ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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シリアス戦闘回と見せかけたゆるいギャグ回になってしまいました。



28 大魔法詠唱者いつ本気出すの!? 今でしょ!

 エ・ランテル方面から現れたというアンデッドやモンスターの大群を実際にその目で確認するまでたちの悪い冗談だとすら思っていたワーカー達も、現在はさすがに全員が本気モードと化していた。

 

「正面くるぞ! 援護頼む!」

 向かってくる魔獣の群れを迎え撃つように剣を構えるのは多くいるワーカーチームのひとつ〈フォーサイト〉のリーダー、ヘッケランだ。そして彼を援護する形で左後方にレンジャーであるイミーナが弓を構え、その反対側には神官のロバーデイクが腰にさげたモーニングスターを握る。

 フォーサイトは三人のワーカーチームであり――只今絶賛メンバー募集中なのだが、まだ天啓ともいえる巡り合わせがないらしい――宿にしていた歌う林檎亭にて突然やってきた帝国四騎士のひとり〈雷光〉ことバジウッド・ペシュメルからワーカー全員への緊急依頼を受け、その報奨金の高さにつられ参加したのだが……やはりというべきか。わざわざ四騎士がやってくるほどの依頼なのだからかなりしんどいのだろうとは考えていた。しかし、実際はかなりどころか相当やばい。

 これだけ多くのワーカー達が一丸となり狩っているというのに、敵の数に終わりが見えないのだ。アンデッドも魔獣も決してどうしようもなく強いわけではない。しかし、数が多過ぎる。もし自分達のチームにあとひとり魔法詠唱者がいれば後衛を任せられたのだがなあとヘッケランは小さく苦笑し

「ヘッケラン! 前!」

「うおお!?」

 イミーナの声でしまったと我に返り、正面から突撃してきた大型トブ・ベアの攻撃をギリギリで躱す。

 だが――追撃。それも剣で受け流すが足元が悪くヘッケランはぐらりとバランスを崩した。

「クソッ!」

「ヘッケラン!」

 イミーナとロバーが即座に援護しようとしたが、それよりも先に空から降ってきた《雷撃(ライトニング)》が大型トブ・ベアを仕留めた。

「なんだ!?」

「大丈夫ですか!?」

 そこにふわりと降りたつのは帝都にいるワーカーの中では知らない者はいない英雄級とも呼ばれるワーカーチーム〈漆黒〉のメンバー、アルシェ。ヘッケランはおもわず小さく感嘆の声を漏らし、はっとして呆けていた表情を引き締める。

「た、助けて頂きありがとうございます!」

「いえ私は……あっ後ろ! またきます!」

 向かってきたゾンビたちをアルシェが《雷撃》で、続いてイミーナが弓で仕留める。

 そして三人とアルシェはひとまず挨拶はあとでという風に目配せし合うと、共に掃討を再開するのだった。

 

 

 

「ぐうっ!」

 帝国四騎士のひとり、〈重爆〉ことレイナース・ロックブルズはひどく焦っていた。

 魔獣やアンデッドの大群は帝国騎士や多くのワーカーたちが引き受けているが、彼らが押さえ込めないような強い個体は四騎士が請け負っている。四騎士は全員がオリハルコン級冒険者程の実力があり、強い。だがそんな彼らでもかなりの苦戦を強いられる個体が交ざっていたのだ。

 たとえばトロール、そしてナーガだ。おそらく大森林の奥地に生息していた個体だろう。それらは普通ならまず遭遇するはずのないレベルの強敵であり――レイナースは貫くつもりで突いた槍がナーガに弾かれその麗しい顔を歪ませる。ちらりと周囲に視線を走らせれば、そこでは同じく四騎士のひとりである〈雷光〉バジウッド・ぺシュメルと〈不動〉ナザミ・エネックがトロールたちの猛攻をなんとか凌いでいた。オーガすら両断するバジウッドのグレートソードはトロールの持つ大剣と互角か、やや押し負けている。ナザミもまた敵の進攻を両腕に構えた盾で食い止めているがそれで精一杯のようだ。いつもならば不動の名の如く敵の攻撃をナザミが徹底して抑え込み、そこにバジウッドが突撃していくのだが、今は完全にその戦法が崩されている。

 レイナースは小さく舌打ちする。自分も彼らも一対一なら勝てただろう。だがただでさえ同等レベルの敵が複数いる現状は不利極まりなく、険しげにその視線を目前に戻す。互いが手一杯でありフォローし合う余裕はない。

 

「どうした人間の女、よもやこの程度ではなかろう?」

 ナーガがぎゃぎゃぎゃと歪に笑い、その蛇の尾がレイナースと共にいた騎士たちを薙ぎ払う。帝国騎士自慢の鎧は――四騎士の鎧に比べれば低質ではあるがそれでも王国兵やそのあたりのワーカーらが纏う鎧よりは上質だ――まるで硝子細工のように破壊され、彼らは大きく身を捩りながら吹き飛んでいった。

「ッさがれ! 全員さがりなさい! こいつは私が仕留めますわ!」

 その言葉にナーガは目を細め、口角を三日月形につり上げる。ただの虚勢だと馬鹿にしているのだ。

 そうやって油断していればいい。レイナースは槍をぎゅうと握ると身を低くし、一気に踏み込む。

「はああああっ!!」

 それはまさに必殺の一撃。いや、連突だった。ひと呼吸のうちに繰り出される猛攻。この技で仕留められなかったモンスターは――かつて死に際にレイナースに呪いをかけたあの忌々しいモンスターも含めてだ――いない。

 しかしそれもこの時までの武勇であった。

 ナーガは魔法で障壁を作り槍を受け流し、レイナースから「ああっ」と小さな悲鳴が漏れる。全身全霊の攻撃をかわされた今の自分の状態が隙だらけだったからだ。焦るあまりに迂闊すぎたと後悔してももう遅い。蛇の尾が畝り、レイナースに襲いかかった。だがその攻撃は寸前のところで阻止される。

「……え!?」

 レイナースは一瞬バジウッドかナザミが助けてくれたのだと思ったが、違う。眩い閃光とともにナーガたちが黒焦げとなり地に落ち、そこには漆黒のローブを身に纏った魔法詠唱者の背中があった。彼はレイナースの無事を確認するかのように振り向き、そして目が合う。

「良かった、怪我はありませんね」

 そう言って優しげに笑う男にレイナースの心の奥が数年ぶりにどきりと音を立て

(い、いけませんわ! 私は何を……!)

 命をかけた戦いの最中にあるまじきことだとレイナースは心の中で自らを叱責する。

「助けて頂き感謝しますわ、貴方がかのワーカーチーム〈漆黒〉のモモン殿ですわね?」

 そう言うとモモンは少し目を見開き、ふと――遠くの何かに気づいた。

「……ぇ」

 そして、瞠目した。

 一方でレイナースは小首を傾げる。自分は何かおかしなことを言っただろうか? 漆黒の噂はすでに誰もが知っているし、もしや帝国四騎士にまでも名を知られていたことに驚いているのだろうか?

 ならばこのモモンという男は自分を過小評価しすぎなのではないかと肩を竦め、しかし彼の様子が少しおかしいことに気づく。それどころかモモンと、そして周りの騎士たちもどよめいていた。

「………?」

 どうしたのだろうとレイナースも彼らの視線の先、自らの背後を振り向き――彼女もまた愕然とした。

 

「うそだ……」

 

 誰かが、それとも全員が無意識にこぼした言葉。視界の先にあるのはまさにそう嘆きたくなる光景だった。

 なんせ数体のデスナイトが骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に騎乗し空を舞っていたのだから。

 

 

 

 

 これは夢なのだと、空にいた若き魔法詠唱者たちは願った。自分たちはつい今ほどまでたった一体のデスナイトを相手にしていた――それも上空という安全圏から爆撃するだけの簡単なお仕事である――そのはずだった。前のようにそれで終わらせて自分たちは帰還する。それだけのはずだった。

 だが突然他のデスナイトたちが一斉に集まってきて、しかもそのデスナイトたちのあとを追うように飛翔してきた骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に騎乗しだしたのである。この時点でわけがわからない。意思を持たないアンデッドとも言われるモンスターがモンスターに騎乗するなんて帝国の歴史上聞いたこともない。全員が黙々とおこなっていた作業の手を止めフリーズする。彼らの偉大なる師であり帝国最強の大魔法詠唱者フールーダですらぽかんと口を開けたまま放心していた。

「た、退避だ! 全員一度距離をォ

 弟子の一人が叫ぶが、次の瞬間迫ってきた骨の竜(スケルトン・ドラゴン)に騎乗したデスナイトにあっけなく屠られ、その身体は二つに分かれたまま地上へと落ちていく。

 その光景にようやく全員がはっとしたように態勢を立て直す。が、だからなんだというのだろう。ただでさえ骨の竜には魔法による攻撃が効かず、全員が魔法詠唱者であるフールーダたちには相性が最悪であり、かといってデスナイトのみに攻撃しても骨の竜が向かってくる。完全に詰みの状態であった。

「うわあああくるなあああ!」

「《火球(ファイヤーボール)》! ふぁいあ、ひいっひいい!」

「師よ! ご指示を! どうすればっ!? 師よっしっぎゃあああ!」

 目の前で弟子たちが両断され、捕食され、叩き落とされ、全滅するのをただフールーダは呆然と見つめていた。200年以上生きてきた大魔法詠唱者でありながらも今のようなどうしようもない状況に出会った経験がないせいだ。頭が、身体が、まるでついてこないのだ。

 なぜならフールーダは魔法の深淵を覗くためだけにひたすら魔法の研究を続けてきたが、戦闘の訓練はそこに含まれていない。いや、たしかに攻撃用の魔法はいくつか使えるし魔法戦もできるがそれらを駆使するような実戦経験があまりにも乏し過ぎた。かつて帝国近郊に出た強力な魔獣を討伐したこともあったが、今目の前にいるそれとは比べものにすらならない。

 故に、フールーダは己の運命を恨む。

 おそらくあと数分、いや数秒だろう自らの未来にあるのは間違いなく“死”だ。魔法の深淵に少しでも近づくために大儀式を用いて寿命をも伸ばし200年以上……その人生が今こんなところであっけなく終わる。フールーダはいつのまにか号泣しながら脱兎の如く逃げていた。すでに背後からは誰の悲鳴も聞こえてこない。その代わりに聞こえてるのはおぞましいアンデッドの声と骨が鳴り軋む音。

 追ってきているのだ。何体もの骨の竜とデスナイトが一斉に、たったひとりのフールーダを。

 こんな仕打ちがあるかと天に罵声をあげそうになる。ひとりを大勢で殺しにくるなんてあんまりではないかと。

 

 

 

 そんなデスナイト&骨の竜(スケルトン・ドラゴン)軍団に追い回され右往左往しているフールーダを少し離れたところから眺める女子が三人。

 彼女たちはあの爺さんは何をしているんだろうと戸惑いながら互いに視線を交わす。

「えーと……あれって何かの作戦なのかな?」

 シラタマの疑問にさすがのアルベドも渋い顔を作る。アウラも苦笑いだ。どこからどう見てもお爺ちゃんが必死に逃げ回ってるようにしか見えないのだから。

「あのーシラタマ様、出過ぎた事を申すようで心苦しいのですが……いえ、と言いますか……その」

 アルベドがシラタマに気をつかってなのかもにょもにょと遠回しにあのお爺ちゃん作戦とか何もないと思うよ的な事を言おうとするが

「いや待ってアルベド。それは早計だよ」

「えっ、それはどういう」

「んとね。つまり攻撃手段が自分自身の魔法だけとは限らないでしょ?」

 その言葉になるほどという風にアルベドと、隣で聞いていたアウラも顔を引き締めた。

 この世界のレベルは遥かに低い。そしてニグンから聞いた話では現時点での人間種の魔法詠唱者の最高到達位階はフールーダ当人による第六位階であり、が、そんな第六位階でも骨の竜はまだ倒せない。

 つまりフールーダ自身の魔法での勝算はゼロでありまさに完全な詰み……にも見えるが、しかし実際はそうとも言えないのである。

 ある程度のレベル差はマジックアイテムや装備の併用でなんとでもなるもので、たとえばニグンが所有していた魔封じの水晶が良い例だろう。

 あの時レベル30程度だったニグンが水晶を使用することで第七位階を操り、モモンガに対してレベル60以上の攻撃を行いダメージを与えたのだから。もしあの場にいたのがレベル100のモモンガではなく、プレアデスや中級のナザリックのしもべであったなら――最悪負けていたのはこっちなのだ。

 つまりだ。一国の大英雄ともなればそれと同等のアイテムや装備を隠し持っている可能性が高いのである。いやむしろ持っていなければ困るし、持っていると断定すべきなのだ。

「ではあれは……逃げ回っているように見せた誘導の可能性がありますね」

 アルベドの言葉にシラタマは頷く。

 フールーダは高位の隠し球を持っていて、それを発動させるタイミングを見計らっている。もしくはなんらかの罠を張っているのだろう。

 やるじゃん! とシラタマは心の中で少しだけ称賛した。その可能性に気づいた自分自身に対してだが。

 

 その一方でフールーダはというと、なんとか逃げ切るためにめちゃくちゃに飛び回っていた。

骨の竜(スケルトン・ドラゴン)は一切遅れをとることなく、むしろすぐ後ろにまで迫ってきている。

「ぬおおお!」

 後ろ手に《火球(ファイヤーボール)》を放つがそれはデスナイトに届く前に骨の竜に無効化される。フールーダは必死に思考を回転させ、策を、何でもいいから何かないかと模索する。

 しかしどう足掻こうと答えは等しく死であった。

「ぬぐ、ぐぐぐ!」

 終わるのだ。こんなところで自分の人生は終わる。魔法の深淵に触れることなく呆気なく終わるのだとフールーダは夢を叶えられなかった悔しさと苛立ちに酷く顔を歪め、唸り

 

「ヒ、ヒヒッ……ヒヒひひひーっ!」

 

 狂ったようにげらげらと笑い出した。

 絶望の中で気がおかしくなってしまったのだ。が、その姿を遠目で見ていた女子会組は

「うへえなんか笑い出した」

「きっと今から奥の手を使うんですよ!」

「はあ、やっと動いてくれるわけね。それにしても待たせすぎよ」

 などともぐもぐ副料理長自慢のドーナツを頬張りながら談笑していたのだが

 

『あんたなにしてんだ――――ッ!!!??』

 

 突然頭の中に響いたモモンガの声に、シラタマは「ぶふうっ!?」とドーナツを吐き出す。アルベドとアウラがびっくりして目を丸くさせている中、シラタマは「ちょ、ちょっとタイム!」と《伝言》を繋げた。

『モモンガさあん! いきなり叫ぶのはやめてくださいよお~~っ』

『いや叫びますよ! こんなわけわかんないもの見せられて冷静な方がおかしいですよ!? 馬鹿ですか!? あなた馬鹿なんですか!?』

 わけわかんないものというのは絶賛フールーダを追い回しているデスナイト&骨の竜軍団のことだろう。しかし「厨二っぽくてかっこいいですねシラタマさんナイスでーす」的なリアクションを期待していたシラタマとしては大変心外であり馬鹿とはなんだとむっと顔を顰める。

『むうう、でもねモモンガさん、帝国で一番強いお爺ちゃんがどこまでできるのか調べておく必要はあると思うんですけど?』

『いや調べ方ァ!』

 間髪入れずモモンガのツッコミが入った。

『あとあのお爺ちゃ……ゴホン、こっちでも調べましたけどフールーダは第六位階までが限界ですよ。もちろんそれ以上のマジックアイテムや装備も……たぶんないです』

『え゛っうそ!!? じゃあデスナイトくんたち追いかけ損じゃん!』

『追いかけさせてるのはあんたでしょーが!』

『ふええ』

 これにはさすがのシラタマもしょぼんと肩を落とす。

『え、じゃあどうしようモモンガさん……はわわ』

『いやはわわって……ああもう、とりあえずそこにニグンいますよね? ちょっと話を』

『えっいないよ?』

『は? あ、え、なんで?』

『モモンガさんが帝国行ったあと難民をカルネ村に連れてってもらったから……ほら、あの全裸の人だけじゃ不安だし』

『ああー……じゃあ今はひとりなんですか?』

『んーん、アルベドとアウラと女子会してた。今アルベドがケーキ切り分けてくれるとこ』

『………………』

 《伝言》の向こう側でモモンガがあんぐりと口を開けているような気がした。が、すぐに『わかりました。わかりましたよもう! 俺がなんとかします!』と返ってくる。

『でもシラタマさんにも少し協力して貰いますからね!?』

『やった! あいあいさーですギルドマスター!』

 

 

 シラタマとの《伝言》を切ったモモンガはやれやれと小さく首を振り、空を見上げる。

 そこにはいまだ爆笑しながら飛び回っているフールーダがおり、ちなみにシラタマの指示でデスナイトたちは追いかけるスピードを緩めていた。捕まりそうで捕まらない、そんな絶妙な距離を維持して飛んでおり……いやそれはそれでスリリングすぎるだろ! とモモンガは内心ツッコミを入れる。悲しきかな、ここ最近ツッコミの腕が上がっていく気がする。

「モモン殿!」

 突然後ろからレイナースが声をかけてきて、あとは騎士たちが数人駆け寄ってくる。バジウッドとナザミはワーカーらの支援へ向かったのだろう。魔獣やアンデッドの処理はシャルティアたちだけですでに十分なのだが。

「……はあ」

 モモンガはひとまずこの状況をどう片付けようかと思考を切り替えることにした。

「レイナースさん、私に作戦があります。そちらの騎士の皆様にも助力願いたいのですが」

「作戦ですか!?」

 言われ、レイナースは瞠目する。四騎士が全員でかかったとしてもデスナイト一体を抑えられるどうかだというのに、それが複数体に骨の竜のおまけつき。あのフールーダすら逃げるので精一杯の状況……それをこの男はなんとかしようと言っているのか? 不可能だとレイナースは声をあげようとし、口を閉ざした。モモンの瞳に絶対の自信を見たからだ。

「……何か手があるのですね?」

「ええ」

 頷き、モモンは懐から手のひらサイズの水晶を取り出す。レイナースや騎士たちがきょとんとしているあたり、やはり帝国にはユグドラシルのアイテムはない――もしものことも考慮して暫定ではあるが――ようだ。モモンは説明を続ける。

「これは魔封じの水晶といって、旅の途中スレイン法国で手に入れた貴重なマジックアイテムです。これを使えば、デスナイトと骨の竜を倒せるはずです」

「な……っ!? そんなものが!?」

 騎士たちが驚愕の声をあげる。信じられないのだろう。

 だがレイナースだけは小さく「スレイン法国……」と呟き

「……わかりました。モモン殿を信じますわ」

「レイナース様!?」

 驚く騎士たちを右手を翳し制す。

 レイナースがモモンの言葉を信じた理由は、彼から感じ取れる自信の他にもうひとつあった。それはマジックアイテムが元々スレイン法国のものだという点だ。

 レイナースは今まで自らの呪いを解くために多くの時間と方法を費やしすべてが無駄に終わっていた。フールーダですら呪いの解析すらできず、正直いってこれ以上帝国での解呪は期待できないと薄々気づいてもいた。良くしてもらった陛下に恩義はあるが――

(帝国や王国よりはるかに歴史の長い法国のアイテムでしたら……モモン殿の自信も納得できますわね……)

 いずれは呪いの解呪方法を求めて法国へ、とも考えていたところだったのだ。

「私たちは何をすればよろしいのですか?」

 レイナースの言葉にモモンが「ありがたい」と頷く。

 

「私がこの魔封じの水晶で……最高位の魔法を発動します。その前に皆さんでフールーダ殿を安全な場所へ誘導してください。最高位魔法は制御が利きませんので、このままでは彼を巻き込んでしまいます」

 

 レイナースと騎士たちが静かに頷く。

 

「ではみなさん、どうか武運を……!」

 

 モモンが水晶を翳し、騎士たちは走り出した。

 彼女たちの背を眺めながらモモンガはさてさてなんの魔法にするかなと考える。

 ぶっちゃけさっきレイナースたちに言ったのは嘘だ。たまたま持っていた魔封じの水晶を思い出しこれを使うと言っただけで、そもそもこの水晶の中にはなんの魔法も入っていないのだから。

 しかしまあ、水晶のおかげにしとけば今からモモンガとしていつも通りの魔法を使っても疑われることはないだろう。

 あとはレイナースたちだが、彼女たちはフールーダの方へ近づき――デスナイトと骨の竜を警戒してある程度距離はとっているが――大声で呼びかけていた。だがフールーダには彼女たちの声が届いていないようで、元気ハツラツにデスナイトたちと追いかけっこをしている。

「…………どうしようかなあ」

 もうフールーダごとやっちゃえばあ? という気持ちになるが、慌ててモモンガはそれを払拭した。

 シラタマさんじゃあるまいし! と。それとさすがに帝国の重要人物を犠牲にするのはあとから絶対、ぜ~~ったい面倒なことになる!

 仕方ないなとモモンガは《伝言》を繋げる。

 

『あーあー、シラタマさん、そこからフールーダに《麻痺(パラライズ)》撃てますか?』

『あっモモンガさん! もぐもぐ、ええ、いけます。やっちゃいますか!?』

『ではお願いします。くれぐれも加減してくださいね?』

『あいあいさーですもぐもぐマスター!』

 

 今絶対お菓子食べてたよなあ……とモモンガは軽く肩を竦め《伝言》を切り

 

「えっ!!?」

 

 驚きの声を上げた。

 目の前でいくら呼んでも聞いてくれないフールーダに痺れを切らしたのか、レイナースが砲丸玉サイズの石を持ち上げているのが見えたからだ。

「ま、まさか!? ちょっ! ちょちょちょ!?」

 慌ててモモンガが止めようとするが

 

「うおおおおどりゃあああああ――――ッ!!!!!!」

 

 豪球一閃。レイナースの細腕のどこにそんなパワーがあるのだというくらいに気合いとど根性が込められた石が真っ直ぐフールーダへと飛んでいく。かつてギルメンでやった野球ゲームで見た光景だあ……なんて思い出に浸ってる場合ではない。

そして、少し離れた空間からは《麻痺》が飛んできた。

 

「ちょまっ!?? まままっ! ま――――っ!!!!」

 

 やめたげてえ! とおもわずモモンガは目を覆い、次の瞬間フールーダの腹部にめり込むように石がクリーンヒット。そのまま「ぐええ!」と前のめりに倒れるようにして落下し……かけたところを追い討ちするかの如く《麻痺》がクリーンヒット。「ぎゃぴいっ」という鳴き声とともに今度こそ落下していった。

 

「お、おじいちゃ――――ん!!!!」

 

モモンガが悲鳴を上げ

 

「今です! モモン殿!」

 

 レイナースがやりましたわ! とばかりに振り向き《伝言》からも『今だよモモンガさん!』と聞こえてくる。

「えええ…」

 戦う女子ってみんなこんな感じなの? 嘘でしょ? とモモンガはひとり青ざめながらも、もう俺知らないんだからね!? とやけくそぎみに水晶を発動させ……るフリをしながら《 万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)》を発動させた。

 

 

 

++++++

 

 

 

 突如帝国の方の空がカッと明るくなったかと思えば、次の瞬間巨大な雷の柱が()()()()()()()()()()()()

 いくつもの雷を束ねて作ったような巨大な豪雷が、何度も、何度も。難民たちはそのたびに悲鳴をあげその場に蹲った。中には気絶した者もいる。

 ついさっきまで彼らは地獄のエ・ランテルにいたのだ。雷の正体を知らない彼らからすれば恐怖以外にない。

 しかしそんな難民たちをカルネ村の村人たちが――彼らも恐怖しているにも関わらずだ――優しく宥め、落ち着かせている。皆がこの事態にいっぱいいっぱいのはずだというのに。

「あれは、一体…」

 村に滞在していた漆黒の剣も顔を強張らせ空を見上げている。ちなみにンフィーレアは難民の中に祖母リィジー・バレアレの姿を見つけ、安堵も束の間にとにかく状況の確認をするため今はエンリや村長と共に陽光聖典隊長であるニグンと話していた。

 

「……あれは神の御力です」

 その声に全員の視線が陽光聖典と一緒に来た奇妙な男の方を向く。きっと高価であろう装備一式をなぜだか荷物として背負った裸に腰布一枚の優男。その変態……ではなく、奇妙な男は涙を流し祈りを捧げていた。

「ああごらんなさい。なんて美しい光なのでしょう……我が神よ……このクアイエッセしかと賜りました。神は我らにこう仰っておられるのですね……人類の未来が闇に呑まれようとも、信仰という輝きを持って共に前へ進めと……!」

 なにやらひとりでぶつぶつ言っていて怪しさしかないクアイエッセのやばさを察したのか、周囲の人間は引き顔でちょっと距離をとる。だがそんなことは変態狂信者クアイエッセには関係ないのである。神と出会いその御心に触れた彼は今幸福の絶頂にいるのだから。

 やがて神の雷が止み再び静寂が戻っても、クアイエッセだけはただひたすら祈りを捧げていた。

 

 

 遡ること少し前、カルネ村の住人たちはまたもややってきた陽光聖典らに戸惑いながらも迎え入れ彼らが連れてきた難民たちにさらに困惑し、エ・ランテルが壊滅したことを知った。

 最初は理解が追いつかず、しかし難民たちの反応やニグンからの話にそれが真実であると理解したのだ。

「王国はこれからどうなるんだろう……」

 ぽつりとニニャが発した言葉は夜闇の中に溶けて消える。このまま王国がさらに取り返しのつかない状況になる前になんとしてでも生き別れた姉を見つけなければとひとり決意し――戻ってきたンフィーレアに視線を向けた。

「ンフィーレアさんそれで、どうなりましたか?」

 その問いの意味は難民たちの待遇についてである。

 ンフィーレアはエンリと目配せすると

「全員受け入れることになりました」

 その言葉に、場にいた者たちから安堵の声が漏れた。だが呑気している時間は全くない。

 

「怪我の治療を終えた方から数人ずつ、家族やよく知った者同士でもかまいません! ひとまずは空き家に集まってもらうことになりました。毛布は量が限られていますので、申し訳ありませんが子供から優先します!」

 エンリがそう言って難民たちを案内していく。いくら最近住民の減ったカルネ村でも難民全員に貸せる家はないし、食料なんてもっとない。まさに死活問題だ。

 それでも王国にすべてを奪われた者たちを放っておけるわけがない。その無念や悔しさがわかるからこそ、村人たちは難民全員を迎え入れると決めたのだ。

 

 

「とはいったものの……住居の問題もですがやはり防衛面が不安ですな」

 イアンの言葉に話し合いから戻ってきたニグンは「そうだな」と首肯しカルネ村を見渡す。

 現在カルネ村はエンリがモモンガから借り受けたアイテムで召喚したゴブリンたちによって村を囲むような柵や見張り櫓が設置されてはいるがそれだけだ。今後また今回のようなことが起こる可能性もあるし、加えてそれこそ本当に王国貴族が兵を送ってくるようなこともないとは言い切れない。

(せめてもう一重より強固な外壁があってもいいだろうが……)

 だがそれをどう建設するかだなと隊員らと離れひとり村周辺を散策しながら思考し

 

「ニグンちゃわわ――ん!」

 

 すっかり聞き慣れた声と呼び名にニグンは一瞬で「ヒィッ」と青褪め身を強張らせた。そして声のした方を見上げればシラタマが一直線にこちらに向かって飛んできており

 

「きゃっほー! 私のニグンちゃーん!」

 

 そのままニグンに激突するようにして抱きついてきた。その瞬間ボキッゴキャッという確実に何本か持っていかれた音がしたがシラタマはまあいっかと聞かなかったことにする。

「ひさしぶりだねニグンちゃん! 三年ぶりくらいかなっ!? 」

「はっ、がふっ……ひゅ、……さ、三時間ぶりくらいです、よ…」

 自らに治癒をかけながら絞り出すような声で返すがシラタマはまったく聞いておらず、ケーキがどうとかクッキーがどうとか話してくる。とりあえず村人や難民に見られる前に人化しておくことをお願いしつつニグンは内心で大きなため息を吐き出した。

 たった三時間、されど三時間。正直別行動中も気が気ではなかった。難民たちがカルネ村に受け入れて貰えるかももちろん心配ではあったが、ニグンとしてはシラタマが目を離したすきに何かやらかすのでは? という思いがあったのだ。

(いや、さすがに杞憂か……シラタマ様も神であるプレイヤー様なのだ。たった三時間で問題など起こしはしないはず)

 きっとそう、きっと大丈夫だとニグンは自分に言い聞かせ

「あの、シラタマ様、実は少しご相談したいことが」

「うん? どしたの?」

「ええ、その……村の復興の件です。やはり急激な人口増加は働き手の確保という点では良案とも思えますが、その分弊害の方が……」

 そこまで言ってふと、シラタマがきょとん顔で首を傾げているのに気づく。

「…………ここまでおわかりでしょうか?」

「……相談したいってところまでは聞いてたよ」

「…………」

 どうしたものかとニグンは目を伏せ……ひとまず周りに誰もいないことを確認する。村人ならばともかくプレイヤーであるシラタマの頭が残念……ではなく、少し厄介なところを隊員たちに見せるわけにはいかないからだ。一応念のためである。

 さて。とニグンは肩を竦め、今度は難民受け入れによるデメリットをなるべくわかりやすく伝えることにした。

「いいですかシラタマ様、村に住む人が増えるということはですね」

「うんうん、ほうほう」

 できれば黒板のようなものも欲しいがそのあたりは手頃な枝を使って地面にひらがなと簡単な図解を書いて説明していく。二人向かいあってその場にしゃがみ、授業を続けて

 

「んと、つまり人増えすぎて住む家がねえ食べ物もねえ村あぶねえってこと?」

「そうっ!! そうです! ええそうですよシラタマ様! その通りですさすがです!」

「んーふっふっふ、そうともそうとも」

 無事伝わってくれたようだった。本当に良かったとおもわずべた褒めしてしまったが、それほどまでにニグンは心から安堵する。もしかすると今までシラタマとの会話が時折成り立たなかったのは、話し方が難しかっただけなのかもしれない。これからはシラタマにもわかるよう丁寧に説明すれば話を聞いてくれるのではないかと希望が見えた気がした。

 その一方でシラタマも人口増加は良いこととは限らないんだなあとちょっぴり賢くなった気がして得意げに鼻を鳴らす。いかんせん元の世界では人口は激減していくことが普通であり、野晒しで暮らす難民や浮浪者も普通であり、路上に転がる死体も普通であり、ストリートチルドレンや塵溜めで身を寄せ合う孤児たち、犯罪に手を染める少年、身体を売る少女、生きた屍、そのすべてが普通だったからだ。シラタマ自身も自分の家を手に入れたのは働き出してからだしそれなりに苦労もした。

 だから人口さえ増えれば良くなると楽観的に考えていたが、現実そうもいかないらしい。

 

「うんわかった。それじゃあとりあえずモモンガさんにも相談してみるね。それでこの村開拓(マイクラ)できないかやってみる!」

 まかせてとばかりに胸を張るシラタマに

(まい……くら?)

 あれ? たぶんまた何かおかしなこと言ってないか? とニグンは再び嫌な予感を覚えるのであった。

 

 

 ちなみにこのあとニグンは個人的にモモンガからも呼び出しをくらい、三時間シラタマから目を離したことを超理不尽にも責められ彼女がやらかした事を超超理不尽にも責められモモンガから今後の方針という名の「二度とシラタマから離れるべからず」という絶対命令を下され泣きそうになるのだが……それはそれということで。

 




カルネ村大改造計画開始。
開拓ゲームはやりだすと止まらない。

ちなみに大魔法詠唱者のおじいちゃんは気絶したままレイナースたちに回収されましたとさ。めでたしめでたし。
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