気まぐれに進め!いよいよアッド君登場だよ!では行こう!
「昨日はすまなかった」
そう言ってグレンはもう一度頭を下げる。そしてさらに予想外なのは
「それじゃ授業を始める」
と言ったことだ、内心全員が驚愕しつつ授業を見ていると・・・早速教科書を窓を開け投げ捨てた。それを精神世界で見ていたアッドは笑う。
そしてそれを見た生徒たちはいつもの奇行に自習の準備を始めたのだが、グレン先生が口を開いた。
「あ~、授業を始める前に言っておくことがある」
と言い出したので聞いてみると
「お前らってほんと馬鹿だよな」
いきなり暴言を吐いてきたのである。勿論生徒からは反論を受けるのだが、グレン先生はそれを遮りありのまま考えている事を言う。
「この11日間、お前らの授業態度を見てて分かったよ。お前らって魔術のこと、なんにもわかってねえんだな。分かってるなら呪文の共通語の翻訳の仕方なんて間抜けな質問する筈ないし、魔術式の書き取りをやるなんてアホなことする訳ないもんな。」
そういうとギイブル君が煽るように呟く。
「【ショック・ボルト】程度の1節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」
というが、グレン先生はどこか吹く風であり・・・そんな煽りを気にも留めずに続ける。
「それを言われると耳が痛い、俺は男に生まれながら魔術操作と略式詠唱のセンスが無くてね・・・だが、誰か知らんが【ショック・ボルト】『程度』とか言ったか?やっぱ馬鹿だわお前ら。ははは・・・自分で証明してやんの。」
ひとしきり笑った後、グレン先生は【ショック・ボルト】について話し始めた。
「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の【ショック・ボルト】について話そうか。お前らのレベルなら、これでちょうどいいだろ」
「今さら、【ショック・ボルト】なんて初等呪文を説明されても……」
「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんてとっくの昔に極めているんですが?」
「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】の呪文書でーす。ご覧下さい、なんか思春期の恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形がルーン語でみっしり書いてありますねー、これ魔術式って言います」
生徒の言葉を無視しグレン先生は話している。
「基本的な詠唱は《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》・・・知っての通り魔力を操るセンスに長けた奴なら《雷精の紫電よ》の1節でも詠唱可能・・・じゃあ問題な」
問題だと言い、黒板に書いたのは《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》ってあれ師匠が最初にやった特訓と同じだ。
「3節の呪文が4節になると何が起こると思う?」
何分か待っていても誰も分からないのである。それに気づいたグレン先生はギイブル君に指を指す。
「では如何にもガリ勉らしい眼鏡君、答えをどうぞ!」
「その呪文はまともに起動しませんよ、必ずなんらかの形で失敗しますね。」
「んなこったぁわかってんだよバーカ。必ずなんらかの形で失敗します、だってよ!?ぷぎゃーははははははっ!」
「な─────」
「あのなぁ、あえて完成された呪文を違えてんだから失敗するのは当たり前だろ!?俺が聞いてんのは、その失敗がどういう形で現れるのかって話だよ?」
ギイブル君まさかの撃沈、しかもうざいくらい煽ってくるので生徒のウェンディさんも負けじと返そうとする。
「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ!結果はランダムです!」
「んなわけないでしょ……」
あっ、思わず呟いた事がみんなに聞こえてしまった。
そして僕に視線が集まる。なんか居心地が悪い……
「よおし、じゃあお前、答えは分かるか?」
「確か……右に曲がるですよね?《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》」
自分で起動してみると思った通り右に曲がった。それを見たクラスメイトがあり得ないと驚愕する。魔術には規則性があり汎用魔術でさえ膨大な知識で作られた公式だ。それには一定以上のルールが存在し、心象世界における魔術を現実に引っ張り出す超高度な自己暗示だ。
「じゃあ、五節にすると?」
「射程が三分の一になります」
「じゃあ一部を消すと?」
「出力がガタ落ちします。因みにそれでよく肩凝り治してました」
「何!?それ今度是非俺にも頼む!…っとまあ極めるってんならこれくらいやらねぇとな。しっかしよく答えられたなお前、結構意地悪な問題だったんだが……」
「僕の友達は【ショックボルト】でした」
「お、おう………」
そう言った後、めちゃくちゃクラスメイト気を使われたのがなんか胸に来るのがめちゃくちゃ不快だった。昔から僕はぼっちでした。師匠が居なければずっと……って言わせんな(泣)!!
「まあ、兎も角だ。魔術にも文法と公式みたいなものがあんだよ。深層意識における起動条件みたいなものがな。それがわかりゃあそうだな……。《まあ・とにかく・痺れろ》」
そう言って適当な呪文を起動したグレン先生の手から【ショックボルト】が出ていた。あんな適当な呪文でも【ショックボルト】と意図的に誤認させれるワードさえあれば連想ゲームのように同じ魔術を浮かびあげられる。
「そもそもさ。お前ら、なんでこんな意味不明な本を覚えて、変な言葉を口にしただけで不思議な現象が起こるかわかってんの?だって、常識で考えておかしいだろ?」
「そ、それは、術式が世界の法則に干渉して────」
誰かが言った言葉をグレン先生は即座に拾い。
「とか言うんだろ?わかってる。じゃ、魔術式ってなんだ?式ってのは人が理解できる、人が作った言葉や数式の羅列なんだぜ?魔術式が仮に世界の法則に干渉するとして、なんでそんなものが世界の法則に干渉できるんだ?おまけになんでそれを覚えなきゃいけないんだ?で、魔術式みたいな一見なんの関係もない呪文を唱えただけで魔術が起動するのはなんでだ?おかしいと思ったことはねーのか?ま、ねーんだろうな。それがこの世界の当たり前だからな」
グレン先生の授業は為になるし、素晴らしいと思う。今までの授業とは根本的に違う。だが、煽るのだけはやめていただきたい。隣のギイブル君が非常に怖い・・・
心なしか師匠も笑ってるように見えた。
「つーわけで、今日、俺はお前らに、【ショック・ボルト】の呪文を教材にした術式構造と呪文のド基礎を教えてやるよ。ま、興味ないやつは寝てな」
しかし、この授業を寝る者は1人もいないだろう・・・なぜなら、魔術師なら自分の知らないことは積極的に取り入れていくのが普通だからだ。
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「グレン先生の教え方って師匠の教え方と似ていますよね」
『そら相棒だったからな。奴の能力は一応買っていたんだぜ?おかげでめちゃくちゃコンビ組まされて任務を全うしてたしな』
「師匠は……先生と話したくないんですか?」
『積もる話は色々あるし、話したいさ。けど、俺は死人と変わらん。お前の能力で変われはするが、今はいい。昔の事なんて忘れてくれればアイツも楽だろ』
「……師匠がそれでいいなら」
師匠はその後何も言わずに眠ってしまっていた。
ダメ講師グレン、覚醒。
その報せは学院を震撼させた。噂が噂を呼び、他所のクラスの生徒達も空いている時間に、グレン先生の授業に潜り込むようになり、そして皆、その授業の高さに驚嘆した。
専属講師としてグレン先生があてがわれたフィーベルさん達二年次二組のクラス以外にも日を追うごとに他のクラスからの飛び入り参加者で席は埋まり、さらに十日経つ頃には立ち見で授業を受ける者もいた。
また若くて熱心な講師の中にはグレン先生の授業に参加して、グレン先生の教え方や魔術理論を学ぼうとする者もいた。
だが……
「遅い!・・・遅すぎるわ!最近真面目にやってると思ったら、すぐこれよ!」
1ヶ月前に退職した前任のヒューイ先生によって授業に遅れがでている2組はこの5日間も授業がある。そして2組以外が休校にも関わらず、教室は満席であり後ろには立っている生徒さえいる。その理由としてはグレン先生の授業を受けたいためである。だが授業が開始されているにも関わらず、グレン先生が来る気配がなく。フィーベルさんは少し怒っていた。
時計をみながらフィーベルさんは怒っている。フィーベルさんもグレン先生の授業を聞いて評価を改めているようだ。
「でも、珍しいよね。ここ最近は遅刻しないように頑張っていたのに・・・」
「まさか、今日が休校だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」
「あはは・・・いくらなんでもそれはない・・・よね?」
フィーベルさんを宥めるティンジェルさんでも断言はできなかったようだ。
「あいつが来たらガツンと言ってやらないと・・・」
フィーベルさんもなんだかんだ、グレン先生に好意らしきものを抱いてることがバレバレなのであるが本人は自覚していない為にティンジェルさんもどう返していいか分からないご様子。そこから少し経った後教室の扉が開き、フィーベルさんは説教しようと席を立つが入ってきたのはチンピラ風の男とダークコートを着ている男でクラス内の全員が硬直しているのを見て、チンピラ風の男が口を開いた。
「おーおー皆さん勉強熱心なことで、応援してるぞ若人諸君!」
突然、現れた謎の二人組に教室全体がざわめき始めた。
「え~と、どちら様でしょうか?一応この学園は部外者は立ち入り禁止ですよ?」
そんな中、ラスカが臆することなく声をかけた。
「あ、君達の先生はね。今、ちょっと取り込んでいるのさ。オレ達が代わりにやって来たっつーこと。ヨロシク!」
「それはそれはよろしくお願いします。それで貴方方は何者でしょうか?格好を見るに、僕からは犯罪者のようにと失礼極まりないように見えますが?」
「ハハ、当たり!俺達はね、テロリストってやつだよ。要は女王陛下サマにケンカ売る怖ーいお兄サン達ってワケ」
クラス中のどよめきが強くなる。王女陛下に喧嘩を売ると言われた瞬間、ティンジェルさんの顔が強張った。
「ふ、ふざけないで下さい!」
臆せず二人の前に歩み寄るシスティーナ。
「あまりにもふざけた態度を取るなら、こちらにも考えがありますよ?」
その言葉にラスカは悪手という単語が脳裏を過ぎる。
不味いと本能が告げている。
『坊主、下手に動くなよ』
「え?何?何?どんな考え?教えて教えて?」
「…………っ!貴方達を気絶させて、警備員に引き渡します!それが嫌なら早くこの学院から出て行って…………」
「きゃー、ボク達、捕まっちゃうの!?いやーん!」
「警告はしましたからね?」
魔力を練る。呼吸法と精神集中で、マナ・バイオリズムを制御する。
そして、指先を男に向け―――黒魔【ショック・ボルト】の呪文を唱えた。
「《雷精の――――」
「《ズドン》」
「フィーベルさん!」
『おい坊主!?』
ラスカはシスティーナを叩き飛ばし、ラスカの胸に光の線が貫いた。
「…………え?」
「カハッ……!」
飛ばされ、尻餅をついたシスティーナは自分でもわかるぐらいに血の気が引いた。
胸に風穴が空き、そこから血を流しているラスカがそこにいた。
「あーあ、当てる気はなかったんだけどな、自分から飛び込んじまいやがった」
仰向けに倒れるラスカを見下し、面白そうに拍手を送る。
「勇敢な生徒に拍手!よかったね、こいつのおかげで君は助かったよ」
チンピラ男が使ったのは軍用の
「あ、ああ…………」
血に染まって行くラスカにシスティーナの目をこれ以上にないぐらい見開いてしまう。
血が溢れて止まらないラスカを見て恐怖する魔術の怖さ。目が回り、擦った所で同じ光景、震えが止まらずに自分が出しゃばらなければという後悔と自責の念に押し潰されてしまう。その光景に叫ばずにはいられなかった。
「い、いやぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっっ!!」
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『おい坊主!坊主!ったくコイツ身を呈して守りやがった。意識は失っているし、このままじゃ死ぬか……』
俺の現界用に溜めておいた魔力を使うしかないか。俺は手首を噛み、流れた血で精神世界で術式を描く。【ブラッド・キャタライズ】で術式を書いていく。魔術は超高度な自己暗示なら精神世界で術式を書いた後使用すれば現実世界に影響を与えられる。筈だ多分。
幸い坊主用に作った循環型魔晶石があるからそれを用いて白魔儀【リヴァイヴァー】を使う。循環型魔晶石は俺が作った魔力の保有量を上げるために作ったものだ。コイツといざという時に入れ替えた時に使えるように作ったのだが、【リヴァイヴァー】で魔力が一気に尽きた。
『頼む……!上手くいってくれ!』
血で書いた魔方陣が光り出し、貫いた心臓の傷が修復されていく。【リヴァイヴァー】は何とか発動し、ラスカの傷は治っていた。
『ほっ……とりあえず無事は確認出来たが、問題はテロリストだな』
死にかけていたからまだ意識は戻らないが戻った所でこの件はラスカ自身では手が余る。軍用魔術を使う奴らに対して軍用魔術を教えていないラスカと戦わせても自殺行為だ。
俺は眠っているラスカの頭を撫でる。
『ラスカ、身を呈して守ったその心は認める。けどな、死なない事を第一に考えろ。今は寝ていな、後は俺がやってやる』
ラスカを自身の精神世界に寝かせて俺は現実世界へと飛び込んだ。
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「……さて、と。なんとかなったな」
テロリストの二人組が生徒達を拘束し、ルミアと説教娘を連れて教室から離れていった後、ラスカはむくりと起き上がった。
それにぎょっと目を見開いた生徒達はまるで幽霊でも見ているかのような信じられない顔をしていた。
「ラ、ラスカ…………お前」
「全く、こんな事になるとは思いもしなかったな。まあ久しぶりの現界がまさかテロリスト制圧とか笑えねぇな」
何時ものラスカとは違う口調に戸惑う生徒達、ラスカの身体のまま精神はアッドに変わっているせいか魔力保有量は少ないが、今あるだけ充分だ。生徒達を拘束している【スペルシール】を【ディスペル・フォース】で解いていく。
「これで動けるだろうがここにいろガキども。下手に動かれたら流石に手が回らないし、
「お前、一人で行くつもりかよ!?」
「そうですわ! 相手はテロリスト! 殺されてしまいますわ!」
同じクラスのカッシュとウェンディがラスカを止めようと声を飛ばすもラスカは心配させないように優しく告げる。
「大丈夫だ。
そう言うとアッドは教室を出た。
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―――もはや彼女は限界だった。それはそうだろう。こんな形で自身の裸体を見られたいと思う女性がどこに居るというのだろうか。自分を庇ったラスカの死と相まって精神的に限界を迎えていた。
自身を穢そうとする手を眺めながらシスティは一人、思う。このような強姦寸前な場面ではなかったものの、嘗て似たような状況に陥った時に自分のことを助けてくれた少年はもう居ない。
システィは内心で苦笑した。自分のせいで死んだ人間に助けてもらいたい自分はそこまで身勝手な人間だったかと少しだけ失望してしまう。それと同時にもういいかなという諦観の気持ちも浮かび上がり……全てを手放して目を閉じようとする。
しかし……
「お邪魔しまーす。ってやっぱり居た」
静かにシスティが閉じ込められていた部屋の扉が開く。お楽しみに邪魔が入った所為か、ジンは舌打ちをしながら顔を扉の方に渋々と向けた。システィもまさかという思いから扉を開けた人物を確認する。すると、そこには彼女もジンも予想外の人間が立っていた。
恰好は自分と変わらずこの学院の制服。外見に黒髪黒目の平凡な風貌だ。だが、黒目な筈な彼の目は今はまるで血をぶちまけたような鮮やかな赤に染まっている。
「テ、テメェ……!?何で!死んだ筈じゃ!?」
「いやマジ死にかけたわクソ野郎が。まさか
「うるせえ死ね!《ズドン》!」
ジンから放たれた雷槍はラスカの胸を目指す。
だが、ここで予想外な事が起きた。
【ライトニング・ピアスが】がラスカの目の前で右に曲がった
「………はっ?」
「おいおい何やってんだ?ちゃんと狙って当ててみろよ?」
「くっ!《ズドン》《ズドン》《ズドン》!!」
3連発の【ライトニング・ピアス】はラスカの前で右、左、上の方向に曲がっていく。あり得ない。発動は間違いなく完璧に使えているはずなのに魔術がラスカには当たらない。
「くそっ!?どうなって……!」
「この世界における魔術は文法と公式を用いた超高度な自己暗示だ。 言葉で世界に影響を与える。 言葉は深層意識における魔術起動のプロセスに引っかかっり自身の妄想を現実世界へと引っ張り出す。 これが魔術の基本だ。 だがその反面、汎用魔術や軍用魔術にもそのプロセスとは対極な術式が存在し、【トライ・バニッシュ】なんかは相手の魔術の同等とも呼べる術式で干渉し合う事で打ち消したり出来る」
「あぁ!? だから何だってんだ!?」
「つまりつまり、術式さえ理解してしまえば詠唱なんて要らずに魔術起動を妨害する事出来るのさ。敵の深層意識における魔術さえ理解していればだがな。まあこれが俺の
「なっ!?学生の癖にお前その域に至ってるってのか!? 一定効果領域内における魔術起動の改竄、テメェどんな思考回路していやがる!?」
「俺は天才だったしな。
「そんなのアリかよ!?《ズドン》!」
ジンが撃った【ライトニング・ピアス】はラスカの方へ進み、逆に自分の肩を撃ち抜かれた。
「ぐぁああああああああああっ!?!?」
「言ったろ?干渉出来るって、なら発動術式を乗っ取って逆算すりゃ俺が手を下さなくとも
「がっ!?ああああああっ!?」
俺は【ショックボルト】を
俺の本来の
「おい大丈夫か説教娘」
「あ、ありがとう……って誰が説教娘よ!?」
「お前以外に誰がいる。さて、テロリストはルミアを連れ去ってどこかに移動しちまったし敵は大体三、四人くらい。1人は撃破し、黒コートは分からず、学園の結界で応援を呼ぶことも出来ない。これは、正しく学園のピンチだな!」
「言い切らないでよ!?てかラスカ何時もと雰囲気が違……」
「気にすんな。ちょっと魔術で精神的にはっちゃけているだけだ。因みに、俺がテロリストを倒した固有魔術は出来るだけ内緒な?」
「えっ?なんで……」
「いいから頼む」
「……分かったわよ」
それを言った後、俺は気絶したフォウルの傷の止血をし、額に黒魔【スペル・シール】―――相手の身体に直接書き込むことで相手の魔術起動を封じる魔術―――を施し、身ぐるみを全部剥いで素っ裸にして縄で縛って叩き起こした。情報を吐かせようとしている。
「テメェら、何で嬢ちゃんを連れて行った?」
「ケッ」
「成る程、《死にたいらしいな》」
俺は即興改変で【ライトニング・ピアス】で耳を貫いた。あまりの痛さに叫び声を上げているが、なり振り構っている方時間はない。
「がああああああああああっ!?」
「次は目だ。それでも答えられなかったら足を切る。その後両腕、死なない程度に臓物引きずり出して死ぬのとどっちがいい?」
「ひっ……!」
その狂気に満ちた提案にシスティーナは足を震わせながら後ろに下がる。ラスカは温厚で優しい人物だった筈が一転して別人のような残虐性、流石に戦場を知らないシスティーナにとって恐怖が滲み出ていた。
「悪いがなり振り構っている暇ねえんだわ。さっさと吐けよ
「ハ、ハハハハ……!」
「……んだよ?壊れたか?」
「嬢ちゃん気をつけた方がいいぜ?
「なっ、ラスカは違う!あなた達と一緒にしないで!」
「一緒だよ。その真っ赤な血の目、
数えるのも疲れるくらい殺し回ったよ。俺もグレンも『正義の魔法使い』を目指していたんだからな。だからこそ、俺は夢を諦めた。『正義の魔法使い』になれなくても、未来を守れるならと自分を犠牲にしていたからな。
「まっ、
「ラスカ……」
「だが、それでも
ーーーーーー突然自身の背中に痛烈な寒気が襲い掛かって来た。それと同時に無意識のうちに近くに居る説教娘の手を引っ張りながら全力で後ろに飛び退いた。
すると、先程俺達が居た空間が歪み、中から武装した骨の軍勢が現れたのである。
「召喚魔術《コール・ファミリア》のボーン・ゴーレムかよ……!しかも凄え数だ……!」
憎々し気に呟く。この召喚魔術の内容はその名の通り、骨の衛兵を召喚するというところなのだが……ただ、召喚された骨には角のような部分が付いており、ついでに尻尾のような部位も見える。普通ならそんなものはつかないし足止め程度で効率が悪い。
「流石に数が多い!逃げんぞ!《死ね雑兵》!」
「《大いなる風よ》!!」
2人とも【ゲイル・ブロウ】でボーン・ゴーレムを吹き飛ばしその隙に出口を確保して空部屋から廊下へ走って行った。
「グレン先生!!」
「うおおい白猫!ラスカ!お前らなんちゅーもん引きつけて来てんだ!!」
「いいから走れ!これ多分【コール・ファミリア】だが数が絶望的だ!!しかも素材が竜の牙だ!!」
「マジ!?んな数を召喚とか人間技じゃねぇ!?」
アッドはゴーレムが竜の牙で出来ていると見抜く。驚異的な膂力、運動能力、頑丈さ、と三属耐性を持っている。
「随分と大盤振る舞いなこったな......!!」
こちらに気が付いたボーンゴーレムに渾身の右ストレートを頭部に叩き込む。しかし……
「か、硬ぇ!?」
「当たり前だ!?竜の牙は人間の普通の打撃で崩れる訳ねぇじゃん!魔術強化しろよ!?」
少し仰け反らせただけで、ひび一つ入ってない。
「クソッ!! 【ウェポン・エンチャント】間に合うか!?」
殴ったことで近くにいた他のボーンゴーレムも気が付いて、数で襲ってくる。一旦、距離を取って【ウェポン・エンチャント】を唱えようとするが、直ぐに距離を詰めてきて唱える隙を与えない。
先の廊下を曲がって行けば生徒たちいる教室がある分焦る気持ちが高まってくる。数の暴力に手後招いていると。
「《その剣に光あれ》!」
「ッ!? お前──いや、助かった!!」
「《剣よ満ちよ》!!」
システィーナが唱えた黒魔【ウェポン・エンチャント】でグレンの両拳が一瞬白く輝き、その拳に魔力が付呪された。俺も強化してゴーレムを牽制する。
何で出て来たとグレンが文句を言おうとしたが、今の状況を考え後にする。素早くステップを踏み、正面と左右から来るボーンゴーレムを今度こそ頭部を粉砕した。
一直線の廊下に対して前には無数のボーンゴーレム。後ろに下がろうにもシスティーナがいる上に行き止まりは近い。グレンの切り札である【愚者の世界】を使うと言っても、魔術の起動そのものシャットアウトするだけで、既に起動し現象として成り立っているものには効果が無い。アッドの持つ【影の悪戯】も同じだ。発動中に詠唱に干渉する事で最小限の魔力で術式を逸らしたりしているが完成された術式には触れない限り干渉は出来ない。一々触れて干渉するのは効率が最悪過ぎるので却下だった。
「正面突破しかないか......白猫。お前の得意な【ゲイル・ブロウ】を即興で改変しろ。威力を落として、広範囲に、そして持続時間を長くなるように」
じりじり、と距離を詰めてくるボーンゴーレムを牽制しつつ、グレンは後ろにいる説教娘に言う。
「え!? わ、私にそんな高度なことが......」
「俺がここ最近で教えたことを理解できるなら、それくらいできるはずだ。てか、できないなら単位を落としてやる」
「理不尽だ!」
「俺は風の魔術は得意じゃねえんだ。任せた」
「無理するなよラスカも、出来る限りの魔術で時間稼ぎだ」
「了解だクソ」
2人は骨の雑兵に向かって走り出した。後ろにいるアイツに良く似た奴に背中を預けながら。
全く、あの時と変わらねえな俺もグレンも……