提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え?   作:夏夜月怪像

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『ドロップ』―――
艦娘と深海棲艦の戦いにおいて、そう呼ばれるものが時折発生する。

しかし、それはあくまで深海棲艦との戦闘後に起きる現象として、その場の状況などからそう名付けられただけであって、原理その物までが解明されている訳ではない。


それでも……

我が相棒が迎え入れた艦娘(かのじょ)たちも、ある意味ではドロップによる拾い者……と呼べるかもしれない。


18話 : Sとの邂逅+a/探偵提督

「提督さん、ほらキチッとして?」

 

「おい、コラ夕立!勝手にシャツをいじるなっての……」

 

 

先日起こった『スマイル・ドーパント徘徊及びハイエナ・ドーパント殺傷事件』にて、不運にもドーパント化していた夕立を引き取って、はや2日が経過。

 

風都署と協力関係にあるヒィッツ中将より、『艦娘を集めて風都艦隊を結成せよ!』という依頼の名を借りた命令が発せられ、翔太郎は正式に提督業を兼務することになった。

 

「はい!ご主人様、提督服の着付け終わったお?」

 

「お…おお、サンキューな?漣、夕立……」

 

 

そして……

 

今日この日は、《左 翔太郎》の着任式が行われる。

 

そのため、翔太郎は海軍本部より支給された提督服を着付けられていたのであった。

 

 

「ほえ〜……翔太郎くんてば、意外と白も似合うね?いつも黒がメインだから、すごい新鮮!」

 

素直な感想を述べる亜樹子に続いて、フィリップも賛辞を贈った。

 

「なかなか決まっているね。悪くない」

 

「ありがとよ……。しかし、白ってのはどうも落ち着かねえな……」

 

 

いつもの自分が選んだコーディネートではないだけでなく、白い軍帽というこれまた慣れない物で身を固めたため、翔太郎はソワソワしっぱなしである。

 

 

「もぉ、本部の決めたセンスに文句をつけてもしょうがないでしょ?ホラ、迎え来ましたよ?」

 

「ちぇ……わかったよ」

 

 

こうして、翔太郎は漣と夕立を連れて、都内にある新生日本海軍総司令部へと出向いたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「左少尉でありますか?私は本日、少尉殿たちの護衛と案内役を仰せつかりました、『あきつ丸』と申します。着任式の間、よろしくお願い致しますであります」

 

車で送迎された翔太郎らを門前にて出迎えたのは、黒い制服にミニスカートと、それに反するように色白の肌が特徴的な艦娘であった。

 

 

「あきつ丸………って、あんたも艦娘なのか?」

 

「ええ、《揚陸艦》という艦種であります」

 

どうぞ、と促され、翔太郎たちは敷地内へ。

 

 

 

建物内部には、既に多くの提督たちが出席しており、制服に着けた階級章などから見て、少将や中将といった幹部級の面々が多数だった。

 

 

「あれが、今回元帥閣下が承認したという、新米の提督か……」

 

「まだ青二才ではないか、閣下も悪い冗談を……」

 

 

ちらほらと聴こえてくるのは、翔太郎を馬鹿にする陰口や見下した発言ばかり。

 

着任式として、翔太郎らを迎える雰囲気は皆無だった。

 

 

「提督さん……」

 

「言いたい奴には言わせとけ。ああいう保守的な奴らに限って、自分の都合のために使えそうだと見た奴には、急に掌返して媚び売ってくるもんさ」

 

 

そう……

 

あくまで、自身をあれこれ言うことならば翔太郎は特に気にしないのだ。

 

 

しかし……

 

「聞きましたか?あの若僧が引き連れた艦娘……()()赤塚の忘れ形見だとかいう話ですが」

 

「フン…『海上の脚本家』と持て囃されていた男が居なくなった途端に乗り換えるとは……随分と薄情なものだ」

 

「いや、国家転覆を企てるような奸臣など部下の方が切り捨てて当然でしょう。ハッハッハ…」

 

 

翔太郎にとって大切なものに関する悪口ならば、話は別だ。

 

 

「おい……おっさん。今、何て言った?」

 

「ご…ご主人様……!?」

 

「ん?なんだ急に……ぐっ!?」

 

 

漣たちの元提督・沼田統也を悪く言うばかりでなく、嘲笑ったダルマ太りの中年提督の胸ぐらを掴み、翔太郎は詰め寄った。

 

「なっ……何をする……!?キサマ、ワシが誰か知らんのか…」

 

「あんたが誰だろうが関係ねえ……。そのブタ以下のツラと脳ミソで、あいつらの大事な人をバカにした!それさえ分かりゃ充分だ!!」

 

 

襟首を掴む手に力がこもると、漣たちのみならず、あきつ丸もあわあわと狼狽えだした。

 

「ひ、左殿!この場ではマズイであります!最悪、提督の任を解かれる怖れが……!!」

 

「はっ……それならそれで、願ったり叶ったりだぜ。元々、依頼として受けただけだしな」

 

中年の提督を振り払い、尻餅をつかせる。

咳き込みながら、中年提督はわめき出した。

 

 

「艦娘ども!憲兵どもォ!!何をしてる、この無礼者を捕らえんかっ!!!」

 

 

しかし……艦娘たちは勿論、憲兵たちさえも、提督の命令に従わなかった。

 

 

従える筈がなかったのだ。

 

翔太郎の犯した行為の理由が、「自分のため」ではなく、「艦娘が大事にしていた、今は亡き先代提督の心を守るため」だったと、皆気付いていたから。

 

 

「何をしている!?中将である、ワシの命令が聞こえんのか!!役立たずめらがぁっ!!!」

 

本音混じりの暴言を吐き散らすその中将に対し、「ハッハッハ…」と笑う一人の男の声が聞こえてきた。

 

 

「だ、誰だ!!中将であるワシを笑う…の、は………ッ!!?」

 

 

 

 

「おーおー……中将ともあろう男が、見苦しいったらねえなぁ、ええ?須磨木原(すまきばら)……。元々、野心家かつ小悪党みてぇな奴と思っちゃあいたが……まさか、ここまで落ちぶれてるとは思わなかったぜ……」

 

 

そこに、軍帽を被り、儀礼用の模造刀を帯刀し、軽空母《鳳翔》と軽巡洋艦《川内》を連れた一人の軍人が歩み寄ってくる。

胸に着けた階級章は―――《元帥》。

 

怒りで真っ赤にしていた中年提督―――須磨木原の顔が、みるみる青ざめていった。

 

 

「あ…あぁ…ああ、あなたは………!?」

 

須磨木原の問いに、元帥は軍帽を脱いで応えた。

 

 

「警視庁鎮守府……及び、海軍総司令部元帥……山県茂正(やまがたしげまさ)である……!!」

 

 

「や…山県元帥!!?」

 

「『総統』の懐刀とされる、あの『鬼』の……!?」

 

 

山県が名乗った途端、辺りが騒然となる。

 

「元帥……ってことは、あんたはお偉いさんの一人ってことか?」

 

翔太郎の口調に、漣やあきつ丸は「ひええっ!」となる。

 

 

提督になりたての民間人が、元帥という大幹部相手に取っていい態度ではないのだから当然である。

 

 

しかし、山県はそんな翔太郎を見てガハハと笑った。

 

 

「ガッハッハ!なるほどなるほど…ヒの助が言っていた、『提督に相応しい半人前野郎』ってのぁ、オメェのことかぃ」

 

しかも、どこか嬉しそうである。

 

「げ…元帥閣下……!こ、この不届き者めに、しかるべき罰を……!無論、私めが責任を以て……」

 

「黙らんか、往生際の悪い!!」

 

「ヒイイッ!!」

 

性懲りも無く、翔太郎を排除することで自らを正当化しようとする須磨木原に、山県は鬼の形相を向けて一喝する。

 

 

「須磨木原、貴様のしてきた事すべてを、我らや総統閣下が気付いておらぬとでも思うたか!浅薄なことを……日ノ本の軍人としてのみならず、一人の人間としての恥を知れぃ!!後日、改めて総統閣下より直々に沙汰が下されるであろう……覚悟せいッ!!!」

 

 

その言葉がトドメとなったのであろう。

須磨木原は青ざめた顔で泡を噴き、倒れた。

 

 

「……医務室へ連れて行け。目が覚めるまでの間に、憲兵を手配しておけ」

 

「かしこまりました」

 

鳳翔らに伝えると、山県は改めて翔太郎らの下へ。

 

 

「若僧……改めて、名を聞いておこう」

 

「左……左 翔太郎です」

 

 

気付けば、翔太郎は山県に対し、自然と敬語になっていた。

 

雰囲気こそ違うが、その覇気に師・鳴海荘吉の面影を見た気がしたのだ。

 

「翔太郎……か。うむ……いい名じゃねえか、風吹く街を守る男にピッタリだぜ」

 

 

「あっ……ありがとう、ございますっ!」

 

風都に相応しい―――

 

それは、風都で生まれ育ったことを何よりの誇りとする翔太郎にとって、異世界の鳴海荘吉(おやっさん)から「帽子がサマになっている」と言われたときと同じくらい嬉しい言葉だった。

 

故に、翔太郎は深々と頭を下げて礼を述べた。

 

 

「ああ、そうだ。それから……翔太郎。オメェは、今度から提督服(ソイツ)を着なくていいぞ?本業が探偵ってんなら、一々着替えるのも面倒だろぃ?総統や他の元帥たちには、俺やヒの助がなんとか言っとくからよ♪」

 

「はい……はいっ!」

 

 

「ご…ご主人様?ひょっとして……泣いてる?」

 

「ぽい?」

 

 

声と肩が震えている翔太郎を見て、漣と夕立は様子を伺う。

 

「ばっ…バカヤロ!泣いてねえよ……!!」

 

「目が潤んでるっぽーい!あと鼻声っぽいー!」

 

「うるせーっ!」

 

 

そんな微笑ましげなやり取りを、山県や隅っこで弁当にがっついていたヒィッツは満足げに眺めていたのだった。

 

 

この男ならやれる―――そう、信じて……。




4割ほど、『鬼平犯科帳』みたくなっちゃいました(;´∀`)


鬼平大好きだもん!!吉ちゃん、カッコいいんだもんッ!!!(`;ω;´)

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