ロックマンエグゼ6 〜熱斗くんにいとこがいるだけの話〜   作:ぴんころ

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うちのアイリスちゃんはオペレーターができたことでちょびっとだけ悲観的ではないのです。


第六話

「どうする、行ってみるか?」

 

 学校を終えて帰って来たところ、熱斗から聞かされたのは『セントラルエリア3』に向かうための扉が開いたということ。

 やることもないためにその先にあるという電脳獣の像を見に行ってみるのもいいかと思ってアイリスへと尋ねる。

 

「私は……どっちでもいいわ」

 

 選択権を玲惟に委ねる。

 悪く言えば主体性がない、ということであり、良く言えば彼の意思を尊重している。

 ただ、アイリスからすれば本当に電脳獣には興味がなくて、それこそ彼が興味があるなら見にいくのもやぶさかではない、という程度なのだ。

 それぐらいは彼にだってわかる。

 

「なら、行ってみようか」

 

 

 

 

 

 たどり着いた『セントラルエリア3』は中央に大きな穴が空いていて、右側には電脳水道管からの水漏れで、左側はエリアパスポートの提示を行わないといけないために今はまだ通ることができない。

 階段の先には雲が道を塞ぐようになっていて、今のところはこのエリアで動ける範囲は完結しているようにも見える。

 他のエリアでは決して見ることのない巨大な穴を迂回するようにして、アイリスは一番奥にある像にまで向かった。

 

 ”その昔、インターネットに恐るべき力を持った二匹の獣がいた”

 ”二体の獣は決して相通ずることはなく、なんども衝突を繰り返していた”

 ”二体の衝突は凄まじく、その度にインターネットの地形が変わったと言われている”

 ”人々は二体の獣を畏れを込めて、こう呼んだ……”

 

 ”電脳獣と”

 

 ”一体は狼のような姿をしていた……電脳獣グレイガ”

 ”その雄叫びはインターネット全土を揺るがし、大きな牙であらゆるナビを噛み砕いた”

 

 ”もう一体は大きな翼を持った鳥のような姿をしていた……電脳獣ファルザー”

 ”その羽ばたきはインターネットのあらゆるものを吹き飛ばし、鋭い爪であらゆるプログラムを切り裂いた”

 

 ”ここは電脳世界を恐怖に陥れた二体の電脳獣が最後に戦った場所である”

 ”中央の巨大な穴は二体の電脳獣がぶつかり合った衝撃で生まれたものである”

 ”穴の底は『アンダーグラウンド』と呼ばれ、今もなお電脳獣が眠っていると言われている……”

 

「……似てるな」

 

「……似てるわね」

 

 電脳獣の像に向けられた視線。

 それは狼型の方……グレイガに対して向かっていて。

 二人の脳裏に浮かぶのは一年ほど前のこと、現在の熱斗の友人が率いていた組織、ゴスペルの事件の最後に発生した戦い、巨大なバグ融合体”ゴスペル”のことである。

 何かしらの関係があるのだろうかとは思うが、おそらくはゴスペルと同種の生命体なのだろうとあたりをつけてそれ以上は考えない。

 伝説なのか、それとも実在するのかはともかくとして、今この場に存在しない以上は考えても無駄である。

 復活するわけでもあるまいし。

 

「それじゃ、そろそろプラグアウトだな」

 

 熱斗は珍しくまだ帰ってきていない。

 たまにロックマンをコピーロイドに転送しているのだが、今日は何かしらの理由でおそらくは居残りをさせられているのだろう。

 授業中に眠っていたか、それとも宿題を忘れたか。

 どちらであっても熱斗ならあり得ることなのでそこまで疑問には思わなかったのだが。

 

「ただいま!」

 

 アイリスをプラグアウトさせて、そのままコピーロイドに転送したところで熱斗が帰宅の声をあげたのだが、どことなく焦っているように感じる。

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、兄さん! 実はペリカ……じゃなかった、ペンギンが!」

 

「は、ペンギン?」

 

 話を聞くと、以前ブラストマンにそそのかされたコジローが、なぜか外を出歩いていたペンギンを見つけて鳩の餌を与えた結果懐かれてしまったということ。

 彼は見ていなかったのでよくわからないのだが、それはそれで仕方がない。

 とりあえず熱斗の説明はそういうことだった。

 

「それで、今からシーサイドエリアに行って電脳掲示板で情報がないか確かめてくるんだよ」

 

 話して、別に誰かの命が関わってくるような事件ではないことを思い出したからか、熱斗には落ち着きが戻ってくる。

 

「じゃ、気をつけて行ってこい」

 

 特に大した事件が発生するとは思っていない。

 そもそも、世界崩壊クラスの事件でも熱斗とロックマンであればどうにかできるということも知っている。

 なので、そこまで心配することもなく気楽に言葉にする。

 アイリスは今プラグアウトしたばかりで、ついでにコピーロイドに入ったばかりなので、さすがに今からもう一度プラグインさせるのは、という思いから。

 

「ああ、行ってくるよ!」

 

 そうして、部屋に入る彼を見送った。

 

 

 

 

 

 アイリスが彼に頭を預けている。

 部屋の中での二人の距離感は恋人によく似たものだ。

 だが恋人というわけではなく、では普通のナビとオペレーターという関係かと言われたら、やはりそちらにも首を横に振る。

 熱斗とロックマンのような家族でもない。

 それでも、ただのオペレーターとナビではなく、出会った当初から悲観的だった彼女のことを幾度となく励ましてきた事実が彼にはあって、それがあるからこそアイリスは甘えているのかもしれない。

 実際に触れ合った時間は短いが、それでもオペレーターとナビとしての時間は長く、これが普段の”これまで触れ合えなかったぶん、今から触れる”というような形ではなく、どことなく怖いことがあるから甘えさせて欲しいというようなものなのだということはわかった。

 

「……話、聞いてもらってもいいかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

 アイリスの話。

 彼女の身の上話なのだろうか。

 それは聞かないことにはわからないが、それでも彼女が話すつもりになってくれたのだから聞く。

 

 アイリスの話。

 彼女がこれまで玲惟に語らなかった話。

 彼は待つと言ってくれたが、それでも彼女に関わることに巻き込んでしまったのだ。

 もう語らないという選択肢はなくて、けれど話の内容を考えれば受け入れてもらえるのかが怖くて、こうして勇気を出すために触れている。

 

「ネビュラの対策チームのリーダーのことを覚えてる?」

 

「ん? ……ああ、覚えてるけど。バレルさんだろ」

 

「……私は、彼のネットナビであるカーネルの妹なの」

 

 さすがにそれは思ってもみなかったのか、目を見開いて驚いていて。

 どこにも似ている要素がない、と失礼なことを考えていることも付き合いの長い彼女にはわかった。

 

 カーネルは、高い戦闘能力と明晰な頭脳に加え、あらゆる電子機器に対応する制御能力、優しさも持ち合わせるなど全ての面で完璧といえるナビだった。

 そう、アイリスも持つ『あらゆる電子機器に対応する制御能力』はここからきている。

 アイリスの能力は、元々はカーネルのものだったのだ。

 その能力と、カーネルが持っていた「優しさ」のデータの二つから作り出されたのがアイリス。

 そういう理由で、彼女はカーネルの妹なのだ。

 

「なるほど……」

 

 バレルがアメロッパ軍の軍人であることはあの戦いの当時に聞いた。

 つまりアイリスは元々軍事用のナビの一部であったということであり、もしかしたら彼女自身もそこに所属していたのかもしれない。

 そしてあらゆる電子機器に対応する制御能力を持つということはきっとそれは間違いではなく、今となっても通用するレベルなのだからきっと重宝されていたのだろう。

 脱走したのか、新型が生まれたのか。

 そこまではわからずとも、軍事兵器として扱われていた彼女を所持しているということがバレれば、アメロッパ軍に狙われる可能性もある。

 これならば確かに、彼女が『野良ナビ』であった理由としてはおかしなことは何もない。

 ついでに、アイリスがバレルたちには自分の存在を教えないで欲しいとあの当時に頼んできたことも。

 熱斗と彼は二人して首をかしげたが、彼らの平穏を守るためだったのだ。

 

「じゃあ、どうして俺のナビに……?」

 

「……あの時のオペレート、私のことを考えてしてくれていたから」

 

 初めて出会った時のオペレートのことを言っているのだ、とすぐに気がついた。

 彼からすればナビも人格を持った一個の存在なので当然のことなのだが、彼女からすれば『ナビの意思を尊重する』オペレーターと出会ったのは初めてだったのだ。

 たったそれだけのこと。

 それだけの、普通のオペレーターであれば当然のことでも彼女からすれば当然ではなかった。

 

「そっか……」

 

 そんな会話を、聞いている二人がいることには気がついていなかった。

 

「……ロックマン」

 

「うん……」

 

 二人の思いは一致している。

 アイリスも、彼らにとっては家族だ。

 家族を危険な目に晒すつもりはない。

 何が何でも守り抜くという覚悟を決めた。

 

 ただまあ、今はコジローが救援を求めているのでそちらから先に片付けなければならないのだが。




ワイリーの作ったナビであることはまだ内緒

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