ロックマンエグゼ6 〜熱斗くんにいとこがいるだけの話〜   作:ぴんころ

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第十四話

「さて、と……どうするか……」

 

 悪霊退治はそこまで難しいものではなく、ロックマンの背後から狙おうとするウィルスに関してもアイリスが全て撃破するために電脳獣との戦いが始まるより前に無駄な体力の消費だけはせずに済んだ。

 そうしてたどり着いたのはいいのだが、それでも対処法がわからない。

 

 ”

グルルルルルル……

 

 叫ぶ電脳獣のオーラは、これまでに見たことのある”悪の組織との最後の戦いで使用される巨大な存在”と同等。

 ……いや、初期型インターネット(プロト)よりは弱いか。

 ただそれでも、なまじ比べることができるほどの相手だからこそ、この電脳獣の強大さがわかる。

 

 電脳獣グレイガ。

 

 それが、セントラルエリア3中央の大穴からシーサイドエリアに繋がる道にまで移動していた。

 

「こんなところまで移動していたのか……」

 

「二人とも、距離をとって攻撃してくれ。……特にアイリスは、今から電脳獣の制御に入るんだろ? 集中を切らさないようにな」

 

「わかったわ」

 

 アイリスは玲惟の言葉に頷いて、背中を見せることはなく、けれど確かに電脳獣との間に距離をとっていく。

 近づき過ぎればやられてしまうだろう、という所感にはきっと間違いはないだろうと、その強烈な殺気を肌で感じているアイリスにはわかったから。

 だが、それを理解しているはずのロックマンはなぜか離れようとしない。

 

「……どうした、ロックマン? もっと距離を取れって!」

 

 熱斗の言葉にも反応する気配がない。

 ロックマンは、電脳獣から離れない。

 

「……ロックマン、どうしたんだよ? 早く距離をと……」

 

「さっき、パパが言ってたよね? 僕の体にはパパの作ったエクサメモリが入ってるって」

 

 熱斗の言葉をロックマンが遮った。

 そこには硬い、確かな覚悟があるように聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ、それって、もしかして……」

 

「熱斗、なんの話だ?」

 

 エクサメモリ。

 それは光祐一朗が開発した圧縮プログラム。

 人間のDNAデータすら取り込むほどの大容量を持ち、それはネットワークのエリアをまるごとダウンロードできるほど。

 それはつまり、電脳獣を取り込めるほどの容量があるということ。

 ネットワークエリアごと凍結する形で封印された電脳獣を、ネットワークエリア並みの容量を持つロックマンに閉じ込めることができるということ。

 

「だから、電脳獣をボクの体に閉じ込める。アイリスちゃん、援護お願い」

 

「な、なんてこと言い出すんだよ!」

 

 アイリスが返答をするよりも先に、熱斗が否定しにかかる。

 

「そんな無茶なこと……やめてくれよ!」

 

 悲痛な熱斗の声。

 けれどロックマンだって退きはしない。

 今の彼らに残された手段として一番簡単にできることがそれなのだから。

 

「電脳獣の体はまだ、形の定まらない不安定な状態。電脳獣を封印するチャンスは今しかないんだ!」

 

「ダメだ、ロックマン!」

 

「そんなことを言っても! このまま電脳獣を放置するのと、僕の体に封印してアイリスちゃんに制御してもらうのだったら、絶対に封印する方が確実だ!」

 

 そこで、熱斗のPETにオート電話がかかってくる。

 着信は、光祐一朗から。

 

「待つんだ、ロックマン! ……いや、彩斗!」

 

「パパ!」

 

 熱斗の声に希望が混じる。

 父親なら、尊敬する父親ならばきっと何かあるのではないかと信じて。

 

「確かにお前のメモリ容量なら、電脳獣を吸収することも理論的には可能だ。……しかし、そのあとはどうする!? 吸収できたとしてもお前の意識が耐えられるとは限らない。……また、私たちにお前を失う悲しみを与えるというのか……」

 

「そうだよ、彩斗兄さん! ……兄さんがいなくなったら、俺……」

 

 けれどロックマンは下がらない。

 むしろ心残りがなくなったかのように、覚悟が決まった顔になって。

 

「ありがとう、二人とも。そう言ってくれるだけで、ナビとしてでも皆の家族として生きることができて、本当に良かったと思えるよ……」

 

「ロ、ロックマン……」

 

「アイリスちゃん、僕が電脳獣をインストールしたらすぐに制御してくれ!」

 

「…………わかったわ」

 

「アイリスまで!」

 

「……私たちはネットナビなの。どれだけあなたたちが家族として扱っても、それだけは変わらない。そして、私たちネットナビの役割は……」

 

「人の生活の役に立つことだからね。……電脳獣、インストール開始!」

 

 アイリスの言葉を引き継ぐ形でロックマンが己の体に取り込むように構えて、電脳獣をインストールする。

 狼に近い形状のグレイガ、その周囲に渦巻く炎がまず取り込まれ、少しずつ圧縮吸収されていく。

 

「う、うおぉぉぉっ!」

 

「もういい、やめるんだ!」

 

「う、うぐぅ……っ! うわぁぁぁぁっ!」

 

 あまりにも巨大な容量に、ロックマンもつい苦悶の声を漏らす。

 それを聞いて祐一朗は止めようとしながらも、それでもロックマンは止まらない。

 

 そして。

 

 そして。

 

 そして。

 

「やったよ……熱斗くん……」

 

「ロックマン……ロックマンッ!」

 

「私が運ぶわ」

 

 制御のために沈黙して力を集中していたアイリスが、一時的にその力を緩める。

 ロックマンの肉体に対する負担が大きくなるが、それでもこの場に放置していてはウィルスに狙われる可能性が高い。

 どちらが危険かと言われると、わかりやすくデリートという終焉が見えるそちらの方だった。

 

 そうしてアイリスの手によって運び込まれて。

 

「ロックマン……目を覚ましてくれ……」

 

 熱斗のHPへと連れ帰ってきてからロックマン以外の面々の行動はいくつかに分けられた。

 アイリスと玲惟はロックマンの中の電脳獣の制御のためにずっとその場に。

 そして祐一朗は電脳獣を弱らせるための何かを探していて。

 

「『癒しの水』……?」

 

「ああ、ナビを回復させるための電脳水だ。今の状況はアイリスの力で電脳獣の力を抑え込んでいるだけで、アイリスが離れてしまえば本来の状態の電脳獣が体内で暴れることになる。シーサイドエリア3にあるというその電脳水を使えば、ロックマンを回復させることによって相対的に電脳獣を弱らせることができるかもしれない」

 

「……なら、俺探してくる!」

 

「待つんだ熱斗! 今、インターネットは電脳獣復活に伴って電脳の悪霊とも呼べるプログラムが跋扈している。それに、ナビがいない今のお前では……」

 

「大丈夫、心当たりはあるから!」

 

 そう言って熱斗は飛び出して行った。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、アイリス」

 

 結局あの後、熱斗は己のリンクナビであるヒートマンの手を借りて『癒しの水』を取ってくることに成功した。

 その途中、もう一体の電脳獣であるファルザーを奪取して行ったサーカスマンの妨害もあったのだが、ファルザー奪取によって減った体力が未だ回復していなかったのかウィルスを放つだけで行動を終えたために、熱斗のオペレート技術を持ってすれば特に問題はなく。

 そして癒しの水をロックマンに投与してから丸一日、ロックマンと電脳獣の戦いが始まったのだ。

 その最中、基本的にアイリスはロックマンの中の電脳獣を制御していて、たまに状態確認のために緩める程度しか休む時間がなかった。

 だから本来なら休んでも文句は誰も言わないだろうに。

 ロックマンが電脳獣に打ち勝った後、玲惟に対してちょっとしたお願いをしてもバチは当たらないだろう、と疲労による眠気をこらえてコピーロイドに入っていた。

 

「それで、何がしたいんだ?」

 

「その……」

 

 それでも疲労はなんともしがたいものがあり、うつらうつらとしながら彼の肩に頭を預けて。

 眠気の影響か、今の彼女は自分でも何を言おうとしているのかわからない。

 

「添い寝、してほ……しい……」

 

 最後まで言い切るよりも先にアイリスの頭が滑り落ちて、彼の膝の上に。

 そんな彼女の頭を撫でながら、彼の思考も停止していた。

 普段なら驚いて、きっとアイリスが見た目普通の可愛らしい女の子だということを理由にダメだというのだろうけれど、アイリスに付き合って一晩中起きていたために、それも仕方ないことだったのだろう。

 アイリスの言葉を受け入れて、彼はそっとアイリスを下ろしてそのまま抱きしめるようにしてベッドの中で眠りについた。

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