提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え?   作:夏夜月怪像

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―――こんな夢を見た。

まず見えたのは、巨大なビル。そこに巨大なヘリコプターが現れ、探照灯を点けて何かを捜している。

次に見えたのが、夜闇の中でもくっきりと浮かび上がった白いスーツに白いソフト帽という派手なコーディネートの紳士と、それに付き従う若い男。

その二人は、ビルの職員と思しき黒服の集団に追われており、やがてビル内部の屋上に着く。


そこに設置された大掛かりな機械の中にいる、寝間着姿の少年を連れ出し、脱出しようとした………その時。


白いスーツの紳士が、敵の撃った凶弾に倒れる。


自身の被っていた帽子を付き添いの男に被せると、男性は力尽きてしまう……。



「おやっさああぁぁぁぁんッ!!!」


泣き叫ぶ男に、少年は問いかける。


「悪魔と相乗りする勇気……あるかな?」


やがて……

刺客たちに追い詰められた二人は、紳士が携えていたアタッシュケースから中身を取り出し、構えた……。


「うあああぁぁぁぁあッ!!!!!」




ビルは爆発。常人なら、まず助からないその猛攻を受ける直前。


二人の姿は消え


代わりに、一人の異形が炎の中に立っていた………。


1話 : Sとの邂逅/ 探偵と捨て猫

「―――ハッ!?」

 

 

夢と言い切るには、あまりに生々しい内容を見た少女――漣は飛び起きるようにして目覚めた。

 

 

「っ痛……」

 

 

直後…腕に微かな痛みを感じ、見ると点滴を打たれていた。

 

 

 

そして、ここに来て漸く、漣は己が病院に居るのだと理解出来た。

 

 

「……此処は……」

 

 

「よぉ。目ぇ覚めたか?」

 

 

そこへ、漣を見つけた張本人―――左 翔太郎が入室する。

 

 

「ぁ……」

 

先程見た夢に出てきた、帽子を被せられた方の男だと気付き、漣は思わず声を洩らす。

 

 

「ん?どうした?」

 

「あ、いえ……ちょっと、ビックリしちゃっただけ…です………」

 

 

夢で見た顔とそっくりだから……とは流石に言えないので、漣は不自然にならない程度に誤魔化すしかなかった。

 

 

「ビックリしたのはこっちも同じだぜ?お嬢さん。何だって、あんな所でぶっ倒れてたんだい?それと…名前は?」

 

 

「っ!!」

 

 

名前―――それは、漣が何者であるかを示すには充分過ぎる物だ。

 

 

答えねば……

 

答えねば、此処へ連れてきてくれた彼に迷惑がかかってしまう。

 

 

しかし、仮に答えたとしてどうなる?

 

艦娘を人外の化物扱いする民間人は今だ数多くいる。

 

 

それが人を怖れさせる一因であると共に、邪な欲望を抱いた連中が自分たちに対して犯す、醜い行為を正当化する理不尽な言い訳として通用していたのだ。

 

 

まさかと思うが………

 

 

 

シーツを握りしめる、漣の手が震えているのを、翔太郎は見逃さなかった。

 

 

 

だから……

 

 

 

「………答えたくないなら、それで良いさ」

 

「えっ………」

 

 

今は、何も聞かない。

 

 

いつか、彼女が自分から話せるようになるまで……。

 

 

 

「とりあえず、病院のスタッフには適当に言い訳しておくさ」

 

 

「……あ、ありがとう……」

 

 

漣の礼に対し、翔太郎はフッと気取った仕草で「気にすんな」と伝え、病室を後にした。

 

 

「………変なの…」

 

 

 

翔太郎の背中を思い返し、漣はそう呟くのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

病院の受付で、約束通り適当に言い訳をしてナースを納得させた翔太郎は、改めて救助した少女……漣について考えていた。

 

 

(見つけた時の状況が状況だったんで、さっきは気を遣ってああ言ったが……。やっぱ、ただの家出娘ってワケじゃあなさそうだな)

 

 

と、此処で病院内のテレビに目をやると。

 

 

深海棲艦と艦娘についての特番が放送されていた。

 

 

 

『―――では、ここで深海棲艦及び艦娘について研究をされている、曽根崎 進(そねざきすすむ)さんに意見を伺おうと思います。曽根崎さん、どうぞよろしくお願いします』

 

『よろしくお願いします』

 

 

番組のMCらと挨拶をするのは、如何にもエリート意識の高そうな、研究家とは名ばかりの評論家気取りの口が悪い男だった。

 

 

『やはり、艦娘が使う武装である艤装の汎用化と量産を積極的に推進すべきでしょう。いくら深海棲艦に対抗出来るのが艦娘以外に存在しないとは言え……女性を危険に曝すなど非人道的過ぎますよ。政府はもっと、倫理観を以って……』

 

 

「―――ッチ……!」

 

 

暫く観ていた翔太郎であったが、曽根崎の言い方に段々腹が立ってきた為、漣の病室へ戻ることにした。

 

 

「…おっと……イカンイカン。如何なる時にも心ブレない男………それが…ハァ〜〜〜ドっボイルドだ……そうだろ?俺………ん?」

 

 

漣の前で、みっともない怒り顔を見せないため。

 

そして、己の掲げる生き方―――ハードボイルドを貫くため、翔太郎はクール振って病室の扉を開けた。

 

 

「待たせてすまなかったな。ほんの僅かではあるが……寂しい思いをさせちまったな?リトル・レディ……ん?」

 

 

 

しかし

 

 

そこに居る筈の漣は居らず。

 

ただ、病室の窓が開けられているのみだった……。

 

 

 

「…………なっ……?」




突然、ダッシュがダッシュを呼ぶ展開に!


半熟の探偵、街を駆ける!駆ける!!


どうぞ次回もお楽しみに!

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