ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

26 / 28
鳥瑠様、誤字報告ありがとうございました!
とても助かります!



26 エ・ランテル炎上

「来い、我が騎獣よ!」

 シラタマの召喚に応じ展開された魔法陣から出てきたのは純白双角獣王(アルビノバイコーンロード)だ。アルベドの騎獣である戦用双角獣王(ウォーバイコーンロード)の亜種であり、戦用双角獣王(ウォーバイコーンロード)が重種の軍馬だとすれば純白双角獣王(アルビノバイコーンロード)はスピード特化タイプといったところか。身体つきも全体的に細い軽量馬である。

 

 シラタマはそれに飛び乗ろうとし――ああそうだったと忘れ物を取るみたいな感じでニグンを掴み、担ぎ上げて共に飛び乗る。

「し、シラタマ様!? あの!?」

「いいからほい後ろね」

 ニグンを乗せたことでバイコーンが少しだけ怪訝そうな反応をしたが、「文句あんのか? ああ?」とばかりに脚で横っ腹を絞めあげればすぐに大人しくなった。

 ニグンも観念したのか、馬上から隊員達に指示を出す。

「イアン、お前は万が一の事態に備え戦闘のできる者とそうでない者で班を分けておけ。魔力残量の確認を忘れるな。我々は先に行きエ・ランテルの状況を確認する」

「は!」

 ゴブリン殲滅から多少は時間が経っているとはいえ隊員達の体力や魔力はまだ万全に回復していない。蘇生した予備隊員らはとくにだ。デスペナによるレベルダウンも起きており、当面戦闘への参加はまず無理だと判断する。

(だが最悪を想定すべきか――)

 見れば空に上がる煙は火柱のように変貌し、さらに大きく激しいものへとなっていた。

 

「参りましょうシラタマ様」

「おっけー! ぼっこぼこにクレーム入れてやるんだからっ!」

「え、いやそれはちょっと…」

「それ行けー!」

 ニグンの言葉など聞かず、シラタマの合図でバイコーンは疾風の如く走り出した。

 

 

 

++++++

 

 

 

 その夜、城塞都市エ・ランテルの内側は地獄と化していた。比喩ではなく、真に地獄となったのだ。

 突如として墓地から現れたアンデッドとゾンビの群れは瞬く間に兵士や近隣住民らを飲み込み、死んだ者もまたゾンビとなって違う住民を襲いだしたのである。まさに死の連鎖だ。

 しかもこの日に限って街にはランクの低い冒険者――それでも金級や銀級はいた――しかおらず、彼らも奮闘したが少しの時間稼ぎ程度にしかならなかった。数体のアンデッドならなんとかなっただろうが、あまりにも数が多過ぎたのだ。

 しかもどこからかアンデッドを支援するかのような魔法攻撃まで放たれ、彼らは防戦一方、いや、完全に押し負け力尽きていく。戦いを放棄し我先にと逃げ出した冒険者もいた。

 やがて街は阿鼻叫喚に包まれ、パニック状態の魔法詠唱者の魔法が飛び交い恐怖で錯乱する兵士がめちゃくちゃに剣を振るう。やがて誰かの放った《火球(ファイヤーボール)》や《雷撃(ライトニング)》が商人の持ち込んでいた火薬に引火し大きな爆発が巻き起こる。その火炎が広がり、魔法と合わさり竜巻状の旋風となって住民たちを飲み込んでいく。

 三重の壁を築く事で外敵からの攻撃に備えていた城塞都市は、内側からの攻撃にあまりにも弱すぎたのだ。

 駐屯兵はすでに全滅し、領主である国王からの救援は来ない。こうしてエ・ランテルは瞬く間に地獄と化した。

 

 

「なんという……ことだ」

 その様子にニグンは狼狽し、目の前で繰り広げられている惨劇に瞠目する。そしてシラタマはいうと、正反対な面持ちでそれを眺めていた。しょーもない。退屈だなあと欠伸が出そうなほどに興味のない顔で。

 現在バイコーンはスキルによって飛翔しており、エ・ランテルを見下ろせる位置にいる。だからこそ何が起こっているのかは一目でわかった。

 

「……ねえニグンちゃん、王国ではアンデッドってよく出るものなの?」

「い、いえ、そもそもモンスターによる災害自体が稀なくらいで、こんな……ことは…」

「……ふうん」

 つまりこのお祭り騒ぎは人災ってことかな? とシラタマは結論付ける。ならばどこかに首謀者がいるはずだ。

 ニグンはかなり動揺しているがシラタマは至って冷静、いや、至って無関心に地獄を見渡していた。

「それにしてもなーんか戦ってる人少なくない? 兵士ももういないし。かなり大きい街なのにさ……」

 というかこれだけ大騒ぎになっているのだから王国兵がもっと救援に駆けつけてきても良いのにねと呟く。だが、ニグンが「おそらくですが」と答えてくれた推測にシラタマの中の王国好感度はさらにマイナスへとカンストした。

 

「――まずこのエ・ランテルは、たしか国王の直属領だったと記憶しております。なので救援が来るのであればそれは国王直属の兵団となるはずですが……その者達、つまりあのガゼフ・ストロノーフは王都を拠点としており、そこからここまで駆けつけるにはいくつかの貴族領を通る必要があるのです」

 つまり駐屯地が遠いって事かとシラタマはふんふんと頷く。

「ですが、その貴族領を通るにはそこの領主である各貴族らの許可が必要であり、その為に……今頃国王と貴族は会議でもしているか――」

 話しながらニグンは苦い顔を浮かべた。

「――そもそもまだこの惨事に気づいてすらいない可能性もありますね」

「ひええー……」

 なんじゃそれぇとシラタマが呆れた声をあげる。

 そしてそういえば前もこんなリアクションした事あったなと思い出し……あー、あれはモモンガさん達と一緒に王国の腐敗ぶりを聞いた時か。よくまあそんなんで国がやれてるものだ。いや、やれてないからこんなことになってるのか?

 もうどっちでもいいやとシラタマは肩を竦め、とりあえずは自分のお目当てを探す事にした。

 

(さてさて、アンデッドはあのあたりから出てきてるか……)

 雰囲気からして墓地だろうか、まあ今じゃ街全体が墓地みたいなものだけどと内心くすりと笑う。とりあえずそこが一番怪しいだろうとして――

「ん。じゃあどうしよっかニグンちゃん」

「えっ」

「いやいやコレよ。どーする?」

 眼下のエ・ランテルを指差し問う。シラタマとしては首謀者さえ見つけて文句を言えればそれでいい。つまり街を闊歩しているアンデッドやゾンビ、無惨に殺されていく住民達なんてどーでもいいのだ。

 だからこそどうするのか尋ねる。

「ニグンちゃんが決めてね?」

 生かすか殺すか――そう問われ、ニグンは一瞬目を見張り、伏せた。苦渋の選択だ。いや、人道的に考えるならば皆を助けるの一択だろう。だがそれは出来ない。

 なぜならば自分は王国の人間ではなく、それどころか法国の一部隊を任されている立場である。

 たとえどんな状況だとしても他国の人間が無許可で介入すれば後々面倒な事になるのだ。自分は英雄でもなんでもない。だいたい一時の感情に任せて動くなどというのは愚行であり、如何なる状況でも常に冷静な判断を下さなければならない。

 だが――それができるからこそニグンは陽光聖典の隊長なのだ。

 

「……考えがあります」

 思考し、時間にして僅か三秒程で答えを出す。

 シラタマは少し目を丸くすると「…ん。わかったやろうか」その作戦に乗ってあげる事にした。

 

 

 

 

「――総員傾聴おおおおッ!!」

 エ・ランテルに向けて陽光聖典隊員達を乗せた馬――シラタマにより一定時間疲労しない魔法がかけられている――が走る。その先頭の馬上から、イアンは隊員達にニグンからの《伝言(メッセージ)》より伝えられた任をとびっきりの大声で叫んだ。

「第一班は住民の救助、ただし天使の召喚は禁じます! 第二班は一班を支援し住民の避難誘導にあたりなさい! 第三班は門外にて待機し住民らの治療に専念――そして全員戦闘は避け決して深入りせず、あくまでも救命のみを優先させなさい!!」

「「「はっ!!!」」」

「――そして、全員隊服を脱ぎなさい!!」

 その指示に全員がわずかな動揺を見せたが――頷き、一斉に上着と頭巾を外す。

「これより我々は法国構成員ではありません! あくまでもただの一介の魔法詠唱者(マジックキャスター)としてエ・ランテルへ入り、我々で住民達の血路を作ります! 我々の行いが数多の命を救うと知りなさい!」

 イアンの言葉に全員が返事を返す。

 だが、そうは言ったものの現時点ですでにほとんどの住民は手遅れとなっているだろう。それでもイアンと隊員達は初となる任務外での作戦を遂行すべく、行動を開始した。

 

 

 

 

「――じゃあいこうか」

 シラタマはひとまず視界の邪魔になっていた火炎旋風を消し飛ばすと、さっそくとニグンを連れてバイコーンから飛び降りエ・ランテルの街中、それも一番アンデッドが集まっているど真ん中へと着地する。

 もちろん周りにいたアンデッドやゾンビ達が一斉に襲いかかってきたが、それらの掃討はニグンに任せて自分は《伝言》を王都にいるだろうセバスへと繋いだ。

「あーもしもしセバス? うん、うんいやいや大丈夫。あのね……うんそうなの……そんなわけでさ、うん。すぐにこっち来れる? うん、じゃあよろしくねー」

 一度《伝言》を切り、今度はモモンガへと《伝言》を繋ぐ。

「モモンガさん? うんあのね……そうなの、エ・ランテルでさー……うん大丈夫、セバスに来てもらうよ。うん、そうそうそれでね……」

 やがてそっちの会話も終わり《伝言》を切ると、すでにシラタマを取り囲むようにして群がってきていたアンデッドやゾンビは全滅していた。

「ニグンちゃんあんがとねー」

 少しだけ離れた場所にいたニグンが振り返り、小さく頭を下げる。シラタマはそれにひらひらと手を振って応えると、さっそく墓地へ向かう事にした。

 その道中でもアンデッドやゾンビに襲われたがすべてなんてことなく掃討していく。それなりに間引き出来たしこれで隊員達もやりやすくなるだろう。

 

「シラタマ様!」

「おおっ早いねセバス」

 王都から全力で走ってきたらしいセバスが屋根から飛び降りてきてシラタマの前に着地するとすぐさま礼の姿勢を取ろうとし――そんなの今はしなくていいよと断る。

「ごめんねセバス、急に呼び出しちゃって」

「いえ、至高の御方のご命令とあらば。ナザリックの執事として当然のこと」

 キリッと真摯な姿勢で返され、ちょいと戸惑う。

 そして執事ってみんなこんななの? すげえなあ、さすがセバスチャン……と感心しつつ「えーとそれじゃあさ、誰にも見られないように逃げ遅れてる()()()を助けて、さらに誰にも見つからないように門のとこにいる陽光聖典隊員達を手助けして欲しいんだけど、できる?」

 んな無茶なという視線をニグンが向けてきたが、指示を出したシラタマ自身もその気持ちはよくわかる。

 絶対に見つかってはいけない助力と救援、まさにスーパー隠密ミッションだ。

 が、セバスは当然できますとばかりに「承知致しました」と頭を下げ、颯爽と駆けていった。

 

「はえーやっぱ執事ってすっごいね!」

「いえ絶対そちらの御方々だけですよ……」

 

 あとはセバスに任せとけば街はもう大丈夫だろう。

 これでやっと本来の目的であるクレームが入れられるねとシラタマはふんすと鼻を鳴らしずんずんと先を進む。

 その背後でそういえばそうだったなあとニグンは目を細め――今から会うだろう首謀者とやらの結末をすでに察していた。

 

 

 

++++++

 

 

 

 エ・ランテルの墓地にて、すでに何度目かの《不死者創造(クリエイト・アンデッド)》を唱え、街へと送り出す集団がいた。

 その集団は地獄へと変貌していくエ・ランテルの様子を嬉々として眺め、中でも人一倍に胸を高鳴らせしわくちゃの顔で笑うのは集団のリーダーであり首謀者、カジット・デイル・バダンテールという男だ。その正体は邪悪な秘密結社という名のテロリスト集団、ズーラーノーン十二高弟の一人であり――スレイン法国出身でありながら信仰を捨てた狂気のハゲマザコンである。

 このハゲマザコンは幼き頃に死んだ母親を蘇生する為に三十年以上も研究に没頭、その結果願いを叶えるには途方も無い時間が必要と分かり――ならばと自らの肉体を寿命のないエルダーリッチに変えようとしたのだ。大量の人間を生贄にして膨大な負のエネルギーを発生させる魔法儀式、死の螺旋を発動させて。

 ……まあぶっちゃけそんな方法でエルダーリッチになれるわけないのだが。

 

 そんなことなどつゆ知らずこのつるぺかマザコンは頑張った。膨大な負のエネルギーを集めるには大量の死者が必要となる。

 最初はそれを第七位階にあるという《不死の軍勢(アンデス・アーミー)》で補う算段だったが、第七位階などという伝説の魔法なんぞ弟子達と大儀式を行い《魔法上昇(オーバーマジック)》を使っても到底届くわけがなく――そこで目をつけたのが法国神殿内にある『叡者の額冠』というアイテムだった。

 その効果は着用者の自我を封じることで人間そのものを超高位魔法を吐き出すアイテムに変えることが出来るという優れものだ。

 この叡者の額冠は法国で偶然にも知り合えた漆黒聖典の女、クレマンティーヌが盗んでくる手筈となっていたのだが……

 

 が! その約束をしたはずのクレマンティーヌはいくら待てどもやって来ず、連絡もつかず、この計画は破綻となったのだ。

 こうして待ちに待ちかねたツルピカハゲ丸は強硬手段に出たのである。

死者が足らないなら作ればいいと。エ・ランテルの住民を全員殺して補えばいいのだと!

 元々五年間もエ・ランテルの墓地に勝手に作った地下神殿で秘密裏に遂行していた大計画。まずは五年かけて溜めてきたアンデッド達を街に放ち襲わせる。しかもただのアンデッドではない。

 大儀式と魔法道具(マジックアイテム)『死の宝珠』の支援を受けて発動させた魔法、《連鎖する動死体(チェイン・オブ・ゾンビ)》の追加効果付きアンデッドだ。これでゾンビに襲われた住民をさらにゾンビへと変えるのだ。

 さらに作戦を邪魔する冒険者どもには弟子達と共に魔法攻撃も放ってやった。これでさらに屍体が増える。

 

「アンデッド達よ! 殺せ! 全員殺すのだ! ははははは!」

 

 多少のトラブルはあったが、結果的に作戦は大成功だ。エ・ランテルが完全なる死の街に変わるまであと僅かだとハゲ丸……いやカジットは高らかに笑う。

 まさに一世一代の大大大イベントだ。もうすぐ願いが叶うのだとハゲ丸は歓喜に震え――

 

 そんな所で突然やってきた白い女悪魔によってイベントはお開きとなるのだった。

 というか、まず初手から問答無用で降ってきた《火の雨(ファイアーレイン)》で弟子達が全滅した。

 

 

「…………エッ」

 

 気づけば周りは弟子の焼死体だらけ。その真ん中でカジットが間抜けなポカン顔を晒し立ち尽くす。

 

「はい犯人みっけー!」

 

 シラタマがカジットを指差しながらてけてけと向かってくる。その背後ではニグンが辺りを警戒しつつも付き従い――カジットを見るなり「おや?」と眉を顰めた。

「お待ちを、シラタマ様。この男はたしか法国で指名手配されていた男です」

「はえ? そなの?」

「ええ、数年前に邪教の研究や儀式で神官数人を殺害していた事が露呈しそのまま逃亡していたはずです」

「あらまー」

 そりゃまたご苦労な事でとシラタマは肩を竦め、目の前でまだ事態を飲み込めていないハゲを見遣る。まあこいつが指名手配犯だとしても今はそんなのどうでもいいのだ。シラタマはずんずんと歩を進めてハゲットの前に仁王立つと

 

「あのさあ! こういう事は私の迷惑にならないタイミングでするべきじゃない!?」

 

 当初の目的であった文句を言い放った。

 ハゲットは目を丸くさせる。

 

「だいたいさ、うるさいのよ。お祭りじゃあるまいし虐殺くらいもっとこう静かにスムーズにやれないものなの!? しかも今何時だと思ってんの? 夜ウゥ! 夜だよねえ!? 夜は静かにしなさいってお母さんに習わなかった!? 天下のグラントウキョウが誇る歌舞伎町アーコロジーでももっとおとなしいわ! あのね、こっちは暇じゃないの。むしろ予定は混みまくりなの。もう少しさあ! 周りに配慮するってことできないかなあ!? いい歳でしょ!? あんたいくつよ!? っていうか何なのその格好? 変質者か! その骸骨のアクセサリーもさあなんだアそれ? ダッサ! うーわダッサ! クッソダサいから! かっこいいとか思ってんのかよどこの中二だよ! あーあーさてはモテないなお前、むしろ女の子と手も繋いだことないだろ? あるわけないよなあこのくそダサハゲがよおお――ッ!」

 そのままマシンガンのように続くクレーム、っていうか後半全部悪口にハゲットがプルプルと震えだす。

 シラタマの背後ではニグンが暗い顔で俯いていた。やめたげて、もうやめたげてよおとどこからかモモンガの声も聞こえた気がした。

 

 

「き、き、きっさまああああああ!!!!」

 

 そしてとうとうハゲ、いやカジットは怒りを剥き出しにして叫ぶ。

 いきなり現れたと思ったら弟子達を皆殺しにされ、あげくわけのわからない事を言いやがってと死の宝珠を握りしめる。

「わ、儂が五年間かけて作り上げた、努力の結晶を! 儂の夢の邪魔をするとはこの異形種めがああああッ!!」

 シラタマに向けて《酸の投げ槍(アシッド・ジャベリン)》を放ち――

「いや邪魔されたのこっちなんだけど」

 その攻撃はペチンと手で払いのけられポプンと消えた。なんとも間抜けな光景であった。

 

「邪魔、されたのは、こっち、なんだけど?」

 

 ギロリと睨まれ、カジットはおもわず数歩後退する。本能が危険を察知したのだ。やばい、何かがやばいと。

 だがここで逃げ出すわけにはいかないのだ。死の螺旋をなんとしてでも完遂させなければならないのだから。

 ならばと死の宝珠を翳し、魔力を込める。召喚するはカジット最大の切り札だ。

 

「むう?」

 

 突然出現したソレがドオオ――ン! という轟音とともにシラタマの左右を挟む形で降り立つ。

 それは二体の骨の竜(スケルトン・ドラゴン)だった。

 

「まさか、骨の竜(スケルトン・ドラゴン)を召喚したというのか……!」

 ニグンが驚きに声をあげるが、シラタマとしてはだからなんやねん程度の相手であり

 

「ははははは! 魔法に絶対耐性を持つ骨の竜(スケルトン・ドラゴン)だ! 今さら無礼を詫びても許さんぞ異形種め!」

 

「……絶対耐性?」

 はて? とシラタマは小首を傾げる。そんな設定ユグドラシルではなかったと思うのだが――もしかするとこっちの世界ではそうなのだろうか。まあそれならそれで物理で殴ればいいだけなのだが。

「ねえニグンちゃん、こいつら魔法効かないの?」

 でも一応確認してみると、ニグンは少し思案顔を浮かべてから「……の、はずです。おそらく」と自信なさげに答えた。本当ならば効かないですよと肯定したいところなのだが、なんというか、御方々(ナザリック)の常識外すぎる戦闘力を知ってしまうと「もしかしたら」と思ってしまうのだ。

 

「殺せえ! 骨の竜(スケルトン・ドラゴン)よ!」

 カジットの命令で二体の骨の竜(スケルトン・ドラゴン)が一斉にシラタマに襲いかかる。

「――まあいいや、よいしょっと」

 右側の骨の竜(スケルトン・ドラゴン)の攻撃を受け止め、左側の骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に向けて手を翳す。

「試してみるか、《獄炎(ヘルフレイム)》」

 瞬間、黒い炎に包まれ骨の竜(スケルトン・ドラゴン)は消え去った。

「…………は?」

「およ? なんだやっぱ効くじゃん。じゃこっちも《獄炎(ヘルフレイム)》」

 止めていた右側の骨の竜(スケルトン・ドラゴン)も同様に消し去る。

 

「……は? え? え、なん、えっ??」

 

 カジットがわけがわからないという反応をし、一方でニグンは「ですよねーまあそうなりますよねー」ともはや悟りの境地にでも達してるのかお前はと言わんばかりの表情でそれを眺めている。

「……さすがですねシラタマ様」

「え? そんなことないよー。だって骨の竜(スケルトン・ドラゴン)の魔法の絶対耐性なんて聞いたことないし」

「そうなのですか?」と驚くニグンに「いやそもそも」と続ける。

骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に効かないのは第六位階までの魔法だけであって、第七位階からはばりくそに効くんだよ」

「ああー……」

 なるほどとニグンは納得の表情を浮かべた。

 この世界では帝国のかの大魔法詠唱者、英雄の領域を超えた逸脱者ですら第六位階に到達するのがやっとであり――まあようは骨の竜(スケルトン・ドラゴン)を倒せる第七位階を使える魔法詠唱者(マジックキャスター)はいない。そのせいで魔法に絶対耐性などという間違った認識が広まってしまったのだろう。

 

(しかし結局のところ第七位階に到達する者がいない以上絶対耐性というのは強ち間違いではないがな……)

 かの漆黒聖典隊長や番外席次の二人は神人として逸脱しまくった強者ではあるが、二人とも戦士であって魔法詠唱者ではない。

 つまりこの世界にはまだ第六位階を超えた魔法詠唱者はいないのだ。

 

 まあそんなわけで。

 呆気なく切り札を失ったカジットは――……泣いていた。だがそれは敗北の涙ではなく、夢を叶えられないという絶望の涙だ。

 そんな哀れなつるつるピカピカハゲマザコンの姿にシラタマとニグンはどうしたものかと視線を交わし、やれやれと口を開いたのはシラタマだった。

「で、お前はなんでこんなことしちゃったのよ?」

 その問いにカジットは吃逆をあげながら顔を上げ――すごく絵面が無理でシラタマは目を逸らす――素直に答えてくれた。

 かつてカジットはスレイン法国で屈強な父親と穏やかな母親の一人息子として幸せに暮らしていたこと。ある日帰宅すると母親の亡骸を発見してしまったこと。大好きな母親を蘇生する手段を求め奔走したこと。すべてを涙ながらに語った。まるでテレビのうそくせえドキュメンタリー番組でも見せられてる気分だ。

 だが意外なことに、シラタマはその間めずらしくもうんうんそうかそうかと頷き聞いていた。

 

 やがてカジットの御涙頂戴劇場が終わるとシラタマはひと息吐き

「……お前は馬鹿だなあ」

 そう優しく声をかけ、カジットの震える肩をポンポンと叩く。

「そんなわけのわからん儀式のためにここまでやるなんてさ。ホント、とんだ馬鹿で間抜けで単細胞の下等生物ハゲだよお前は」

「うっうぐぐ……っ!」

 言い過ぎだろとカジットは歯噛みしたが

 

「――でも、努力家だ」

 

 続いたその言葉に、悔しさに歪んでいた顔がはっとする。

「お母さんのために誰よりも頑張ってきたんだよね。周りに何と言われようと、否定されようと必死になってやってきたんだよね?」

「うっうう……」

 カジットが奔流の涙を流し何度も頷く。

 そうだ。すべては母のためにやったのだ。たった一人の愛する母のために!

 

「だからさ、きっとうまくいくよ。元気出しなよ」

 そう言ってシラタマは優しく微笑んだ。それは慈愛に満ちた聖女の笑みだった。カジットにはたしかにそう見えたのだ。

 彼女は自分を救いに天から降りてきてくれた女神様であると――!

 

「め、女神様あ……!」

 

 ――ああ、救いはここにあったのだ。すでに信仰を捨てた身であるが、カジットは今この瞬間、その心の内に神の存在を感じていた。

 そして縋るような思いで優しく微笑むシラタマに手を伸ばす。

 彼女の手を掴めば、きっと奇跡は起こるはずであ

 

「甘えるな――――――っ!!!!!」

 

 昇龍拳のようなモーションで突如放たれた《連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)》がカジットに直撃。そのまま空へと打ち上がる。

 そしてカジットは握りしめた死の宝珠ごと煌めく雷の花火となり――…灰となって消えた。

 

 

「「ええ――……」」

 呆然とした男二人の声が重なり、シラタマはというと「くふうっ!」と悲痛に満ちた顔……ではなく真逆の悦楽顔を浮かべながら

「人生舐めてんじゃねえぞこのハゲ――ッ!!」

 そう高らかに叫び、キャッホーイと飛び跳ねていた。

 

「……は…ははは」

 その光景にニグンはもう諦めましたとばかりに虚無感漂う面持ちでひとり夜空を見上げ引き笑いし、その傍らでは《完全不可視化》を使ってこっそり見守りに来ていたモモンガも頭を抱えながら何度も沈静化が発動されていた。

 

 

 

++++++

 

 

 

 エ・ランテルの惨事から無事に生き延びた住民の数は少なかった。

 王国には国民の住民票や戸籍管理というものは一切なく――そもそも役場なり戸籍なりの日本的システムがあるのは法国だけであり、これらも六大神が始めたものらしい――よってエ・ランテルに元々住んでいた者達の数は把握できない。だが助かった人数はたった数百人ぽっちだった事から、それだけでどれほどの犠牲者が出たのかは明白だった。

 街としてなんとかアンデッド達の侵攻を逃れられたのは最内周部のみであり、そこに住む都市長や金持ち連中にとってはアンデッドがいつ最内部の壁を越えてくるか気が気ではなかっただろう。そのかわり今では彼らだけその最内周部に取り残され、閉じ込められている形になっているのだが。

 シラタマにとってはそんなの知ったことではない。

 現在のエ・ランテル外周部と内周部内に生きた人影はなく、完全なる死の街となっていた。

 

 

 城壁の外、北門付近では生き延びた住民らが身分を隠した陽光聖典隊員らによって治療を受けている。普段は殲滅部隊として腕を振るっている彼らだが、全員が神官職でもあるため治療系の魔法も得意としており――今のように罪なき民達を救済していくこともまた自分達のやるべき道のひとつなのではないかと隊員たちは感じていた。

 

「――《重症治癒(ヘビーリカバー)》」

 イアンの治癒で大きく背中を裂かれていた少年の傷が閉じていく。少年はぼんやりと目を開き、小さく息を吐き出した。

「ああっありがとうございます! ありがとうございます…!」

 少年の両親が涙ながらに頭を下げる。

「いえ構いませんよ。さあ立てますか? 治療がまだの方はこちらへ!」

 イアンと隊員達は住民を順々に避難誘導していく。陰ながらセバスの助力もあり、運良く壁の外まで辿り着けた者、助けられた者達は全員見知らぬ魔法詠唱者の集団に感謝していた。

 今この場にいる住民は助かった数百人のうち半数ほどで、残りの半数はすでにエ・ランテルから離れ帝国方面へと逃げていったらしい。同じ王国内の別の領地へ向かわない時点でその者達もまた王国に見切りをつけたということだろうか。

 

 城壁の上、救護の様子を伺っていたセバスはもう大丈夫だろうと判断する。エ・ランテルの街にはまだまだアンデッドやゾンビが溢れているが、シラタマより命じられたのは民間人の保護と隊員達のサポートだ。セバスは街にもう助けを求める声がないのを再度確認してからシラタマへ《伝言》を繋げた。

 

 

 そして墓地では――

 

「お、ありがとねセバス。うん、ほいほーいあとはこっちで、うん……大丈夫だよー。それじゃあもう王都に戻っていいからねーありがとー」

 セバスからの報告を受けたシラタマが《伝言》を切る。

「モモンガさん、街はもう大丈夫みたいです。それとさっき言った通り隊員達が助けた住民にはひとまずカルネ村の方に行ってもらいますね」

「わかりました。ええとカルネ村ってことはこっちだから……よし、大丈夫だな」

 すでに《完全不可視化》を解除しているモモンガが頷く。

 そして帝国はあっちだったなと再度確認し、そっち方面へ逃げたという住民や冒険者達の背中をまるで追うように手をかざすと――

 

「では今度は俺たちの為にも働いてもらうとしよう。《不死の軍勢(アンデス・アーミー)》」

 

 第七位階を発動させた。

 

 

 




※ 今回のオリジナル魔法及び捏造部分※

《純白双角獣王/アルビノバイコーンロード》
白いサラブレッド風の騎獣。レアガチャでゲットしたシラタマ様の乗り物である。
(バイコーンは処女と童貞を許さない。あと真面目な男も嫌いらしい)


《連鎖する動死体/チェイン・オブ・ゾンビ》
デスナイトの持つような殺した相手をゾンビに変える効果を通常のアンデッドにも授ける魔法。
ただしゾンビのレベルは一桁台でかなり低い。ゲロ弱。が、ただの村人や住民程度ならたやすく殺せる。



シラタマ様の自由度がどんどん加速していってる気がします。彼女は今回で上げて上げて叩き落とすという遊びを習得しました。
そしてオバマスでおそらく一番好感度が爆上がりしてるんじゃないかという陽光聖典、もっと彼らとも戯れたいですね。
次回は帝国とばっちりのお話です。誰かさんの毛根が心配です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。