ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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27 帝国、とばっちりの夜

 絢爛豪華という言葉がある。

 その言葉に相応しい部屋はどんな部屋かと問われれば、至高の御方々が居住するお部屋ですとナザリックの者ならば答えるだろう。

 ではこの世界、バハルス帝国の者ならばどう答えるか。それは帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスのいる部屋である。

 彼は若きバハルス帝国現皇帝だ。悪しき貴族を問答無用で切り捨て、出自や身分問わず如何なる民にもチャンスを与え手を差し伸べる。まさに貴族からは畏怖され臣民からは尊敬されている歴代最高と称される皇帝であった。

 だがそんなジルクニフは今不機嫌そうに部下からの報告を聞いていた。そろそろ床に就こうとしていただけあってなおさら機嫌は下落気味だったのだが、その報告のせいでさらに急降下中だ。

 

 数時間前、隣国であるリ・エスティーゼ王国の城塞都市エ・ランテルがアンデッドとゾンビによってあっけなく壊滅し、そこから生き延びた難民たちが帝国領に向かって逃げてきているというのだから。

 はああ、と大きく肩を落とす。

 どうしてこっちに来るのだと文句を言ってやりたいところだが――

「それで、そのアンデッドどもの脅威はどれほどなのだ? ――じいよ」

 それよりも問題は逃げて来る難民たちの背後を追いかけてきている奴らだ。わざわざエ・ランテルから迷惑極まりない団体様を引き連れてくれるとはと頭が痛くなる。だが被害者である民にそれを言っても仕方ない。すべてはそんな民すらも守れない王国に責任があるのだから。

 ジルクニフにじいと呼ばれた白髭の老人は、少し億劫そうに自身のあご髭を撫で

「――厄介ですな」

 そう呟くと、ジルクニフは――表情はとくに変わらないが――怪訝そうに小さく眉を寄せた。

「偵察に向かった我が弟子数人によると向かってきているのはアンデッドとゾンビだけではないようで、先程確認したところまずアンデッドとゾンビの群勢がおおよそ100、しかしどういうわけかその後方から約4000を超えるゴブリンと思わしき群勢、中にはトブの大森林の奥地にしか見られないような魔獣も多数交ざっております」

「ふむ…」

 それはなかなか多いなとジルクニフは目を細め、しかしそれでもまだ余裕があると考える。

 王国とは違い帝国は専業軍人の育成を行い魔法を使える者も騎士としている。さらに魔化された鎧なども国からすべて支給し、平の兵士であってもモンスター討伐くらいはできるのだ。

 加えて帝国四騎士、精鋭騎士と戦力はまだまだあり、そして今ジルクニフと話している老人、帝国が誇る最強の大魔法詠唱者フールーダ・パラダインの存在。フールーダは第六位階の魔法に到達した最強の魔法詠唱者であり、謂わば逸脱者だった。

 これほどの戦力を持つ帝国がたかが数千のアンデッドやゴブリンなんぞに慌てる方が馬鹿馬鹿しいとジルクニフは嘲笑じみた笑みを浮かべかけ……ふと冷静になる。

 ならば何故フールーダは厄介だと言ったのかと。

 

「……他にはどんなモンスターが向かってきているのだ」

 帝国の歴代皇帝一の優秀さを謳われるジルクニフでもさすがにモンスターに関する知識ばかりは疎い。問われ、フールーダはわずかに目を伏せる。

「そのゴブリンや魔獣らの群勢のさらに後方から、数千を超えるアンデッドの群れが向かってきており……これの中には集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)骨の竜(スケルトン・ドラゴン)が数体……そしてデスナイトの姿も確認されたと」

 瞬間、皇帝と老人を除き室内に緊張が走った。

「……デスナイト?」

 その名前は確か聞き覚えがある。

 帝国魔法省の最奥にて封印されている伝説級のアンデッドだったはずだ。アンデッドが多く発生するカッツェ平野で捕獲したらしいが――

 

(ならば此度のアンデッドらもカッツェ平野に原因が? だが先遣隊の話ではエ・ランテルの内部から発生していると……それでも何かしら関係はあると踏むべきか? アンデッドを誘導している者がいる? まさかそんなことが)

 

 いや、とジルクニフは小さく頭を振るう。とにかく現時点で重要視すべきなのはひとつだ。やれるか、やれないのか。

「騎士達だけでは荷が重いかと」

 フールーダが頭を垂れる。

「――なので、私も弟子達と出ましょう」

「そうか」

 ならばもうアンデッドを案ずる必要はなく、あとは逃げてきている王国民をどうするかだなと思考を切り替える。

 

「……ん、そうだ待て。じい、確か前に気になるワーカーがいると言っていたな」

 

 ジルクニフの言葉にフールーダが目を見開き、首肯する。

 たった一日で闘技場で名を挙げた〈漆黒〉というワーカーチーム。その日闘技場に駆けつけたフールーダの弟子が見たという光景、その話を聞いた時は我が耳を疑ったほどだ。ギガントバジリスク二体を同時に倒した二人の魔法詠唱者や片手で魔獣を投げ回した戦士。観客らが見たという強力な魔法や技の数々。

 その噂の真偽を確かめるために近いうちに一度呼び出してみるか、四騎士らに接触させるかと確かにジルクニフと話していたのだが

 

「じいお目当てのワーカーチーム……せっかくの機会だ。その力を見てみようじゃないか」

 

 

 

++++++

 

 

 

 アルシェは妹達を眠りにつかせ今日もなんとか一日が終えられたとほぅ、と小さく息を吐く。

 ワーカーチーム〈漆黒〉として華々しすぎる闘技場デビューを飾ってからというものの、アルシェは帝都ではすっかりと有名人となってしまった。少しでも街を歩こうものなら大勢の冒険者やワーカー、商人、もう全然知らないおじさんまでが声をかけてきてすぐに取り囲まれてしまうのだ。

 正直言ってめちゃくちゃ疲れる。

 だが――全く変わらないものもあった。それはアルシェの家族だ。

 ワーカーとしてお金を稼げるようになり――それもただの新人では到底手が届かない程の金額だ――知名度も上がり、モモンのおかげでアルシェの魔法詠唱者としての腕も僅かだが成長した。今の両親と同じ平民である近所の人もアルシェの活躍を知ってくれていた程だ。

 

 だが――両親は違った。

 むしろそんなに稼いでくるのならとさらに上質なものを求めさらに借金を重ねたのだ。闘技場で稼いだ金貨もたった一日で無意味となった。アルシェが返済すれば両親はその倍の借金をする。やめてくれ、せめてまずは今ある借金をすべて返済してからにしてくれとアルシェは泣きついたが、逆上した父親にこっぴどく殴られたのだ。

 まだ痣の残る頰に手をやり、摩る。

 じわじわと残る痛みがまるでお前は永遠にこの生活から逃げられないのだと言ってくるようで、アルシェは小さく唇を震わせた。

 せめて、せめて妹達だけは助けたい。現在のフルト家の借金は金貨300枚……明日モモンに会った時に相談してみようかとも思ったが、家庭の事情を知った彼が離れてしまうのではないかという不安にぎゅうと胸が締め付けられる。

 

「…………先生」

 

 何気なしに口からこぼれた言葉。

 だがそれに返事が返ってきた。

「お、気づいたかアルシェ」

「うええっ!?」

 突然背後からぬっと姿を見せたモモンにアルシェは飛び上がりどてんと尻餅をつく。

「せせせせせ先生!な、なんでここ!? えっ!? 私の家教えてないのに、あれえ!?」

「うん? なんだ俺に気づいたわけじゃなかったのか」

 名前を呼ばれたからてっきりとモモンは小首を傾げ

「……ん? アルシェ、どうしたんだその顔の怪我は」

「えっ!? あっううんこれはなんでもないというか……っ」

 誤魔化そうとしたが、それよりも先にモモンの手が痣のある頰に触れた。瞬間アルシェの胸の鼓動がドキドキと音を立て顔がぼっと熱くなる。

そのまま惚けているとモモンは懐から《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》の込められたスクロールを取り出しそれを発動させた。頰の痣が綺麗さっぱりに消え、それを確認しモモンが鷹揚に頷く。

「……怪我の理由は、今は聞かない方がいいか?」

「……うん。ごめんなさい先生」

「いや、いいさ」

 アルシェの頭を撫でながら部屋を見渡しモモンは険しげに顔を顰め、だが今はそれよりもとここまで来た理由を話す。

「実はな、さっき歌う林檎亭に帝国四騎士のひとりがワーカー達に緊急依頼ってのを頼みに来たんだよ」

「えええっ!??」

 帝国四騎士なんて超有名人がなんでとアルシェは口をあんぐりとさせ、そんな人が持ってきた緊急依頼とはなんなのだろうと畏怖する。

「なんでもリ・エスティーゼ王国の方からアンデッドや魔獣の大群が向かってきてるらしくてな、帝国騎士だけではなかなか手に余るそうなんだ」

「た、大群!?」

 まさか、と。しかしならば帝国四騎士がやってきた理由にも納得できるかとアルシェが頷く。あの訓練された帝国の騎士達、そして四騎士が依頼するくらいなのだから相当の数なのだろう。

「怖いか?」

「……ううん。大丈夫、です」

 全く怖くないと言えば嘘だ。闘技場で実戦経験を積んだとはいえアルシェはまだまだ学院から出たばかりのひよっこ……だが、モモンがいるだけでそれらの不安や恐怖が消えていく。勇気が湧いてくる気がした。

「私達も行きましょう!」

「そうか。では行くぞアルシェ、ふふ、今回は夜間授業というやつだな」

「はい先生!」

 窓から外に飛び出し、そのまま飛んでいくモモンのあとを追いかけて――ちらりと熟睡している妹達の顔を見遣り――アルシェも《飛行》を発動させた。

 

 

 

 

 アーウィンタールの門前にはすでに帝国兵や騎士団、依頼を受けたワーカー達が集まっていた。

 それを物見塔から眺めながら、フールーダがお目当てのワーカーチームを探している。

「どうだ、じい? 漆黒とやらは来ているか?」

 まるで今からちょっとした演劇か催しでも観覧するかのように部屋に置かれた寝椅子に悠然と腰かけたジルクニフが問いかけ――その背後には護衛として四騎士が控えている――フールーダは残念ながらと首を振り答える。

「……どうやらまだのようですな」

 先程から集まってきている魔法詠唱者を自身のタレントを使って覗き見ているが、噂に聞いたような強大な魔力は探知できず――聞いた話ではなんと漆黒のメンバー内にかつて面倒を見た生徒もいたことにも驚いたのだが――先にもっと情報を集めておくべきだったかとフールーダは肩を竦めた。ちなみに歌う林檎亭へワーカーたちを集めに向かわせた四騎士のひとり、〈雷光〉ことバジウッド・ペシュメルも漆黒らしきチームとは会えなかったらしい。

 

 やがて先遣隊のメンバーでもあるフールーダの弟子達が戻ってくる。彼らと帝国の冒険者チーム〈銀糸鳥〉によってすでに逃げてきた難民たちは保護されていた。

あとはそんな難民たちがひき連れてきてしまったおまけの始末だけなのだが。

 

「王国にも困ったものだ……」

 ジルクニフが不快感というよりはもはや呆れ果てたとばかりに目頭をつまみ唸る。

 エ・ランテルからやってきているアンデッドの群勢について王国には真っ先に鷲馬(ヒポグリフ)ライダーの使者を送り緊急事態であると連絡したのだがーー返事はまだ返って来ない。会議でもしているのかなんのつもりかは知らんが、彼らの腰が上がるよりもアンデッド達が帝国に到着する方が早いだろう。

 ふぅ、と小さく溜め息を吐く。

 そして夜闇の中、アンデッド達の足音やゾンビや魔獣の呻き声がはっきりと聞こえてきて全員が目配せし合った。

「では我々も行ってまいります」

 四騎士のうちの三人、〈雷光〉〈不動〉〈重爆〉が頭を下げ部屋を出て行く。それに続いてフールーダも弟子達に指示を出しながら退出していった。フールーダたちはデスナイトの担当だ。いくら帝国の精鋭騎士達や四騎士でもデスナイトの相手は厳しい。よって、かつてカッツェ平野でデスナイトを捕縛した時と同様に彼らが空からの絨毯爆撃をする手筈となっている。

 

「――さて、どうなるか」

 護衛としてこの場に残り傍に控える〈激風〉とともに、ジルクニフは微塵とも不安を感じていない堂々たる態度で構えながら戦いに赴く者たちの背を見送った。

 

 

++++++

 

 

 アルシェが門まで駆けつけた時、すでに戦いは始まっていた。まさに乱戦。

 もはやアンデッドとモンスターが混合された軍勢との戦争なのではないかと錯覚するほどで、アルシェは息を呑む。

「やっときたでありんすかアルシェ!」

「しゃ、シャルさん!」

 すでに何匹かのゴブリン……いや、近くで見ればゴブリンのようなゾンビを片付けていたシャルが走ってきてモモンの前で小さく、しかし恭しく頭を下げる。

「戦況はどうだ? シャル」

「はいお兄ちゃん、今のところ帝国の騎士達が前衛に出て魔獣を掃討しているでありんすが、それでも動きの速い魔獣や体の小さなゴブリンゾンビがたっくさん抜けてきているでありんす!」

「うんうん、まさに大漁入れ食いというやつだな。それで、他のワーカーはどうだ?」

「どのチームもまあまあ頑張ってるでありんすよ。もっともお兄ちゃんに比べたらたいして役にもたっていないであ・り・ん・す・が!」

「あ、うん…」

 しかし辺りを見渡せば、想定よりもはるかにワーカーたちは仕事をこなしてくれていた。

 元々今回のアンデッドによる帝国侵攻は急遽決まったのだが――案外うまくいくものである。

 これらはすべて帝国で目立ちすぎている新米ワーカーチーム〈漆黒〉の騒ぎを沈静化させるためであった。もし守護者たちが聞いたら「偉大なる御方の名声をどうして!?」となるかもしれないが、モモンガ的には毎日毎分毎秒と他のワーカーたちにつきまとわれるのは御免被りたいわけで。

そこで、だ。

 今回の騒動をきっかけに他のワーカーや帝国騎士にもおおいに手柄を立てて貰って、彼ら自身も名声を得れば漆黒から離れてくれるんじゃね? なーんて思ったのである。

 

(本当は参加しない事も考えたけど、それはそれであとから文句を言われそうだしな……)

 

 なのでモモンガ、いや、モモンはほどよく支援に回りアルシェのレベリングともうひとりの方の戦力も確認する事にしたのだ。

 そう、もうひとりだ。

 シャルの背後からこそこそ隠れるように顔を見せたそいつをアルシェに紹介する。

 

「――アルシェ、突然ですまないが〈漆黒〉に入りたいという新メンバーがいてな」

「ええっ!? い、今ですか!?」

 このタイミングで!? とアルシェが狼狽える。いや確かにそれはごもっともだ。周りは乱戦真っ只中で、そもそもこんな状況で漆黒だけがのほほんと輪になり悠長にトークしている時点でもうおかしいのである。

 が、モモンは「とりあえずまだ仮採用なのだがな」とひょいと肩を竦めて、アルシェに相談せずにすまなかったと頭を下げる。

「い、いえそんな、先生が決められたのなら私は構いません!」

「そうか、それはありがたい」

 言って、新メンバー(仮)に手振りで促す。するとそいつは緊張した面持ちでアルシェの前に出ると

 

「は、はじめましてえ! クレアです!! クレアと申しますっ!!」

 

 おねしゃあ――っす!! と直角90度のお辞儀をする様はどこの体育会系だろうか。いろいろあったとはいえ礼儀を学んだ……というよりはまるで社畜戦士みたいになっちゃったなあとモモンは――元の姿のままなら確実に精神が沈静化されているだろう――すっと目を逸らす。

 その一方でアルシェはどこかぎこちない新メンバーという女戦士に対し少しばかりの違和感と先生(モモン)とはどんな関係なのだろう、もしかして恋人とか!? とよからぬ考えをぐるぐる頭の中で駆け巡らせていた。

 だが残念、それともおめでとうだろうか。その女は恋人どころかとりあえずもうひとりくらい現地人入れとくか~的な軽いノリで派遣された悲しき元殺戮者である。ちなみに彼女の兄はシラタマの方へお返ししたのだが……ここにくる前に彼女は愛しのお兄様と仲良く楽しいハッピーセットにされるか〈漆黒〉のために蟻のようにあくせく働くかという二択を迫られたのだ。ちなみに即決であった。

 モモンガに土下座し縋りながら兄と一緒だけは本当に勘弁してくださいと泣き噦り、あげく自ら拷問部屋に戻ろうとした姿はナザリック勢をも困惑させたという……

 

 クレアことクレマンティーヌ。

 彼女こそが〈漆黒〉の新メンバー(仮)であった。

 

 

++++++

 

 

「いやーこれまた絶景ですなあ」

「ええ、それにしても……話には聞いておりましたが本当にこの世界の人間どものレベルはここまで低いのですね」

「ほんとほんと! あっ、あそこの奴なんてオークに押し負けてるよ! 逆に難しいよねオークに負けるなんて!」

「いやいや二人とも、あれでも帝国の戦力はまだマシらしいよ? モモンガさん言ってたもん」

「「ええ……(絶句)」」

 帝国の上空にて三人の女子達が優雅に夜会を開いていた。

 エ・ランテルにてつるピカハゲを倒したあと、シラタマはニグンとモモンガから返品されてきた変態狂信者クアイエッセ、そして隊員らに生き延びた住民達を難民として一時的にカルネ村へ送るよう指示し――ニグンちゃんと別行動になるのは少し躊躇ったが――そのあと単身ナザリックへ戻り「モモンガさんの活躍見に行こうぜー! フッフー!」とまずはアルベドを勧誘。そしてなんだかんだでシャルティアを心配していたアウラも誘ったのである。

 ちなみにこの間ナザリックの留守はデミウルゴスとマーレ、コキュートスに任せている。

 と、いうわけで。

 

「シラタマ様、このクッキーすっごく美味しいんですよ!」

「ふわあほんとだ! アルベドも食べなよ、こっちのマフィンもなかなか」

「ふふふ、副料理長がはりきっていましたからね」

「「「んん~~♡ おいし~~♡」」」

 三人揃ってナザリック自慢のスイーツに舌鼓を打つ。

 彼女達は空間隔離で姿を隠したのち浮遊板(フローティング・ボード)に敷いたオシャレな絨毯の上に座り、さらにオシャレなティーセット、お菓子にケーキとたっぷり持って優雅にお茶と談笑をしつつ見学していた。

 

「さーてモモンガさんたちは、もぐもぐ。どこかなー?」

「あっあそこです! もぐもぐ。シャルティアが前に出てますね。ふーんちょっとはやるじゃない!」

「あら、もぐもぐ。御方の盾となるのだから当然よ」

 

 どうやら漆黒も話がまとまったらしく、他のワーカーたちに交ざって行動を開始している。

 まずは前衛としてシャルことシャルティアが道を開き、その後ろにあのクレマンティーヌ、クレアがスティレットを構え続く。

 アンデッドやゾンビ、魔獣を適当に掃討していきそのまま散開。他のワーカーでとくに苦戦している者らを助けてやり、そしてモモンとアルシェも《火球》や《雷撃》、第三位階魔法までを使って同じく周囲のアンデッドらのみを片付けていた。

 どうやら漆黒はザコモンスター以外には手を出さないようだ。つまり名声に繋がりそうな大物は他に譲るということである。

 

(うんうん。あれならモモンガさん達の人気も少しは落ち着くかな……)

「にしてもなんでさっきからシャルティアはあんなザコばかり倒して……」

「あーそれはね」

 シラタマはアウラの何気ない疑問に答えようとしたが――

「それはねアウラ、モモンガ様はこの機会に帝国の最大戦力を見定めるおつもりなのよ」

と先にアルベドが口を開いた。

「…………ふぇ?」

「それってどういうことアルベド、最大戦力って……あそこの騎士達じゃなくて?」

「ええ、たしかにあの四騎士と呼ばれている者たちも帝国の主要戦力らしいのだけど、モモンガ様があの人間の娘や他のワーカーから聞き出した情報によれば、帝国で最も危惧すべき戦力はフールーダという魔法詠唱者だそうよ。でも普段は皇帝の側にぴったりと付いていて戦場には出てこないみたいなのよ」

「なるほどね、切り札はそう簡単には出さないってわけ。あっだからモモンガ様は」

「ええそうよアウラ。本当ならモモンガ様が最初に闘技場でその偉大なるお力をふるわれた際に帝国上層部からの接触や何かしらの動きがあっても良かったのだけれどね。そこから帝国一の戦力に接触する手もあったのだけれど……哀れなことに彼ら動いてこないのよ。本物の強者を見抜けないなんて所詮は人間ってことね……だからモモンガ様はこちらから仕掛けることで無理矢理にでもその魔法詠唱者を表舞台に引き摺り出そうとしているのよ」

「なるほどねー! さっすがモモンガ様!」

「…………」

 モモンガさん絶対そんなこと考えてなかったよという言葉を胸にシラタマは目を伏せる。

 アルベドとアウラはすっかりさすがモモンガ様モードだし、今さら訂正できるわけがない。

 こんな感じでこれからもモモンガさんのハードルは上がり続けていくんだろうなぁとしみじみ思い、まあ自分には関係ないからいっか! と完全スルーを決めこむのであった。

 そして眼下で繰り広げられるお祭りに視線を戻し

 

「……ん、あれ?」

 

 遠くの方から自分たちと同じように空を飛んでいる集団がこちらに向かってきているのに気づいた。

 一瞬自分たちの存在がバレたのかと焦ったが、どうやら様子を見るにそうではなさそうだ。

 その集団はまとまりながら――しかし陽光聖典のように隊列を組んだり陣形をとることはない――空からある箇所に向けて一斉に《火球》を放ち始めたのだ。

 なんだなんだとシラタマたちはその絨毯爆撃を受けているものを見やる。

「あれってデスナイトくんだよね」

「ええ、デスナイトですね」

「デスナイトですよね」

 三人は互いに困惑の色を浮かべ目配せし合う。

 あいつらたった一体のデスナイトに対して集団で何をやってるんだという意味でだ。あれではまるで虐めではないか。そんなのひどい、あんまりだとシラタマはむっと口を窄める。

 そもそもあれだけ大人数の魔法詠唱者がいるのなら、一箇所に固まってたった一体のデスナイトを虐めるより散開して騎士やワーカーたちをサポートした方が絶対効率もいいのに。本当に何をしているんだと言ってやりたくなる。

「……あら?」

 ふいにアルベドが何かに気づいたようで

「どしたのベドベド」

「あ、いえ、シラタマ様、あの魔法詠唱者の集団の先頭にいる者なのですが……もしやあの者が先ほどお話ししたフールーダなる人間なのでは?」

「えっうそ!?」

 言われてみれば、たしかにひとりだけなんだかすごくそれっぽい老人が交ざっている。その老人は若い魔法詠唱者たちに指示を出し、自ら率先して地上にいるデスナイトをいじめているのだ。可哀想に。

 下等生物でも一応は国の大英雄だかなんだかの称号を持つ者なのだから、そんないじめっ子みたいなことをするのは良くないぞと心の中の正義マンことあの白銀の戦士が言っている。

 

「……よし、助けてあげよう!」

 シラタマがうんそれがいいそうしようと手を叩く。

「ということはシラタマ様自ら加勢に? でしたら私が行って参ります」

「いやいやアルベドここは私に任せてよ! シラタマ様、私が魔獣たちと行ってきますよ!」

「ん? ああ違う違う。大丈夫だよ二人とも、デスナイトくんのピンチは他のデスナイトくんに助けてもらうからね。えーとえーと」

 小首を傾げる二人の前でシラタマはごそごそと子供向け玩具のような小さなラッパを取り出す。

 これは初心者時代にたまに使っていたアイテム『魔を呼ぶラッパ改』。その効果はレベル35以下のモンスターを呼び寄せたり、味方側で召喚されたレベル35以下のモンスターすべてに長距離からも指示を送れるというものだ。

 ユグドラシルを始めた頃、これを使ってモンスターを呼んでは倒し呼んでは倒しとひとりせっせとレベル上げをしたものだとシラタマは懐かしい思い出に目を細め――

 おっぺけぺ~~! というどこか間抜けっぽいラッパの音が鳴り響いた。

 

「よーしデスナイトくんたちー! みんなでお友達を助けるんだー!」

 

 えいえいおーとシラタマがデスナイトたちに指示を出すと、それぞれ散らばっていたデスナイトたちが一斉に動きを止め――どうやら殺される寸前だったらしいワーカーがいたようで、急に攻撃をやめたデスナイトに困惑している――身体を急転回。いじめられている可哀想なお友達の元へとどっしどっしと駆けていく。

 その光景になんて素晴らしい友情なのだろうとシラタマは満足げに頷いた。

 

「だいたいさ、あんなズルみたいな戦い方されちゃ実力だってわかんないじゃない?」

 

 むすうと頬を膨らませるシラタマに、まったくその通りですとアルベドとアウラが首肯する。

「ですがシラタマ様、それならばまずあの人間たちを地上に落とすべきではないでしょうか? デスナイトは空を飛べませんし」

「あっそうか」

 たしかにお友達作戦でこの場にいる全デスナイトを向かわせたのはいいが、フールーダが空にいる以上状況は変わらないだろう。

「だったら……あ」

 シラタマの頭の上で豆電球がぴこーんと光る。

 

「あいつらを落とすんじゃなく、デスナイトくんを行かせるのはどう?」

「行かせる、ですか?」

 うん、とシラタマが楽しげな笑みを浮かべる。

 

「あのねあのねっ、デスナイトくんを骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に騎乗させちゃえばいいんだよ!」

 

 骨の竜に乗る死の騎士なんてかっこよすぎる。まさに中二病、いや世界中の男の子の大好物だろう。

 これはきっとモモンガさんも喜んでくれるだろうなあとシラタマは得意げに鼻を鳴らすのであった。

 

 

 




ああお爺ちゃん大ピンチ。
これもシラタマさんのお世話係がいないから。誰も止めないから。つまり全部ニグンちゃんのせい。あとからモモンガさんにこっぴどく怒られるのは彼です。シラタマさんの面倒を見てないから仕方ないのです。

そして更新が遅くなりました。申し訳ない。
オバマスが想像以上に面白くかなりやりこんでいました。決して公式アプリでニグンさん大活躍してるからこっちはサボってもいいよななんて………ゴホンゴホン思ってナイヨ
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