ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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05 作戦会議

 モモンガの執務室の机上には現在まず関わりを持つであろう近辺国家の地図が広げられていた。

 場にはモモンガ、アルベド、そして呼ばれたナザリック一の知恵者デミウルゴス。シラタマとその所有物であるニグンがいる。

 

 現時点でわかっているのはナザリックが転移したのはリ・エスティーゼ王国という国の領内であり、その王国と隣り合うようにバハルス帝国。そして南側にあるのがスレイン法国であった。

 まずはこの三ヵ国が主な行動範囲となるだろう。そして三ヵ国とも人間の支配する国家であり――だが、そこには大きすぎる違いがあった。内政、国力、民の待遇、そのすべてにおいてだ。

 

 

「ひとまずはこれらの国に入り込み現地調査をしたいのだが……俺は冒険者として王国へ行こうかと思っている」

「……王国ですか」

「ん? シラタマさん何か引っかかることが?」

「引っかかるというか、そうですね……」

 思案というよりは渋顔を作り、部屋の隅で待機させているニグンをちょいちょいと呼ぶ。

「ねえニグンちゃん、王国ってもう立て直せないくらいボロボロなんだよね?」

 

(ニグン……ちゃん?)

なんか呼び方が親しくなってるんだけどォ!? とモモンガは眼窩を灯し――もうツッコむのはやめようとスルーを決める。

 

 一方でシラタマに聞かれたニグンはアルベドとデミウルゴスからの険し気な視線に相当緊張した面持ちをしつつも「そうですね」と恐る恐る頷き

「――まず、リ・エスティーゼ王国は元より貴族と王派閥で醜く国の政権を争っておりまして……そのせいで民は蔑ろにされ、最近こそ表沙汰にはなっておりませんが奴隷売買も一般的に行われております。黒粉という麻薬も蔓延し、王や貴族らはこれを黙認しており……これはまだ不確定の噂ですが、貴族関係者の中には犯罪組織と繋がっている者も少なくないと。更には例年バハルス帝国と行われる戦争により益々と民は切り捨てられ」

「ええー……」

 おもわずモモンガが唸る。

 そこまで酷いの? とその場の全員が呆れたように肩を竦めた。

 

「……モモンガ様、僭越ながら進言致します。ここまで腐敗の進んでいる国に御身が向かわれる価値はないのではないでしょうか?」

 

 デミウルゴスが頭を下げる。アルベドもその通りだと首肯していた。

 

 そもそも陽光聖典は元々人類国家団結の為、王国戦力の要であるガゼフ・ストロノーフの暗殺が任であったのだ。ガゼフを失った王国は間違いなく力を失い、今年中には帝国に併呑される。

 その結果帝国皇帝であるジルクニフならば無能な貴族たちを問答無用で切り捨て、蔓延する麻薬根絶に向けすぐにでも着手するだろう。さらに善政を敷く事で今まで虐げられていた民達の暮らしも改善され――つまり結果的には多くの人間が救われるのだ。

 

 

(ガゼフ・ストロノーフか……)

 

 モモンガはカルネ村で出会った王国戦士長の姿を思い出す。芯の通った、心の奥に熱い輝きのようなものを秘めた真っ直ぐな男だった。

 

(……勿体無いな)

 

 どうしてそんな男がそのような国に仕えているのか。何の事情があるかは知らないが、モモンガとしては理解できなかった。

 

 

「……ガゼフ一人を殺す為に多くの村人を襲撃していたのは許せない事だが」

 

 モモンガの言葉にニグンがビクリと肩を震わせる。

 

(……それでも多くの命の救済に繋がるならわずかな犠牲も必要、か。俺もナザリックや仲間の為ならいくらでも人間を犠牲にするかもしれないしな)

 

 

「……まあ、国同士の事情に口を挟む気はない。それに関しては現時点では不問としよう」

「はっ! あ、ありがとうございます至高なる御神!」

 さて、ならばどうしたものかとモモンガは再び地図を眺めると

「ならモモンガさんは帝国に行ってみるのはどうかなあ?」

「バハルス帝国ですか」

 シラタマが頷く。

 

「なんでも帝国はどんな身分の者でもどこの誰かもわからない者でも実力さえ示せば出世できるらしいじゃないですか。しかも闘技場での一番人気は人間ではなく亜人や異形種だとか。そうだよねニグンちゃん?」

「え、ええ……そのような話を聞いています」

「ならモモンガさんがちゃっちゃかちゃーっと帝国で力を示したらさ、すーぐ王様くらいなれるんじゃないの?」

「えっ!?」

「まあ!」

「なるほどそういうことですか…!」

 

 シラタマの発言にアルベドとデミウルゴスの目が輝き出す。

 

 

『ちょっと待ってくださいシラタマさん!? 何ですか王様って! 俺そんなつもりはあああっアルベドとデミウルゴスがもうその気になってるゥ!』

『え? でもせっかくならリアルでできなかったことやりたくないですか? 出世は男の夢じゃないんですか?』

『規模がでかすぎますよ――――っ!』

 

 そんな二人の《伝言》など知らず、モモンガの帝国行きは決定した。

 一方その頃帝国の皇帝が謎の寒気に身を震わせていた件については……ここではそっとしておこう。

 ちなみに供回りはシャルティアとなった。モモンガの護衛も兼ねているので妥当だろうと全員納得の上での決定である。

 

 

 そして――王国へは商人としてセバスとソリュシャンが潜入することとなった。腐敗しきった王国なら罪人も多く手に入るだろうと、ナザリック内で人間を主食とする者たちへの食料調達も兼ねている。

 

「ああそうだ。それとナザリックの外に出る守護者達にはワールドアイテムを所持させる。デミウルゴス、あとでセバスにも伝えておけ」

「はっ!」

 

 ニグンからの情報により、この世界、とくに法国には少なくともいくつかの――まだ暫定ではあるが――ワールドアイテムらしきものが存在しているとわかったからだ。

 六大神、プレイヤーの残した至宝。言い伝えや噂によれば、それらは人智を遥かに超えた世界すら歪めうる力を持つとされる。

 モモンガは当初それらをただのプレイヤーの残した装備品ではと考えたが、シラタマの「ワールドアイテムだったりして~!」の冗談めいた一言により、警戒レベルをぐんと上げることになったのである。もしそうであれば念には念を入れておかなければならない。

 少なくとも過去にプレイヤーが複数人存在していた世界だ。何があるかわからないのだから。

 

 

(聞く分に他のプレイヤーは現時点では俺たち以外確認されていないようだけど、ワールドアイテムがあるとすれば間違いなく脅威になるからな……情報を事前に知れたのは僥倖だ。……シラタマさんのおかげだな)

 

 カルネ村の村人から得られる情報などたかが知れており、辺境の小さな村から出たこともない人間の知識など無いに等しかった。

 ニグンを生かしたのは大正解だったなとモモンガは安堵する。これで少なくとも最悪の事態、つまりワールドアイテム所持者との遭遇時でも後手に回る確率はかなり減ったはずだ。

 

 

 そして肝心の法国。ここにはシラタマがニグンとまだ残っている陽光聖典の隊員たちを連れて向かうこととなった。

 プレイヤーを神と崇めるのであればそれを利用すればいいのではないか、というデミウルゴスの案だ。

「カルネ村でガゼフ・ストロノーフの暗殺作戦中に強大な力を持つモンスターに遭遇。威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)もまるで歯が立たず全滅寸前のところを通りかかったシラタマ様に救われた……ということにしてしまえばいいのです」

「なるほどなるほど! 命の恩人でありプレイヤーの私が行けばそらあもう法国全土が土下座ものってわけね!」

「ええまさに!」

「これで法国と帝国は至高の御方の手に落ちたも同然です!」

「はえー」

「ぇぇー…」

 そんな話を聞きながらモモンガはひとり(大丈夫なのかなあ……)と一抹の不安を覚える。

 

「本当に気をつけてくださいねシラタマさん……おそらく戦力的には法国が一番手強いはずですから。戦闘になったら無理に戦わず撤退を最優先してくださいね?」

「わかってますよー」

影の悪魔(シャドウ・デーモン)を数体付けますからね? あと八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)も。そうだ、悪魔召喚はできますよね? 必ず能力確認の実験はしてくださいね? 何かあればそれらを盾にするなりしてくださいね? 転移阻害の対策もちゃんとしてください。あとでいくつか指輪も貸しますから! ああ心配だなあ……シラタマさんに何かあったら、いや何かやらかしたら……」

「あいかわらず過保護ですねー」

 

 なんとかなりますよとシラタマは笑っているが、モモンガの内心は気が気でない。ギルドマスターとしてギルドメンバーやナザリックの仲間たちを守る責任があるのだから。

 

 

「……でも未知の世界を冒険するのはワクワクしますけどね」

「ですね!」

 

 

 そう言ってお互いくすりと笑う。

 モモンガとシラタマはこれから始まるであろう冒険に想いを馳せるのであった。

 

 

「あ、そうだモモンガさん。ナザリックの自動ポップするモンスターってどうなってるかわかります? 今からちょっと欲しいんですけど」

「たぶんそのままだと思いますよ? 何かするんですか?」

「ええ、私のニグンちゃんのパワーレベリングをしてみようかと思いましてね。私のニグンちゃんの」

「私のとか付けなくて大丈夫ですから。誰も盗らないですしいらないですから」

「嘘でしょテラ子安だよ!!?」

「いや知らないですけど!?」

「21世紀のレジェンドを!?」

「知りません知りません! 俺歴史は疎いんで……ゴホン、話を戻しましょう。えーとパワーレベリング、ですよね……ああなるほど。たしかにこの世界の人間がどうやってレベリングするのかは気になるところですね」

「あっですよね? ですよねー!」

 

 うんうんと二人頷きあう。

 ぱわーれべりんぐ、という言葉にニグンが小さく反応する。その言葉の詳しい語源はわからないがどんな意味なのは知っていたからだ。さすがプレイヤーがいた国の特殊部隊隊長というところか、ユグドラシル発祥の言葉は神の言葉として伝わっていることが多い。

 その伝え通りならば、ぱわーれべりんぐとは蘇生後に落ちてしまった体力を元の状態に戻す為の鍛錬である。

 記憶しているだけでニグンはすでにこの短時間で二度ほど死んでは蘇生されている。かなり力も落ちているはずだった。

 

(ぱわーれべりんぐ、か。そういえば自分がやるのは初めてだな……以前任務で死んでしまった隊員のぱわーれべりんぐに付き合ったことはあるが)

 

 力が元に戻るまでどんな鍛錬をと思ったが、次の瞬間シラタマから出たのはとんでもない言葉であった。

 

 

「とりあえずニグンちゃんはちょっと弱すぎだから、最低レベル40……あー魔法詠唱者的にわかりやすく言うと第六位階くらいまでは鍛えるからね」

 

 

 

「………………ぇ?」

 

 

 気合いだあ! 根性だあ! スパルタだあ! とシラタマが高らかに宣言し、その隣でモモンガも「我々は効率のいいパワーレベリングを知っているからな。なあに、40レベルくらい寝ずに一晩やればいけるさふっふっふ……」とか言っている。

 

 

 

(――あ、俺また死ぬ)

 

 

 

 常識が違いすぎる神々の会話にニグンはその場で卒倒しそうになった。

 

 

 

 

 その後モモンガの計らいで連れていかれた第六階層の円形闘技場にてスケルトンの群勢とひたすら戦わさせられ、それでもレベルがうまく上がらないとデスナイトに追い回され、それでも駄目だと作戦変更に変更を重ねたのち予め四肢を切り落とした瀕死のドラゴンやモンスターたちを延々と木の棒で殴り続けるという作業を不眠不休で三日三晩させられたのであった。

 

 




生存ルート(死なないとは言っていない)


このまま原作では可哀想な目にあった人たちを救済しつつも、王国には厳しい展開になると思います。
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