壊尽のプリンシパル ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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第65話

 それに対する諸星は限界まで身体を低くし、槍は大上段に構える。頭部を守りつつ瓦礫に対する面積を減らして彼は一気に攻め込んだ。

 確かに彼の能力は魔術ではないものには無力だが、『こういう対策』をしてくる相手と戦うのも慣れたものなのだろう。

 飛んでくる瓦礫を頭上にやり過ごし、激突する軌道のものは角度をつけた槍で最低限の力で弾く。

 そして諸星は次弾を放つため脚を後ろに振りかぶり片脚立ちになった一真を貫くべく、斜め下から鳩尾を目掛けて槍を突き上げた。

 ただの刺突ではない、1回打つ間に同時に3連。

 《三連星》と呼ばれる豪速の連撃が一真の脚の間合いの外から襲いかかる。

 

 「おっと!」

 

 外から見れば単発にしか見えない速度の三段突きを、一真は脚を後ろに振った反動も利用して後方に跳ぶことで回避した。

 蹴りを武器とする者の両足が地面から離れる、それ即ち好機。諸星は追撃を加えるべく即座に前へと大きく踏み込んだ。

 ─────直後、諸星は大きく身体を翻す。

 《駿馬の歩(インキタトゥス)》。

 後ろに跳びながら背後の空気を()()()逆に前方へと吹っ飛んだ一真が、地面と並行に跳ぶ猛烈な飛び蹴りを放ったのだ。

 間一髪で回避したはずの諸星の身体を蹴りで突き破られた空気が叩く。

 そして飛び蹴りが回避された瞬間、一真の蹴り足が紫白の光を放つ。

 またも()()()

 能力を使って空を踏み飛び蹴りから()()()()()()()()()()()彼は、さながら縮んだバネが跳ね上がるように全身を伸び上がらせ、全体重を乗せて諸星へと蹴り込んだ。

 三度襲い来る靴底。《虎王(とらおう)》の柄で防御した諸星だが、大型車両が衝突してきたような衝撃に重心ごと大きく後方に弾き飛ばされた。

 それを追いかけて一真は飛んだ。

 能力と魔力の強度にものを言わせて空を蹴った一真は一気に諸星の背後へと回り込み、飛んできた諸星の背中をバッティングセンターよろしく蹴り抜かんと空間を吹き飛ばすような中段回し蹴りを放つ。

 

 その瞬間、諸星雄大の姿が消えた。

 

 後方に吹き飛ばされる諸星は自分を追い抜かしていった一真を見て彼の次の行動を看破。

 槍の石突を背後の地面に突っ張るように突き立てて制動をかけつつ両足を地面に下ろし、そのまましゃがみ込んで一真の回し蹴りの下を潜り抜けたのだ。

 吹き飛ばされる勢いを利用して蹴りの下を抜けつつ逆に一真の背後をとった諸星は下半身の力を総動員。

 後ろに流れる身体を足腰の構えで停止させ、それはそのまま槍を突く構えになる。回し蹴りを外されて生まれた刹那の隙に捩じ込むように諸星は裂帛の気合いと共に銀色の穂先を撃ち込んだ。

 

 「しゃあッッッ!!!」

 

 捻りを加えて殺傷力を上げた一撃。

 しかしその(きっさき)が捕らえたのは服の切れ端のみ。

 脚一本で軽々と宙に飛び上がった一真が諸星の突きをバク転のような挙動で上に回避し、その勢いのまま諸星の脳天に流れるようにオーバーヘッドキック。

 まともに防御しては危険だ。

 先の一撃からそう判断した諸星は横に回避し、しかし一真はまたも空を踏んでそれに追従。そこから先は嵐に等しかった。

 天も無く地も無く。

 足の届く場所全てを足場にして、暴風雨のような蹴りの束が諸星に叩き付けられた。

 

 『凄まじい攻勢ぃぃいいっ!! 様子見も束の間、序盤からいきなり大きく動きました王峰選手!! 物理法則を無視した縦横無尽の蹴りが諸星選手に襲いかかる─────!!』

 

 『これは諸星選手には苦しい状況ですね。槍という間合いの広い武器は遠い敵には極めて有効ですが、穂先の内側に潜り込まれると対応が難しくなります。

 加えて王峰選手の体躯と脚の長さなら、ほんの少し穂先の内側に入るだけで諸星選手を有効射程範囲内に収める事が出来る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。能力による機動力も加味すれば、彼の攻勢を覆すにはかなり厳しい勝負を強いられるかと』

 

 『いやいや何やあの動き、もう格闘技じゃないやろ!?』

 

 『星いぃぃっ、逃げてくれええええ!!』

 

 四方八方から飛んでくる漆黒の脚鎧(ブーツ)を躱していなして何とか凌いでいく諸星。

 開幕から凄まじい攻勢を受けている彼に客席から悲鳴が上がり、一部は冷静に戦局を見定める。空を泳ぐように脚を振り回す一真に、思わずステラは呟いた。

 

 「あの動きのキレ、カズマのやつ直前までウォーミングアップしてたわね。道理で時間ギリギリまで戻って来なかった訳だわ。それにしても本当にメチャクチャな動きをするわね」

 

 「どこでも足場にできるという事はどこからでも攻撃を繰り出せるし、どこへでも逃げられるという事だからね。それだけでも脅威だけど、そこに彼のパワーが加わると本当に厄介極まるよ」

 

 蹴り終わって伸びた足で靴底に触れている空気を踏み、そこを足場に全身を移動させてその勢いでまた身体全体で蹴る。

 1回1回が渾身の一撃なのだ。

 いくら空中を歩きながらとはいえ普通ならこんな隙だらけの戦法など成立しないし、事実として諸星の目にも突くべき隙はいくらでも見えている。

 しかし。

 

 (反撃に移れん・・・・・・!! 掠るだけでも重心ごと吹っ飛ばされる!!)

 

 一撃一撃が尋常でなく重い。

 まともに受けては防御すら成立しないのだ。故に諸星は蹴りに対して槍に角度をつけて受けることで力を流れを逸らして防いでいるのだが、それでもなお身体が宙に浮く。地に足が着いていない状態で無理に反撃したとしても致命的な隙を晒すだけだ。

 加えてガードする度に槍を握る腕に蓄積していく鈍いダメージ、そう長い間受けに回ってはいられない。

 

 ならば─────受けずに躱す。

 このゴリ押しから抜け出すにはそれしかない。

 

 捌いたそばから飛んできた渾身の蹴りを、諸星は再び槍で受けた。

 それはただ力を他所に流したのではない。《虎王(とらおう)》で受ける角度を調整し、力を流す方向を意図的に操作したのだ。

 槍で受けた力の流れを下方向に逸らし、それを利用して浮き上がる身体をリングに押さえつける。

 地に足を着けた諸星は続く一真の渾身の、それ故に隙の大きい蹴りを余裕を持って回避した。

 そして、突く。

 回り込んだ側面から脇腹と首と心臓、一呼吸の間に3回同時。銀色に瞬いた《三連星》が、晒された隙を食い尽くさんと一真に牙を剥いた。

 

 が、しかし。

 大太鼓を叩く様な音を響かせて一真が消えた。

 貫くべき目標が消えた《虎王(とらおう)》が虚しく空を突く。

 

 「なっ!?」

 

 驚愕する諸星。

 あれだけの質量を持つ相手が視界から消えた。

 前後左右に気配は無いが、諸星は次に取るべき行動を既に弾き出していた。目の前の地面に落ちる影、それを見ずとも相手の居場所は既に特定できている。

 咄嗟に跳んでその場から離れた瞬間に、諸星の鼻先を巨重が掠めた。

 

 どがんっっっ!!!!と落雷のような音。

 貫かれるより早く高空へと跳び上がった一真が、そのまま諸星に向けて()()()()()

 《プリンケプス》の両脚に踏み砕かれたリングに巨大な亀裂が走る。

 

 『強〜〜〜〜〜烈な一撃ィィイ!! 諸星選手の反撃を強引に踏み潰してしまいました!! 伐刀絶技(ノウブルアーツ)を封じられて尚この破壊力、これが《蹄鉄の暴王(カリギュラ)》の本領かああ!?』

 

 《暴喰(タイガーバイト)》。恐るべき伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。

 魔力量や魔術の強さや巧みさを重んじる者が大多数の伐刀者(ブレイザー)達にとって、それを完全に無力化されるのは手足を捥がれるのと同義だろう。

 そこに加えて槍という射程距離に優れた得物と彼自身の卓越した槍術。同じ伐刀者(ブレイザー)に対する絶対的な優位は、生半な体術家では到底埋められないだろう。

 だがしかし、《暴喰(タイガーバイト)》には抜け道が存在する。

 

 1つ目は『伐刀絶技(ノウブルアーツ)以外には無力である事』。

 2つ目は『体外に放出されていない・触れていない魔力には干渉できない事』。

 一真はこの2つを徹底して立ち回っていた。

 

 魔力の通わない石礫で攻撃し、魔力の運用は身体強化や『踏む』能力の発動など体外に放出されず無力化しようのないものだけ。

 そうすればものを言うのは体術と純粋な魔力量だ。

 

 (別に複雑な対策って訳でも無え。同じ事を考えた奴も、同じような戦い方で挑んだ奴も今までごまんといただろうさ)

 

 砕けたリングの破片が宙を舞う刹那の時間、一真は辛うじて降ってきた鉄槌から逃れた諸星を睨む。

 その目に浮かぶのは明確な脅威。

 自分が倒してきた相手が浮かべるいつもの表情。

 それ即ち、─────自分の勝利。

 

 「俺をその中の1つだと思ったのが敗因じゃあねえのかァ!?!?」

 

 爆発。

 リングを踏み砕いた姿勢から、一真は全力で地面を蹴って諸星に向けて突っ込んだ。

 揃えた両脚の靴底は正面、ミサイルのようなドロップキック。受け流す事など不可能なエネルギーだ。食らえば終わり、防御したところで観客席の壁に防御ごと挟み潰されて終わるだろう。

 ならば回避するしかない。

 凄まじい速度だが単純な直線運動だ、躱すのは容易い。諸星は即座に横へ跳ぼうと地面を蹴って、

 

 「なっ、」

 

 足を滑らせた。

 原因は足の下にあったいくつかの小さな石礫。

 一真によって散々破壊されたリングの破片が、ここに来て最悪の形で諸星に牙を剥いたのだ。

 転倒は免れた。しかしもう回避は免れない。

 彼に残された手段は2つ。

 無駄と分かっていても防御を固めるか、一か八かカウンターを狙うかのどちらかだ。

 そして勝負を諦めないのであれば選択肢は1つきりで、足を滑らせた出遅れでそれすらももう怪しい。

 

 「終いだ」

 

 「クソッタレがぁぁああ!!!」

 

 思わぬ所で入った天の助けに獰猛に笑う一真。

 対する諸星は捨て鉢で《虎王(とらおう)》を突き出してくるが、それは《プリンケプス》に阻まれて何の意味も為さない事はもう分かりきっていた。

 諸星雄大、確かに比類無き強者だった。

 去年に東堂刀華が敗れ去ったのも頷ける。

 しかし─────自分の勝ちだ。

 こいつがiP S再生槽(カプセル)から出てきたら、昨晩のお返しで散々煽り倒してやるのもいいかもしれない。

 そして自分はようやく彼女との約束を──────

 

 

 いや、待て。

 何かがおかしい。

 

 脳裏に過ぎった影に一真の思考が急加速する。

 

 語るまでもなく諸星雄大という男は強い。

 そんな事は去年から分かりきっていた事。

 伐刀者(ブレイザー)に対する絶対的な能力だけでなく、一目で一級品と断言できる程に練り上げられた類稀な槍術。黒鉄王馬も王峰一真もいない試合で獲った頂点に価値などないと言い切っていたが、自分と同じ師の元で競い合ってきた刀華を破った時点で、諸星雄大の実力と眼力は学生騎士の中でもトップクラスだろう。

 

 そんな男が─────自分の足元の状況を見落とすなどという凡ミスを犯すだろうか?

 

 既視感を覚えた。

 これと同じものを見たような覚えがある。

 いや、間違いなく『ある』。

 戦いの駆け引きの中で相手が何かミスをして、それで自分の勝利を確信する場面。

 考えてみれば()()()()()()()()()()()()と分かるのに、そこに至るまでの流れが自然すぎて気付かず流されてしまう場面。

 

 

 ああ、そうだ。

 こいつ、黒鉄一輝と似てるんだ。

 

 

 (イヤだったらコレ不味いだろ───!!?)

 

 

 

 甲高い音がした。

 分厚い金属が砕け散る、壊滅的な破壊音。

 諸星の槍と接触したと思った瞬間、不自然に挙動を変えた一真が空中でくるりと回転しながらボロボロのリングに着地した。

 ───一体何があったんだ?

 あのまま突っ込んでいれば、足元を悪くした諸星はなす術なく潰されていたのに。

 そう思っていた観客たちは、その光景の異様さに気付いた者から順に絶句していった。

 

 《プリンケプス》が崩れていた。

 一真の纏う漆黒の脚鎧(ブーツ)、その右脚部分が四分の一ほど消滅している。

 霊装(デバイス)伐刀者(ブレイザー)の魂そのもの、それが破壊されてしまえばそれは痛烈な精神ダメージとなって伐刀者(ブレイザー)の意識を容易く断ち切る。

 もし寸前でその可能性に思い至っていなければ、あるいはもう少しでも遅れていれば彼は敗北していただろう。

 霊装(デバイス)からフィードバックされてくる精神的負荷を受けて全身に脂汗を浮かべた一真が、青筋を浮かべ笑いつつ諸星を睨む。

 

 『こ、これは、いつの間にか《七星剣王》が《暴喰(タイガーバイト)》を発動させている! しかし王峰選手は伐刀絶技(ノウブルアーツ)を何も使っていなかったはず・・・・・・、! まさか!!』

 

 『気が付いたようですね。伐刀絶技(ノウブルアーツ)を消滅させるという事は、そこに存在する魔力を消滅させているという事。そして伐刀者(ブレイザー)の武装、霊装(デバイス)を構成しているものもまた魔力!

 どうやら諸星選手はこの1年で恐ろしい力を身に付けたようです・・・・・・、今の彼の《暴喰(タイガーバイト)》は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!』

 

 「トーカ・・・・・・これヤバくない?」

 

 「やばい、どころじゃないよ・・・・・・」

 

 聞いていた全員が息を詰まらせた。

 つまり諸星雄大を相手に打ち合うという事は、どうぞ殺して下さいと自分の心臓を差し出すのと同じ。

 今回は完全な破壊だけは免れたが2度目はないだろう。

 伐刀絶技(ノウブルアーツ)は最初から通じず、諸星の《虎王(とらおう)》を《プリンケプス》で受けることも出来なくなった。

 即ち、丸腰だ。

 学生騎士の頂点を相手に、一真は裸一貫で戦わなければならなくなった。

 

 「やってくれたなァ・・・・・・」

 

 「惜しいな。もう少しでその脚を田楽刺しにしてやれたんやが」

 

 さっきまでの追い詰められた表情はどこへやら、諸星は不敵な笑みを浮かべて悠然と一真を見据えている。ここまでの流れが全て演技、あの虎口へと続く舗装された道だったのだ。

 ここに来て一真は理解する。

 見かけや口調などの雰囲気による豪傑のような印象とは裏腹に─────考え方が恐ろしく(したた)かだ。

 強力な能力を持ちながらも、その本質は黒鉄一輝と同種のもの。

 

 《暴喰(タイガーバイト)》は伐刀者(ブレイザー)にとっては恐るべき脅威だがそれ自体に殺傷能力がある訳ではないため、相手にそれを当てる為の体術や戦略こそが肝要となるのだろう。

 故にこそ磨かれた駆け引きの広さと深さ。

 自分のそれは黒鉄一輝の住まう域には至っていない。今から頭をこねくり回して何かしらの策を弄したところで、この男には絡め取られて終わりだろう。

 ではどうする。

 深謀遠慮(あたまのよさ)で敵わない相手に戦うには───

 

 「───こっちが、馬鹿になるしかねえわな」

 

 

 諸星が眉を顰める。

 見ている者全てが言葉を忘れる。

 武装も能力も通じないこの状況は、確かに丸腰と変わらないだろう。

 しかし本当に丸腰になるなんて、誰も予想だにしていなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 破壊された霊装(デバイス)は一度引っ込めれば直るというものではない。俄には信じ難い行動を前に、真意を理解した諸星が呆れと感嘆が混ざったような息を吐く。

 

 「・・・・・・成る程なぁ、そういう事かい。理屈は分かるけど馬鹿やろ、自分」

 

 「師匠(せんせい)曰く俺ァ天才肌ってヤツでなァ。考えるより直感で動いた方が正解なんだよ。思ったように戦えば大体イイ方向に転ぶんだ」

 

 『こっ、これはどういう事だあっ!? 王峰選手、霊装(デバイス)を解除してしまった!! まさか万策尽きての試合放棄なのか!?!?』

 

 『それは違います。王峰選手の戦意は消えていません。確かに白旗を上げたように見えますが、あれは立派な作戦ですよ』

 

 『作戦、ですか? 武器を放棄するという選択が?』

 

 『ええ。確かに霊装(デバイス)とは魔法の杖、これの顕現無くして伐刀絶技(ノウブルアーツ)は発動できません。しかし諸星選手が相手では伐刀絶技(ノウブルアーツ)は意味を為さないし、頼みの霊装(デバイス)は剥き出しの弱点に成り下がる。

 ─────()()()()()()()()()()()()()()

 諸星選手に殺傷能力のある伐刀絶技(ノウブルアーツ)が無い事も利用して、王峰選手は戦いの形式を純粋な体術の(くら)べ合いに変えてしまったんです』

 

 黒鉄一輝は思わず身を乗り出した。

 大小様々な異能を携えた者たちが集う祭典で始まったまさかの純粋な格闘戦、それに驚いたのもある。

 しかし何より、これから見れるだろう物に対する衝動のせいだ。

 恋人のスイッチが突然切り替わって驚いているステラに、一輝は抑えきれない期待感を声に馴染ませる。

 

 「ステラ。どうやら僕達は初めてカズマの本気が見れるみたいだ」

 

 「ほ、本気? アイツ今まで本気で戦った事がなかったっていうの!?」

 

 「ああいや、そうじゃなくてさ。よっぽど特殊な条件でもない限り、伐刀者(ブレイザー)伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使わずに戦うなんて事はないよね?

 だから彼の『伐刀者(ブレイザー)としての強さ』は知っていても、体術の技量は僕もよく分からないままなんだよ」

 

 「・・・・・・成る程、そういう事ね。アタシと同レベルのランクと火力特化の能力ともなれば、()()()()()()()()()()()。駆け引きの巧さなんて測りようがない」

 

 「そう。間違いなく強い事は知っているけれど、実際に目にするのとでは雲泥の差があるからね。それを戦う前に知れるのは大きい」

 

 一輝の目の色が変化する。

 明らかになっていなかった好敵手の引き出しを労せずして知れるという僥倖。

 自分の中の知識を使って今まで見てきた彼の動きを分析し、技術体系を予測する楽しみ。

 そして、その自分の予測を間違いなく超えてくるだろう彼に対する期待。

 隣にいるステラ・ヴァーミリオンが面白くなさそうな表情をするくらいには、今の彼はラッピングされたプレゼントを前にしたかのように胸を躍らせていた。

 

 

 「『格闘家としての王峰一真』。今の僕にとってこれほど興味を惹かれる文言はそうそう無いよ」


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