異形種ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』には変態が二匹いる。
一匹目はギルド長であるモモンガ……の親友である
そして二匹目は――
「いやーシラタマさんが今日いてくれて本当に良かったですよー」
ナザリック地下大墳墓王座の間へ向かいながらモモンガが心から安堵したような笑みを溢す。笑顔のアイコンは随時出っ放しだ。余程ひとりぼっちでないのが嬉しいのだろう。
「そんなーうえへへへ、でも最近は週一くらいでしかログインできてなくてすみませんでした」
そんなモモンガの隣で歩くシラタマと呼ばれる白い悪魔の少女、シラタマ・ホイップ・ナマクリームも照れ臭そうに笑っていた。
彼女の種族はサキュバス。ギルド仲間であるタブラ・スマラグディナが創造したNPC、守護者統括であるアルベドと同じ種族であるが、アルベドが黒髪、黒の翼ならシラタマは正反対の白一色を基調としている。その肌の色も雪のように白く、そこに彩られた赤のアイシャドウと薄紅色の唇はまるで雪原を彩る血のようだ。さらにシラタマはサキュバスの中でも女王と呼ばれるクラスを持つ
かのペロロンチーノ曰く「エッチがエロを背負ってきやがった…!」らしいが、モモンガからしてみれば異形が多い中で至って普通の見た目でありアバターの年齢設定が十八歳程度のせいか、大人のお姉さん系なアルベドと比べサキュバス感はあまりないなあと失礼ながら感じていた。
「いえいえすごく助かりましたよ! シラタマさんのおかげでギルドの維持費を稼ぐのもだいぶ助かってましたしね」
「こちらこそモモンガさんに任せっきりで……さすがギルド長ですね!」
アインズ・ウール・ゴウン、彼らはそのギルド長とギルドメンバーである。
ちなみにシラタマはそこの末席で、彼女がゲームを始めたのは初期メンバーであったぶくぶく茶釜からの紹介だ。
ぶくぶく茶釜とたまたま同じ職場となりそこの新人だったシラタマは、とある仕事で上手くいっていなかった時期がありーーそこに声をかけてくれたのが先輩であるぶくぶく茶釜だったのだ。
「でも茶釜さんは残念でしたねー」
「昨日は来るって言ってたんですけど急にお仕事入っちゃったみたいで」
「あー人気声優ですもんねー」
うんうんと二人頷き、懐かしい思い出におもわず笑みを――ゲームアバターの表情は変わらないが――浮かべた。
シラタマも一応声優の端くれでもあるのだが、そのことはモモンガには内緒であった。
メジャー声優であるぶくぶく茶釜とは違いシラタマの出演しているのはすべてマイナーなエロゲーや18禁アニメだ。しかも他作品と比べてかなりマニアックなものが多く、正直に教えて内容を調べられリアルでの自分に辿り着かれてドン引きなんてことになったら……最悪だ。あ、あかん……シラタマのイメージというものが……。ただでさえゲーム中、とくにモモンガの前では真面目なフリをしていたのだから。しかし
(やっぱり最終日くらい、モモンガさんには嘘つきたくないなあ……)
茶釜さんに言われた言葉を思い出す。
「あの愚弟はともかくモモンガさんはあの見た目でめちゃくちゃピュアなんだから。困らせちゃダメだよ! モモンガさん昨日もシラタマちゃんのこと真面目で優しい子だって褒めてたんだからー」
(ううう、違う。違うんですモモンガさん、私ほんとはそんなキャラじゃないんです……!)
シラタマの素を知っているものはぶくぶく茶釜とペロロンチーノの姉弟だけ。しかもペロロンチーノに限ってははっきりとバレたわけではない。話すうちに「もしかしてシラタマさんって……こっち側ですか?」と勘付かれたのだ。
その時は驚いて何も言い返せなかったが、後々こっそりと肯定しつつも他言無用とお願いした。
「さあ王座に着きましたよ」
ああ、もうすぐこのユグドラシルの世界は終わる。
そう、何もかもが終わるのだ。
「「…………ほえ?」」
ところがどっこい。
強制ログアウトの時刻を過ぎても一向にゲームが終わる気配はなく。
なんだなんだと慌てて二人して空中を掴むような動作でわきわきとしてみるが、コンソールもGMコールも使えなくなっていた。
「どうかなさいましたか? モモンガ様、シラタマ様」
揃ってワタワタしていた所に透き通るような声が聞こえ、二人して振り返る。
そこにはNPCであるアルベドが心配そうに見上げていた。
++++++
ナザリックがどこか見知らぬ世界に転移した。
第六階層にてセバスから報告を受け、続く忠誠の儀とやらが始まる。
その間二人はチュウセイ? 中世? なにそれ? ほよよ? と内心きょどりまくり、守護者達からのガチすぎる評価の高さにゾッとしていた。
その場から二人で逃げるように転移したあと、シラタマなんて「もー帰ろうと思っても帰れないし……考えるのやめたいです」と震え、それをモモンガは必死に励ましていた。
「それにしても守護者達でアレってことは……他のNPC達も、そうなんでしょうかね?」
「まずその可能性は高いでしょうね……」
あまりにも過大すぎる評価に骸骨とサキュバスはこれからどうなるんだと胃がキリキリとする感覚に襲われる。
「そういえばモモンガさんの創ったNPCは呼ばなくて良かったんですか? たしか宝物殿にいますよね?」
「え!? あ、あー……あいつは……」
別にいいです。と、モモンガがスッと目を逸らす。
「シラタマさんはNPC作らなかったんですよね」
「あー、いやー私はなんというか、やってみようとは思ってたんですけどみなさんみたいにうまくできなくて、こう……どうやっても完璧すぎるというか、綺麗すぎというか、違うそうじゃないというか……理想のNPCが作れなくてですね。ペロロンチーノさんにも色々アドバイスして貰ったんですけど」
「ペロロンチーノさんにですか?」
はて。とモモンガは首を傾げた。
なぜならシラタマとペロロンチーノはそこまで仲が良かったという記憶はなく、むしろ仲良しだったのはその姉であるぶくぶく茶釜さんだ。
(でもペロロンチーノさんシャルティア作る時かなりこだわってたからなあ……参考にしたのかな?)
モモンガはひとりでそう結論付けて鷹揚に頷いた。
その予想はまあまあ正解であった。
シャルティアはペロロンチーノの理想の性癖を詰め込んだペロロンチーノにとって完璧な少女である。だからこそシラタマは参考にしようとし、諦めたのだ。
すべてが完璧なナザリックのNPCでは自分の性癖は表現できない、と。
「あーたしかにシラタマさんの性癖は俺とはまさに真逆ですもんねー」
ペロロンチーノはそう言って笑っていた。
ちなみにモモンガが知らなかった、いや気づかなかっただけなのだが、シラタマとペロロンチーノは所謂『世間から白い目で見られがちな性癖同盟』を結んだ同士であった。
この秘密の同盟を唯一認知していたぶくぶく茶釜は心底ドン引きしたらしい。
初心者が頭空っぽでやっていきます。よろしくお願い致します。