壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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第61話

 刀華の不利はいくつかある。

 まず1つは火力の不足。

 刀による攻撃は勿論、能力による攻撃もシャルロットのバリアを貫くことは叶わず、またそのバリアを纏われているせいで突くべき隙が存在しない。

 そして第2に、手数の不足。

 刀華の《鳴神》が刀と鞘で一対の霊装(デバイス)。切り札である居合抜き《雷切》を使うために片手が鞘で塞がるため刀を片腕で振るわなければならず、両手で振るうのと比べると速度も力も劣ってしまう。

 無論彼女の技術はそれを前提に組み立てられているため明確な弱点となっている訳ではないのだが、両手に『刃』を持ち襲ってくるシャルロット相手にはいささか分が悪いのだ。

 

 故に刀華は、まず切り札を(わき)に置いた。

 右手に刀、左手に鞘。

 変則的な二刀流に戦法を変化させた刀華が、廻るような動きでシャルロットの双刃と剣戟を交わらせる。

 

 「《電電太鼓(でんでんだいこ)》」

 

 ガガガギギギギッッッ!!!!と線香花火のように撒き散らされる鋼の火花。

 敵の命に照準を合わせた刃の歯車が、数瞬の内に10を超える数もお互いを喰らい合っていた。

 

 『おおっと!? 東堂選手ここでまさかの戦法に打って出た!! 一刀の使い手のはずの彼女が予想外の二刀流! シャルロット選手の手数に全く引けを取りません!!』

 

 『能力で磁界を操作して刀と鞘の動きをアシストしていますね。速度や軌道はもちろん、利き腕とそうでない方の精度の差も完璧にカバーされています。二刀流は元より防御に秀でたスタイルです、これを崩すのは容易ではありませんよ』

 

 (()()()()()()()()()。即席の思い付きじゃねえな。相当な期間を費やさなきゃあの完成度は有り得ねえ)

 

 刀華の動きに一真は感嘆を禁じ得ない。

 ガードの反動に逆らわず腕を下げ、その力を振り子のように連動させ逆の腕を前に出すあの『型』。

 一振り一振りにしっかりと重さが乗っており、いつでも反撃に転じられる態勢を維持している。

 さらにあの片足を軸に回転するような体捌きには覚えがある─────、彼女は重量級の両脚を振り回す自分の動きから着想を得て自身の二刀流を完成させたのだ。

 何となく面映(おもはゆ)い心持ちになった一真だが、しかしその顔は険しいままだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 (あのバリアを貫いて攻撃を通すならもう《雷切》しか可能性がねえ。けど鞘まで競り合いに使ってちゃあ居合抜きは無理だろ。

 まず相手を一手遅らせねえ事には・・・・・・・・・)

 

 あるいは付き合いが長いと思考のタイミングも似てくるのだろうか、刀華が行動を起こしたのは一真のシミュレーションと同時だった。

 シャルロットの左の斬撃を左手の鞘で弾き、続く右の斬撃は──────()()()()()()

 

 「うん!?」

 

 その予想外に思わず声が出る。

 シャルロットの右の刃が振るわれると同時に刀華はジャンプ、シャルロットの右腕を蹴り飛ばし、その反動でさらに高度を上げる。

 すかさずシャルロットは左の《竜舌蘭》を解除、《一輪楯花》の手裏剣を上空の刀華に向けて放った。

 

 その時にはもう、刀華の《鳴神》は鞘に収められていた。

 通常の居合抜きの型とは違う。

 順手で縦に握った鞘に、縦に納刀された刀身。横に振り抜かれるのではなく、空中から縦に振り下ろされる一閃。

 刃の礫を衝撃波で吹き飛ばしながら、超音速の斬撃がシャルロットの頭上から垂直に落っこちる。

 

 「《雷切・直雷(すぐつち)》!!」

 

 ガゴォォォオオン!!!と、まさしく雷鳴のような激突音。

 爆散した大気がリングを舐め上げ、ドーム状に拡がる衝撃波が鼓膜を揺らす。

 居合抜きという定まった型の先入観を利用した見事な奇襲と言えるだろう。

 しかし─────しかし。

 激突音がしたという事はつまり、そういう事だ。

 

 「音に聞こえた《雷切》、なるほど大した破壊力です。試しに十輪ほど重ねて防いでみましたが─────」

 

 砕け落ちるバリアの立てる甲高い音に紛れるように、静かに滑らかに紡がれる少女の声。

 重なる桃色の壁に守られた、戦塵の中から無傷のシャルロット・コルデーが現れる。

 

 「これなら、()()()()()()()()()()()()()()()」 

 

 「・・・・・・・・・ッッッ!!」

 

 慌てて後ろに退がる刀華。

 しかしその動きは戦略的なものではない、明らかな逃げの動き。それを見逃すほど女王の猟犬は甘くはなかった。

 逃げる獲物を追い詰めるべく、シャルロットも全力で地面を蹴った。

 

 『つっ、通じない!! 前年の七星剣王にすら()()()()()立ち回りを強制させた伝家の宝刀が傷一つ付けられない!!』

 

 悲鳴のように叫ぶ実況。

 最大火力の《雷切》まで防ぎ切られたとあれば、もうこの場にいる誰にも彼女の勝利を信じられはしないだろう。

 後退したことにより得た肉薄してくる猟犬に対する瞬きの間の猶予に、刀華はもう一度《鳴神》を納刀した。

 愚かな、とシャルロットは失笑する。

 万策尽きて最早それに縋るしかないのだろう。とうに通じないと証明されたはずの切り札だったものに。

 そして、抜刀。

 鞘から放たれたものは、しかし超音速の抜刀術ではなかった。

 

 「《飛蝗雷荒(ひこうらいこう)》─────!!」

 

 抜刀と同時に鞘口から放たれたのは、四方八方に飛び散る細かい電撃。

 それがどうした、とシャルロットは思う。

 その直後には戦慄した。

 最初の《雷鷗(らいおう)》すら防ぎ切った彼女からすれば、この程度の攻撃など無に等しい威力だろう。

 そう、()()()()()()()

 

 「きゃぁあああっ!?」

 

 悲鳴が上がる。

 刀華のものでもシャルロットのものでもない。

 すぐ目の前でいくつもの雷が()ぜた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 恐るべき反応速度と言う他ない。

 刀華の狙いを知るやシャルロットは身体を反転、目一杯巨大に生み出したバリアを凛奈の手前の地面に向けて全力で投擲。

 電撃と凛奈の間に割り込んだバリアが、間一髪のところで主人を守り抜いたのだ。

 

 ぱたたっ、と鮮血がリングに落ちる。

 主人を守るために自分の守りが疎かになり、燕返しのように切り返された刀華の《鳴神》に斬られたシャルロットの背中だ。

 ─────確かに刀華の作戦は見事だった。

 《雷切・直雷(すぐつち)》を防がせて納刀という予備動作に対する油断を誘い、磁界で誘導した伐刀絶技(ノウブルアーツ)で猟犬の主人を叩く。

 成功すれば鮮やかな作戦勝ちだったろう。

 あくまでも選手として出場しているのは風祭凛奈であり、シャルロットと戦う理由など欠片もないのだから。

 

 だが失敗したらどうなる?

 簡単だ、怒り狂った猟犬が全力で殺しに来る。

 

 お嬢様。お嬢様。

 犬猫と変わらない卑しい出の自分を重用してくださる、優しい優しいお嬢様。

 この責は命と尊厳を以て償います故。

 今はただこの吐瀉の如き下女を誅させて頂きたい。

 

 「楽に死ねると思わぬよう」

 

 鉄壁の守護者シャルロット・コルデー。

 彼女の真の恐ろしさは、守るための能力を敵を殺す為だけに使う時にある。

 ガラスのように色を失った瞳、桃色の輝きと共に全身に刃を纏ったシャルロットに──────鞘に刀を()()した刀華が、一気に突っ込んでいった。

 

 

 シャルロットの本質は『戦車』だ。

 防御を纏ったバリアに任せ、その他全てのリソースを攻撃に回した超攻撃型こそ彼女の本領。

 故に彼女は、刀華に何の脅威も感じなかった。

 傷を付けられた? 防御が緩んだ結果だ。

 そもそも刀華の攻撃は、シャルロットのバリアをここまで突破できていないのだから。

 最大火力の《雷切》の威力は割れている。

 ならば防御はそれを防ぎ切れる分だけでいい。

 後の全ては・・・・・・・・・目の前の売女(ばいた)を確実にズタズタにするために。背中の痛みすら忘れる程の怒りがシャルロットを衝き動かしている。

 敵を殺せ。敵を殺せ。

 愛しい()()()(かたき)を殺せ。

 

 シャルロットが覚えている最後の記憶は、真っ赤に染まった視界と、静かな刀華の声だった。

 

 

 

 

 

 

 「《雷切(らいきり)・───────抜塞(ばっさい)》」

 

 

 

 

 

 

 先の一撃と比べれば、随分と小さな音。

 鞘から撃ち放たれた白銀の刃がシャルロットの胸骨を貫き、その刀身を赤黒く染めて彼女の背中から飛び出した。

 え、と(ほう)けたように漏れた声。

 容易く貫通された《雷切》を防ぎ切るはずの桃色の鎧が、まさしく花弁のように砕けて散った。

 胸に開くは巨大な風穴。

 何が起こったのか理解すら出来ないまま、シャルロットは呆然とした表情のままリングに倒れ伏した。

 胸の穴から溢れ出る血の池が刀華の靴を濡らす。

 

 『しっ、試合終了ォォオオ!! 圧倒的な相性不利を覆し、勝者・東堂刀華選手──────ッッッ!!!』

 

 風祭凛奈、棄権。

 その宣言を受けた審判の判定を、実況が大声で謳い上げた。

 

 

     ◆

 

 

 『見事な試合でしたね。しかし牟呂渡(むろと)プロ、なぜ完全に防がれていたはずの東堂選手の《雷切》は彼女のバリアを貫くことが出来たのでしょう?』

 

 『貫いた、それが答えです。勝負を決めたあの一撃・・・・・・《雷切(らいきり)抜塞(ばっさい)》は、()()()()()()()()なんですよ』

 

 『突き、ですか?』

 

 『ええ。通常の《雷切》は刀を横に振り抜くのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 刀を横に振るということは、そのぶん空気の抵抗を受ける面積が広くなる。それはつまり、その分だけ刀の推進力が殺されているという言葉です。

 そこを東堂選手は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 突き破る空気に対しての面積を最小限にする事により削減される空気の抵抗は甚だ大きい。

 技の性質からして不可避のロスを最大まで減らした一撃は、従来のものを防ぎ切れる程度のガードでは到底足りなかったということです。

 相手から冷静さを奪って防御の意識を下げさせたことも含めて見事と言う他ありません』

 

 『なるほど・・・・・・。ただでさえ強力な技が、さらに欠点を克服して強化されてしまったと』

 

 『そもそもそれを欠点として挙げる必要がない程に強力な技なのですが、超音速の軌道を刺突に変化させねばならないぶんコントロールの難易度は跳ね上がります。

 恐らくは破壊力と引き換えに、身体に相応の負荷を背負っているものかと』

 

 「変則型に変形型かァ。鞘から抜いて斬るシンプルな技によくここまでバリエーションを持たせるなァ」

 

 はー、と感心した様子の一真だが、刀華が彼に勝利する事を強く想っていることを知る者の表情は険しかった。

 シャルロット・コルデーは間違いなく刀華の天敵であり、それを正面から打ち破ってみせたことは文句の付けようもなく見事である。

 ─────しかし、それでは足りない。

 王峰一真に勝とうというのなら、シャルロット程度は歯牙にも掛けず圧勝せねばならなかった。

 何故なら。

 こちらの攻撃が全く通らない程に堅く、かつこちらを一撃で倒しうる相手・・・・・・・・・。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 新技の代償に手首を痛めた様子の刀華が歓声を受けつつゲートへと去っていくその背中を、友人たちは歯噛みするような顔で見詰めていた。

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