数日前、カルネ村は謎の騎士達からの襲撃を受けた。それはまさに一方的な虐殺であり、多くの村人が亡くなった。もし――もしもあの時あの偉大なる仮面の魔法詠唱者様が現れなければここにいる全員が殺されていただろう。
そう語る村人達の表情は悲痛に満ちており、ミタラシは「辛い事を思い出させてしまいましたね」ととりあえず頭を下げながら本心とは真逆の言葉を吐く。
「それにしても……仮面の魔法詠唱者ですか」
続くその言葉に村人達の中に緊張が走った。もしモモンガ様の事を聞かれたらどうするのが正解なのか、と。だが予想に反してミタラシはそれ以上仮面の魔法詠唱者について聞くことはなく、それよりも謎の騎士達という存在を気にしているようだった。
「――結局、その者達が何者だったのかは分からず終いだったのですか?」
「え、ええ……鎧を見た限りでは帝国の騎士かと思うのですが……」
村長が代表して答える。
あの後ガゼフ・ストロノーフは早々に王国へと帰っていき、誰も詳しい事情は何も聞いていないのだと言う。
「……ふむ」
ミタラシが考え込むように顔を伏せる。
「帝国の騎士、帝国ですか……しかしそれは、少しおかしいですね」
「おかしい、ですか?」
「ええ、私はあくまでも第三者……法国の者ですし、これは私個人の疑問に過ぎないのですが――何故帝国の騎士がこのカルネ村を襲う必要があったのでしょうか? 確かに王国と帝国が毎年戦争をしているのは存じておりますが――こう言っては失礼かと思いますが、その、何もないただの村を何故?」
「……それは、王国戦士長様が狙いだと伺っております。村を襲い戦士長様を誘き寄せると」
「戦士長本人があなた方にそう言ったのですか?」
村人達が互いにどうだったかなと視線を交わし合い、とりあえずコクリと頷く。
「なるほどなるほど……ふむ」
どこか腑に落ちないとでも言う風にミタラシが唸るので、さすがに村人達も不安になってきたのだろう。そばで聞いていたンフィーレア達も同じくだ。
「あ、あの! どこか気になる所があるのでしょうか!?」
「ん?」
口を開いたのはニニャであった。
ニニャはかつてこのカルネ村と同じような辺境の村で生まれ、姉と二人で暮らしていたらしい。だがある日突然現れた貴族に姉を攫われ――抵抗した村は…。辛い思い出にニニャはグッと唇を噛む。
だからこそこのカルネ村の境遇に自分の故郷を重ねたのだろう。その真っ直ぐな瞳は、何か少しでも村の力になりたいのだと主張していた。
その姿に、シラタマはなかなかイイコじゃないかと心の中で笑みを浮かべる。
「あなたは優しい子ですね」
「えっ!? いえそんな、私は」
「……ん、そうですね。まず私が気になったのは、謎の騎士達を帝国の者と仮定した場合村々を襲うのは得策ではないからです。王国と帝国が毎年戦争を行っているのは有名なので皆さんもご存知でしょうが……正直申し上げますと、毎年戦争を行っているのが不思議なくらいに戦力差は歴然なのですよ」
「それは――」
どちらが上なのか、という問いは野暮というものだろう。知識の疎い辺境の村人でも帝国の方がはるかに優れているのだと察する。
「なので王国戦士長殿の抹殺が目的であったとしても、別にわざわざ回りくどい策を労せずとも戦場で本気になれば良いのです」
「それはつまり、謎の騎士達の目的はストロノーフ様ではなかった、と?」
「――さあ、そこまでは私もわかりません。ただ私達はここに来るまでに他の村も見てきましたが……残っている村はありませんでしたよ」
全員の表情が変わる。
基本的に、カルネ村は立地的な問題もあり他の村との交流はなかった。だがそれでもこの近辺で生き残ったのが自分達だけだと知れば辛い。それだけ多くの村人が死んだということなのだから。
ンフィーレアや漆黒の剣も――ニニャはとくにひどく顔を歪ませている――その事実に唇を噛み締めていた。
「なので、おかしいと思ったのです。誘き寄せる為ならばそれらの村々を滅ぼしてまわる理由はないはず。それこそ最初の村で待ち構えていればいいのですから。――最初から村々を滅ぼす方が目的でない限り、ね」
たしかに、と誰かから声が漏れる。
「なので我々は亜人やモンスターの仕業かと踏んでいたのですが……ふむ。どうやらこの問題には色々と裏がありそうですね」
原因が亜人やモンスターなら法国の者である我々でも対処できるのですが、とミタラシは歯痒そうに小さく首を振る。もしこれが国同士の、それこそ秘密裏に行われたものであればそれは他国の者が安易に介入すべきではない案件だ。
申し訳ないとミタラシ、そしてニグンが頭を下げる。
「しかし、その仮面の魔法詠唱者様は素晴らしい御方ですね。もしまたこの村にいらっしゃれば、
「は、はい! あの、バニラアイス様、そして法国部隊の皆様も、見ず知らずの我々を助けてくださりありがとうございました!」
村長に続くように全員が頭を下げる中、ミタラシは「いいんですよ。助け合うのは当たり前じゃないですか」と優しく笑った。
そして《
「では我々はこのあたりで。カルネ村の皆さんもどうかお元気で」
そう言ってあらためて村人達に対し深い敬意を込めて一礼し――彼らは去っていった。
++++++
ミタラシ、いや、シラタマ達が去った後もカルネ村の広場では村人達とンフィーレア、漆黒の剣の話し合いは続いていた。
話題は三つ、あの虐殺の裏にどんな事情が潜んでいたのかわからないのに、それでも助けてくれた偉大なる魔法詠唱者モモンガ様への感謝。
そして今日偶然とはいえ亜人やモンスターの群勢から村を救ってくれたミタラシ様、他国でありながらも命をかけて戦ってくれた法国部隊への感謝。
そして――謎の騎士達の正体についてだった。
帝国の騎士ではないとした場合、あれらはどこからの差し金だったのか。消去法で考えれば――すぐに答えは出た。
「……王国の、貴族」
ニニャの言葉に、村人達の瞳に同意の色が映る。あえて口には出さなかっただけで、すでに誰もが王国を疑っていたのだ。
実はあの襲撃のあった翌々日、村の者数人で帝国の騎士達に襲われたと王国へ伝えに行っていたのだ。だが彼らは王国兵に門前払いされ帰ってきた。ガゼフ・ストロノーフ戦士長の名を出しても取り次いでもらえなかったのだ。
村は王国へ多額の年貢を納め、毎年の労役――これは戦争時の徴兵が主だ――もある。帰り際に門兵はそのうち王国から徴税官が行くだろうとは言っていたが、村人達にとっては今日生き延びるだけでも死活問題なのだ。いつも通りの明日をいつも通り迎えるという事が、王国の村人にとってどれほど難しい日常なのかと、彼らは悔し涙を流し村へと帰った。
もしモモンガ様が無償で貸し与えてくれたゴブリン達の助力がなければ、カルネ村は襲撃を生き延びたとしても近いうちになくなっていただろう。
「――俺の村は」
ぼそりと自警団の一人が小さな声を発する。その男はまだ若く、元々違う村に住んでいたがある悲劇により故郷を失い、三日前にこのカルネ村へと流れてきた男だった。
自然と全員の視線が男へ集まる。
「俺の村は、ここと同じようにある日いきなり……焼かれたんだ。何があったのか、誰がやったのかもわからなかった……ただ必死に逃げて、みんな、焼かれて死んじまった……家族も、友達も……!」
苦し過ぎるほど、男の心を村人全員、そしてニニャは理解できた。自分達の日常が、生活が苦しくとも幸せだった平穏な日々が、突如として蹂躙される絶望を皆が知っている。
「でも間違いなくわかるのは、王国の奴らに襲われたって事だ。村が焼かれる前に王都から来た怪しい連中が村の土地を使って何かを作れって命令してきていたらしい。村長が断ってたから連中の言っていた何かが何なのかはわからねえ、けど、村はそのあとに襲われたんだ! 俺の村は王国に殺された!」
男が叫ぶ。
「腐った王国貴族の豚どもが何かを企んでいるのかもしれませんね」
貴族は王国の闇、犯罪集団とも繋がっている。可能性はかなり高いだろう。
そう吐き捨てるニニャの瞳の奥で深い闇が広がっているのに漆黒の剣のメンバー達は気づいたが、しかしそれを咎めることはできなかった。
そして一方でンフィーレアは、ある決意をした。それはカルネ村への移住だ。
(今回のように亜人や魔獣にいつ襲われるかもわからないし、もし王国貴族や犯罪組織がカルネ村を狙っているとしたらかなり危ない状況だ。エンリは僕が守るんだ!)
その後、ンフィーレアと彼の警護役として継続して雇われた漆黒の剣は本格的にカルネ村へと拠点を移した。
やがてその腕はナザリックに買われる事となるのだが――それはまだ先の話。
++++++
シラタマとニグンがカルネ村にいた頃、トブの大森林ではアウラが今回の作戦で使わなかった魔獣を回収。そしてモモンガがゴブリンやホブゴブリン達の屍体を回収していた。
亜人を使っての実験も色々としてみたかったし、あのアホヅラトロールの所にいたトロールやオーガでは数が少なくもう少し欲しいなと思っていた所にゴブリン数千匹を手に入れられてモモンガ的にはほっくほくだ。これだけいれば色々と実験も出来るだろう。
「それではモモンガ様、私は魔獣達を元の場所へ戻して来ますね!」
「ああ、よろしく頼むアウラ」
ちなみに元の場所というのはナザリックの実験場だ。まあナザリックのモンスター達の餌にされるのがほとんどだろう。デミウルゴスが牧場を作っていると言っていたし、何匹かそっちにも分けてやるのもいいかとモモンガはひとり頷く。
(それにしても……カルネ村をゴブリン達に襲わせるって言い出した時は何でまたとは思ったけど……なるほどそういうことか)
おもわずデミウルゴスのような反応をしてしまいモモンガは少し気恥ずかしくなりつつもシラタマの計画に感心した。
今回シラタマのたてた計画、それはカルネ村をゴブリンに襲わせて大ピンチになったところを陽光聖典に救わせる、というものだった。
聞いた時モモンガは何のためにとさっぱりだったが、デミウルゴスとアルベドが納得していたので知ったかぶりで了承したのだ。
「陽光聖典が村を救ったって事実さえあればあとは村人達が勝手にするよ」とシラタマは言っていたが、なるほどねとさすがのモモンガも理解する。
現在モモンガは帝国、シラタマは法国を拠点としている。しかし今はまだお互い秘密裏に連絡を取り合いナザリックの外で会うことはない。だがどちらとも面識を持った今のカルネ村なら、偶然を装って会うことが出来るだろう。いわばカルネ村は二人の中継地。
そのために謎の騎士達の正体を――王国に押し付けたのだ。
シラタマさんも悪い事考えるなあとモモンガは苦笑する。
「さて、そろそろ俺も帰るか」
心配で最後まで見学してしまったが、自分も一度ナザリックに戻って、そのあとアルシェとシャルティアのところへ行かねばとモモンガが《転移門》を使おうとしたその時だった。
突然目の前の茂みからギガントバジリスクが飛び出し、モモンガは「うおっ!?」と驚いたが
「《
しかし冷静に対処する。
「驚いたな……野生のギガントバジリスクか? めずらしい――」
今度は背後の草むらから音がして振り返る。
「次はなん――ぇ」
そしてモモンガは……フリーズした。
そこには全然知らない金髪の若い男が号泣し、立ち尽くしていたからだ。男は「おお、おおお……」と咽び泣き、さらに嗚咽混じりにモゴモゴと何かを呟いていて正直言ってめちゃくちゃ怖い。もうほんとガチでやばい人だと確信する。
でもここにいるという事は陽光聖典の隊員なのだろうかとモモンガは考え、かなり、ほんとかなり迷ったが声をかけてみる事にした――。
++++++
「だーかーらー予備隊員のやつはほんと知らなかったんだってー」
「……本当ですか?」
「あっ信じてない! 酷いっ! 私のニグンちゃんはいつからこんなに酷い子になったのか!? でもそれはそれであり!! くふうっ! もうっポイントあげちゃうっ!!」
「はあ……」
勝手に興奮して抱きついて、いや、コアラのようにしがみついてきたシラタマをくっつけたままニグンは隊員達の待つ陽光聖典の拠点へと歩く。蘇生した予備隊員達は一足先に戻しているし、イアンが対応しているだろう。
「いやでも本当なんだよーだいたい最初はニグンちゃんともう少し強そうな隊員を向かわせる予定だったのにさ? なんか知らない隊員が勝手にきちゃうし? 急な予定変更はこっちも困るんだけど? 全滅しそうだったからおもわず助けちゃったじゃん!」
「……それは、申し訳ありません」
たしかに予備隊員達に召喚維持遠距離化を確認しなかったニグンに責任があるのだが、なんで全部俺が悪いみたいになってるんだろうと考えながらもぷんすかしているシラタマに謝る。しかし、だ。とりあえず色々あったが今回の任務を無事終えられた事で良しとせねば――
「……ん? え゛っ!?」
突然、ニグンの足が止まった。
「どしたの? ――ん? う゛ええ!?」
続いてシラタマもそれを発見し、驚愕に目を見開いた。というかドン引きしてコアラ状態からずるずるずるーと地面に着地する。
なぜなら二人の目の前には――全裸で五体投地するクアイエッセと、黒曜石の玉座に腰掛けた死の王、モモンガがいたからであり
「「いや何があった!!!??」」
二人のツッコミに気づいたモモンガが泣きそうな顔を――表情は変わらないが――向け、必死に口をカパカパさせながらお願い助けてえええと《伝言》するのであった。
王国に厳しくなってきましたね!
でもオバマスでもエ・ランテル復興支援したり村人や王国民達を救ったのは陽光聖典やニグンさんらしいし、ニニャが彼らをめちゃくちゃにベタ褒めしてるところからお察しするにやっぱり王国側はあんまり動いてくれてないのかなー、いやー本当に王国腐ってるなーあっはっは!
これはもう厳しくしないとですね。仕方ないです。
シラタマ様はよくニグンさんの背中やら肩やら腕におぶさったりのしかかったりしがみついたりしていますがさりげに過重力系の魔法とか状態異常系の魔法を発動させたりして遊んでます。良いトレーニングになりそうですね。
そしてクアイエッセお兄ちゃんおめでとう。神と出会えたね…()