ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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14 漆黒、闘技場デビューする

 この日、闘技場の関係者用に設置された観客席にて興行主(プロモーター)であるオスクはほとほと困ったという風に刈り込まれた坊主頭をガリガリと掻いていた。

 本日の闘技場がいつもと比べ観客らの盛り上がりが今ひとつなのが原因である。催し物の内容は決して悪くなどなかった。――だが悲しきかな集まった出場者達がことごとくつまらない戦いばかりを繰り広げていたのだ。

 オーガ一匹に悪戦苦闘したあげく逃げ出す新米ワーカー、腕っ節自慢と豪語していた男はゴブリンの群れにあっさりと殺され、参加資格自由と銘打って行ったワーカー同士の戦いも特に盛り上がる要素はなく――

「まずい、これはまずいぞ……」

 この日はオスクが担当する演目がなかったとはいえ、これで観客らに「闘技場って思ってたより面白くなかったね。もう行かなくていいや」などと話を広められれば最悪だ。

 観客は決して安くない料金を支払って来ているというのに。一度遠のいた足を戻すのは難しい。他の興行主のミスに巻き込まれるのは真っ平御免であった。しかし時すでに遅し、だ。

 本日の演目は次で最後であり、問題が発生していなければ『ワーカー狩り』だったはずだ。この演目にさらにオスクのテンションが下がる。ワーカー狩りが嫌いなのではなく、過去にワーカー狩りが盛り上がった試しがまったくもってないからである。

 この演目が闘技場に組み込まれた当初こそ最も命を落とす危険性が高く成功すれば一攫千金だと話題を呼び、挑戦する者達は多かった。が、それと同時に生きて演目を終えた者も一人もいなかった。こちら側とて最初からワーカー達を全滅させようとなんて思っていなかったし、ようは事故なのだ。想定外にワーカーが未熟であった――それだけなのだ。

 しかし、だ。いつからかいくら賞金が高かろうとも挑戦するワーカーはいなくなった。結局は金銭よりも命が惜しいのだと。いや、そもそもワーカー達からしてみれば「この演目はただの趣味の悪い鏖殺場であり、最初から金なんて渡す気ないんだろ?」と言われても仕方がないのかもしれない。

(最後にワーカー狩りがあったのはいつだったかな……いつもすぐ終わっちまうから記憶にも残らん。せめてアダマンタイト、英雄と呼ばれる者達なら成功するかもしれんが……だが所詮ワーカー、荷が重すぎるんだ)

 おそらく近いうちにこの演目はなくなるだろう。どうせ今日のも残念な結果に終わるだろうと重い溜め息を吐き出し――その最後の演目は始まった。

 

 

『本日お集まり頂いた皆様! これより始まるは闘技場で最も危険とされる悪魔の演目、ワーカー狩り! その言葉の通りありとあらゆるモンスター達が欲に目が眩んだワーカー達に襲いかかるうっ! 果たして、果たしてワーカー達は生き延びられるのか――ッ!?』

 

 光の差す方から聞こえてくる司会の声。薄暗い通路にて、アルシェは緊張でガチガチになっていた。

(は、始まる……実戦経験なんて学院でも数回しかなかったのに……こ、こんな……!)

 ちらりと視線をシャルに向けると、シャルは呑気に鼻歌を歌っている。そしてモモンに視線を向け――目が合う。アルシェの緊張に気づいたのだろう、モモンは「大丈夫、リラックスしていつも通り魔法を放てばいいさ」と笑った。

「それにアルシェに渡したその服はそこらの防具よりうんと頑丈だぞ」

「う、うん……」

 今のアルシェは待機中にモモンがどこからか持ってきた衣服へと着替えており、それはシャルが着ている黒のセーラー服とどこか似た雰囲気をした灰色のブレザーだった。黒と白のチェック柄ミニスカートと胸元で揺れる淡いピンクのリボンがアルシェの可愛らしさを引き立てている。なんというか、すごく女子高生だ。

 もちろん元はシャルティアの服だったのだが、シャルティア曰く「胸周りのサイズがすこーし、ほんのすこーしだけ大きくてペロロンチーノ様がボツにしていた服」らしい。

 ちなみにアルシェには内緒だがシャルのセーラー服は聖遺物級(レリック)、アルシェのブレザーは遺産級(レガシー)である。

「ここまできてもう引き返せないのはわかってるけど……」

 それでもまだ不安の色を隠せないアルシェにモモンはどうしようと考え――よしと心を決めた。

 

「ん、そうだな。ならアルシェには特別に俺の秘密を教えてやろう。チームメイトだもんな」

「秘密?」

「ああ、実はな。俺はなんと第十位階まで使えるんだよ」

「……え」

 どうだとモモンが胸を張る。だがその姿が、アルシェには何故かおかしく見えた。

「……ふ、ふふ、あははは! ご、ごめんなさい、モモンさんって……面白いんですね」

「えっ!?」

 俺別に面白い事言ってないけど!? とモモンが狼狽えるのを見てアルシェはまた笑う。

「はは、ありがとうございます。笑ったら落ち着いてきました」

「あ、うん…」

 

『それでは無謀なるワーカーチーム、漆黒の登場だあ!』

 

「よ、よーし出番だな。それじゃあシャル、アルシェ、俺達のデビュー戦を飾りに行くぞ!」

「はいでありんす!」

「はいっ!」

 三人は闘技場の中央広場へ――観客らの声援が少し足りない気もしたが――出る。たしかにナザリックの円形闘技場によく似ているなとモモンは辺りをぐるりと見渡した。そして目の前には大きな鉄格子の扉がいくつかあり、おそらくそこからモンスターが投入されるのだろう。

「――さて」

 モモンの思惑通りなら出てくるモンスターは大した事はないはずだ。待機中に帝国の闘技場内で飼われている奴らを影の悪魔に偵察させ、ある程度把握してある。正直なところモモンかシャルどちらか一人が片手間でも倒せるレベルだった。

「それじゃあ始まったら打ち合わせ通りやるぞ」

 モモンの声にシャルとアルシェが頷き、開始を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

 ゲートが開き、暗闇の中からまず姿を現したのはスケルトンの群勢。 ざっと見て三十体というところか。

『さあさあまずはスケルトンの登場だ! たった三人の若きワーカー達よ! 生き残れ~~っ!』

 

「…………まあ最初はこんなものだろう。シャル、アルシェ!」

 合図し、まずはシャルが槍を構え前に出る。普段使っているスポイトランスではなくモモンに渡された物であるが、それでも威力は十分。しかも必ずHPを1だけ残してくれるという峰打ち効果のある代物だ。

 大きく槍を振るえばスケルトン達はまるで竜巻に飲み込まれたかのように上空へと巻き上がる。そこへすかさずアルシェが《火球》を撃ち込んでいく。すでにシャルの初撃により峰打ち状態だったスケルトンらは順当にアルシェの追撃で片付けられていった。

 その光景におお、と観客席が湧く。

 今まで見たこともない戦闘パフォーマンスに「すげえ」という声も聞こえてくる。

「いいぞアルシェ、そのまま落ち着いて倒していくんだ。シャルも良い位置にトスを上げたな、やるじゃないか」

「はいっ!」

「ふああっお兄ちゃんに褒められたでありんすう! これはもう結婚でありんすね!?」

「や、それはちょっと……おっと」

 アルシェが仕留め損ねたスケルトンのみモモンが後ろから《魔法の矢》を撃ち込む。

(それにしても、まだ子供なのに第三位階まで習得してただけあってアルシェはなかなか筋がいいな)

 今回多くのモンスターと戦えるのならと、モモンはあくまで後方に下がりアルシェを中心に戦闘を組み立てる事にしていた。ようはアルシェのパワーレベリングである。

 そして漆黒は――次のモンスターが投入されるよりも前にスケルトンの群勢を掃討することに成功したのだが、これに慌てたのは本日の演目を取り行っていた興行主側である。

「お、おい! まずいぞ次だ! どんどん投入しろ! 十分毎になんて必要ない!」

 

 一方で盛り上がり始めた観客席でもオスクが身を乗り出し「おいおいおい」と笑みを浮かべていた。

 

 またゲートが開く。

 次に姿を現したのはゴブリン二十体に人食い大鬼(オーガ)十体。

「む……?」

 別のゲートが開き、そこからは妖巨人(トロール)が五体姿を見せた。

「おいおい、トロールはオーガの次じゃないのか? 一気に出してくるとはな。まあ関係ないが」

 もしかしてここの運営って俺達に負けて欲しいのかな、とモモンはユグドラシルのクソ運営を思い出す。運営というのはどこの世界でも似てるものなのかもしれない。

「も、モモンさん……!」

 少し狼狽えるアルシェに大丈夫だと返す。

「せっかくだアルシェ、今から学院ではやらないような授業をしようじゃないか。特別授業だ」

 

 

 

++++++

 

 

 

「…………マジ……かよ」

 よろけるように客席にどさりと腰を落とし、興奮で叫びそうになる口元を手で押さえながらオスクは呟く。

 演目が始まってまだわずか十五分、まだ十五分ほどしか経っていないというのに今目の前では五度目に投入された大型サーベルウルフとトブ・グレーター・タイガー、アゼルリシア・アイアン・タートルがあっけなく屠られていた。

 投入されれば即座にシャルが斬り捨て、アルシェとモモンが魔法でトドメをさす。その魔法も第三位階ばかりだ。つまり二人共が相当優秀な魔法詠唱者であり――軽々と、まるでバレーでも楽しむかのようにサーベルウルフを投げ上げていたシャルもまた戦士としてかなりの強者、もしかすると英雄の領域に到達している。

「マジかよ……マジかよ……」

 オスクは喜び震える身体を必死に抑え、この光景を自分の所有する最強の戦士にも見せてやりたいと強く思った。あいつなら、武王なら彼らをどう見るのだろうか――と。

 

 

「はーいまたあとでー」

 モモンが《伝言》を切り、さてとと闘技場内を見渡す。始まった当初は少なかった歓声もすでに大盛り上がりだ。追加のモンスターはもうこないのだろかとわざとらしく小首を傾げて――別に煽っているつもりはないが――見せた。

 シャルも全然余裕だし、アルシェも少し息が荒いが、MPは戦いながらモモンがさりげなく―――シラタマから借りた魔力譲渡系の指輪の効果だ――回復させていたし、体力もまだ大丈夫だろうと判断する。

「さーて、そろそろボスが出てくる頃かな?」

 モモンの思惑通り、一番大きなゲートが開いた。普段決して開くことのない扉が。

 どれ程の間そいつは檻に閉じ込められていたのだろう、そこから久しぶりの外の世界を用心深く、そして心から味わうかのようにのそりと首を出したのは――ギガントバジリスク。難度83にもなるモンスターでその体長は十メートルを超える。それが、二体。

 

「アレを捕獲できていたのは本当に運が良かった」

 闘技場を見渡せる位置にある関係者席で、今回の興行主である中年男が肩を撫で下ろす。かつてカッツェ平野ですでに何者らかによって殲滅されていた亜人の群れの側で傷を負い倒れていた二体だ。それを多額の金を払い帝国で腕の立つ魔法詠唱者らに頼み込み、なんとか回収したのち回復させた個体なのだ。本来ならばギガントバジリスクなんてレアモノは勿体無くて使えないし使いたくもない、が、致し方ないだろう。

 ワーカー狩りは必ずワーカーが負けるようになっている演目だ。高額賞金に目の眩んだワーカーどもが無様に鏖殺される。最初からビタ一文も渡してやるつもりなどないのだと男は思っていた――そのはずだったというのにだ。

「ここまでよくやっていた。が、ギガントバジリスク二体には勝てまいさ」

 そう言って男は卑屈な笑みを浮かべる。とりあえずこれが終われば先に連絡しておいた魔法詠唱者数人が《飛行》でギガントバジリスクの上から《睡眠》をかける手筈となっているが――帝国の誇る大魔法詠唱者の弟子である彼らに感謝だなと男は視線を眼下へと落とし――愕然とした。

 

 

 

「それじゃあいくでありんすよー!」

 シャルが突撃し、ギガントバジリスク達の猛攻をひょいひょいと躱しつつ四肢を斬り落としながら背後へ回り込む。そして両手で二体の尻尾をむんずと掴むと

「そ――っおれ!」

 上空へと投げ飛ばした。

 ギガントバジリスクは残った首と尾をばたつかせながら宙を舞い、観客らも揃ってその姿を追うように頭を上げる。高く、高く、そして一定の高さまで上がると今度は重力に従い落下しだした。

 まさに絵面は空から落ちてくる二体のギガントバジリスク。その落下地点で待ち構えるのはモモンとアルシェだ。

 モモンは左手をそっとアルシェの肩を抱くように回し――アルシェがぎゅっと身を固くしたが――気にせず右人差し指を落ちてくるギガントバジリスクに向け真っ直ぐに指差す。

「ほらアルシェ集中だ。フィナーレといこう」

「は、はいっ!」

 モモンの指差す方へ杖を構え、アルシェは《雷撃(ライトニング)》を放ち、それとうまく被せるようにしてモモンはこっそりと《龍雷(ドラゴン・ライトニング)》を放った。二つの雷が絡み合いながら天へと駆け――二体のギガントバジリスクが激しい閃光に包まれる。それはまるで花火のように闘技場の空を飾っていた。

 

 そして観客席はこの日一番の、いや、もしかすると現在一番人気であるワーカーチーム〈天武〉の出る演目やあの武王の出る演目よりも大きな歓声に揺れている。誰もが新たな英雄の誕生を確信し、その場に居合わせた事を生涯自慢するだろう。

 

 漆黒が手を振ってそれに応え、彼らが退場してからもしばらくと歓声は続いていた――。

 

 

 

「ほら、やっぱりなかなかいい稼ぎになったじゃないか!」

 演目の後、控え室に戻った漆黒は悔しそうに歯軋りする中年男から賞金を受け取った。金額は一人金貨三十枚。モモン的には雑魚モンスター数体倒しただけの認識なので、まあこんなものかと頷く。一方アルシェは金貨の入った皮袋を大事そうに抱きしめながら、家で留守をしている妹達を想っていた。アルシェの家の借金を返済するにはまだまだ足りないがそれでも前進だ。学院を退学したばかりで仕事経験などないアルシェが初めて稼いだお金――しかしそれはアルシェ一人では決して成し得なかったものだ。

「モモンさん、本当に……本当にありがとうございます!」

 アルシェが深々と頭を下げる。

 モモンとシャルは視線を交差させ、モモンはお礼を言うのはこちらの方だと眉を下げて笑った。

「俺達だけでは文字すら読めないからな。アルシェがいてくれたおかげで闘技場に参加も出来たわけだし」

「まあたかが小娘にしてはモモンお兄ちゃんの素晴らしさを理解できたようでありんすし? この私のわんちゃんにしてあげてもいいでありんすよ?」

「お、おいシャル……すまんなアルシェ、だが俺達はもうチームだ。口調も畏まらなくていいんだぞ?」

 まあ実際のところ、チームに入れた決め手はアルシェのタレントに対するモモンガのコレクター魂と、たまたまアルシェがシャルティアの好みのタイプだったという理由なのだが。

「モモンさん……」

 アルシェは演目中の事を思い出す。モモンはずっとアルシェのそばで、後ろで、アルシェを助けてくれていた。立ち回りの仕方や状況による最適な魔法のアドバイス、戦闘のサポートまで。そのどれもが学院では教えられなかったものだ。

 さらにモモンの魔法はアルシェと同等どころか遥かに洗練されており――かつて学院時代の師、かの大魔法詠唱者フールーダ・パラダインをも思わせる程だ――だからこそ、モモンの魔法力が見えないのが不思議だった。もはや自分のタレントの方を疑ってしまうくらいだ。

 加えて時折モモンは戦闘中――おそらくアルシェの緊張をほぐす為だろう――背中に優しく手を添えてくれた。その度に何かあたたかなものを感じられて……アルシェは頬を染める。

(モモンさんは、きっとすごい御方なのかもしれない……ううん、絶対そう。もしかすると遠い国の大魔法詠唱者……?)

 師匠とは違う、もっと別の、それよりも崇高なものを感じ――

 

(……うん、決めた)

 

 談笑していたモモンとシャルの元へ意を決して飛び入り、アルシェは思いの丈を叫ぶ。

「モモンさん! いえ、先生!!」

「えっ」

「先生、この私をどうか先生の生徒(でし)にしてくださいっ! 魔法詠唱者として、どうか先生から魔法を学ばせてください!」

 そう言って頭を下げるアルシェにモモンは目を丸くしたまま硬直する。

「な、なな、何を言い出すんだアルシェ!? そもそも俺達はチームメイトで、そんな上下関係みたいなものは」

「いえ! 先生は私の先生です!」

「えええ!? ま、待て待て。いろいろとおかしいって絶対、なあシャル――」

 助けを求めるようにシャルを見れば、シャルは「お、教え子プレイ……! 私の妹プレイとはまた違う禁断の……こ、この小娘ェ! なかなかやるでありんすゥゥ! くううっ!」と勝手に衝撃を受け勝手に感心していた。

 

(うおおいペロロンチーノオオオ! お前のトコの子だぞなんとかしろよオオオ!)

 

 

 すっかりと茜色に染まった空の上で、かつての親友鳥人(バードマン)が「やったぜ!」とサムズアップしているのが見えた気がした――。

 

 




アルシェちゃん生存、どころか大出世しそうな勢い。
そしてモモンガさんのハーレムは構築されていく……

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