提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? 作:夏夜月怪像
ハンカチを手に取るか、壁を殴るか……
判断は、皆様にお任せしますです。
スマイルメモリを所持し、ドーパントとなっていたのは依頼人の娘である『白川志穂理』だった。
しかし……彼女は既に亡くなっており、翔太郎たちが出会った彼女の正体は夕立という『艦娘』だった。
そして、それらの情報や更なる聞き込みの末。
『笑顔の死体』が発見された現場で、スマイル・ドーパントが現れる前にハイエナ・ドーパントと思しき怪物の姿が目撃されていた事が判明した。
「此処が、その怪物が最初に目撃された現場か……」
「そーそー!夜遅く、残業帰りのサラリーマンが帰り路を急いでる所へ、ブチ模様の野獣が襲いかかり!噛みつきまくって死に至らしめたってゆーハナシ!」
ちなみに、今回情報を提供し、現場付近へ案内してくれたのはウォッチャマン。
独特な雰囲気と口調の変わり者だが、ブロガーとしての情報収集スキルは本物で、翔太郎が頼りにしている情報屋チーム『風都イレギュラーズ』のメンバーの一人でもある。
「ウォッチャマン氏!最近の特ダネは何ぞ?」
「オォ〜!
「フムフム」
2人の楽しそうな雰囲気から、これなら風都イレギュラーズのみんなとも上手くやっていけるなと翔太郎は安心した。
「ウォッチャマン。その野獣が去った後に、何か他に怪しい影が現れた…みたいな情報はねえかな?」
「野獣以外の怪物?ん〜……あっ!あったよ、ウン!あったよその情報!なんかね、ピエロみたいな格好してたとか……」
と、ウォッチャマンが最後まで言い終わらぬ内に、翔太郎はウォッチャマンのシャツの胸ポケットに、情報料として1万円札を突っ込んだ。
「サンキュー、流石の情報網だ。帰って、コイツで美味いもんでも買って食ってくれや。漣、行くぞ!」
「あっ、ほーい!」
翔太郎の専用バイク《ハードボイルダー》に跨ると、翔太郎は漣が後ろに乗ったことを確認し、スロットルを吹かして出発した。
「ご主人様!次は何処へ行くの?」
漣の問いかけに、翔太郎は答えた。
「スマイルメモリ本来の所有者の所へだ!」
「えっ!?」
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夕凪町 白川邸宅 04:46 p.m.
依頼を受けた際、連絡先を交換していた為、白川邸に着くのに然程時間は掛からなかった。
「ご主人様…此処って……」
漣は問いかけるも、翔太郎は何も答えずにチャイムを鳴らした。
程無くして、小百合が玄関を開けて出迎えた。
「………。そろそろ、来る頃だと思っていました」
その表情は、初めて会った時と変わらず、暗く沈んだ様子だった。
しかし……翔太郎の目には、それが示す意味を別の物として見ていた。
「ご主人様……?」
やがて、翔太郎は口を開いた。
「白川小百合さん……あんたは依頼人には違いないが、それと同時に罪を数えるべき人でもある……この言葉の意味が判るな?」
「えっ……!?」
翔太郎のとんでもない発言に対し、驚きを隠せない漣。
そこへ追い打ちをかけるように、小百合は小さく頷いた。
「左さんの仰る通り………『スマイル』のメモリを購入し、使おうとしたのはこの私です」
「使おうと…した?」
小百合の言っている意味が分からず、漣は頭の中が混乱し始める。
それに対し、翔太郎は努めて冷静だった。
「……話していただけますね?なぜガイアメモリを、彼女……艦娘・夕立に使わせたのか。いや……使わせてしまったのか………」
その問いかけに、小百合は重い口を開く。
「主人が亡くなって、娘と二人だけになった時……私は、まだどうにか心を支える気力がありました。志穂理も、私を支えようと懸命に尽くしてくれて……。それだけに、あんな事が起こるなんて娘共々思いもしませんでした」
「2ヶ月前の……ひき逃げ事件ですね?それが、貴女の心を壊した」
翔太郎の言葉に、小百合は頷く。
「ひき逃げって……酷い……!!」
凄絶な過去に、漣も声を洩らす。
「主人を喪い……唯一の支えであった娘までも喪ってしまった私に、生きる意味なんか無い……思い切って、二人の待つあの世へ行ってしまおうかと考えていたある日、
「幸い、遺産とは別にいくらか預金を持っていましたから、購入その物は簡単でした。これで、覚めない夢に浸りながら終わろう……そう、するつもりでした。私の前に、あの子が現れるまでは」
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スマイルメモリを購入し、幸せな夢に浸る快楽を得たことで、メモリの力に取り憑かれていた頃。
私は、家族でよく遊びに来ていた、
「………えっ!?志穂…理……!?」
それがあの子……艦娘・夕立との出会いでした。
あまりに娘とそっくりだったので、最初は夢でも見ているような気持ちでした。
ですが、それはメモリによるまやかしであり、娘も夫も帰ってこないと自分に言い聞かせて、彼女を保護しました。
幸い、怪我も特に無かったので、すぐ意識を取り戻しました。
すると、私はこう思い至りました。
『あの子は志穂理によく似ている。ひょっとしたら、志穂理として迎えられないかしら』と………。
それから、小百合はスマイルメモリを使い、夕立を『自分の娘・志穂理』として記憶を書き換えようとした。
だが、この時小百合は忘れていた。
スマイルメモリが見せるのは、あくまで球体《スマイルボール》に触れ、記憶を読み取った相手の《その人が笑顔になれる瞬間》のみ。メモリの使用者が都合良く記憶を書き換えられる訳ではない。
だが……精神的に不安定だった小百合は、家族を求めるあまり、そこまで考えが至らなかった。
メモリを手にした小百合を夕立は警戒し、メモリを使おうとした小百合を止めにかかった。
それから二人はもみ合いになり、小百合は夕立を払い除けようと、強く突き飛ばした。
………その時。
夕立の首筋に、スマイルメモリが刺さってしまったのだ。
生体コネクタを持たぬまま、ガイアメモリを直に刺したものがドーパントになれば、その強い毒素に耐えられず、適正値の低い者はその場で死に至ることもある。
そうならずに済んだのは、夕立が艦娘という特殊な存在であった事が一つ。
もう一つは、夕立がスマイルメモリに対して高い適合性を持った艦娘だったからだ。
こうして、図らずも第2のスマイル・ドーパントが生まれ、その後街を徘徊するようになった。
そんな中、大本営より解雇処分を言い渡された瀬尾島がハイエナメモリを購入。無関係な住民たちにその力を振るうことでストレス発散していたのだが、ドーパント化し、街を徘徊していた夕立がハイエナ・ドーパントに襲われ、死にかけている人を発見。
苦しんでいるその姿を見て、『笑顔にしたい』欲求が芽生えたことで、スマイルボールを生成。
相手にボールを与え、対象者の幸福な記憶を蘇らせつつ、最期を看取った。
これが、翔太郎たちの推理した《笑顔の死体》が出来上がるまでの仕組みである。
「以上が、俺たちの推理だ……。小百合さん、訂正する箇所があるのなら遠慮なく言ってくれ……」
小百合は何も答えず、顔を両手で覆いながら泣き、震えていた。
次回……
仮面ライダーW『風都艦隊』第1集、完結です。