ニグンさんがお気に入りなんです。   作:ぷにぷに肉球ランド

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クレマンティーヌよ永遠に…!


08 法国からの逃亡者

 法国へ向かう道中にて、幌馬車を通すまいとクレマンティーヌはスティレットを抜き不敵に笑っていた。

「じゃあ悪いけど、サクッと死んでもらうからねー?」

 それはまるで今から圧倒的強者による一方的殺戮を期待するようであり、ある意味正しくもあった。ただクレマンティーヌが考える互いの立場というものが現実は真逆というだけだ。

 

「あ、そ」

 

 シラタマはふわりと幌から降り、面倒くさいと言わんばかりにクレマンティーヌの前に立つ。

 背後ではすでに状況を理解しているニグンが哀れみの目を向けていた。もちろんクレマンティーヌに対してだ。もし叶うならば彼女の助命をとも思ったが、それは無理だと即座に諦める。

 至高の御方々のひとり、神、プレイヤーであるシラタマやナザリックの力を嫌という程身を持って知っているからだ。しかも今の自分はシラタマの玩具であり、ただの所有物が口を出すことは許されないだろう。

 

(それにしても、さっきクレマンティーヌは追っ手……と言ったか? まさかこいつ法国で何かやらかしたのか?)

 

 個人的に聞きたいことはあったがニグンは口を閉ざし成り行きを見守る事にした。間違いなく今この場がどうなるかはシラタマの気分次第なのだから。

 

「――それで?」

 シラタマが悠然と構える。しかし何の武器も手にしておらず、クレマンティーヌから見ればその姿は手ぶらで目の前に立ち呆けているただのマヌケである。

 

「……アンタ、魔法詠唱者(マジックキャスター)?」

「だったら何か?」

「あは、ははははは!」

 

 もっとマヌケの魔法詠唱者だったかとクレマンティーヌが笑う。

 

「……ねえ、笑うか殺すかどっちなの? 」

「ふふ、ああごめんね? もちろん殺すよ? 「そう」だって魔法詠唱者なんてスッといってド「《重力落下(グラビティダウン)》」スウグ―――――ッ!!!?」

 

 ドガン! という衝撃音と共にクレマンティーヌが勢いよく地面に叩きつけられる。

 愉快な殺し合いとやらが始まりわずか一秒の出来事であった。

 ニグンはやはりこうなったかと小さく溜息を吐き、視線を下ろせばシラタマの足元にはまるで潰れた蛙のように地面に伏しているクレマンティーヌ。メキメキと骨が軋み、ブチブチと肉がゆっくりと潰れていく音がクレマンティーヌの内側から響く。ゆっくり、ゆっくりとクレマンティーヌにかかる重力が増していく。

 身体全体が見えない何かに押し潰されていく感覚に、悲鳴を上げたくても喉が潰され声が出ない。

(なんだ!? なにが起こったんだ!? こ、このクレマンティーヌ様がなんで、どうしてえええ!?)

 クレマンティーヌは涙ぐみながら必死に眼球だけを動かしシラタマを見上げた。

 

「――――――ッ!!?」

 

 シラタマの目はまるで道端で死にかけている虫でも眺めているかのように冷淡だった。

 その目を、クレマンティーヌは知っている。

 あれは自分だ。今までの、楽しいとも思えない脆弱極まりない弱者を始末する時の自分の目だ。

 

「――――――ッ!!!」

 

 ゾワリ、と脳内を恐怖が支配する。

 

(いいいいい嫌だあああ! 畜生死にたくないいい! こいつは亜人なんかじゃなかったんだ! 化け物だ! なんで、どうして私はこんなあああ!)

 

「っ……ッ……、……ッ!!」

 

 骨が擂り潰れていく。クレマンティーヌの口から夥しい血がゴポリと吐き出される。

 

(せっかくあの法国から、漆黒聖典から、あのクソッタレな兄から解放されて、自由を手に入れて、好きなように生きてやると思ったのに! こんな所で、こんなにも簡単に!)

 

 それでも重力は増していく。骨が、肉が、臓物が、潰れてそのまま地面に練り込まれていく。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!)

 

「~~~~~~~~……ッ!!!!」

 

「……はあ、まあいっか」

 

 ふ、と。さっきまでかかっていた重力が嘘のように霧散して消えた。

 

 

「は……はヒュ……っひィ……っヒッ」

 

 クレマンティーヌがゆっくりと視線をシラタマに向ける。血と涙と涎と、ありとあらゆる液体が垂れ流されており目も当てられない状態だが――。

 シラタマはやれやれと肩を竦めるとニグンの方を振り返り手振りで指示を出す。

 ニグンは頷くと同時に駆け寄り、潰れて死にかけていたクレマンティーヌに《重症治癒》を発動させた。

 

「ど……どう、し、え……?」

 

 ゆっくりとクレマンティーヌが起き上がるが、シラタマは「別に殺しても良かったんだけど」と素っ気なく返す。

 

「や、ニグンちゃんが何か聞きたそうにしてたから」

「えっ」

「……は?」

 

 一体何を言い出すんだこの化け物はとクレマンティーヌは目を見張り、隣にいるニグンも同じような反応をしていた。

 ――待て。いや待て、そもそもだ。

 どうして行方不明だった陽光聖典がこんな所で、法国では見た事もない幌馬車で、こんな化け物を連れているのか。

 ここにきて漸くクレマンティーヌは事態の異常さに気づいたのである。

 

 

 

 

「あり……ありえんだろ、お前……」

 クレマンティーヌから事情を説明されるや否や、ニグンはわなわなと震え驚愕の表情を浮かべていた。

「待ってよ私だってさー」

「だっても待ってもあるか!! や、闇の巫女姫を殺し叡者の額冠を盗んできただと!? ありえん! ありえるかあそんなこと!?」

「ありえたからこんなことになってんじゃん」

 はい、とクレマンティーヌが懐から叡者の額冠を取り出す。瞬間ニグンが膝から崩れ落ちた。

 

「ねーそれってそんなにすごいアイテムなの?」

 

 そんなニグンの背後から、その背中にのしかかるようにしてシラタマがひょこりと顔を出す。

 シラタマ自身ユグドラシルはエンジョイ勢だったこともありユグドラシルのアイテムはよほど有名どころでなければほとんど把握できていなかった。自分が知らなくてもモモンガたちガチ勢がいつでも助けてくれたという理由もあるが。

 

 クレマンティーヌの手にしている叡者の額冠とやらはまるで記憶にないアイテムだし――もしかしたらモモンガなら分かるかもしれないが――とりあえず回収することにした。

 ちょーだいと言えば勿論クレマンティーヌは即決で渡してくれた。話せばわかる子のようだ。

 

 

「はいじゃあコレは貰っとくとして……」

 

 クレマンティーヌを見据える。

 

「それでえーと、クリマンティーヌは漆黒聖典ってやつの、ようはそれなりに強い組織にいたんだよね?」

「は、はい。クレマンティーヌです。それなりに強かった……と…思い、ます……たぶん……」

 

 後半だいぶと自信がなくなっているが、その気持ちはわかるぞとニグンは心の中で頷く。

 強いとか優秀だとか、精鋭だとか英雄だとか、この御方々を前にしてはすべてが塵芥と化してしまうのだから。

 

「むー、それってどれくらい強いの? レベル……は通じないんだっけか。誰か……あーそうだ。あのガゼフとかいう王国戦士長の人間よりは強い?」

「は、はい……たぶん、……あっ」

 

 クレマンティーヌがはっとした顔で、目の前にいる比較対象を指差した。

 

「こ、こいつ! このニグンちゃんよりは強いですよ!」

「えっ」

 

 

 だが――

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 

 

 空気が――――凍った。

 突如シラタマから放たれた漆黒のオーラがクレマンティーヌに突き刺さり、彼女は「ゲエ」と絞められた鶏のような声を上げ白目を向き泡を吹きながら地面へと突っ伏す。

 

 クレマンティーヌは――英雄の領域に足を踏み込んでいた。間違いなく、以前のニグンには勝てただろう。だがシラタマが問題視したのはそんなくだらない彼女の思い込みなどではなく。

 

 

「テメエ何様のつもりで私のニグンちゃんを馴れ馴れしくちゃん付けにしてんだ? ああ?」

 

 

 

 

 ――――……死んだ。

 

 

 

 

 クレマンティーヌは死んだ。

 この時点で死んだのだ。

 ――だからなんだ?

 

「こンの下等生物があアアアあああ――――ッ!!!!」

 

 シラタマの手がすでに死んでいるクレマンティーヌの髪を掴み上げ、その顔面を地面へと叩きつける。

 

「わ、わあっわたしのオオッ! 私のちょー大切なあ! ちょー特別な玩具をぉお横取りするつもりなのかアアア~~~~!? 死んで逃げられると思うなああああ! 胸を削ぎ落とし子宮を切り刻んで喰わせてやるぞおおおお何度も蘇生してえええ殺してやるうう殺してやるぞおおおおお!! あああ憎いっ憎いいっ心が張り裂けそおおおおおお!!」

 

 何度も、何度も、頭部だった箇所がまるでぐちょぐちょに潰れたトマトのようになるまで。何度も地面へと叩きつける。それはまさに地獄絵図だった。目の前で繰り広げられる一方的な狂気に、ニグンは恐怖のあまり気絶しそうになるのを必死に耐え――嵐が治まるのを待つしかなかった。

 

 

 

 

 その一時間後――蘇生され目が覚めたクレマンティーヌの前には何故かスッキリ爽やかな微笑みを浮かべるシラタマがいて、とりあえず自分は殺されたのだと理解したクレマンティーヌは必死に、改めてこの世界での自分の強さを釈明した。

 そしてニグンは何があったのかクレマンティーヌには絶対に言うまいと心に決めた。

 

 

 もはや出会い頭の威勢はもうどこへ消えたんだとばかりにガタガタと震えているクレマンティーヌにシラタマは興味無さげに肩を竦める。

「……ふう。じゃあさマンマンティーヌ、ちょっとバイトしない? どうせ行く宛てないんでしょ?」

「く、クレマンティーヌです……ええと、バイト……ですか?」

 

 二度と失言のないよう恐る恐る聞き返す。

 

「うん。実は私の仲間がね、こっちももう一人か二人くらいは現地人でそれなりに戦えそうなのをストックしておきたいって話しててね」

「は、はあ……」

「まあそういうことだからさ、よろしくねクロマンティーヌ」

「クレマンティーヌですううっ! はいい! よろしくお願いしますうううっ!」

 

 嘆き混じりの声で元漆黒聖典第九席次クレマンティーヌはようやく契約成立とシラタマと握手を交わすことに成功したのであった。

 

 

 しかし

 

 

「でも一応先に軽く躾だけさせてもらうからね」

「えっ」

「あ」

 

 瞬間、開かれた《転移門》の中にクレマンティーヌは消えていった。

 行き先は――ようこそナザリックお楽しみツアーだ。おそらく最初のドキドキ体験は安定の黒棺からだろう。

 

 

「……シラタマ様、その、よろしかったのですか? クレマンティーヌは法国から追われる身、厄介ごとを持ち込まれる可能性も」

「ん――……まああとは守護者やモモンガさんが何とかしてくれるでしょ。うん大丈夫大丈夫、なんとかなるよー」

 

 あははとお気楽に笑いながら、とりあえず帝国へ向かっているかすでに到着しているだろうモモンガに《伝言》を繋いだ。

 

 




*今回のオリジナル魔法及び捏造部分*

《重力落下/グラビティダウン》
重力の蓋を作り出し対象者を上から叩き潰す。かけられる重力は少しずつ加算されていき、じわじわと嬲り殺す。拷問に最適。

《女王の嫉妬Ⅴ》
レベルⅠからⅤまである相手を混乱、恐慌、動作停止状態にさせることのできるスキル。対象者が同性であれば効果は倍。シラタマ様マジコワイ。


パワーレベリング後の今のニグンさんのレベルは40くらいになっています。こっそりと第五位階にも到達してます。



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