ロックマンエグゼ6 〜熱斗くんにいとこがいるだけの話〜 作:ぴんころ
電脳獣復活から数日、あれほどの巨大な存在が復活したにもかかわらずセントラルエリア3から移動しなかったためかそこまで大きな被害はなく、落ち着くことができた。
そしてその日、残す授業が一つとなったところで、クラスメイトからとある話を聞いていた。
「万博パビリオンのオペレーターナビを募集?」
「そうそう」
いつもは人間にオペレートされるナビが万博のパビリオンではコピーロイドを使って人間をオペレートする。
そのためには厳しい選考をくぐり抜けなければならず、本日セントラルエリア1のネットカフェで第一選考が始まっているらしい。
「で、それを俺に教えてどうするんだよ?」
「いや、お前のナビ可愛い女の子だったじゃないか。普通のネットナビにオペレートされるよりもそういう子にオペレートされる方が興奮するってだけの話だよ」
「…………それ聞いて、俺が選考に応募すると思うか?」
「……思わないな」
そうでなくともオペレーターナビということになれば目立つだろう。
アイリスがアメロッパ軍の軍事用ナビでそこから脱走したという経歴を考えれば、目立つような状況は避けた方がいい。
そう考えれば彼がその選考会に出る理由などないはず。
そのはず、なのだが。
(いや……まだバレてないなんて考える方が間違ってるか?)
まともに考えれば、世界規模の大犯罪を何度も食い止めるのに尽力してきた熱斗とその家族についての情報が出回っていないというは楽観的な考えにすぎる気がする。
実際、かつてバレルが熱斗をチームオブカーネルに引き入れた時には、熱斗がやってきたWWWの二度の壊滅とゴスペルの壊滅、さらにはデューオの撃破という実績を知っていたから入れたのだ。
熱斗だけが広まっていてその家族についての情報が広がっていないなんて考えるのはあまりにも浅はか。
アイリスをブラストマンが知っていたことを考えれば、アメロッパ軍かWWWあたりが彼が所属していた組織として最も可能性が高いだろう。
だが、だからと言ってもうすでに知られているから問題がないと簡単に言えるようなものではなく。
もしも、もしも仮に軍部の情報収集能力が小さかったりすれば、知られていない可能性もあって。
少なくとも、公になるのでこれまでに比べて格段に知られることになる。
きっと、アメロッパ軍にも知られることになる。
その代わり、と言ってもいいのかはわからないが公的な権力によって守られる。
『万博のオペレーターナビ』として象徴にしてしまえば、才葉シティは万博を行う街というだけで万博そのものは国が全力で取り組む事業のために国からの保護を得られる。
いつやってくるとも知れないアメロッパ軍の刺客に怯える必要はない。
むしろ、万博終了までは確実に手を出せないことになるのでその間に交渉材料を用意することができるかもしれない。
「…………とりあえず、参加だけはしてみるか」
「マジでか!?」
今の話の流れからどうして参加するのかわからないと言った声音。
だが、そんな彼が詰問をしようにもそれは封じられる。
「ふぉっふぉっふぉ。ではこれより授業を始めるぞ」
チャイムが鳴って、教師が教室に入ってきたから。
入ってきたタイミングは誰にもわからなかったが。
誰が呼んだかこの教師は風天老師。
本名は謎なのだが、それでも風のような俊敏さと高いネットバトル能力、それらを伝える社会の先生としてなぜか人気を博している。
ちなみに今の時間帯はリンクナビシステムの授業なのでそこまで歓迎されていない。
『ウィルスバスティング』の授業は最近ではリンクナビの力を得ることで自らのバスティング技術を上げる授業になっているのだが、クラスごと、あるいは学年ごとに担当の教師が変わる。
このクラスは舟子と風天老師の二名が入れ替わりやっているので、どちらかといえば舟子の方がよかったと思っているのは(すでに舟子の授業を終えた玲惟以外の)クラス全体の総意である。
「では、今日はリンクナビの授業じゃな」
いつものごとく二人組を作るのじゃ、と言われて生徒たちは二人組を作るのだが。
「蒼井、お主は儂とじゃ」
「はい」
本来なら二人組で、お互いのナビを交換してリンクナビの授業を受けるのだが、アイリスは特殊なナビでバックアップデータを取れないという事情があるために教師から一方的に借り受けているのが玲惟の現状である。
「リンクナビの授業、ということでやらねばならないことはわかっておるじゃろう?」
教室中から響いてくる肯定の声。
リンクナビの授業というのは基本的に他のナビのことを理解するだけの授業ではない。
相手に教えるためには自分のナビがどういうことを得意としていて、ナビと息を合わせるためにはどのようなことをすればいいのかを確認する作業が前提となるものなのだ。
つまり、自分のナビのことを理解し直すための授業でもある。
教師である風天老師はともかく、生徒たちは初めての授業の時に説明されたことであり、そこから先生によって用意されたテンプレートな質問に答えていくことで自分のナビの方向性を理解する。
ただ、自分のナビの方向性を理解する作業はもう終わっていて、今回は自分たちで用意した『そのナビのことを理解する授業』をペアの相手に実行してもらう授業、その三回目である。
「では、これよりテングマンの授業を開始するぞ」
「はい」
第一回、第二回とテングマンの授業の前準備は受けていた。
リンクナビの授業は『自分のナビのことを相手に教えるための授業の完成度』で評価がなされる。
そういう意味では玲惟とアイリスは『もしもの場合に復旧ができないためにさせられない』という理由があるとはいえ、相手に教えるための授業の完成度は確かめることができないので不利と言わざるを得なかった。
「一回目と二回目の授業のことは覚えておるな? では今回が本番じゃ」
風天老師がそう言って取り出したのは大きな辞典。
ただし本当の意味での辞典ではなく、電子機器である。
この中に、彼のネットナビであるテングマンが待っているのだ。
「ほれ、中でテングマンが待っておるぞ」
そう言われて辞典に接続すれば、中には名前の通りテングを思わせる姿のネットナビが。
風のように静かな動きを教えるためのナビである。
「一週間ぶりじゃな、玲惟」
「ああ、よろしく頼むぜテングマン」
授業の内容は単純。
辞典から繋がるグリーンエリアに散らばる『電脳巻物』の回収。
ただし、邪魔する電脳カラスという存在が大量……それこそ百近い数いる。
それらをすり抜けながら、回収しないといけないのだ。
「では、始めるとするか」
「はい!」
「……辛かった」
電脳巻物の回収を終えた時、そんなことをつい漏らしていた。
相手がカラスなために知能は高く、一瞬たりとも気を抜けない疾走が続いていたのだ。
カラスたちによる特攻を受け流しながら、どうにかこうにか集め終えたところで授業時間が終わりそうなタイミング。
それでもどうせなら、とそのまま最終試験までを終えて。
「……とりあえず、選考会に行こうか?」
「いいの……?」
アイリスの言葉に頷いて、家に帰る。
考える時間は授業の間だけだったし、授業の時間すらもほとんど考えているような暇はなかったが、それでも安全性をしばらくの間とはいえ確保できるのは魅力的なことだ。
「まあ、アイリスがおじさんに言いたくはないっていうならしょうがないけど……」
その辺り、授業前に考えていたことをアイリスに伝える。
交渉材料を用意してもらうなら頼むべきは叔父さんなのだが、彼に何か交渉材料を用意してもらうには、アイリスがどういう存在なのかを伝えておく必要がある。
それが嫌であるならしょうがないことではあったのだが。
「大丈夫よ、その方が玲惟も安全だし」
「わかった、それなら叔父さんに送るためのメールを作ろっか」
アイリスにメールを頼みながら、帰路を歩くのだった。