に至るまであらゆるものを渦の中に巻き込み続け、前へ進む限り威力を増し続ける暴風の塊。

 地面を抉り飛ばしながら突き進んだ颶風を避けるために一真と二刀使いは後ろに跳び退いて状況はリセットされた。

 間合いの開いた2人の間に割って入り二刀使いに向き合ったのは、黒髪を靡かせる和服の偉丈夫。

 

 「王馬ッ!?」

 

 「邪魔をするな……っ!!」

 

 ついさっきの衝突の結果がプライドに障ったらしい。猛然と襲いかかる王馬と迎え撃つ二刀使いが複雑に絡み合いながら嵐のように駆け巡る。

 その余波に巻き込まれ人形たちが景気良く吹っ飛んでいくが、ともかくあの厄介な駒を王馬が抑えてくれるのであればいい。その間に最後のハブである月影を押さえてこの迷惑な人形劇を終わらせる事ができる。

 が、その直後に猛然と襲い来る二刀の影があった。

 まさかさっきの奴が王馬を倒して戻ってきたのかと思ったが、違う。

 霊装(デバイス)の形状が記憶と違うが、胸の髑髏の刺青は誰とも見紛うはずもない。

 

 「倉敷ッ、…………!?」

 

 歯噛みしつつ()()()()()()()()()()()()を魔力で受け止める一真だが、その後ろから飛び出してきた複数の生徒を見て言葉を失った。

 生徒会書記・砕城(さいじょう)(いかづち)

 斬馬刀を振り回す友人にしてかつての仲間が、周囲の大気を丸ごと撹拌する程に破壊力を増した一撃をそのまま一真の頭蓋へと振り下ろしてきた。

 ────回避。

 冷静にそう判断した一真だが、しかしその動きはギリギリで実行されなかった。

 生徒会副会長・御祓(みそぎ)泡沫(うたかた)が背後に立っていたからだ。

 一真が回避すればモロに斬馬刀を食らう位置に、これ以上ない絶妙なタイミングで。

 

 轟音。

 超重量の唐竹割りを脚で受け止めた一真だが、軸足が大きくリングにめり込んだ。

 一真をして全力の防御を余儀無くされる凄まじい一振りだったが、しかし同時に砕城の腕と肩から血が噴き出して制服を赤く染める。

 砕城が《クレッシェンドアックス》を制御できる限界重量は10t程度。明らかにその限界を優に超過している破壊力を、砕城は肉体の許容量を無視して強引に制御させられていた。

 つまり、このままにしておけば砕城の身体はすぐにでも─────

 

 「うぐっ!?」

 

 力でその場に縫い止められた所に真横からの衝撃。

 累積した速度に乗せた身体の質量を拳に乗せて叩き込む、生徒会庶務・兎丸(とまる)恋々(れんれん)の《ブラックバード》だ。脇腹にマッハ2の砲弾を受けて呻いた一真の身体がぐらりと傾く。

 そしてその直上。日の光を受けて煌めく霧が、錐のように細く渦を巻く。

 ドズッ!!と、生徒会会計・貴徳原(とうとくばら)カナタの操る数億の刃が一真に叩き込まれた。

 一真の胸に一点集中で激突した刃の霧はそのまま姿を変えて一真を包み込み、握り潰すようにその中身を切り刻む。

 そして。

 

 「オラッ!大人しくしとけ!」

 

 特別席にいた月影を押さえたのは多々良だ。

 撤退知らずの《不転》の2つ名は伊達ではない。彼女は全方位からの攻撃や妨害を悉く跳ね返し、標的となった月影へと最短距離で辿り着いたのだ。

 彼女は月影を地面に組み伏せて素早くネクタイを解き、それを使って迅速に捕縛した。

 迷惑な事件だった、と舌打ちする多々良。

 しかしこれで終わりだ。最後のハブである月影は拘束成功、外で暴れていた残りの生徒たちも機能停止するはず。

 割に合わねェな、ととんだサービスに嘆息する多々良だが、そこで気付いた。

 ()()()()()()()()()()

 ハブは全て押さえたはずだ。

 見逃した?いや考えにくい。

 最初に2人制圧した時に無力化された生徒の数から考えても、月影を潰せばそれで終わりのはずだ。

 となると、まさか!

 

 

 「()()()()()()()()()()()()………っ!!」

 

 

 「ふんッッ!!」

 

 一真がその場で脚を踏み鳴らし、斬撃の霧がばしゃんと弾け飛ぶ。

 脇腹から染みるダメージに軽く咳き込みつつ周囲を見回すと、倒れていたはずの生徒がまた起き上がって暴れている。それを確認して一真も多々良と同じ結論に至った。

 腹の底に憤怒が根を張っていくのが分かる。

 人形たちに『幻想形態』による攻撃は通じない。いくら痛みだけ与えようと人に操られている以上、動きが止まる事はないからだ。

 動きを止めたければ、実際に壊すしかない。

 ───その上で、わざわざ親しい者に襲わせる性格の悪さ。

 さらにここまで砕城たちが使()()()()()のは全て相手を本気で殺すための技とコンビネーションだ。それだけの殺意で来られては、受ける側も相応の害意を持たねば対抗できない。

 親しい人を殺してしまうか、あるいは親しい人に殺されてしまうか。

 もし操られている彼らに意識があったとするなら、今彼らはどんな思いを味わわされているのだろう。

 

 再び兎丸の《ブラックバード》。一真は突き込まれた腕の手首を左手で掴む。右手は兎丸の背中に回して腰に添え、そのまま脚をクロスしてターン。ダンスのエスコートの動きで突撃のベクトルを曲げられた兎丸が、背中から地面に投げ転がされた。

 間髪入れずに振るわれた斬馬刀の横薙ぎは上から刀身を踏みつけ地面に縫い止めて対処。斬撃重量の累積をリセットしつつ顎を掠めるように爪先で一撃、脳を揺らして意識を落とす。

 続くカナタと泡沫も同じように気絶させた。

 しかし見えない糸に操られ、気を失いながらも4人は立ち上がってくる。

 だがこれでいい。

 本人の意識が無ければ辛い思いだけはせずに済むかもしれないのだから。

 

 相手が身体を破壊してでも立ち上がってくる以上《謁見の玉座(エクセドラ)》は使えない。

 ハブを切り替えられる以上《天網恢々(ナートゥラ・アエル)》による特定と制圧も無意味だ。

 つまり誰とも知れぬ首謀者はこう言っているのだ。

 

 ────終わらせたければその手で壊せ、と。

 

 「やってやろうじゃねえか」

 

 試運転のように脚を回し、獣のような双眸に覚悟の光が宿る。彼の腹に煮える意思の固さは迷いのない一歩で示された。

 ただし。

 それは相手を破壊する非情の決断ではない。

 己の信条を遂行せんとする、最善へと向けた不退転の決意だ。

 

 「()()()()()()()()()。カスの思惑に誰が乗るかよ───歯軋りしやがれ、クソ野郎」

 

 一斉に雪崩れてくる人の海。操られた殺意を握らされ襲い来る人形の群れに、不条理を踏み均す蹄鉄が飛び込んでいった。

 

 ………砕城たちが襲ってきた時、もちろん彼は()()()の身を案じていた。

 しかし目立つ彼女らがここに来ても姿を見せないことに、彼は安堵と共に『操られていないならここにはいない』と結論付けた。

 

 そう思い込んでいた彼は気付かなかった。

 同時刻この人形劇の舞台の片隅で行われていた、小さく静かで、一方的な戦いに。

 

 

     ◆

 

 

 身体から血が止めどなく流れていた。

 爪が食い込んだ手の平から、歯を食い縛った口から、充血が極まった眦から。

 軋む身体は今にも引き裂かれそうで、不快極まる魔力の舌先は精神を執拗に舐め回す。

 東堂刀華と黒鉄一輝、そしてステラ・ヴァーミリオン。

 3人は天より飛来した悪意の糸に、全霊を以て抗い続けていた。

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