2話です
1.始まり
「誰か助けてぇぇ……っ!」
そんな情けない声を上げながら、瓦礫だらけの地面を転びながら走り抜ける。辺りは何故か燃え盛っていて、息をするたび肺に送られてくる熱気のせいで喉が焼けるようだ。しかし、一瞬たりとも立ち止まっていられる状況ではなかった。
「ヒィッ!!」
ドスッ!という音と共に、矢が数センチメートル離れた位置に刺さったのだ。ここに来てからこれでもう十三回目である。あの骸骨達が自分を殺そうとしてくるのは、分かってるのだが如何せん数が多い。俺はいつも通りの自分の不遇さに一人嘆いた。
そもそも、何でこうなったのか自分でもよく分かっていない。気まぐれで献血をしたら外国人が来て、『君は選ばれた人間だ』みたいなこと言われて、調子に乗ったのが運の尽き。
あれよあれよという間に連れてこられたのが、雪山の頭頂辺りにある施設で察したね。
───人体実験の素材にされたと。
そこからは怯える毎日だった。魔術だなんだと言い張る頭のおかしい奴等による、訳の分からん講義を毎回受けさせられたり、いつの間にかカルト宗教の一員にされてもいた。更にはそのカルト宗教の中でも落ちこぼれ扱いさせられていたりなど、自分の立ち位置が勝手に決められていたのだ。
そんな中、この施設で少ない普通の感覚を持ったDr.ロマンと仲良くなり、いつものように二人でトランプをしながら講義をサボった。そして本日二十九回目のババ抜きをしているところで、赤い警報ランプとアラームが鳴り響いた。
「えっ?えっ?何??」
こんな機能があるとは知らずパニクる俺。その間にもDr.ロマンは走ってどこかに行ってしまう。放送を聞いてなんかヤバいことは分かった。一人になった俺は布団にくるまり、襲い掛かる恐怖に必死に耐えた。これは全部夢で目が覚めたら日本に帰っているのだと、そう何度も思い込んだ。そして、一瞬の浮遊感の後俺の意識は落ちた。
そして目が覚めたら……
街が燃えていた……っ!
………………何で?
何でこうなったのかわけが分からない。確かに念願の日本の町だと思う。だけど火事なんてスケールじゃないほど燃えてるし、建物が倒壊して足元が瓦礫だらけになっている。俺が想像したのはこんな世紀末の日本ではなかったんだけどなぁ……。
そんなことを思っていると第一村人発見!これが夢ならきっと、世界観に合ったモヒカン頭のような、パンクな姿をした奴なはずだ。そう思って見てみると
骸骨だった。
圧倒的に骸骨だった。
…………いくらなんでもパンク過ぎじゃね?
眼球も内臓もなくソイツは動いていて、さらにその手には弓が握られていた。まるで弓兵のようだと思っていると、弓矢が俺の頬を掠める。そして頬に痛みを感じると同時に、後ろを向いて全力で走り出す。
「誰か助けてぇえ!!」
そしてしばらくしてから冒頭に戻る。
「はあっ……はあっ……!」
足は遅いがとにかく数が多い。体力的にもキツくなってきて恐怖に襲われていると、突如よくわからん電子で出来た画面が現れる。
「ようやく繋がった!大丈夫かい!?直仁君!!」
聞こえた声はよく知っている声だった。何故なら少し前までトランプをしていたのだから。
「ロマン!?助けてくれえ!!」
と情けない声を上げることしか俺には出来ない。
「安心してくれ!今から大丈夫なところにまで案内するから!」
ロマンの頼りになる声を聞き、最後の力を振り絞る。骸骨達が少なくなってきたところで、前方に骸骨ではない人影が見えてきた。ロマン曰く味方になってくれる存在らしい。安心から頬を緩めると同時に声が飛んでくる。
「アンサズ!!」
その声と共に近くで爆発が起こる。その爆風に吹き飛ばされながら、俺は心のなかでロマンを呪った。
「藤丸といい、何で貴方みたいな魔術師擬きがマスターになってるのよ!!」
そんなヒステリックに喚いているのは、カルト宗教の教祖だと思っていたオルガマリー所長だ。話を聞くと本当に魔術師らしいことが、なんとなくだが理解出来た。
「いやぁ、わりぃな。後ろにいた奴らをぶっ飛ばそうとしたら、お前が近くに寄ってくるもんだからよ。つい巻き込んじまった」
そう言って謝ってくるのは、さっき俺を吹き飛ばした男、クーフーリンだ。ローブに杖という如何にもな姿の魔術師で、平時だったら絶対に信じないが、この状況では信じるしかない。傷も治してもらった。
それと所長に聞いたのだが、なんかついさっき人類史が終わったらしい。全くもってさっぱりだが、それは後々理解していこうと思う。
「それにしてもまさか、キリエライトさんがそんな大胆な人だったなんて……」
「あ、いや、これは違うんです!デミサーヴァントになった影響で、このような姿になっているんです!」
俺が驚いたのは人類史云々ではなく、知っている女の子がとんでもない格好をしていることだった。いつも眼鏡をかけていた文学少女が、裏では過激なコスプレイヤーだというのだから、驚くのも当然だろう。人の趣味は人それぞれだと納得しようとしていると、キリエライトさんが必死に訂正をしてきた。話によると憑依したサーヴァントが、生前このような姿をしていたのだとか。……それ変態じゃね?
サーヴァントというのは昔生きた英雄らしく、凄まじい力を持っているらしいのだが、こんな鎧を着ているサーヴァントは、果たして大丈夫なのだろうか?
「えっと。挨拶するのはこれが初めてかな?藤丸立香です」
「
そして俺と同じく人体実験の被害者だと思っていた、藤丸立香と初めて話をした。あっちが人当たりのいい声音で話しかけてきて、こいついいやつなんだろうなぁと思っていると、所長から全員に声が掛けられる。
「それじゃあ、マシュの実戦訓練も終えたことだし、聖杯の回収に向かいましょう」
俺が骸骨達に追われている間に、何かイベントが終わったらしく、全員に一体感が生まれていた。俺が来る前に出来上がってしまったグループに、途中参加したせいで居心地がものすごい悪いが、生き残るために耐えて進む。
そして洞窟の前までくると、いきなり遥か彼方から弓矢が、俺がいるところに飛んできた。俺は何一つ反応出来なかったが、それをクーフーリンが当たらぬように、杖で防いでくれた。クーフーリンが居なければ、今頃貫かれていただろう。
というか、どいつもこいつも俺に対して、殺意が高過ぎである。
「はっ、信者のお出ましか!」
「そんなものになったつもりはないがね」
「ここは俺に任して先にいけ!!」
命を救ってくれたクーフーリンが、カッコいいセリフで送り出してくれた。今度から兄貴と呼ぼう。…………呼べない気がする。
兄貴に言われた通りに洞窟まで走り抜けて、そのまま薄暗い洞窟を進んでいくと、とりわけ広い空間に辿り着いた。そして空間の中央には、とてつもない威圧感を出している、漆黒の鎧を身に纏った騎士が堂々と立っていた。
「貴様らがカルデアのマスターか」
クーフーリンの兄貴から聞いていたが、これが騎士王アーサー・ペンドラゴンか……!人間とは思えないほどの覇気を纏っている。
「ほう、その娘の盾は実に面白い」
キリエライトさんを見ながら、アーサー王は淡々と言葉を言った。そして意識を切り替え剣を構えるアーサー王。すると体から黒い禍々しい光が溢れだす。
「人類史を取り戻したいのならば、私を越えて見せろ!!」
黒い光が剣に収束され、高密度のエネルギーが一際大きく形成される。
「卑王鉄槌。旭光は反転する。光を飲め!
絶望が解き放たれた。
だが、解き放たれる寸前キリエライトさんが動いていた。
「真名、偽装登録───」
「──宝具展開します!!」
そして黒い極光がキリエライトさんに到達する!
「ああああああああああ!!!!」
キリエライトさんが巨大な盾で防ぐが、その衝撃は凄まじく後ろの俺にまで伝わってくる。俺は心の中で「死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬぅぅぅぅ!!」とビビり倒していた。だって怖いじゃん。
だからこそ、藤丸がキリエライトさんの隣に立ってる姿を見たときは驚愕した。蹲っている俺とは違い、こいつはキリエライトさんと一緒に恐怖に立ち向かったのだ。
そして、あの猛威を見事防ぎきったキリエライトさんだが、アイツは二撃目をもう放とうとしている。その光景を見て流石に死んだかと思ったが、そこに彼が割って入る。
「アンサズ!!」
その乱入者の攻撃を受けて、アーサー王の剣は発動せずに中断させられる。あの弓兵を下しクーフーリンが助けに来たのだ。そこからは二人がかりで追い詰め、アーサー王を無事倒すことが出来た。
「貴方にもいずれわかる光の御子よ」
「聖杯を巡る旅、グランドオーナーは始まったばかりであると───」
その言葉を残し、光となってアーサー王は消えていった。その後、兄貴もランサーで呼んでくれと言って光になった。
やっと終わったかと思ったところに、緑の服を着た俺の嫌いな奴が来た。近未来観測装置「シバ」を造った魔術師。
そう、
コイツ俺のことをまるで、そこら辺にいる蟻を見る目で見てくるのだ。昔から柄の悪い奴に絡まれやすいから、人間観察はお手のものである。コイツが所長をカルデアスとかよく分からんものに、嗤いながら押し込んで殺したのだ。何の力もない俺達では止めることさえ出来なかった。
それから転移をし俺達はカルデアに帰って来た。ロマンが俺達に人類を背負って立つ、覚悟が有るのかを聞いてきて、藤丸は「自分が出来るなら」と迷いなく答えた。
…………俺?もちろん、「えっと、まあ出来る範囲で」と安全策を取りにいった。
そして翌日、ロマンの話によると戦力を増強するためにサーヴァントを呼ぶのだとか。藤丸はランサーのクーフーリン兄貴を呼んでいて羨ましかった。でも藤丸はこれからも前線に立って戦う男なのでこれでいいと思った。俺が出来るのは精々後方からの支援ぐらいだろうからな。それに俺にも一回だけ呼べるので、頼りになって穏やかなサーヴァントが来てほしいと、願いながらサーヴァントを召喚する。
サークルが三つになり、凄まじい光と共に中からサーヴァントが現れた。
「召喚に応じ参上した。貴様が私のマスターというヤツか?」
光の中から現れたのはさっき殺されかけた、真っ黒なアーサー王だった。
やはり俺はどこまでも不憫らしい。
彼は昔からチンピラに絡まれやすいです