ロックマンエグゼ6 〜熱斗くんにいとこがいるだけの話〜   作:ぴんころ

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第十五話

「悪い、熱斗……」

 

「しょうがないって。兄さん風邪引いちゃったんだし」

 

 ロックマンが電脳獣を取り込んだ後、彼が目を覚ました時にはアイリスが入っていたコピーロイドはバッテリーが切れたのか通常のコピーロイドに戻っていたのだが、それを充電器に戻す最中に倒れたことで玲惟が風邪を引いたことが発覚した。

 充電器に戻すことには成功したのだが、そのせいで電脳獣を復活させたピエロのようなナビ(サーカスマン)がセントラルエリア3にいると熱斗から聞いたにもかかわらず動けない状態になっていた。

 

「悪いけど、アイリスに無茶させることになった分もお礼しといてくれ」

 

「任せてくれよ!」

 

 そう言って熱斗が部屋に戻ったのを見送って、彼はもう一度眠りについた。

 

 

 

 

 

「ん……アイ、リス……?」

 

「起こしたかしら……?」

 

 玲惟が目を覚ました時、手が誰かに握られていることがわかった。

 そちらに視線を向ければいつの間にかコピーロイドに入ったアイリスが彼の手を握っている。

 多分おばさんだろうな、とあたりをつけながらもアイリスの様子を確認する。

 彼も熱があるために判断能力が落ちているが、それでもアイリスが疲労を隠したりしていないか、なんてことは見ればわかる。

 

「今、おかゆを持ってくるわ」

 

 どことなく後ろ姿は嬉しそうで。

 一瞬だけ、アイリスはオペレーターが風邪を引いて喜ぶような子だったかと疑って。

 すぐに、そういう子ではないよなとその考えを切り捨てる。

 こんな考えが湧き出てきたこと自体が、彼が弱っていることを示しているのかもしれない。

 

「いや、いいよ……」

 

「え……?」

 

「それよりも、そばにいてほしい……」

 

 アイリスはネットナビだ。

 計算能力は人間よりも高く、人間のように人格と心を持ちながらも、どうしても人間とのズレが生じる。

 だから、一瞬だけその言葉の意味がわからなかった。

 言いたいことはわかっても、その意味まではすぐには汲み取れなかった。

 あとは、これまでと違って自分も看病ができるということを喜んでいたこともあったのかもしれない。

 看病してあげたい、彼の力になってあげたい。

 そういった思いがあったから。

 

「……うん、わかったわ」

 

 はる香に教わって作ったお粥を食べてもらいたいという気持ちはあるが、風邪を引いたということで心が弱っているのだとワンテンポ遅れて理解したから、眠ろうとする彼の手をもう一度強く握る。

 ほとんど風邪を引くことがない彼だから、こうして弱っている姿もレアだといえばレアなのだが、そんな姿を見られたことは今の彼女には大きなことではない。

 彼が眠りにつくまでの間、アイリスにできることは手を握ることだけだった。

 

「……どうして」

 

「あら、眠ったのかしら?」

 

 ポツリと呟いた言葉は最後まで部屋に響くことはない。

 それよりも先に彼の叔母であるはる香が部屋に入ってきたからだ。

 

「ごめんね、アイリスちゃん。風邪を引くとちょっとわがままになるみたいで」

 

「いえ、そんな……」

 

「ただ、この子もちょっと昔にね……」

 

 はる香が思い出すのは、玲惟がこの家に引き取られた当時のこと。

 いや、その原因となった飛行機事故の方が正しいのかもしれない。

 当時の彼は極端に、一人で眠ることを忌避していた。

 その理由は飛行機事故のせいで両親が死んでしまったからで、彼が無事だったのはその飛行機に乗ることができなかったから。

 風邪を引いて、家で寝ていたからなのだ。

 どうしても外せない用事だったために彼の両親は行かねばならず、その間面倒をみることになってやってきたのは光夫妻。

 ただ、彼らがやってくるよりも先に飛行機は出発して、そして二人は死んで。

 だから彼にとって『風邪を引く』というのは、その状況下でそばに誰もいないというのは当時のことを思い出してしまうのだ。

 

「私たちも、この子の親になれるようにって頑張ってるんだけど、それでも私たちよりもアイリスちゃんのことを頼ってばかり……」

 

「あ……」

 

「ううん、別に悪いことじゃないのよ」

 

 これまではネットナビとしての領分でしか助けることはできなかったけれど、今はこうしてネットナビとしてではなくアイリスという一人の女の子として助けることができる。

 それが彼女には嬉しかった。

 ただ、それとは別に、家族だと思っているから助けたいのにもかかわらず、未だ叔父叔母でしかいられない自分たちがちょっと情けないと思っている夫婦がいるだけのこと。

 別にどちらが悪いとかそういうわけではなく、それでもちょっとだけ空気が先ほどよりも落ち込んでいるから、はる香はそれを変えようとする。

 

「それだけアイリスちゃんが愛されてるってことだし……」

 

「そんな……」

 

 照れるアイリスだが、こういう場合のはる香は否定してもしつこい。

 そのことは知っているために否定だけはしない。

 玲惟が手を握る力が無意識に強くなる中、ネットナビとは思えない、可愛らしい表情を見せているアイリス。

 少なくとも彼女が自分のことを母と呼んでくれるから良しとしましょうか、なんて思う。

 彼女がそう呼んでいる理由も聞いたことがあるから、そう思えた。

 

「それじゃ、お邪魔虫はそろそろ退場しましょうか」

 

 そんなことを言いながら部屋から退出したはる香は、隣の部屋から聞こえてくる熱斗の声に耳をすます。

 

「こんな時なのに熱斗は今日もインターネットなのかしら……?」

 

 そして、そんな風に呆れられている対象である熱斗はというと。

 

「受け取れロックマン!」

 

 セントラルエリア3で、サーカスマンと戦っていた。

 

 熱斗とロックマンには怒りがあるが、向こうはそんなこと知らないと言わんばかりに電脳獣を隠した場所を問いただしていた。

 熱斗たちからすれば『ロックマンの中にある』というのは事実なのだが、相手は自分が大容量だと信じているから、そんなことはありえないと断言してしまう。

 相手が語るつもりがないというなら語りたくなるようにボコってやる、ということなのだろう。

 そのまま戦闘をしていたのだが。

 

「フルルッフゥーッ!?」

 

 熱斗からクロスチップを受け取ったことでヒートクロスになったロックマンは、電脳獣の力が闘争の気配に当てられて漏れ出してきたのか、攻撃のたびにサーカスマンが悲鳴をあげるほどの迫力を放っている。

 ピエロのような見た目をした、太ったナビ。

 そんな彼の四つある手と同じ見た目ながらも、通常のナビの身長と同じ程度の大きさの手が、ロックマンを取り囲むように無数に出現した。

 それらがロックマンを潰そうと檻を形成して。

 そして一気に空間を圧縮するように殺到した。

 

「バトルチップ、『フミコミザン』」

 

 わずかに存在する、本来ならばナビが抜け出すことが不可能なはずの隙間をフミコミザンによる一撃で通り抜けサーカスマンを切り裂く。

 

「よっしゃ、やっちまえ熱斗!」

 

 そんな、オペレート最中の熱斗の背後ではコジローが叫んでいる。

 集中が切れるのではないかと思いながらも、熱斗にはそんな様子は見られない。

 

「やるぞ、ロックマン!」

 

「! ……うん、いいよ熱斗くん!」

 

 

獣化(ビーストアウト)!』

 

 

 叫びは同時に。

 人型のグレイガを思わせる姿に変わったと思えば、さらにそこに彼に重ねられているヒートマンの力も合わさって、炎の獣へと移り変わる。

 グレイガの要素は消え去り、ヒートクロスをそのまま獣へと変えたかのような姿にサーカスマンは驚愕して動きを止める。

 

「使え、ロックマン!」

 

「任せて!」

 

 額から漏れる炎、手のひらからも炎が漏れ……いいやその体の至る所から炎が漏れて彼を中心としてグレイガを形作る。

 サーカスマンはさすがにまずいと思ったのか、けれど電脳獣の力を使いこなせるはずがないと考えたのか。

 鞭を取り出して地面を叩けば炎の輪から電脳ライオンを飛ばしてくる。

 無数の電脳ライオンが如何にも力を溜めている様子のヒートビーストロックマンに対して襲い掛かり。

 

 

グゥルァァァァッァァァァ!!

 

 

 ロックマンが叫んだのと同時に放たれた炎のブレス。

 それはサーカスマンが知ることはないが、かつて滅んだ第三の電脳獣とも呼べる存在、ゴスペルのブレスにもよく似た一撃。

 電脳ライオンに対して、サーカスマンに対して、かつてブラストマンが語ったような『プログラムの一欠片も残さない』という言葉を実行する。

 

「ま、まさか本当に電脳獣を手に入れていたなんて……」

 

 炎に消し炭にされる直前、もう逃れられないと悟ったサーカスマンの、侮ったことを悔いるような言葉。

 けれどそれは彼の敗北を示す言葉であるはずがなく。

 ロックマンが出会ったブラストマンに、シーサイドタウンで起きた事件の時のキャプテン・クロヒゲとダイブマンのコンビ。

 彼らが敗北した時に言っていたことを思い返せば、そして『電脳獣の復活』なんてことを実行できるような相手だと思えば、彼も何かしらの組織に所属していることなどわかりやすい。

 

「し、しかし、我らの手にもう一体の電脳獣がある限り……あのお方は、必ずや……野望を……果た、す……」

 

 そしてその言葉は獣化したことによって聴覚が強化されたロックマンの耳にもしっかりと届いている。

 獣化したことによってマスクに表情が隠されているのだが、それでも見るものが見れば『やっぱり』と言っていることがよくわかる。

 

「ガァァァッ!」

 

 そして、地獄の業火によって焼かれたサーカスマンも一瞬で焼かれてしまい、データの一片も残さないまま消滅していくのだった。

 

「あのお方……野望……そして、電脳獣……」

 

「今回の一連の事件にも、裏で糸を引く黒幕がいそうだな」

 

「僕らが関わる事件ってそんなのが多いよね」

 

「ああ……なんか嫌な予感がするぜ……」

 

 そう言って、けれどこれで今できることは全て終わったために、ロックマンもプラグアウトすることになるのだった。




知らぬ間にアイリスが救われそうな話がさらにちょろちょろと……これは読まざるを得ませんね
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