提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
『風都艦隊』第1集、折返しで御座います!
風都内の小さな地域の通りで、またも惨殺死体が発見された。
「くっ………!」
帽子を目深に被り、悔しげに歯を食いしばる翔太郎であったが、今は犠牲を出したことを悔やんでいる暇は無い。
これ以上の犠牲を増やさぬためにも、一刻も早くスマイル・ドーパントを見つけ出し、撃破せねば。
(よくよく考えたら、刃さんたちが動いている時点で察するべきだった……。ガイアメモリの犯罪を専門的に扱う筈の《超常犯罪捜査課》が、普通の殺人事件を調べる訳が無いんだ………)
状況を整理しつつ、翔太郎は新たに発生した殺人事件の事をフィリップにケータイで報告した。
『また“笑顔の死体”が発見されたか……。被害者の身元は判っているのかい?』
「ああ……被害者の名前は《
「南風原町……最初に通報のあった
フィリップの質問に対し、翔太郎はああ、と肯定した。
「笑っていたよ………幸せそうに、な……」
笑って死を迎える………
それは、人が凡そ望む人生の終え方であろう。
だが、罪深き者によって殺され、その上で笑みを浮かべながら死を遂げる事ほど怖ろしく、哀しいものは無い。
望まぬ形で命を終えた被害者たちの無念を、我が事のように悔やむ相棒に対し、フィリップは言葉を続けた。
「……翔太郎。現時点での僕の推理を言おう」
「スマイルは白川志穂理だ」
「…………」
フィリップの推理を、翔太郎は黙って耳を傾けた。
「母である小百合さんの話によれば、彼女は父の白川成一を深く愛していた。しかし、それ故に最愛の父親を喪ったという事実に対する絶望感と現実からの逃避、そして埋めようのない喪失感が彼女の心を病ませてしまい……ガイアメモリに手を出す結果となった。そして、メモリの毒素に精神を侵されたために、幸せそうな人間を手当たり次第に襲い始めた………」
そう推理するフィリップに対し、翔太郎は一言。
「俺も………同じ推理だ。現時点では……」
しかし……その言葉はどうも歯切れが良くない。
フィリップはそれを瞬時に見抜いた。
「言葉の歯切れが良くない。君がそういう口調になる時は、まだ何かしら引っかかるんだろう?」
「ああ……、それが何なのかは、これから解き明かして見せる!」
そう言うと、翔太郎はケータイの通話を切り、捜査に戻るのだった。
「……やれやれ。我が相棒はどこまでも優しすぎる……。それが彼の魅力であり、同時に弱点でもある訳だが………。今回は、一筋縄ではいかなそうだね………」
そう呟きながら、フィリップはホワイトボードに情報のメモを書き留めていくのだった。
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「……ハァ〜〜…」
フィリップとの連絡を終えてから、約1時間半。
一向に手がかりが掴めず、翔太郎は捜査が行き詰まってしまった。
「ドーパントの手がかりどころか、依頼人まで姿を眩ましちまうなんて………。何がどうなってんだ?」
行きつけのカフェで椅子にもたれ掛かり、帽子で顔を伏せて凹んでいたその時。
「ご主人様、大丈夫?」
「!」
漣がひょっこり現れ、翔太郎の向かい側に座る。
「お仕事の方、だいぶ行き詰まってるみたいですな」
「ん……まあな」
モンブランとコーヒーを二人分注文して、翔太郎は一旦頭を休めることにした。
「小説とかドラマを見てて、探偵の苦労みたいなのはある程度知ってたつもりだけど……実際の探偵さんは、冗談抜きで体力勝負なのね?」
「そうだな……時には、この前みたいに命懸けな仕事を受ける場合もある」
そう返す翔太郎を、漣は励ましの言葉をかける。
「大丈夫!ご主人様みたいな、カッコ悪いけどカッコいい男はそうそう居ないもん!ちゃちゃっと事件を解決しちまえば……」
「…………」
「……ご主人様?」
「……俺は…カッコよくなんかねえよ」
そう呟いた翔太郎は、悲しげで頼り無さげな顔をしていた。
次回……「Sとの邂逅/街の切り札」
翔太郎の弱音を漣が受け止めます。