この世界、少なくとも王国と帝国では
比べてスレイン法国陽光聖典隊員はまず第一条件として第三位階の習得が必須であり、その時点で王国や帝国からしてみれば相当強力な特殊部隊と認識されていただろう。
しかも隊長であるニグンは第四位階まで到達しており、ユグドラシルではレベル27~30程だったギガントバジリスクとひとりで戦い良い勝負をした経験があるらしい。それから考えるにニグンの元々のレベルは25~30あたりというところか。これはこの世界に存在する冒険者でいうところのアダマンタイト級であり――残念ながら英雄の領域とまではいかないが――間違いなく強者であった。
そう。強者で……あったのだ――……
「いや弱いよお! ニグンちゃんちょっともう弱すぎて泣いちゃうよお私い! もうさ、逆に舐めてるのってレベルだよね? いや舐めてんの?」
「も……申し訳ありま……ぐ……うっ」
第六階層円形闘技場、自動POPされるスケルトンの群勢を背にしてシラタマが仁王立ちし、その足元にてニグンが地に伏していた。その身体をシラタマがぷんすかしながら足蹴にしている。これは酷い。
ちなみにこの間スケルトン達は微動だにせず待機中だ。
「はあ……」
シラタマは再度溜息を零す。
ニグンのパワーレベリングの為にとまずは十分勝てる程度のモンスターとひたすら戦わせてみたのだが、最初こそ順調であったが次々に追加されるスケルトンの大群勢によりいつのまにか召喚した天使達は倒れ、MPも底をつき、これだ。
シラタマが止めに入らねばまた死んでいただろう。すでに二度ほど死亡しデスペナルティを受けているとはいえ……もう少しやれると思ったのが間違いだったようだ。
「とりあえず《大治癒》と――」
「シラタマさーんちょっといいですかー?」
「うん?」
観客席から見学していたモモンガが手を振っている。その横ではアウラとマーレも同じように手を振ってくれていた。可愛いなーあの子達とシラタマは和み、何か良い案でも思いついてくれたのだろうかと器用に腰の白翼を羽ばたかせ――どうバランスをとっているのかわからないが――ふわりとモモンガ達の方へ飛んでいく。
「なんですかモモンガさーん」
「ちょっと考えたんですけど、大量のスケルトンを狩るよりもそれなりに強い奴数体と戦った方が経験値を稼ぐには良いと思うんですよ」
「ふんふん」
ようするに低レベルモンスターを何百体倒し続けるよりも高レベルモンスター数体を倒した方が入ってくる経験値が多いのでは、ということだ。
「なるほどなるほどー確かにそっちの作戦に変更した方が良さげですね!」
「ではモモンガ様シラタマ様、私が何匹か適当な魔獣を連れてきましょうか?」
アウラがはいっと手を挙げる。
「魔獣か……いや、この程度の事でアウラの大切な魔獣を使うわけにはいかん。そうだな、ナザリック内の自動POPするモンスターでレベルの高いものをいくつか連れてきてくれるか? たしか30近いのがいたはずだ」
「はいっ! すぐに!」
ペコリと頭を下げてアウラとマーレが駆けて行く。いくら貴重なパワーレベリングの実験とはいえナザリックの出費は抑えたいのである。
「じゃあひとまずは中位アンデッドあたりからぶつけてみましょうか」
「わかりました! じゃあ私もあとで中位悪魔出してみますね!」
そう言ってモモンガが中位アンデッド作成、さらにカルネ村から持ち帰った法国兵士の屍体を媒介にしたデスナイト達を呼び寄せる。
その間にシラタマはスケルトンたちを撤収させた。
「はーいニグンちゃん、それじゃあ今からはちょっと強めの奴と戦って貰うからね!」
「えっ、な……っあの、ちょっととはどれほどの」
ニグンが何か言いかけていたが
「返事はハイかYES!!」
「はいいッ!!」
そんなの知ったことではないのだった。ちょっととはちょっとである。レベル30~40程度、初心者プレイヤーでもコツさえ掴めばなんとかなるレベルだからとシラタマとモモンガは考えるが――
ニグンにとってはまず神々のこのあたりの認識から何とかして欲しいと切に願うところであり――そんなの言えるわけがなかった。
その五時間後――。
「はい《大治癒》っと、どうですか? モモンガさん」
「うーんそうですねー……《
「ちょっとですか」
「あ、でもレベル1くらい上がってますよ」
「1……1!? さっきは5だったのに?」
「たぶんさっき上がった分はデスペナで下がってた分ですね。だから実際に上がった分は1です」
「お……おそい……なんで………」
「あーもしかしたらこれってアレじゃないですか? ほら、初心者が最初にぶつかる」
「……あっ! レベル30の壁!」
シラタマの言葉にモモンガが頷く。
かつてユグドラシルにはレベル30の壁、というものがあった。
初心者がレベリングをする際にそのほとんどがまず初心者用のエリアで低レベルモンスターを狩る事で経験値を稼ぐ。そこではPKも禁止とされており高レベルモンスターも出ない為、初心者は安心してレベリングが出来るのだ。しかしレベル30に達したあたりでこのレベリング方法は全く使えなくなってしまう。
初心者用のエリアという安全な鳥籠が今度は窮屈な檻となり、いくら低レベルモンスターを狩っても経験値が稼げないドM仕様となるのである。ザコキャラ倒してレベル上げ、なんてものは通用しないのがユグドラシル。なのでレベル30を超えた初心者達はそれ以上のレベリングの為についに外の世界へ旅立つのだが……待ち受けるのは高レベルモンスターやPKの数々。
モンスターには勝てず経験値も稼げずあげくデスペナでやり直し。ここで心が折れてゲームを辞める初心者は多かったという。
「つまり中途半端なのはやめて無理矢理にでも高レベルのモンスターを倒させないとだめってことか……」
「はい。でも問題は」
「強すぎるとニグンちゃんが死んじゃってレベリングどころじゃないってことですよねー」
「そうなんです……」
二人して肩を落とす。
「まあいざとなれば最終手段もあるんですけどねー」
「んーそうですねー……ん?」
ちらりとシラタマの視線がモモンガの後方、待機しているアウラとマーレのお隣りを見遣り、はっとした表情を浮かべる。
「どうしました?」
「これだ……これだよおモモンガさん! ちょっとそこの
「何言ってんのアンタ!?」
ドラゴン・キンは円形闘技場の片付け係として配置されていたモンスターでレベルは55。こちらからすればただの雑用係なのだが
「いやだって低位はダメ、中位だとうまくいかないし高レベルすぎてもダメならレベル55くらいって丁度よくないですか!? やばかったら止めればいいですし」
「……それで本音は?」
「死にかけのニグンちゃんに……縋り付いて貰いたくて……ぐふうっ! こう地べたを這い蹲りながら足とかに」
「ヒエッ」
その発想にモモンガから小さな悲鳴が出た。
きゃあっと乙女の如く顔を赤らめるシラタマだが、そんな「いやだわもう恥ずかしいっ」みたいな反応されても困るしむしろ引いてるんですけど!? とモモンガは大いに沈静化される。
「さあさあモモンガさんやっちゃいましょう!」
「えええ!? ちょ、本気ですか!? 本当にやるんですか!?」
「やりましょうホラ! ホラ! ホラアあ!」
「で、でも、さすがにそれは、あ、あああ……」
モモンガの声、届かず。
シラタマはすでにノリノリだった。
(……ごめんなニグン、色々あったけど俺はお前の味方だよ……ほんとだよ……ほんと、ごめん……ごめん)
モモンガは眼下でエルダーリッチ軍団とデスナイトに追いかけられているニグンに憐れみの情念を送り、心の中で南無三と手を合わせ
「いけ……!」
ドラゴン・キンを突撃させるのであった。
結局ドラゴン・キンに即殺されかけたところでモモンガが止めに入り、「ええいもうやめだ! こうなったらアレやるぞアレ!」とユグドラシル時代に一部プレイヤーからは邪道と言われていたレベリングをすることとなった。
それは高レベルモンスターを予め瀕死状態にまでしておき、とどめのみをレベリングさせたい者が行うという手法だ。
そして――。
目の前で四肢を切り落とされ既に虫の息のモンスターたちが何を言うわけでもなくただじっとニグンを見つめている。殺される為だけに召喚され、彼らもまたそれを理解しているのだろう。が、正直言って心が痛かった。
かつて亜人集落を殲滅していた時は信仰の為に慈悲など持たないようにしていたというのに、何故か今の状況の方がキツく感じるほどだ。
ちらりと観客席にいる神々を見る。
「よおしこれなら完璧だなあ! いいなニグン、全力でいけ! 殴り続けろ! どんどん追加するぞー!」
「私のニグンちゃーん! がんばえー!」
「……………」
(何をやっているんだろうか……俺は)
神々の応援を背に、ニグンは無心で手渡された木の棒を振り上げるのであった。
ももんがさま「おれはみかただよほんとだよ」
※今回の捏造ポイント※
ユグドラシルレベル30の壁…レベル上げが全然うまくいかないとやってられっか! となりますよね。