ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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シラタマ様たちが法国に行っていた一方その頃です。


13 モモン、ワーカーになる

 バハルス帝国にある冒険者組合にて、アルシェは窮地に立たされていた。

 

 帝国の皇帝によって多くの貴族が爵位を剥奪され、アルシェの家であるフルト家もまた平民に落ちた。が、もしまた返り咲きたいと真に願う者ならばそこからでも這い上がってくるだろう。生まれも育ちも関係ない実力社会、それが帝国なのだから。

 だが――アルシェの両親は違った。

 没落しても貴族の暮らしをやめられず、現実から目を逸らし続け、最近では彼らを止めようとしたアルシェに手を上げるようにもなった。二人の妹達はすっかり両親に怯えてしまっている。

 雪だるま式に増えていく借金、借金、借金――そしてついに彼らは学費にすら手を出したあげく一方的にアルシェを退学させた。そしてアルシェただひとりを働きに出させる事にしたのである。

 

 学院では若くして第三位階に到達したアルシェは天才と呼ばれ――彼女自身はそれを鼻にかけるような事は一切なかったが――しかしだからこそ、彼女は唯一の特技である魔法を武器に冒険者になろうとしたのがここまでの経緯だった。

 

「ど、どうしてですか!?」

 冒険者組合のカウンターにてアルシェの悲痛な声が響く。受付担当の男は面倒そうにため息を吐いた。

「だから、冒険者はどれだけ魔法が凄かろうと剣ができようとまずは(カッパー)からなんだよお嬢ちゃん。いいか? それで今、銅にできる仕事はないんだよ」

「そんな……っ!」

 バハルス帝国は軍事力がある為に冒険者が請け負う高額依頼、周辺のモンスター討伐などは一介の兵士らで事足りている。つまりこの国での冒険者の価値は滅法と低いのだ。おまけになりたての銅とくれば……

(どうしよう……これじゃあお金が稼げないよ!)

 アルシェは悔しさからぎゅうっと両拳を握る。その隣ではモモンもまた、さてさてどうしたものかと困惑顔を浮かべていた。

(まいったなぁ、冒険者の仕事がただの傭兵紛いってのはニグンから聞いてたけど帝国ではそれすらもないのかー)

 モモンガとしては別に異世界スローライフよろしくと地道にのんびりやるのも良かったのだが、それではアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターとして帝国で名を挙げ出世するという目的が――

(いやないよ! 俺そんな目的微塵もないよ!?)

 しかしシラタマが勝手に言い出したせいで守護者達、とくにデミウルゴスとアルベドはすっかりその気になっているわけで、モモンガ的に今更「ふええ、そんなのやめとこうよお~」なんて言える空気ではなかったのだ。

(はあ……でもまあそれなりの地位が貰えればこの世界の情報ももっと得られるかもしれないしな)

 王様にはならないがそれなりに出世は必要だろうとモモンガも結論付ける。

 

 

「……俺はなるべく早く名を売りたいのだが、何か他に方法はないのか?」

 モモンの問いに受付の男は怪訝そうに顔を顰めた。

「なんだいにいちゃん、あんたは名声が欲しいってか?」

「えっ」

 いや、そんなつもりはと弁明しようとしたが先にシャルが「名声? 何を馬鹿な事を言っているのでありんすか?」と口を開く。

「ああそうだ勘違いしないでくれ。俺は――」

「モモンお兄ちゃんは! 元より世界の頂点に立たれる御方でありんすつうまあああり! 名声を浴びる事すらすでに当たり前っ! お前達が息をするように当然の摂理! こっちが求めなくても勝手に世界がモモンお兄ちゃんを崇めて讃えるのでありんす! あ・り・ん・す――!」

 ふんすーっとシャルがドヤ顔で鼻を鳴らす。しかしそれに対して隣にいたアルシェはポカン顔、受付の男なんて哀れむような目をモモンに向けていた。

「……うん。ちょっと静かにしてようかシャル」

「ど、どうしてでありんすか――!?」

 はいはいここで待っててねーとモモンはシャルを退かす。

「にいちゃんの妹さん……元気だな」

「いえ……」

 妹じゃないんだけどなあとモモンは心の中で大きな溜め息を吐く。そして受付の男も同様にやらやれと頭を振ると

「あーわかった、わかったよ。ひとまず、だ。にいちゃんは名声、そっちの嬢ちゃんは金が欲しいって事でいいのか?」

「え、まあ……はい」

「そ、そうです!」

「だったらよ、組合の俺が言うのもなんだがあんたらはワーカーになった方がいいと思うぜ」

「「……ワーカー?」」

 二人して首を傾げる。

 ワーカー、それは一般的には冒険者からのドロップアウト組と認識されてはいるが、実際には冒険者と違い組合に属していない事で組合が取り合わない仕事、つまり危険度も高い反面冒険者よりも多く金銭を稼ぐ仕事が出来るのだ。ワーカーになる者の理念は様々であるが、多いのは金や名声だという。

「なるほど……ワーカー、何にも縛られる事のない請負人か」

 モモンがいいんじゃないかと頷くと、塾考していたアルシェも同意を示す。

「なら俺達はワーカーになるとしよう。教えてくれてありがとう」

「あーいいってことよ。その代わりワーカーの仕事はマジでやべえのが多いぞ?」

「俺達なら大丈夫だ」

 そうだろ? とお口チャックしていたシャルの頭をポンポンとしてやると、シャルは待ってましたとばかりに「もっちろんでありんす!」と元気よく返す。受付の男は苦笑し、組合から出て行く三人に少しでも長生きして欲しいと思うのであった。

 

 

 

 帝都の賑わう中心街を外れ、年季の入った店や住宅が立ち並ぶ中に多くのワーカー達が拠点としている酒場『歌う林檎亭』はある。

 その店内に設置された掲示板の前でモモンは目を丸くさせていた。そこには様々なワーカー達により張られたチラシ――メンバー募集や共同の依頼などだ――がある……らしい。このらしいというのはアルシェがそう言っているからだ。つまり――

(も、文字が読めない……!?)

 なんてこったいとモモンは額から嫌な汗が伝うのをさりげなく拭い冷静を装う。が

「もしかしてモモンさん、帝国語は苦手……ですか?」

(はいバレました――――っ!!!!)

 きょとんと見上げているアルシェにモモンはおもわず「きみエスパーかよお!」と嘆きたくなったが、おそらく顔に出ていたのだろう。こんな時だけは普段の骸骨顔の方が良いなと肩を落とす。

「す、すまない。俺とシャルは遠方から旅をしてきたものでな、その」

「あっいえそんな、大丈夫ですよ。 私が読みますね」

 そう言ってアルシェがひとつずつ説明してくれた。

「えと、ここにあるのは全部ワーカーのメンバー募集なんですけど、まずはここからどのチームに入るか選ぼうかと思います。この〈湖の剣団〉というチームは剣士を数人募集してますね、こっちの〈フォーサイト〉というチームは魔法詠唱者を一人募集してます。それと」

「ん? 待てアルシェ、新米ワーカーは既存のチームに入らなければならないのか?」

「えっ」

 モモンとシャルが揃って「なんで?」と反応し、アルシェの方も「なんでってのがなんで?」という顔で返す。

「だ、だってそもそも冒険者もワーカーも一人じゃ出来ないし……剣士、レンジャー、魔法詠唱者、神官、少なくとも四人は必要で」

「あーなるほど、そういう」

 納得した。

 ようは役割分担する事でバランスの良いチームを、ということだ。アインズ・ウール・ゴウン時代モモンガも外へ出る時はその場の何人かとチームを組んでいた。防御担当ぶくぶく茶釜、最強の戦士たっち・みー、狙撃は任せてくださいとペロロンチーノがついてきて――かつての思い出にモモンはあたたかな笑みを零す。

「――なら、俺達でチームを組めばいい。俺は魔法詠唱者、シャルは……えーとそうだな、神官戦士だし、アルシェも見たところ魔法詠唱者だろう? ホラこれで三人揃ったじゃないか」

 そう言うとアルシェは目を大きく見開く。

「モモンさんは魔法詠唱者だったのですか?」

「……ぇ?」

 嘘でしょ? 見たらわかるでしょ? とモモンは着ている漆黒のローブを猛アピールするが、アルシェは困ったように眉を顰めた。

「いえ、その、ごめんなさい。モモンさんから魔力が見えなかったもので」

「ん? 見えなかったって?」

「私のタレントです。この目で見た人の魔法力がわかるんです。相手が魔法詠唱者なら第何位階まで使えるのかが分かります」

「……ほう!」

 途端、モモンの目が興味深そうに輝いた。

 この世界にはユグドラシルではなかった生まれながらの異能(タレント)というものがあるという話はニグンからも聞いていた。

(たしかあいつのは召喚したモンスターの能力向上だったっけ……だがアルシェのタレント、これはなかなかすごいんじゃないか?)

 アルシェがいれば相手の、少なくとも魔法詠唱者の強さがわかるのだ――今のモモンやシャルのように探知系から身を隠す指輪をつけていたりすると見えないようだが――モモン、いや、モモンガのコレクター魂に火が付く。なおさらアルシェはチームに欲しい、と。

「おほん、心配無用だアルシェ。自分でいうのも何だが俺はとても強いんだ」

 うんうんと誇らしげにシャルも頷く。

「それにこうしてお互いが冒険者を目指し偶然出会ったのも何かの縁だ。どうだ? 試しに組んでみないか?」

「…………それは」

 どうしよう、とアルシェは再度掲示板に視線を向ける。正直言って学院を出たばかりのアルシェにはどのチームが良いのか全くわからなかった。ならば――出会ってまだ僅かではあるが――少しでも顔見知りのモモン達とひとまずはチームを組んでみるのもいいかもしれない。

「……わかりました」

 ではよろしくお願いしますとアルシェが頭を下げる。

「ああよろしくなアルシェ、そういうわけでシャルもいいよな?」

「いいでありんすよ。このアルシェという小娘、よく見たらなかなか可愛らしいでありんすし、ねえ?」

 絡みつくようなねっとりとした視線を向けられ一瞬身震いしたが、それでもアルシェは(こ、小娘って……この子の方が年下、よね?)と内心肩を竦めるのであった。

 

「それじゃあさっそく行くとしようか」

「え? どこへですか?」

「闘技場だ。実はさっき後ろのテーブル席にいたワーカー達の会話が聞こえていてな。なんでも今日はワーカーなら誰でも参加できる催し物があるそうだ」

 だから俺達も参加するぞとモモンが言い、シャルも承知したでありんすと後をついていく。そしてアルシェも「えええっ!? 今からですか!? 本当に!?」と戸惑いながらも二人の背中を追いかけた。

 

 

++++++

 

 

 バハルス帝国帝都アーウィンタールにある闘技場は帝都に住む者達にとって最大の娯楽施設である。

 観光スポットとしても人気が高く国外からも多くのファンが訪れ常に満員だ。そこでは毎日のように様々な催し物が開かれ――毎日のように人が死んでいた。むしろ誰も死なない日の方が珍しく、人が死ぬ程盛り上がるという。

「ほう、なかなか大きな所じゃないか」

「ナザリックの円形闘技場によく似ているでありんすね」

 そんな闘技場を見上げる二人、モモンとシャルは人混みを掻き分けながらずんずんと中へ進んでいく。その後ろを小走りで追いかけながら、アルシェは「本当にやる気なのかなあ」と不安を露わにしていた。しかし今は同じチーム、ついていくしかないのである。

 闘技場の受付まで来ると本日開催される催しが張り出されており、多くのワーカー達がどれに参加するか話し合っている。モモンとシャルもどれどれと一覧を覗き……やはり文字が読めないのでアルシェに見てもらう事にした。人が多い為アルシェの背丈では見えないだろうとモモンがアルシェを肩車しようと持ち上げ――

「お、お兄ちゃん! 小娘(アルシェ)だけずるいでありんす! 私も! 私もおっ!」

「ええー……」

 大勢のワーカー達が変なものを見る目を向ける中、モモンは右肩にアルシェ、左肩にシャルを乗せる羽目となった。もちろんめちゃくちゃに目立っている。視線が痛い……。

 アルシェは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも催し物を読み上げていく。

「今日やっている催しで今からでも参加できるのは……あと二つだけですね。ワーカーチーム同士のバトルロイヤルと、『ワーカー狩り』という演目です」

「ワーカー狩り?」

 バトルロイヤルの方はどんなものかはだいたい予想はつくが、そっちはなんなんだとモモンが小首を傾げる。

「ええと、あ、ルールも書いてありますね。なんでも四人以下のチーム一組で大多数のモンスターや魔獣と戦うみたいです。戦況関係なく十分毎にモンスターが追加されていくのですが、その、ワーカーが全滅すれば終わり……と」

「とんでもないルールだな……」

 だからワーカー狩りなのかとモモンは小さなため息を吐いた。ようは観客と運営はモンスター側で楽しむというわけだ。闘技場で死ぬワーカーが多いとはいえ最初から殺す気できているものもあるとは。

(そういえば昔誰かが言ってたな……どの時代も結局人間ってやつは過激で一方的な暴力に興奮するものだって……誰だったかなあ……おっといけないいけない)

 ぼんやりと思い出に浸りそうになった意識を引き戻す。

(だがこのワーカー狩り、参加者が全然集まっていない所を見るにかなり難易度が高いというわけか)

「よし、なら俺達はこのワーカー狩りに参加しようじゃないか」

「はいでありんす!」

「ええええっ!?」

 アルシェ、そして周りにいたワーカー達からも驚愕の声が上がった。

「おいおい待てよにいちゃん達、見たところ新米だろ? 下手な事は言わねえ、もっと命を大切にしろよ!」

「ああその通りだ。汝らのような若き戦士達が死ぬには早すぎる」

「自殺志願者だろほっとけよ!」

「それかよほどの馬鹿だろうよー」

 一斉にモモンに対しワーカー達が口を挟むが、モモンは「なんだこいつら」と眉を顰める。いや確かに心配してくれているのはありがたいとは思う。が、余計なお世話というものだ。

「も、モモンさん……」

 しかし――不安そうにぎゅううとローブを握ってくるアルシェだけは別だな、とモモンはアルシェとシャルを肩から降ろし――シャルだけすごく残念そうな顔をしていたが――アルシェの肩に手を添える。

「大丈夫だアルシェ、言っただろう? 俺は強いとな。……それに、そこまで危険な催しならなかなかいい稼ぎになるんじゃないか?」

 

 いい稼ぎになる――その言葉にアルシェがピクリと反応する。そしてその顔つきが決意のものへと変わったのを見てモモンは頷くと、さっそく受付でエントリーを行う事にした。

 

「三人でワーカー狩りにエントリーしたいのだが」

 そう伝えると受付にいた中年の女は目を細める。おそらくこの女も馬鹿な新米ワーカーが死ににきたのかと思ったのだろう。哀れむように肩を竦める。

「……では試合は四時間後となります。それまで出場者控え室でお待ち下さい」

「わかった」

「それとチーム名を教えて頂けますか?」

 エントリーに必要ですので、と受付が用紙を取り出す。

「チーム名か、むう……」

 そういえば考えていなかったなとシャルとアルシェを見て――二人はモモンに任せるという風に頷く――さてどうしたものか。

「そうだな……ダークマジシャンズ……いやダークワーカーズ……違うな、暗黒の……黒……あっ」

 ピコン、とモモンの頭の上で豆電球が点灯し

 

 

「――漆黒。俺達はワーカーチーム〈漆黒〉だ」

 

 

 

 こうしてこの瞬間、のちに帝国で伝説となるワーカーチームは誕生した。

 




アルシェちゃんフォーサイトのメンバー募集には行かず!
そのかわり別のチームに入れましたねわーい

そしてモモンガさんはこのままハーレムルートへ!
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