ロックマンエグゼ6 〜熱斗くんにいとこがいるだけの話〜   作:ぴんころ

4 / 21
ウィルスマンのことをブラストマンって呼ぶのをやめたげてよぉっ!!


第四話

「受け取れ、アイリス!」

 

 ブラストマンが放った爆風を見て、それがロックバスターを弾いたのを見て、流れるようにバトルチップをPETに存在するスロットに押し当てて、挿入する。

 それが押し込まれたことによって自動的にコードをPETが読み取って、アイリスに対してそのチップの効果を与える。

 彼女の手の内に出現したのは魚を模した青い弓矢。

 出現した時の敵との距離に応じて矢の本数が変わる特殊なチップ、『トレインアロー』。

 以前まで使っていたチップの大多数が、PETの互換性にはそぐわなかったために使用ができなくなった中で、いくつか残った互換性のあるチップ。

 アイリスが見た目は完全に人間であるために腕を変化させたりするのは、という考えからアイリスにバトルチップのデータが転送された場合は基本的には手に持って放つスタイルとなる。

 弓矢の放ち方は、彼女の体に同時にインストールされる。

 基本にのっとった普通の放ち方。

 ただ、これまでの戦いの中で彼女の体が覚えているところはあるのか、初めて使った頃と比べてもスムーズに放っている。

 

「クッ……!」

 

 ロックバスターを弾き飛ばすほどの勢いで放たれる爆風だが、さすがに高い威力を内包する弓矢、それも弱点属性では相性が悪いのか突き抜けて、ブラストマンの肉体を穿とうと突き進む。

 さすがに真正面からの一撃は体を半分ほど捻ったブラストマンには躱されたのだが、それだけの隙があれば戦い慣れたロックマンからすれば十分。

 

「バトルチップ、『アクアソード』『フミコミザン』!」

 

 熱斗が言葉とともにスロットしたバトルチップによって、ロックマンの右腕が青いビームソードへ、左腕が緑が混じったような青のビームソードと変化した。

 チップ名からもわかる通り『アクアソード』は水属性のソードである。

 ブラストマンには掠っただけでも大ダメージとなるそれをフミコミザンで一気に懐にまで踏み込んで、ブラストマンの胴体を袈裟に切り裂く青い軌跡が描かれた。

 

「クォォォォッ!」

 

 けれどブラストマンも噴射させた爆風で己の体を背後に向けて吹き飛ばすことで距離を作る。

 それによって、本来なら受けるはずだったダメージのほとんどを受けることはなく、回避に成功。

 『踏み込んで切り裂く』という単一の効果、『水属性のソードを顕現させる』というアクアソードとは違って効果は使い捨てに近いそれは、一度作用すればすぐに、元の青い鎧に、あるいは青い近未来的な手袋のようなもの包まれた左腕に戻る。

 だが、右腕は使い捨ての効果ではない。

 ロックマンがその気にならない限りはアクアソードは顕現したままなのだ。

 よって、ブラストマンはアクアソードを気にせざるをえない。

 今の彼ではまともに斬られれば即死しかねないからだ。

 さらにそこにトレインアローによる援護まで飛んでくるのだから、余計に神経を使うことになる。

 その状況下を、炎を牽制代わりに放つことで最悪にも最善にも持ち込ませない膠着状態として固定させている。

 オペレーターがいないにもかかわらずこの状況を二体同時に相手取って生み出すという戦いの巧さに内心舌を巻きながら、その上でロックマンはオペレーターである熱斗を危険にさらしたブラストマンを逃がすつもりはない。

 

「チィッ! このままやられてなるものか!」

 

 矢を全て射たためにトレインアローは消失し、アイリスの行動が一瞬止まる。

 どういう理由か定かではないが、ブラストマンは最初からロックマンしか狙っていないように見えている。

 そのこともあって余裕をわずかに持ちながら、玲惟は次のチップへと移行する。

 

「バトルチップ、『バブルスター1』スロットイン!」

 

 その言葉とともにチップデータを送り込んだことで、アイリスの手元に出現したのはストロー。

 それを口にくわえて息を吹きかければ、バトルチップに描かれている、大元のウィルスであるヒトデスタの形のシャボンとなる。

 小型ではあるが無数に出現したウィルス型のシャボンは、その動きを封じ込めにかかる。

 

「熱斗!」

 

「わかってるよ。……ロックマン!」

 

「うん!」

 

 ロックマンは受け取ったバトルチップを確認することすらしない。

 熱斗が送り込んだバトルチップであれば間違いはないという一歩間違えば崇拝にもなりかねないほどの信頼。

 元から兄弟である彼らだからこその信頼によって、彼はそのチップを使用する。

 

「『エリアスチール』!」

 

 敵の動ける範囲を奪うチップ。

 相手の動きを阻害するチップは、後ろに下がることでバブルスターの範囲から逃れて、そのシャボンごと焼き払おうとしていたブラストマンの動きを一瞬だけ止めた。

 

「知った、ことかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ならばとその場で全力で炎を巻き寄せる。

 この管理システムの電脳全てに撒き散らされていた全ての力を強制的に徴収して巨大な炎の雨と化す。

 内部から捻り出すのではなく、すでに用意されていた力、それも大元が自分であれば操作することは容易に決まっている。

 さすがに全域ともなれば負担はあるが、それでもここで行わなければブラストマンの死という未来に至るだけだ。

 よって、彼が集めた炎は先ほどまでの比ではなく、死なないことを目的としたためにアイリスを狙わずにロックマンだけを狙うという余裕もなく。

 戦いのエリア全体に炎が広がった。

 

 さすがに、電脳中に撒き散らされた炎全てを集めたそれを、ドリームオーラで乗り切れるという保証もない。

 一瞬どうするか彼は悩んだが、その横にいる年下の少年は特に悩むことはない。

 

「ロックマン! 電脳内部のキューブを使え!」

 

「わかったよ、熱斗くん!」

 

「アイリスも。ロックマンに従う感じで!」

 

 熱斗と比べると玲惟のバトルセンスは劣る。

 技術的なところではなく、総合的な部分の話だ。

 おそらく、汎用ナビ同士で戦えば玲惟が勝利するだろうが、ナビとの相性をはじめとした諸々の追加要素によって熱斗とロックマンの組み合わせに彼とアイリスでは敵わない。

 それでも、総合的に見て熱斗には敵わないとは言っても、問題なく犯罪組織と戦える程度にはあるのだが、こうしたとっさのタイミングでの機転は熱斗でなければ出てこない。

 そして、ロックマンは熱斗の考えをすぐに読み取れる。

 本当に一瞬のラグもなく、オペレーターの指示とナビの実行までが行われるフルシンクロと呼ばれる高等技術をできるので、こういった場合にはロックマンのやろうとすることを援護する形の方が危険を乗り切れる可能性は高い。

 

「あの炎、このキューブは破壊できないのね……」

 

 アイリスのつぶやきも仕方がない。

 炎はキューブに対して通用しなかったのだ。

 ブラストマン自身の能力の限界もあるのか、飛んでくる炎は一方向だけであり、キューブの後ろから動く必要性もない。

 ただその代わり……という表現が適切なのかはわからないが、炎はほとんど間隙なく降り注いでいる。

 いずれは力尽きるだろうが、その時まで待っていては警備ロボットが再稼働する可能性だってある。

 そうなれば、警備ロボットによって閉じ込められた教師たちの命だって危ない。

 

「借りるぜ、デカオ!」

 

 そう言って熱斗がバトルチップを連続してスロットイン。

 そこに書かれた絵柄は彼が今口にした、秋原町にいる彼の友人デカオのネットナビであるガッツマン。

 そのデータがロックマンに送られ、アクアソードに変化したままの彼の右腕ではなく左腕が変化する。

 

「プログラム・アドバンス! 『ゼータインパクト』!」

 

 ロックマンが拳を突き出した構えになっただけで、無尽蔵に拳が放たれる。

 秒間数百発を超えるであろう拳の衝撃に、張り付いていたキューブが地面ごと剥がされていく。

 そうして放たれ始めてからおよそ数秒程度、ついにキューブが剥がれて、そのまま放たれた拳によってブラストマンのところにまで殴り飛ばされた。

 

「なっ!? クッ……!」

 

「アイリス!」

 

「ええ……!」

 

 あまりにも突然のキューブの突撃。

 それを予想していなかったブラストマンは炎の制御をやめて避けることすらも間に合わず食らってしまう。

 それによって炎が一瞬止まることとなり、その間にアイリスに送られた二枚目の『トレインアロー』がブラストマンを襲う。

 その間にロックマンは走り出して。

 

「受け取れ、ロックマン!」

 

「バトルチップ!」

 

 右手の『アクアソード』。

 そしてガッツマンの左腕に変化していた左手が、もう一度変化を始める。

 そして、その姿が消えた。

 

「『フミコミザン』!」

 

 次に出現した時には両手の剣を振り抜いて。

 ブラストマンの胸に消えない×字を描いていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。