「――さて、貴方方が聞きたいのはまず二つでしょうから先に答えさせて頂きます。ひとつ、私は本当にプレイヤーなのか? 答えは然り、ですわ。このスレイン法国とやらが崇拝する六大神、彼らと同じ世界から私は来ました」
おお、と小さな歓声が上がった。
声の主は漆黒聖典のひとり、最近すごくどこかで見たような金髪の男であったがシラタマはその男を無視して話を続ける。
「ではふたつ、陽光聖典が不運にも遭遇した強大なモンスターとはなんなのか? こちらに関しては私も今はわからない。とだけお答えしましょう」
その言葉に神官長らがどうしてとでも言いたげに口を開くが「――それに」シラタマは静かに手のひらを翳しそれを止める。
「……ここまで来る際に彼ら、ルーイン殿からいくつかお話を伺いましたが――魔神、と呼ばれる存在がこの世界にはいるのだとか?」
その言葉に、全員がはっとした。
魔神――。
それはかつて六大神の従属神であった者らが堕落し悪魔へと化した存在であり、多くの民や国を滅ぼしたという。一部では十三英雄によりすべて倒されたとも言われていたが
「……いや」
ここで初めて最高神官長が口を開いた。
もしやそれは、
「……破滅の竜王?」
なんじゃいそれはとシラタマは隣にいるニグンに視線を送るが、ニグンは困ったように小さく首を振り返す。
「それに関しましては私共の方から説明致します」
漆黒聖典の隊長らしき細身の青年が前に出る。自然とシラタマの視線は彼に向き――全然タイプじゃねえなと肩を竦めた。
漆黒聖典第一席次にしてプレイヤーの血を引く神人であると軽い紹介だけされた隊長は、数日前に同じく漆黒聖典第七席次〈占星千里〉によって予見されていた世界を滅ぼす力こそが破滅の竜王だと説明してくれた。
なんでも彼らは明日にでもその破滅の竜王を捜し支配下に置く為に法国から出撃する予定だったらしい。たかが予見くらいでとも思ったが隊長は違うのだと苦渋の表情を浮かべ、最高神官長が口を開く。
「……土の巫女姫が、神殿ごと爆発に巻き込まれて亡くなったのだ」
「な――っ!?」
ニグンだけが驚愕の声を上げ、慌てて口を噤んだ。場にいた他の者達は悲痛の表情を浮かべている。彼らのその様子からシラタマは「よくわかんないけどその土のなんたらが爆死してやばいよやばいよってことなのかな?」程度に考える。が、続く最高神官長の言葉がその思考に待ったをかけた。
「それも丁度ニグン・グリッド・ルーイン、お前達陽光聖典を監視した瞬間に、だ」
「――――ッ!」
(…………ん?)
「おそらくだがその時、お前達はその強大なモンスターと対峙していたのではないか?」
「……はっ! そ、その通りで……」
(………んんん?)
ちょっと待てよとシラタマの背中に嫌な汗が伝う。神官長らが土の巫女姫爆発からの大惨事からの法国大パニックからのそのどさくさに紛れて逃亡した漆黒聖典の裏切り者クレマンティーヌの話をしていたが、シラタマはそれよりもとこそ~っと《伝言》をモモンガへと繋げた。
『モモンガさんモモンガさん応答してください。こちらシラタマ』
『――あっはい! なんですかシラタマさん緊急事態ですか!? 』
『あ、いえ。緊急事態ってわけではたぶんないと思うんですけど……』
《伝言》なのに場の雰囲気からおもわず脳内でも小声になるシラタマとは反対に、モモンガは何やら慌ただしく動いているようだった。戦闘中なのだろうか?
まあそれよりもだ。
『モモンガさんって今攻性防壁のカウンター何に設定してましたっけ?』
『えっ? 今は普通の《
『あっ(察し)』
――理解した。
犯人コイツだわ! ――と。
『な、なるほどーはえー……あ、すみませんでした急に。詳しいことはまたあとでお話しますねー』
『いえいえ大丈夫ですよ。はーいまたあとでー』
そっと《伝言》を切り神官長らへと目を向ければ、いつのまにか彼らの中では巫女姫を爆破したのは魔神もしくは破滅の竜王の仕業という事になっていた。見ず知らずの破滅の竜王ごめんなと、でもこれモモンガさんのせいだから私関係ないからとシラタマは知らんぷりをする事に決めた。
そして――陽光聖典が遭遇した謎のモンスターは魔神暫定破滅の竜王と結論付けられたのであった。加えてシラタマと交戦したのちどこかへ逃げていったということで、漆黒聖典達の出撃は一旦中止となった。
「――さて」
それらひと通りの話を終えると、最高神官長がゆっくりと口を開く。そして神官長らも揃って頷く。彼らの中でひとつの結論が出たのだろう。
「……ではシラタマ様、貴女様をプレイヤーと見込み頼みがございます」
「頼みですか」
最高神官長が鷹揚に頷く。
「どうかこのスレイン法国を、我々人類をお守りください」
「…………へえ」
小さく、隣にいるニグンにしか聞こえないような声でシラタマが応える。
(頼みとか言っといて「ください」ね……そこ疑問形じゃないんだ。ふーんなるほどなるほど)
ちらりと視線だけ動かし漆黒聖典を見れば、全員がいつでも飛びかかれるぞとばかりに身構えており
「……そうですね」
シラタマは凛として立ち、神官長らを見据える。
「お断り致しますわ」
そして優雅に、丁重に、彼らからの頼みを突き返した。「なぜ!?」という言葉が投げかけられるがシラタマはやれやれと首を振る。
「私はまだこの国を、貴方方の言うところの人類を守護するつもりがないからです」
きっぱりと言い放つ。
「それは……どうしてでしょうか、シラタマ様」
「簡単な事です。このスレイン法国は人間至上主義なのでしょう? ならば、私の存在はそれに反しているからです。……わかりませんか?」
その言葉に神官長や漆黒聖典達はまさかという風に目を見張る。
「つまり、まあ、こういうことですよ」
そう言って付けていた指輪の一つを外すとシラタマの姿がグニャリと歪み――そこには元の異形種としての姿があった。
「異形種だと!?」
漆黒聖典隊長が見窄らしい槍を構え――「下がりなさい、〈漆黒聖典〉」前に出ようとしたのを、土の神官長であるレイモン・ザーグ・ローランサンが止めた。隊長は「なぜ」という顔でレイモンを振り返り――
「……申し訳ありません」
レイモンは元漆黒聖典、それも十五年以上も戦い続けた護国の英雄であり、隊長にとっても誇り高き自慢の上司である。彼の言葉に素直に従ってその身を引くと、シラタマに対しても謝罪の意を込め頭を下げた。シラタマは別に構わないと手振りで返す。
「部下が申し訳ない」
「いえいえ構いませんよ。今のこの国では先程の反応が当然なのでしょう?」
わざとらしい笑顔を作り応えると、神官長らは気まずそうに顔を引き攣らせた。
「なので、やはり私のような異形がこの国を守るにはまだ早いと思うのです……で・す・か・ら」
強調するようにパンと手を叩き、今度は屈託のない笑顔を浮かべる。
「まずは交流から始めませんか? 異文化交流というものを、ね?」
++++++
神殿最奥にして最深部――聖域。
そこにはかつて六大神が残した神器の数々と、それを守護するようにひとりの少女がいる。
少女の名は――番外席次。
彼女はいつものように漆黒聖典の隊長から事の顛末を聞いていた。
「それで? その異形種のプレイヤーさんは帰っちゃったの?」
番外席次の問いに漆黒聖典隊長は首を振る。
「いえそれが、しばらく法国に留まるようでして」
「え? なんで?」
「なんでも御方はこの世界に来たばかりらしく、人類を守るかどうかはこちらの様子を見て決めると、それとなんでも人間との交流をしたいと仰せでして」
「……それで、あのじじい達は?」
「了承致しました」
まさか、と番外席次は目を丸くさせた。
実際は「もうぐだぐだ話しててもめんどくさいから先に観光するね。交流はこっちで勝手にするから放っておいてね。っていうかいっそこの国まるごとくれるなら守ってあげてもいいけどね」的なことをシラタマは話したのだが――うまく伝わっていなかったらしい。
「しかしやはりと言いますか、プレイヤー様といえどその真のお姿は異形種。神官や国民の中にはすぐには受け入れられない者もいるでしょうね……」
「まあそうだろねぇ」
興味なさそうに呟き、かつての神官長らから受けた仕打ちを思い出す。今の神官長らは幾分とマシだが――それでもエルフと人間のハーフである自分ですら人類の守り手と呼ばれながらもこうなったのだ。異形種なんて以ての外だろうに、それでも法国内に留まる事を許したのはやはりプレイヤーだから、だろうか。
「よし」
先程からやっていたルビクキューの一面が揃う。
「……で、どうなの? そいつ私より強そう?」
彼女にとって最も重要なのはそれだけだ。尋ねる表情はまるで新品の玩具を前にした子供のように輝いていた。漆黒聖典隊長は「そうですね」と謁見の場での異形種の少女――まだ推定だが話を聞く分にはプレイヤーで確定だろう――を思い出す。
(正直なところ、あの方からはなんの力も感じられなかった。いや、確かに強いといえば強い……)
だが相手の強さが見れる第十一席次曰く、見えたシラタマの強さは漆黒聖典の平均値以上、しかし隊長以下だったのだ。だからこそ彼女に痛めつけられたという魔神暫定破滅の竜王の脅威に対しても神官長らは対応を再度決議すると決めたわけで。
(異形の姿を露わにした時こそ驚いたが……)
咄嗟に神官長らを守る為前に飛び出してしまったが――隊長も馬鹿ではない。戦わずとも相手との力量差くらいは分かる。
今目の前にいる番外席次がそれだ。
その身体から溢れ出す圧倒的な力の奔流――これに比べれば、シラタマから感じ取れた力は全く持って比較にすらならないだろう。
「……あなたですよ」
やはり番外席次こそが最強である、と彼は結論付けるのであった。
「なーんだ。それは残念……」
隊長「力量差くらいは分かる(キリッ」
シラタマ様「異文化交流したいなあ!(交流するとは言っていない)」